吉村昭のレビュー一覧
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この小説は、1941年12月1日の御前会議から12月8日の米英蘭に対する奇襲作戦を行うに至るまでの話である。秘密裏に準備が進められたこの一週間の間に起こった予期せぬ事態に軍部がどのように動いたかを細い取材の元に綴られた史実なのである。それは、墜落する上海号という双発機に暗号書と開戦指令書を持ち込んだ兵士の命をかけた逃走と人間を虫ケラのように扱う軍部の動きを対象にして描かれていく。吉村昭が描く戦史小説に一貫して通じるテーマがそこにある。小説の結びには、陸海軍人230万人、一般人80万人のおびただしい死者を飲み込んだ恐るべき太平洋戦争は、こんなふうにしてはじまった。しかも、それは、庶民の知らぬうちに密かに企画され、そして、発生したのだ。と締め括られている。
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総員起しは、森史朗の「作家と戦争」で紹介された小説だったので読んでみた。終戦後になって沈没した潜水艦から、死亡した当時のままの姿で発見されたというショッキングな内容が書かれていた。一貫して、吉村昭の小説に描かれている死に際の内面に迫っていく手法なだけに身に迫る怖さがある。ここには、「手首の記憶」など短編5編が掲載されているが、あっと言う間に読み終わってしまったという印象である。中には、吉村自身が「私」はという主語で論じるスタイルもあり、面白い。ストーリーの構成としては、ショッキングな場面から始まり、そこに至る事実経過や取材の場面が書かれ、最後に、タイトルともなっている出だしのキモの部分に焦点が当てられ、何故という問いが解されていくのだ。
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吉村氏ならではのノンフィクション小説。今回は戦後、世界発の胃カメラを実現した話。オリンパスの技術者と東大医研の先生との協同研究の顛末については、かつてプロジェクトXでも取り上げられていたが、別の視点からの事実ベースの小説で、非常に引き込まれた。短い記述ながら、技術的にはまってしまい苦悩する様子がありありと浮かぶ。当時のなんでもありの風潮もあったろうが、彼らの一途な指向に驚嘆する。残念ながら今、こんなかたちで開発のできる技術者は国内には存在しえないかもしれないが、思想、発想、そして哲学は継承されうる。とても臨場感があり、今後のためにも読んでおくと良いと思えた本であった。
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ライト兄弟が世界最初の飛行機を飛ばす十数年前、独自の理論を構築し”飛行器”の完成を目指した二宮忠八の生涯を描いた歴史長編。
吉村さんの作品でやっぱりすごいなあ、と思わせるのは綿密な取材に基づいた描写です。今作でもそれがいかんなく発揮されていて、忠八の生涯はもちろん、彼の人生のターニングポイントとなった日中戦争での調剤士としての従軍体験、軍から離れ製薬業界へ飛び込む様子。そうした折々のポイントが当時の世相や社会情勢の描写と共にしっかりと書き込まれています。
卒論をちょくちょく書き始めている自分にとって、お手本にしたくなるくらいに詳しく、それでいて簡潔な文体で書かれています。ただ調べたことをちょこちょこ、と書き込んだのではなく自分の頭できちんと消化して新たに生み出された文章なのだな、ということが読んでいて分かります。
独自研究の限界を感じつつも、最終的に一人で研究や制作を続けざるを得なかった忠八。その裏にあるのは周囲の無理解という単純なものではなく、異質な才能を嫌い均質化を求める日本人の気質や思考、
そして、日本人にそんなことができるわけがないという当時の欧米へのコンプレックスといったものが透けて見えるような気がします。そうしたものを文章で説明してしまうのではなく、登場人物たちの言動と、世相の描写で暗に読者に伝えるのも吉村さんの巧さだと思います。
自らの夢のため仕事に打ち込む忠八の姿は読んでいて熱くなるものがあり、最終的に忠八がたどり着いた姿も爽やかで読後感も良かったです。忠八は功名心から飛行器の制作をしたわけではなく、ただ本当に純粋に空への憧れで行動し続けたからこそ、読み終えて爽やかな気持ちになれたのだと思います。 -
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講釈師の瑞龍は幕府を批判する講釈を読んだ廉でしょっぴかれ、島送りの沙汰が下った。大坂は開放的な街だったが、ちょうど享保の改革に当たり、見せしめみたいなものだったようだ。船で種子島に送られた。
島の暮らしは比較的自由で、海辺で貝拾いをしたり魚釣りをしたりした。ある日一緒に預けられている罪人二人とよそ村身体訪ねてきた者と四人で釣りに行った。ちょうど丸木舟がもやってあったのでちょいと拝借し沖釣りをした。浜で釣るより各段によく釣れた。
ところが途中で一人がこのまま島抜けしようと言い出した。宛てなく漕ぎ出したが、途中時化にも遭い十五日後に着いたところは清国の島であった。
何とか日本行きの大船に乗せてもらい長崎に着いた。ところが吟味を受けるため牢に入れられた。島抜けがバレたら死罪になる。今度は4人で牢抜けをした。みんな一目散にに逃げたがやがて種子島から島抜けした罪人だということが知れ、各地に手配書が配布された。瑞龍は大きな街を避け農家などに泊まり歩いていたが、あるところで岡っ引きに目を付けられ御用となった。
お白州では包み隠さす素直に白状したという。そして斬首された。
吉村昭の作品は、これまでに「漂流」「破船」など、漂流ものを読んでいる。今回の「島抜け」も一種の漂流である。次々に襲ってくる困難はスリルとサスペンスそのものである。読み出すとそのスリルにハマって行き、途中で止めてはいけないような気分になる。まるで推理小説のようだ。
「島抜け」の他に「欠けた椀」と「梅の刺青」の併せて3作品が収録されている。
「欠けた椀」は昔の飢饉の時の百姓たちの凄惨な生活ぶりを描いたもので、あまりに暗い物語だ。
「梅の刺青」は江戸時代末期から明治維新後の掛けて、わが国の医学の発展に欠かせなかった人体解剖の歴史をドキュメンタリー・タッチで描いている。実際に目前に見ているようなリアルさがあって引き込まれる。短編だが一本の映画に出来そうなストーリーだと思った。