吉村昭のレビュー一覧
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読んでいる時と読後と、様々な感情が湧き起こる作品だと思った。そもそも『海も暮れきる』は、尾崎放哉の句の一部だが数ある句の中からこの語をタイトルにした理由を読みながら探したがわからなかった。
何が放哉をここまで追い詰めたのか、なぜ酒に溺れるようになったのか。私は彼の激しい自尊心が自身を破滅に追いやったように読んだ。思うようにならない現実と芸術の狭間の苦しみが酒に溺れる結果ではないかと。そして放哉はとても気の小さい人間だとも思った。その感情の浮き沈みを吉村昭は見事に描いたと感動した。そして最後になってタイトルの意味がわかってきた。暮れきった海は真っ暗で底も見えない。底には死があってその恐怖にずっと -
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ゴツゴツとした歯ごたえ
作家吉村昭のゴツゴツとした歯ごたえが際立つ作品である。司馬遼太郎が時代小説家歴史小説家なら吉村昭は史談 史劇作家 と感じた。想像力の羽ばたきを意図的に抑え、史実に語らせる、という手法がこの作品にも満ちている。そのような手法で描き出される、時代に置き去りにされる老いたシーボルトや、正式な医学を前にして身を引くお稲を感傷を交えずに書き上げている。
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ある冷夏の年の8月、主人公の「私」の弟の肺に影がみつかる。残念ながらそれは、悪性腫瘍の中でも特にタチの悪いものであり、1年以上の生存例が皆無であることを、「私」は医師から告げられる。「私」と親族たちは、弟が癌であることを隠しておくことを決める。手術後、弟は一時的に体調を回復させるが、徐々に痛みを訴え、体調を崩していき、再度入院することになる。癌は進行するが、治療する方法はなく、病院での措置は痛みを和らげること、そして、出来るだけ長く生きてもらうことしかない。徐々に身体の自由を失い、痛みが耐えられないものになっていく弟。まさに、闘病である。そして、残念ながら、前年とは打って変わった翌年の猛暑の夏
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吉村昭の作品は色々と読んでいるのだが、本作は「異色作」と言えるのかもしれない。が、なかなかに興味深く読んだ。
本作は「古典文学を現代語訳というようにすることで、少年少女向けとして世に問う」という企画で登場しているのだという。言わば「現代語訳『平家物語』 吉村昭 訳」というような一冊なのだ。
吉村昭は熱心に取材を重ね、そういう成果を踏まえた、作中世界で流れる時間や景色が強く感じられるような、濃厚で精緻な描写で知られていると思う。本作は必ずしもその「本来のスタイル」ということでもない。「翻訳」なのだ。同時に、伝えられている『平家物語』を詳細に訳出しようというのでもない。好いテンポで、「普通の小説」