吉村昭のレビュー一覧

  • 虹の翼

    Posted by ブクログ

     ライト兄弟が世界最初の飛行機を飛ばす十数年前、独自の理論を構築し”飛行器”の完成を目指した二宮忠八の生涯を描いた歴史長編。

     吉村さんの作品でやっぱりすごいなあ、と思わせるのは綿密な取材に基づいた描写です。今作でもそれがいかんなく発揮されていて、忠八の生涯はもちろん、彼の人生のターニングポイントとなった日中戦争での調剤士としての従軍体験、軍から離れ製薬業界へ飛び込む様子。そうした折々のポイントが当時の世相や社会情勢の描写と共にしっかりと書き込まれています。

     卒論をちょくちょく書き始めている自分にとって、お手本にしたくなるくらいに詳しく、それでいて簡潔な文体で書かれています。ただ調べたこ

    0
    2015年08月08日
  • 島抜け

    Posted by ブクログ

     講釈師の瑞龍は幕府を批判する講釈を読んだ廉でしょっぴかれ、島送りの沙汰が下った。大坂は開放的な街だったが、ちょうど享保の改革に当たり、見せしめみたいなものだったようだ。船で種子島に送られた。

     島の暮らしは比較的自由で、海辺で貝拾いをしたり魚釣りをしたりした。ある日一緒に預けられている罪人二人とよそ村身体訪ねてきた者と四人で釣りに行った。ちょうど丸木舟がもやってあったのでちょいと拝借し沖釣りをした。浜で釣るより各段によく釣れた。

     ところが途中で一人がこのまま島抜けしようと言い出した。宛てなく漕ぎ出したが、途中時化にも遭い十五日後に着いたところは清国の島であった。

     何とか日本行きの大

    0
    2015年08月12日
  • 海の史劇

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    祖国の興廃をこの一戦に賭けて、世界注視のうち に歴史が決定される。ロジェストヴェンスキー提 督が、ロシアの大艦隊をひきいて長征に向う圧倒 的な場面に始まり、連合艦隊司令長官東郷平八郎 の死で終る、名高い「日本海海戦」の劇的な全 貌。ロシア側の秘匿資料を初めて採り入れ、七カ 月に及ぶ大回航の苦心と、迎え撃つ日本側の態 度、海戦の詳細等々を克明に描いた空前の記録文 学。

    0
    2015年08月02日
  • 仮釈放

    Posted by ブクログ

    「冷い夏、熱い夏」の次に読んじゃいけなかった…

    壮絶の一言。
    本当にノンフィクションなのかと思いつつ読んだ。一部のすきもなく、流れるように落ちていく。

    罪と罰、なんて、日本人の感覚にあるのだろうか。
    神に対する罪と罰であり、日本人にあるのは恥の感覚で、そう思うと更生ってなんだろうと思ってしまう。

    0
    2015年07月27日
  • 冷い夏、熱い夏

    Posted by ブクログ

    途中で読むのを止められず、一気読みしてしまった。
    最後までガンだと告げられなかった弟さん、それでも末期がんで痛みに苦しみながら、ガンの薬を打ってくれという…

    兄にも弟にもガンを隠し通し、そして周囲に「あなたが私にガンじゃないよと言っても信用しない」とまでいわれる著者のすさまじさ。身の中から食われていく気持ちだったのではないか。
    そして当人も最後はガンになり、自ら管を抜いて死んでいったことを思うと鳥肌が立った。

    0
    2015年07月26日
  • アメリカ彦蔵

    Posted by ブクログ

    吉村明に「漂流」という作品があるけど、
    こちらも漂流もの。

    江戸時代末期、廻船が難破し、流され、アメリカの船に救助され、アメリカに上陸し・・・、乗組員の彦蔵が数奇な運面をたどる、という内容。

    当時の日本の船は、嵐に弱く、多くの船が遭難したようだ。
    遭難して生き残った人々の記録が多くあるということは、助からなかった人々はそれに数倍したんだろうな。

    0
    2015年07月20日
  • ポーツマスの旗

    Posted by ブクログ

    日本の危機的状況を救った影のヒーローなのに、当時の国民の理解を全く得られなかった不運の主人公である。
    彼の歴史的成果や苦労が手に取るように分かる良書なので、坂の上の雲とセットで読むべきだと思う。

