吉村昭のレビュー一覧

  • 虹の翼

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    リアルとは実に厳しいものである。
    フィクションであればこうした展開には、けしてならないだろうという流れになった。
    徹底的資料に基づいて史実に忠実に書いていこうとする吉村昭氏のスタイルがふんだんなく発揮されている作品である。
    主人公の二宮忠八は、こうした小説には珍しいほどの非の打ち所のない性格である。
    しかしそれは、あまりにダメな兄によって築かれたところも大きい。
    ネタバレにならないように注意しながら書くが、どんなに優れた才能と情熱があったとしても、それが簡単に理解されるわけではなく、国として持つ時代背景が制限された場合、その実現は難しいというおよそ小説にはないパターンの展開となった。
    もっと飛

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    2026年05月10日
  • 高熱隧道

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     吉村昭の小説は軒並み好きで、『羆嵐』をはじめとして何冊か読んできた。
     この小説の内容は知らず、黒部の発電所という最低限の前情報から、戦後の黒部ダムを描いたプロジェクトX的な小説なんだろうなと思っていた。ところがどっこい、読み進めるととんでもない小説であることが明らかとなり、度肝を抜かれた。あらゆる意味で現代の常識が通用しない、凄絶極まる物語だった。

     まず、その過酷な環境。岩盤の温度が165度、体は腰の辺りまで45度の湯に浸かるというとんでもない状況で岩盤の掘削等の業務を行う……とのこと。平均月収の10倍と言われる給与を貰ってなお割に合わないような、意味不明な労働環境だ。

     次に、それ

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    2026年05月04日
  • 羆嵐

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    『破船』の後、2冊目。吉村昭は本当に巧い。
    獰猛な熊に食い殺された6人もの村人。熊の息づかいや気配すら感じられるようなリアルな文章に怖さが一層増した。何って熊撃ちの銀四郎がカッコいい!プロの仕事に惚れ惚れする。

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    2026年05月03日
  • 漂流

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    リアルが描かれている本である。
    漂流ものの本や漫画は多いが大抵がフィクションであり、そう都合よく行かないだろうというような設定ばかりが見られるとテンションが下がる。
    家族ロビンソン漂流記『ふしぎな島のフローネ』は、子供向けの有名なアニメだが、大人の目線で見ると「そんなわけないだろう~」ということばかりの連続である。
    『ロビンソンクルーソー』にしても同じである。 都合の良い想像力でしかない。
    しかしこの書は違う。
    作者が徹底的な資料をもとに描くだけのことはあり、そのリアルさが極めて素晴らしい。
    漂流とは本来このようなものだ。
    小説や映画であれば「こうなったらこうであろう」というような前振りのよう

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    2026年04月30日
  • 大黒屋光太夫(上)

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     白子廻船の船頭頭職を世襲する大黒屋の婿養子となった光太夫は沖船職の役目を引き受け、その航海の途中に見舞われた暴風雨によって、遭難してしまう。絶望的なサバイバルの中、ほとんど奇跡のような形でロシアへと漂着することになった光太夫たちだったが、極寒のロシアを彷徨う中でひとり、またひとりと倒れていき……。

     ということで本作の主人公は、ロシア使節のラクスマンによってロシアから日本に送還されてきた船頭大黒屋光太夫の数奇な人生を描いた一冊です。抑制された文章の隙間から立ち上がってくる漂着劇の壮絶さと絶望的な状況にあっても決して日本へ帰りたい、という思いを捨てなかった光太夫の強い意志が魅力的でした。

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    2026年04月21日
  • 羆嵐

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    「野生動物に喰われる」という恐怖をリアルに感じたいなら、この作品をおすすめする。

    淡々と事実だけが綴られた文章なのに、ものすごい臨場感と迫力がある。
    特に実際に羆に襲われるシーンの描写は、吉村昭さん特有の頭に映像を浮かばせる文章のせいで、そこらのホラー映画なんかよりずっと恐ろしい。

    そして北海道の開拓がどれだけ過酷だったか思い知らされる。

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    2026年04月19日
  • 漂流

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    この作品を思い返すとき、まるで実際に自分が鳥島にいたかのようにリアルな映像が頭に浮かぶ。
    吉村昭さんの情景描写は本当に凄い。
    これはもう体感に近い。

