吉村昭のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ江戸時代中期に伊豆諸島最南端、絶海の孤島である鳥島に流れ着いた漂流船の物語。
寝泊りする洞窟を見つけ、アホウドリの肉と雨水を得る方法を体得してからは、仕事もしなくてよい、誰にも拘束されないため、堕落してしまい、毎日寝て暮らすようになる。栄養が偏り体に異変が現れる。そして希望の無い境遇を嘆き、卑屈になり、所有物(家屋や妻)への執着を見せるようになる。
そうやって仲間が次々と体調を崩し、絶望しながら生涯を終えていくなかで、主人公(長平)だけは自分の芯を強く保ちながら生きながらえる。
・毎朝日の出を眺めながら念仏を唱えるルーティン
・亡くなった仲間たちの墓参り
・体力増強と健康維持、規則正しい生 -
Posted by ブクログ
吉村昭の作品は色々と読んでいるのだが、本作は「異色作」と言えるのかもしれない。が、なかなかに興味深く読んだ。
本作は「古典文学を現代語訳というようにすることで、少年少女向けとして世に問う」という企画で登場しているのだという。言わば「現代語訳『平家物語』 吉村昭 訳」というような一冊なのだ。
吉村昭は熱心に取材を重ね、そういう成果を踏まえた、作中世界で流れる時間や景色が強く感じられるような、濃厚で精緻な描写で知られていると思う。本作は必ずしもその「本来のスタイル」ということでもない。「翻訳」なのだ。同時に、伝えられている『平家物語』を詳細に訳出しようというのでもない。好いテンポで、「普通の小説」 -
Posted by ブクログ
面白かった。面白いというと不謹慎だが、淡々とした文章に引き込まれて一気に読んだ。吉村昭氏の本はノンフィクションの記録文学を5冊ほど読んだが、純粋な小説は初めて。
物語は、どこかの島の南端にある小さな漁村が舞台である。そこに住む少年の視点で書かれているが、食料もままならないほど貧しい生活である。村の人々が待つのは「お船様」で、物資を載せた商船が村の近くを通りかかるときに難破し流れつくものだ。手をこまねいて待つだけでなく、海が荒い日に浜で火を起こして座礁を誘う。お船様は村にとっての恵みであり、1船来れば村全体が何年も飢えずに済むだけでなく、出稼ぎに行く必要もなくなるので影響は絶大だ。
そんな難破船 -
Posted by ブクログ
「吉村昭」の長編小説『破獄』を読みました。
『新装版 逃亡』に続き、「吉村昭」作品です。
-----story-------------
驚くべき手口に、大胆な実行力で、四回の「脱獄」成功。
犯罪史上に残る無期刑囚を描いた「吉村」記録文学・畢生の大傑作。
昭和11年青森刑務所脱獄。
昭和17年秋田刑務所脱獄。
昭和19年網走刑務所脱獄。
昭和22年札幌刑務所脱獄。
犯罪史上未曽有の四度の脱獄を実行した無期刑囚「佐久間清太郎」。
その緻密な計画と大胆な行動力、超人的ともいえる手口を、戦中・戦後の混乱した時代背景に重ねて入念に追跡し、獄房で厳重な監視を受ける彼と、彼を閉じこめた男たちの息詰る -
Posted by ブクログ
「吉村昭」の長編小説『新装版 逃亡』を読みました。
この季節になると第二次世界大戦に関連する作品を読まなきゃな… という気持ちになるんですよね、、、
「吉村昭」作品は、昨年10月に読んだ『漂流』以来ですね。
-----story-------------
戦争に圧しつぶされた人間の苦悩を描いた傑作
軍用飛行機をバラせ……戦時下の緊迫した海軍航空隊で、若き整備兵が背負った過酷な運命とは?
初期の力作長篇が待望の再登場
解説・「杉山隆男」
-----------------------
1971年(昭和46年)に発表された作品… 逃げる男の心理を、戦争という暗い存在とともに巧みに描いた傑 -
Posted by ブクログ
明治初期の囚人が北海道に送られて開拓していく。彼らは皆重罪犯だが、時代の転換期だったし本当は悪く無い人もいたんじゃないか…?囚人の扱われ方がとにかく酷くて真冬でも足袋すら支給されない。典獄は上席に足袋などを求めるが、北海道の寒さをわかっていないのか、却下される。で、支給されない。日本らしい縦割りだなぁ。作業効率を考えて自腹で勝手に支給してもバレなそうだけど。典獄は桁違いにお給料もらってたみたいだし。そんな感じで囚人は安い労働力としてこき使われバタバタと死んでいく。脱走する人も続出し、逃げきれず死んだり、看守に殺されたりする。海外を視察した偉い人によってこの待遇はあり得ない。という風潮が流れ、明
-
Posted by ブクログ
口語自由俳律で知られる尾崎放哉。その小豆島での最期の8カ月を描いた作品。享年41。
酒乱で酒を飲めば攻撃的になる。人の施しによってしか生きられない。どうしようもない人間だと思うのだが、「結核」を病み、家族から疎んじられ、長くは生きられないと悟ると、そうなるのかもしれない。もっと句を詠みたかっただろうし。
没後、放哉の師にあたる井泉水が「捨てて捨てきつて、かうした句境にはいつてきた」「大自然と同化していた」と表現したそうだ。俳人として名を残すには、この捨てきった8カ月が大切だったのかもしれない。
はるの山のうしろからけむりが出だした
春の訪れを誰よりも待っていた放哉だったのに。
吉村昭