吉村昭のレビュー一覧
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あなたは、「『解体新書』を翻訳したのは誰か」と聞かれたら何と答えますか?
小学六年生社会科のテストなら
『杉田玄白』
と答えていれば丸になるかな。
でも、実際の翻訳作業はほぼ全て
『前野良沢』
が手掛けたことまでは学習しません。
本書はその前野良沢と杉田玄白を中心とした歴史小説です。オランダ語の習得に全身全霊を捧げようと志す前野良沢は、ほとんど暗号解読のような状態で翻訳を成し遂げます。しかし自分の名を著作に刻むことはよしとしませんでした。一方で用意周到に出版の準備を進めた杉田玄白は、後に医家として大成し医学界の頂点を極めます。
吉村昭さんの小説は、対照的な二人を軸とするも、平賀源内や高山彦 -
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NHKスペシャルで関東大震災の特集を放送した。
積読に成っていた本書を読みながら、テレビで見た映像を思い出した。
火災旋風により、人や物が宙を舞うという。まさに地獄絵図だ。
持ち出した火災道具に火が付き、災害を増加させる。江戸時代には守られていた火災時の教訓が、大正になって守られず、むしろ後退していたとは、愚かなことだ。
朝鮮人への根拠の無い迫害行動など、生々しく綴られていて、憤りを感じた。
パニックを起こした人々が集団心理により、簡単に狂暴化する。
幸い、東北大地震ではこのような事が起きなかった。過去の教訓が生かされたのだろう。
2035年前後には東北大地震の何倍もの威力の南海トラフ地震が、 -
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あらすじを見て、囚人を北海道開拓に従事させていたなんてまったく知らなかった!と手に取った。
囚人たちが、監獄やいまも残る国道整備に貢献したこと、危険を伴う炭鉱や硫黄山での作業に従事させられていたことを知った。
(硫黄山での作業はゴールデンカムイにも出てきたぞ、と思いながら読んだ。)
囚人を北海道開拓という困難な労役に充てるだけでも驚くけど、斃死しても構わない、という姿勢だったことにも驚かされる。
また、囚人の中には明治維新において旧幕府側に立った士族や国事犯も含まれていて、殺人犯や窃盗犯なら労役に充ててもいいと思っていたわけではないけれど、ショックを受けた。
官吏と囚人は元は同じ士族の身分だ -
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会社の先輩からお借りした一冊。
この作者の本は、漂流から2冊目かな?
漂流もこの先輩からお借りした本だった。
漂流もリアリティ溢れ、臨場感が半端ない小説だったが、この本も凄い!
目の前に情景が現れる。自分がその村に迷い込んだような錯覚を起こす。
すっごい惹きつけられる小説なのだが、常に恐怖感が付き纏っていた。
何処か不気味で、何かに怯えながら読んでいた気がする。何に怯えていたのかは、読み終わった今も謎だけど(^◇^;)
北の海に面した、貧しい村が舞台となる。
痩せた土地には雑穀しか育てたない為、村民は鰯やイカ、タコ、秋刀魚などを採り、隣村まで売りに行き、穀物と交換してギリギリの生 -
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吉村昭『関東大震災』文春文庫。
関東大震災から丁度100年という区切りの年。我々日本人は、この100年の間に阪神淡路大震災、東日本大震災という2つの震災を経験している。日本列島が大陸のプレートの狭間に存在する以上、これからもこのような大震災を経験するのは間違いない。大切なことは震災への備えと心構えといざという時の知恵、情報であろう。
記録文学の第一人者である吉村昭の菊池寛賞受賞作。
少し前に読んだ江馬修の『羊の怒る時 関東大震災の三日間』では、当時の東京市とその近郊の混乱の状況が生々しく描かれていたが、本作では関東大震災の8年前の前震と思われる群発地震から震災当日からその後の状況までが、 -
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ネタバレ吉村昭さんの作品は淡々と書かれているので何とも言えない怖さがある。
幸司郎が全て誤った判断で罪を重ねていく前半部分と、その罰から逃れるためにあらゆる思考を巡らす後半とで主人公に対する印象が180度変わる。
戦争の渦中にあって、規律にしばられ倫理的に暴走していく旧日本軍の影響を強く受けた者は冷静な判断ができなくなるという受け取りかたをしました。
そして、逃げてはいるがしかし自由に自分の思考を活かせる環境下で徐々に冷静に人間らしさを取り戻すように感じました。
物語の構成も、第三者の目線から描かれていて、いわばネタバレからスタートしているのがなんとも面白い。
すっきりした読後感ながら、やっぱり -
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川路聖謨は幕末の官吏である.官吏としては異例の出世を遂げ,開国を求めてやってきたロシアの使節プチャーチンとの開国交渉の幕府側責任者のような役割につき,高圧的な態度のプチャーチンに対しても一歩も引かず,穏当な和親条約の締結にこぎつけるところまでが第一幕.
後半はアメリカのハリスからの通商条約締結に関する,さらに(当時の日本側からの見方からすると)一方的な要求を受け,幕府側の意見をまとめ,一方,攘夷論に固執する徳川斉昭や朝廷との板挟みとなり,右往左往する.井伊直弼の大老就任の辺りからは年齢的な問題もあり,川路は第一線から外れ,幕府崩壊までは引いた立場で幕末の動乱を見守ることになる.
それほど身分は