    主観による心理描写などほとんどなく、登場人物の言葉や行動だけで彼らの心情が手に取るように伝わる。

    しっかりドラマチックなのに、ドキュメンタリーのような独特な世界だ。

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    2026年04月19日
  • 高熱隧道

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    ネタバレ

    黒部峡谷のダムや落水発電のためのトンネル(隧道)の完成までの事実に基づいたフィクション本。フィクションといえど、緊迫感や焦燥感などは事実同様なんじゃないかと思うような手に汗握る文章だった。
    最高165度にも達する環境での採掘。その中で人間やダイナマイトを冷やすための水が瞬く間に蒸気に変わってゆく。全く知られていなかった泡雪崩(ほうなだれ)での宿舎消滅や、20mのブナの木が頭から何百本も突き刺さった宿舎。完成までの3年でのべ300名を超える死者。
    掘削の話だけなのかと思っていたが、監督側(技術者)と労働側(人夫)との関係性にも深く触れていて、読み応えのある本だった。

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    2026年04月17日
  • ふぉん・しいほるとの娘(下)

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    シーボルトの娘、お稲の生涯と幕末から明治維新の激動の世の動きを描く。作者の緻密調査が尋常でない事がこの長編の細々とした描写で窺え、お稲の芯の強さ、行動力を讃えた伝記と言っても良い内容に主人公には羨望すら覚える。思えば、小学校の教科書に載った内容は朧げだが、異国人との混血で偏見の中でも力強く生き、日本で初めて女性の西洋医になったことだったろう。長崎を中心に宇和島、岡山、大阪、東京と頻繁に往き来したこと、有力な人々とパイプを持てたことがずいぶん支えになったことも今回知ることができた。読んでよかった。2026.4.15

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    2026年04月15日
  • 冬の鷹

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     初めてオランダ書を目にして以来、オランダ語に強い関心を抱いた前野良沢は大通詞の西善三郎が江戸に来ていることを知り、会いに行くが、オランダ語の習得は難しく時間の無駄でしかない、と伝えられる。その後、青木昆陽に師事した良沢だったが、大通詞の吉雄幸左衛門からもオランダ語を理解することが厳しい旨を伝えられて消沈する。江戸でオランダ語を学ぶことに限界を感じた良沢は長崎でオランダ語を学ぶことになり……。

     ということで本書は、オランダの解剖書『ターヘル・アナトミア』の翻訳という一大プロジェクトに共に挑みながらも、性格の違い、考え方の違いが対照的であったために、名声を得ていく杉田玄白と得られるはずだった

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    2026年04月12日
  • 羆嵐

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    昨年の熊被害が近所でもあったため熊の小説で有名なこちらを手に取ってみました。
    テレビで内容は知っていたがグイグイと引き込まれてすぐに読み終わってしまった。
    熊の恐ろしさを改めて思い知ったので山に軽々と行けなくなりました。

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    2026年04月04日
  • 高熱隧道

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    大規模工事について、ふと興味を持ち手に取る。
    200ページ程の内容で、割とすぐに読み終わる。

    戦前の黒部第三発電所工事にまつわる灼熱の掘削作業についての物語。
    100度を上回る熱を発する岩壁の中、黙々と掘削が進められ、坑夫が犠牲になっていく。
    物語は彼らを指導する技師の目線で描かれていた。

    作業日誌のように、作業の進捗と起きた出来事を中心に語られていく。
    人の手が加わることを拒むような黒部峡谷の自然が、数多の試練を課してくる。
    起きている出来事が現代の基準とは大きく異なる。
    社会にとっての人命の軽さ、家族にとっては現代と同じく重い家族の命、太平洋戦争直前の緊迫感、行政組織の歪さ。それが説得

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    2026年03月20日
  • 仮釈放

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    人の持っている弱さがふとしたきっかけで甦る脆さをみた
    中盤までは主人公が釈放後の生活を経て穏やかな日を過ごしているのをみて静かな幸せを紡ぐのかと思えば、反抗期の親のお節介のようなことを発端にどんでん返しがあったのが面白かった
    ラストも引きずることがなく、想像がこちら側に委ねられたような結末で潔かった

