吉村昭のレビュー一覧

  • 海の史劇

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    舞台は日露戦争。主に航海中のバルチック艦隊内部や日本海海戦の様子が書かれている。日本側の情勢、二百三高地攻略、ポーツマス講和の内幕など詳しく書かれている。読みやすく読者を退屈させない。

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    2024年03月30日
  • 陸奥爆沈

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    昭和18年6月、瀬戸内海の桂島泊地で謎の爆発で沈没した戦艦陸奥。なぜ事故が起きたかを丹念に検証する作品。

    最先端の技術を用い、国と国の争いで抑止力として重要な存在。浮かべる海城の戦艦。しかしながらそれを動かすのは人。帝国海軍の過去の歴史から同種の事故が頻発していることを筆者は知る。

    技術の極致、攻撃力の象徴の戦艦を支えたのは生身の人間。明治維新から敗戦まで、大日本帝国を支えた下級兵士たち。人々の意図を超えて暴走する機械。

    吉村昭ならではのカタストロフィ物を堪能できる作品でした。

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    2024年03月05日
  • 破船

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    なんだろうな...海の恵みの描写とか四季の移り変わりの描写とかうつくしい風景目白押しのはずなのに人々の暮らし描写の陰鬱さがそれに並ぶ不思議。村から出たいとも思わず村長を中心に一致団結することで暮らしが成り立つ不思議。地方の因習ネタのホラーとか好きなんだけど現実に即するとなるとこうなるのか...

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    2024年02月06日
  • 羆嵐

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    羆に襲われた北海道の貧しい開拓集落の恐怖が淡々と描かれ、かえって怖い。
    エリート風の分署長とアウトロゥな熊撃ち銀四郎、そして熊撃ちの経験に賭ける区長など、登場人物のキャラも際立っている。

    コレは面白い本だ。

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    2025年09月19日
  • 戦艦武蔵

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    長崎で建造が始まった第2号艦。その地形や造船に関わる人数を考えるとその存在を秘匿するのは容易ではない。前半は数々の困難を乗り越えて巨艦を完成、引き渡しまで。後半は戦艦武蔵と名付けられ戦線に合流するも時代は航空戦力が主になりその能力を発揮できない。
    読みだしたら止まらない。
    知っている最後に向けて話は進む。撃沈。
    しかし話はまだ続いた。
    武蔵沈没の露見を恐れた海軍中枢部は生存者をほぼ邪魔者扱い。内地に送られた者は輸送中に敵魚雷で沈没。生存者はほぼ軟禁状態。
    現地に残された者はほぼ全滅。
    過酷すぎる。

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    2024年01月03日
  • 深海の使者

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    ドイツまでの3万キロを潜水艦で往来していたという事実に驚きました。片道2ヶ月以上、いつ敵に襲われるかわからない状態で、しかも狭い艦内で過ごす精神力。昔の軍人さん達はこのような過酷な状況下でも命懸けでお国のために任務を果たす姿に胸を締めつけられました。
    また、読者にその時の状況を思い描くことができるほどの文章を書くには、とんでもない量の取材や綿密な調査をしていたのだろうと推察します。
    それを1冊の本にまとめていただき、私たちは史実として知ることができています。感謝です。

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    2023年12月30日
  • 零式戦闘機

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    零式戦闘機の誕生から終焉まで、史実とともに読むことができます。開発者と発注元である軍部との関係や、実戦で示された最新鋭機の活躍、製造工場から飛行場までの輸送手段に牛や馬が使われていたことなど興味深い逸話も知ることができました。
    吉村さんの作品は『熊嵐』以来でした。他の作品も手に取りたいと思いました。

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    2023年12月15日
  • 漂流

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    ネタバレ

    江戸時代の漁師の漂流サバイバル小説。この小説を読むと、次のような効能が得られると思う。

    ・困難な状況に置かれた時、どういうメンタルで過ごすのが自分にとっても他人にとっても最善なのか
    ・日々食事にありつけるありがたさ、運動の大事さ
    ・ものを大切にしようとする気持ちが深まる
    ・一方で、必要最低限のものでも生活することができるんだというミニマリスト思考にとっても参考になる
    ・サバイバルの知識つけといた方がいいなという危機感