    0
    2015年06月14日
  • 星への旅

    Posted by ブクログ

    吉村昭の初期作品はずいぶん雰囲気が違うんですね。シュールな世界なのですが、「モノ」と「人の死」についてだけはひどく生々しく、即物的でなんとも言えない読後感を残します。

    0
    2015年05月17日
  • 蚤と爆弾

    Posted by ブクログ

    「時代の狂気」というのか、「狂気の時代」というのか、恐るべき企みに「大変に優秀な科学者」が熱中していく様が、何やら怖い…

    “曾根二郎”とは、実在の人物をモデルとはしているが、飽くまでも「小説の主人公」である。そして本作は、「具体的な個人名」で語られる劇中人物は“曾根二郎”のみという印象である…そういう文面の雰囲気が、「時代の狂気」とも「狂気の時代」とも言えそうな、「或いは、今からそういうような事態に?」という“迫力”を醸し出している…

    今年は戦後70年…こうした「戦中の秘話」に類する題材に触れてみる折なのかもしれない…

    0
    2015年04月27日
  • 総員起シ

    Posted by ブクログ

    戦争にまつわる実話を基にした5つの短編小説。

     もう、ずーっと読みたくて、古本で探しても見つからず1年。我慢できずに新刊をお取り寄せしました。読んで良かったです。戦争の悲惨さ、当時の人の思い、傷跡…。あくまで、「実話を元にした小説」なのでしょうけれど、Wikipediaなんかで調べただけではイメージ出来ないいろいろな情景が胸に迫ってきます。とても読みやすい小説で、引きこまれました。

    『海の柩』
     北海道で大量の水死体がある村に流れ着いた。その中に、手・腕のない死体が多く紛れていた。
    『手首の記憶』
     南樺太で起きた、看護師の集団自決。数名の看護師以外は一命を取り留めたが、彼女たちがその後背

    0
    2015年03月07日
  • 陸奥爆沈

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    連合軍の反攻つのる昭和18年6月、戦艦「陸 奥」は突然の大音響と共に瀬戸内海の海底 に沈んだ。死者1121名という大惨事であっ た。謀略説、自然発火説等が入り乱れる爆 沈の謎を探るうち、著者の前には、帝国海 軍の栄光のかげにくろぐろと横たわる軍艦 事故の系譜が浮びあがった。堅牢な軍艦の 内部にうごめく人間たちのドラマを掘り起 す、衝撃の書下ろし長編ドキュメンタリイ 小説。

    0
    2015年02月22日
  • 桜田門外ノ変(下)

    Posted by ブクログ

    吉村昭氏の書き方の物悲しさはなんだろう。
    高野長英、この本の主人公関鉄之助然りあまりにも切ない。
    しかし、世に無名の人が歴史を動かした張本人であったことを、ひしひしと感じさせるその綿密な調査のあとにはただ脱帽である。
    世の中を変化させているのは、歴史的功績からすれば極一部の人かも知れない。
    しかし、世の中を維持させる役割は、歴史にも残らない一般人である。
    我々は、ついつい目立つ人々に目を囚われがちだが、世の中には数多の民がいて、それらは互いに支え合って生きている。
    良いことも、悪いことも、その時の情勢で刻一刻と変化する。
    ただ、世話になった人にお返しをしようという気持ちは、そう簡単には変化しな

    0
    2015年01月19日
  • 新装版 赤い人

    Posted by ブクログ

    高熱隧道を読んだ吉村昭全集に収録されていた作品。
    北海道に在住だけれど、主要な道路が囚人の強制労働によって作られていたとは全く知らなかった。
    しかも囚人の中には、明治政府に逆らっただけの者や、
    自由民権運動で捉えられた人たちも多くいたというのが衝撃だった。
    未開の地だった北海道の開拓は、厳しい自然との闘いだ。
    マイナス20度になる冬に火気もなく過ごしたなんて全く信じられない。
    しかも囚人は単衣(たぶん柔道着のようなもの)で、裸足に鎖をつけたまま雪の中で長時間作業をしたようだ。
    凍傷が原因で人が死ぬということも初めて知った。
    囚人が安価な労働力として、民間企業が所有する硫黄山や幌内炭鉱の劣悪な状