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    2026年02月23日
  • 破獄

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    この本を読むまで、昭和の脱獄王=五寸釘の寅吉と勘違いしていました…。(なかなか五寸釘踏むシーンにならないな??何でだ??)と思ってたら、モデルが別人だったんですね…。

    脱獄の手口にも驚きなのですが、昭和20年前後が舞台ということもあり、戦時下という状況が刑務所や受刑者にどんな影響を与えるのか??という事情が事細かく描写されており、もはや話の本筋はそっちなのかもしれません。

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    2026年02月23日
  • 羆嵐

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    これは今年入って読んだ中で、ぶっちぎりナンバーワンの名作。
    とにかくいろんな人に読んでほしくて、身の回りの人に勧めまくっている。
    寒さが怖い!飢えが怖い!羆が怖い!
    怖いのに淡々としていて、よけいに恐怖!
    そしてクライマックスの緊張感といったら…
    読んでいる間は、自分の息まで白くなっている気がしてしまう。

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    2026年02月11日
  • 高熱隧道

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    リアルにあったことだからこそ戦慄。
    現場作業員と監督者の間にある口には出せない水面下の思いや立場、考え方が生々しくも現実感をより引き立てる非情に溢れている。
    知った上で富山に改めて行きたい

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    2026年02月08日
  • 漂流

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    読み応えがありました。面白かったです。
    絶望的な状況でも冷静さを失わず、かと言って必ず帰ろう、帰れるといった信念があるわけでもなく、あるがままを受け入れて生きるために工夫していく。これはすごいことだと思いました。その精神力もすごいですが、宗教というか仏様にすがることで精神を保つ。すがるものがあったのが冷静さを保てた要因だと思うと、宗教というのも意義あるものだと感じます。心の支えは極限において絶対必要なものだと思いました。

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    2026年01月31日
  • 破獄

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    ネタバレ

    戦時中の記録など、読むのが大変ではあるが、圧倒的な面白さがある。面白がって良いことなのかはわからないが、佐久間と看守、警察との戦いが、最後は人権を尊重することにより終結するというストーリーが素晴らしかった。
    ただ、佐久間は北海道の監獄で温かく接してもらっていたとしても、寒いのが嫌でやはり逃げ出していた気もする。
    ドラマでは山田孝之、(ゴールデンカムイでは矢本悠馬)が演じていたが、今作ではもっと暗い印象だった。

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    2026年01月29日
  • 漂流

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    多くの人がレビューしている通り、13年間岩山の無人島で過ごし続けた長平という男性の物語である。自分が思ったこととしては、人間は規則正しい生活だったり、太陽を浴びて生活することや体を動かしておくことというのは生存において非常に重要だということです。体調崩す人たちの大半は生きることに希望を失ったりとか、生活に対してやる気を見出せなかったりとか、無理にでも体を動かそうという気持ちが沸き起こらない人たちからだったので、そこはすごく興味深く読ませてもらいました。あとは何度も何度も失敗して、最終的にそこに行き着くのかということと、生還するまでの過程が本当にすごいなと純粋に思いました。吉村昭さんの詳細な記録

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    2026年01月24日
  • 羆嵐

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    大正4年12月に北海道天塩山麓の開拓村で発生した羆襲撃事件の実録小説。昭和52年に出版された。

    2日に亘り2家族が襲われ、7名の死者、3名の負傷者を出した惨劇。

    作者らしく、実直な筆致で事実を淡々と記しているのが、事態の凄惨さ、人間たちの愚かさ、傲慢さを余計に浮き彫りにしている。

    会話文は必要最小限で最近の小説に比べると極端に少ないが、現場の寒くて暗い冬の光景や、人々の重苦しい、半ば諦めに近い暗い雰囲気を描写するのに相応しい。

    犠牲になった入植者たちからすれば、村落は家族の生活を成り立たせるために必死で開拓し、維持してきた財産だったが、羆にとっては自らの縄張りの中の餌狩り場に過ぎない。

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    2026年01月21日