吉村昭のレビュー一覧
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漁網に使う棕櫚の繊維が誰かに買い占められたことを書き出しに使うのがプロの技。いや、取材の賜物というべきか。
尋常ではない巨大戦艦を造るための苦悩や苦心を書く前半が本書の面白いところ。
だから、竣工した武蔵を海軍に引き渡した瞬間に部外者にとなって、呉工廠を後にする三菱造船所の面々というシーンまでがあれば本書は十分だと感じた。
まあ武蔵の生涯という意味では就役後、撃沈されるまで書かないと落ち着かないというのはわかるが。
そして、設計図を焼いてしまったN太郎の話はやっぱり考えさせられる。
選ばれて極秘任務に抜擢されたものの、最年少なので下働きしかさせてもらえず、その間に同期生は仕事を覚えていく。 -
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日露戦争の講和交渉の末、ポーツマス条約が結ばれたが、国民からは評価されず。ロシアが日本に対して一切の賠償金を支払わず、領土については、日本軍が占領していたサハリン島のうち南半分を日本の領土とし、ロシアが有していた中国東北部の権益は日本に譲渡される、という内容だったが、死傷者総数20万人以上という犠牲と、戦費負担のための金銭的の国民の我慢が報われないと感じられたからだ。そのため、東京では講和に反対する市民によって「日比谷焼打事件」と呼ばれる暴動が引き起こされたという、これは歴史の教科書にも書かれる内容だが、本書は、ここに至る経緯に迫る。
小村寿太郎や金子堅太郎の活躍がよく分かるが、特に金子の胆 -
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『ロシアの風土は、自分たちの体になじめず、生きる力を奪い取る。そのために出来るかぎりの努力をしてきた』
やはり、一つの山場は三度にわたる帰国願いだろうと思われた、それはこれまでロシアに漂流してきた日本人が誰一人として帰国できなかったという事実が、何よりも「大黒屋光太夫」らの心を重くさせながらも、温暖な伊勢育ちの彼らにしたら、ロシアの寒さは尋常でないことを悉く肌で痛感させられてと、まるで板挟みのような苦行を長いこと味わい続けた末の帰国不許可には、人間としての当然の権利を剥奪するものだと、激しい怒りに駆られるのも肯けるものがあった。
また、そんな状況が死に別れた仲間たちだけでなく、生き別れ -
Posted by ブクログ
樺戸集治監の歴史が非常に淡々と語られていく。客観的に淡々と進むのだが、登場人物に妙に熱気がある。このあたりの文章の上手さが吉村さんならではなのだろう。解説を読むまで、囚人がほぼ言葉を発していないことも頭から飛んでいた。
今の刑務所事情を知っていると、ここでおこなわれていることは人権侵害にほかならず、そりゃあ脱獄も反乱もおこるよな、という感じ。
戊辰戦争、日清日露戦争、天皇陛下崩御と恩赦などの外的要因が集治監に影響していく様は時代を感じさせられるとともに、監獄というのはそれ単体で動くものでは無いことを実感する。
北海道がこうして開拓されていったという、歴史の一部を学べた。