    0
    2018年08月16日
  • 熊撃ち

    Posted by ブクログ

    熊を仕留める時の描写が素晴らしい。
    目の前に羆がいるようなドキドキ感を味わえました。この本からの羆嵐だったんですね。
    『あとがき』まで大事に読ませていただきました。
    安定の吉村昭クオリティ。

    0
    2014年11月11日
  • 零式戦闘機

    Posted by ブクログ

     ゼロ戦の誕生から末期までを描いた小説で、人ではなく兵器から見た戦争ものである。ゼロ戦がこんなにも圧倒的な性能を有していたとはうかつにも知らなかった。
     劇的なデビュー、華々しい活躍、悲惨な戦場、やがて哀しく終えるのだが、感情を抑えた表現はかえってそれらが胸を打つ。さすがの吉村昭である。この人の小説はすべておもしろく、はずれがない。
     

    0
    2014年10月31日
  • 逃亡

    Posted by ブクログ

    彼の作品はどのお話も読み終えた後にずっしりと深く心に残るものがあります。40年ほども前に記された文章ですが、相変わらず決して古臭さを感じさせません。そして、読み始めるとページをめくる手が止まらなくなります。

    主人公は戦時中に大変恐ろしい行為をしてしまうことにより逃亡することになったのですが、これも時代の流れ、背景がそうさせたこと。決して彼の若さ、気の弱い部分があったことだけが原因ではありません。ただ若い彼がそれほどのことをしてしまうまでの心理状況に、自分が彼の立場だったらどんな行動に出るだろうか、同じことをしてしまったかもしれないと感じます。

    人間の弱い心が起こした大事件でしたが、生きるた

    0
    2014年10月22日
  • 海軍乙事件

    Posted by ブクログ

    1934年、山本五十六氏を乗せた日本軍機が待ち伏せされて南海に散った翌年、氏の後任を含む一向が空襲を逃れパラオからミンダナオに飛ぶ途中に遭難。

    その折、ゲリラに没収された海軍Z作戦計画書が米軍の手に渡っていたにも関わらず、同計画書没収の事実を大営本部がエリート意識の高さゆえ握りつぶしたため作 戦は実行され、当然大敗を喫してしまったという海軍乙事件(甲事件は五十六氏の待ち伏せに繋がった復号技術の漏えい)のルポ。

    重要なのは事実(あるいは事実とされるもの)ではなく、科学的態度を如何にして失わないでいるかであるという意味では、今も昔も変わらないと感じました。

    0
    2014年10月01日
  • 新装版 落日の宴 勘定奉行川路聖謨(下)

    Posted by ブクログ

    後半は安政の大獄で左遷されるなどし、一旦は復活するものの、病を得て身体が利かなくなり、幕府崩壊の情勢下で失意の中で命を落としてしまうという、川路聖謨の最期までが描かれる…
    吉村昭は「川路聖謨の物語…」という思いを永い間抱いていたようで、本作はそうした好い意味での思い入れが滲む秀作である。互いに譲り難いものを持っていて激しく言い争いながら交渉した川路聖謨とプチャーチンだが、互いに「人間として」の敬意を抱くに至っていた様子も描かれる。これは名作だ!!!

    0
    2014年06月25日
  • 新装版 落日の宴 勘定奉行川路聖謨(上)

    Posted by ブクログ

    「吉村昭の流儀」というような、精密で臨場感溢れる「旅の描写」により、川路聖謨の活躍した時代や場所へ引き込まれてしまう…
    ロシアとの国交が拓かれた頃の物語だ…

    0
    2014年06月25日
  • 冬の鷹

    Posted by ブクログ

    江戸時代。『ターヘル・アナトミア』の翻訳版、あの名高い『解体新書』を世に送り出した杉田玄白ではなく、その翻訳の中心人物であった前野良沢を主人公とした物語。前野良沢という人物は名前だけは知っているが、どういう人物なのかは全く知らなかった。この本によれば、まさに学者という人物で名利を求めるような人物ではなかった。だから今でも杉田玄白と比べると知名度が低い。
    『ターヘル・アナトミア』の翻訳というのは実に難作業だったのだと伝わってきた。辞書もろくに無い中で、単語の意味を別の本や実際の解剖の結果から推測し導き出すという作業は根気が必要で、とても常人には成し遂げられないものだ。そのような翻訳が完璧であるわ

    0
    2014年06月16日