    冒頭に日本人のサバイバル例として戦後のアナタハン島の話や、横井庄一さん達のエピソードが紹介され、それも興味深く読み進めることができる。しかし本編はそれどころでない面白さで、

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    2023年12月04日
  • 新装版 海も暮れきる

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    読んでいる時と読後と、様々な感情が湧き起こる作品だと思った。そもそも『海も暮れきる』は、尾崎放哉の句の一部だが数ある句の中からこの語をタイトルにした理由を読みながら探したがわからなかった。
    何が放哉をここまで追い詰めたのか、なぜ酒に溺れるようになったのか。私は彼の激しい自尊心が自身を破滅に追いやったように読んだ。思うようにならない現実と芸術の狭間の苦しみが酒に溺れる結果ではないかと。そして放哉はとても気の小さい人間だとも思った。その感情の浮き沈みを吉村昭は見事に描いたと感動した。そして最後になってタイトルの意味がわかってきた。暮れきった海は真っ暗で底も見えない。底には死があってその恐怖にずっと

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    2023年12月03日
  • 漂流

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    とても面白かった。江戸時代の船乗りが太平洋の鳥島に漂流した後、試行錯誤をしながら祖国に戻る話。土佐で米を運んでいた長平ら4人は時化にあいアホウドリしか住まない孤島に漂流する。長平以外の3人は栄養失調などで死んでしまい一人で過ごすこととなる。その後儀三郎ら率いる大坂船、栄右衛門ら率いる薩摩船が漂流しその人らと生活をする。孤島で死を待つだけの生活を捨て船を作り島から抜け出し祖国に帰ることを決断した漂流民は流木などから船を作り見事八丈島に辿り着く。一人になっても1年以上島で生活した長平の気力がすごい。アホウドリが渡り鳥で一年中いるわけではないことに気づいたり、肉だけ食べても死ぬことだったり、水のため

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    2023年11月17日
  • 破獄

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    表題の通り、戦前から戦後にかけ4度の脱獄に成功した佐久間(仮称)を話の中心に据え、刑務所内の人間関係を丁寧に描写しているが、国内情勢・司法環境の遷移を緻密な調査をもとに数十年のスケールで厚みのある肉付けがされている。ドキュメンタリーとして非の打ち所ない読み応えある作品である一方、とにかく読み易さが目に付いた。『漂流』も名作だが、本作はドラスティックな展開に読み疲れも少なく非常に楽しめた。

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    2023年11月07日
  • 新装版 赤い人

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    新千歳空港の書店にこの本があるのは、まさにあるべき場所で売られているといった赴き。在庫を切らさないようにしているのかな。
    北海道を訪れたら、北海道を訪れる前に、一度は読んでおきたい開拓と命の歴史。

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    2023年10月28日
  • 破船

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    ネタバレ

     本作は少年の視点から綴られる僻地の寒村の3年間の物語だ。大人が年季奉公で廻船問屋に売られ、未成熟な子どもが一家の労働力として漁をせざるを得ない貧困。村に大きな幸を齎す“お船様”(難破船)を求めて祈り、実際に到来したなら情け容赦無く積荷を奪い取る共同体全員での犯罪。その“お船様”によって富ではなく疫病を齎され、村があっという間に崩壊寸前にまで追い込まれる厄災。これら苛酷で不幸な日々が無駄を削ぎ落とした簡明な文章によって描写され、読者に強烈なリアリティーを与えてくる。

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    2023年10月26日
  • 高熱隧道

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    とても面白かった。今まで知らなかった土木作業、トンネル工事の描写は興味深かった。最高165℃にもなる隧道工事に苦戦する技師、人夫たち。特に現場で働く人夫たちはダイナマイトの不発弾による事故や泡雪崩による事故で300人以上もなくなっており、作中でも描かれていたが技師と人夫の立場が資本主義って感じがした。前半の方は人夫たちは事故で亡くなっても原因を追及したりせず受け入れていて技師は人夫たちの心を掴むように立ち振る舞うが事故が重なり人夫たちの不満が増してき、不穏な空気が流れ技師たちは隧道貫通と共に逃げるように山を降りるのは印象的。
    自然の力って人の力ではどうしようないことあるんだな

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    2023年10月14日
  • 関東大震災

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    吉村昭の小説はいつもながらリアルです。表目的な事柄だけでなく、どのように被害が拡大してひとびが些細なきっかけで凶暴になっていくのかが描かれている。

    戦争、震災、パンデミック、天災
    いつ起きてもおかしくない。理性を失った時、人はこんなにも簡単に人を殺める。
    そのことが淡々と数字を絡めて書かれている。

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    2023年09月14日
  • ふぉん・しいほるとの娘(下)

    購入済み

    ゴツゴツとした歯ごたえ

    作家吉村昭のゴツゴツとした歯ごたえが際立つ作品である。司馬遼太郎が時代小説家歴史小説家なら吉村昭は史談 史劇作家 と感じた。想像力の羽ばたきを意図的に抑え、史実に語らせる、という手法がこの作品にも満ちている。そのような手法で描き出される、時代に置き去りにされる老いたシーボルトや、正式な医学を前にして身を引くお稲を感傷を交えずに書き上げている。

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    2023年09月03日
  • 高熱隧道

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    黒部第三発電所建設のための軌道トンネル掘削を描いた本作品。
    黒四ダム建設のような荒々しい男の戦いをイメージして読み始めたものの、ただただ過酷な自然との戦いが休むことなく続き、事故が起きる度に打開策に注力し、やがて克服する人々の様子を描いているのだけれども、少しも自然に勝ったという気持ちを抱かせてくれない、ある種切なく悲しい物語に感じました。
    おそらく現在の技術でもってしても、このトンネルを貫通させるのは非常識極まりないもののような気がしますし、それに従事した人々の姿は決して情熱なんてものではなく、得体の知れない恐ろしい何かが原動力になっているのがひしひしと伝わってきました。
    ラストは想像とかけ

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    2023年09月01日
  • 関東大震災

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    今年で関東大震災からちょうど100年。その間にも大きな地震を何度も体験してきた。将来、また大きな地震が起こると言われているが、過去からどれだけのことを学べているのだろう。

    本書は、関東大震災の発生前、発生後の様子、それによって起こったデマ、どさくさ紛れに起きた甘粕事件について、まるで見てきたかのような解像度で描かれている。

    建物の耐震性は向上し、関東大震災のような被害は多少起きにくくなったかもしれないが、津波への対策などまだ課題はある。また集団心理については、あの頃とあまり変わってないのではないかとも思った。

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    2023年08月31日
  • 関東大震災

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    100年前に起きた関東大震災の状況を丹念な取材と著者の筆力で当時の惨状が生々しく再現されています。
    飛んできたトタンで首が切り落とされた話や火災旋風やデマの恐怖などこれから起こると言われている大地震のイメージトレーニングとしても役立ちそうです

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    2023年08月20日
  • 冷い夏、熱い夏

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    ある冷夏の年の8月、主人公の「私」の弟の肺に影がみつかる。残念ながらそれは、悪性腫瘍の中でも特にタチの悪いものであり、1年以上の生存例が皆無であることを、「私」は医師から告げられる。「私」と親族たちは、弟が癌であることを隠しておくことを決める。手術後、弟は一時的に体調を回復させるが、徐々に痛みを訴え、体調を崩していき、再度入院することになる。癌は進行するが、治療する方法はなく、病院での措置は痛みを和らげること、そして、出来るだけ長く生きてもらうことしかない。徐々に身体の自由を失い、痛みが耐えられないものになっていく弟。まさに、闘病である。そして、残念ながら、前年とは打って変わった翌年の猛暑の夏

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    2023年08月19日