吉村昭のレビュー一覧

  • 冬の鷹

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    あなたは、「『解体新書』を翻訳したのは誰か」と聞かれたら何と答えますか?

    小学六年生社会科のテストなら
    『杉田玄白』
    と答えていれば丸になるかな。
    でも、実際の翻訳作業はほぼ全て
    『前野良沢』
    が手掛けたことまでは学習しません。

    本書はその前野良沢と杉田玄白を中心とした歴史小説です。オランダ語の習得に全身全霊を捧げようと志す前野良沢は、ほとんど暗号解読のような状態で翻訳を成し遂げます。しかし自分の名を著作に刻むことはよしとしませんでした。一方で用意周到に出版の準備を進めた杉田玄白は、後に医家として大成し医学界の頂点を極めます。
    吉村昭さんの小説は、対照的な二人を軸とするも、平賀源内や高山彦

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    2023年10月23日
  • 高熱隧道

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    頭の中の半分では感動.ただし残りの半分では,やはりどうしても嫌悪感を拭い去れない.人を人とも思わず,半ば気合いで乗り切ろうとする工程.当時から北陸の人たちは発電の犠牲になってきたんだなあ.

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    2023年10月20日
  • 関東大震災

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    NHKスペシャルで関東大震災の特集を放送した。
    積読に成っていた本書を読みながら、テレビで見た映像を思い出した。
    火災旋風により、人や物が宙を舞うという。まさに地獄絵図だ。
    持ち出した火災道具に火が付き、災害を増加させる。江戸時代には守られていた火災時の教訓が、大正になって守られず、むしろ後退していたとは、愚かなことだ。
    朝鮮人への根拠の無い迫害行動など、生々しく綴られていて、憤りを感じた。
    パニックを起こした人々が集団心理により、簡単に狂暴化する。
    幸い、東北大地震ではこのような事が起きなかった。過去の教訓が生かされたのだろう。
    2035年前後には東北大地震の何倍もの威力の南海トラフ地震が、

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    2023年10月12日
  • 破獄

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    昭和の脱獄王の話。
    佐久間は人情に厚く、自分を人として扱ってくれた人に対しては礼を持って接するが、そうでないと感情を爆発させ破獄にはしる。
    国家や社会に異常事態が発生した際に、囚人たちが懲役で軍務や労働力として関わっていたことを初めて知った。

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    2023年10月04日
  • 新装版 赤い人

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    あらすじを見て、囚人を北海道開拓に従事させていたなんてまったく知らなかった!と手に取った。
    囚人たちが、監獄やいまも残る国道整備に貢献したこと、危険を伴う炭鉱や硫黄山での作業に従事させられていたことを知った。
    (硫黄山での作業はゴールデンカムイにも出てきたぞ、と思いながら読んだ。)

    囚人を北海道開拓という困難な労役に充てるだけでも驚くけど、斃死しても構わない、という姿勢だったことにも驚かされる。
    また、囚人の中には明治維新において旧幕府側に立った士族や国事犯も含まれていて、殺人犯や窃盗犯なら労役に充ててもいいと思っていたわけではないけれど、ショックを受けた。
    官吏と囚人は元は同じ士族の身分だ

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    2023年10月04日
  • 漂流記の魅力

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    江戸時代の漂流船・若宮丸の記録。漂流記と言えば大黒屋光太夫の話が有名だが、それ以外にも多くの漂流民がいた。運よく日本に帰還できた人がその様子を伝えているが、これもその一つ。苛酷な旅の中で、自分の今後を悲観的に見る者、現地に順応する者、帰国への希望を捨てない者等様々な人生が語られる。
    当時の状況は、現代とは比べ物にならない位厳しかった。江戸時代の漂流記を読むと、自分が同じ立場だったらどうするかという事をいつも考えさせられる。

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    2023年09月28日
  • 破船

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    会社の先輩からお借りした一冊。

    この作者の本は、漂流から2冊目かな?
    漂流もこの先輩からお借りした本だった。

    漂流もリアリティ溢れ、臨場感が半端ない小説だったが、この本も凄い!
    目の前に情景が現れる。自分がその村に迷い込んだような錯覚を起こす。

    すっごい惹きつけられる小説なのだが、常に恐怖感が付き纏っていた。

    何処か不気味で、何かに怯えながら読んでいた気がする。何に怯えていたのかは、読み終わった今も謎だけど(^◇^;)



    北の海に面した、貧しい村が舞台となる。
    痩せた土地には雑穀しか育てたない為、村民は鰯やイカ、タコ、秋刀魚などを採り、隣村まで売りに行き、穀物と交換してギリギリの生

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    2023年09月25日
  • 関東大震災

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    膨大な事実を淡々と積み上げる手法が特に際立つ小説だった。
    時代を重ねるにつれ豊かになっていく事の裏返しなのか、震火災への人々の対応が江戸時代より退化していた、というのが印象的だった。

    小説の最後で、冒頭のエピソードの続きが始まり、ここで初めて表現された個人の心情が沁みた。

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    2023年09月21日
  • 高熱隧道

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    ネタバレ

    壮絶。。ここまでして工事をする必要があったのか?見直さない、鼓舞して続けるというところに、軍国主義真っただ中の日本がどういう社会であったかを物語っている。。色々とひどいことが多すぎて、呑気に観光なんてする気分じゃなくなりそう。。この工事がもたらした経済効果っていったいどれだけあったんだろう。この時代、人の命がほんとに軽すぎる‥。合掌。

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    2023年09月20日
  • 破船

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     「破船」は2022年の本屋大賞の「超発掘本!」選ばれた本でもあります。本屋大賞の「超発掘本!」とは、ジャンルや刊行年を問わず今読み返しても面白い本が選出されるものです。
     日本海沿岸の閉鎖的な貧しい寒村。土壌が痩せて作物もうまく育たず、魚介類もその場しのぎ程度の漁が精一杯の土地。村人たちは近海を通る貨物船の船荷をあてに座礁を祈る。
     生きることがこんなに苛酷だとは...。ちょっと気分が暗くなってしまいますが、海外でも広く評価され、多くの国の言語に翻訳された作品でもあります。

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    2023年09月17日
  • 吉村昭の平家物語

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    諸行無常。記録文学の名士が描く平家物語。歴史の証跡を辿るのではなく古典の記述そのものを再現する。盗作しているようで後ろめたさを感じたという。膨大な登場人物。それぞれの運命。少ない感情描写の中にその思いを想像する。流れる歴史を一話一話でも完結させてる。全盛期の驕り高ぶり。根にもたれた恨みは衰えた時に表出する。頭を丸め感傷に浸りながら生きる。敗れた後はそれすら許されない。栄枯盛衰。賢者は歴史に学ぶ。権力交代は何某かの進歩をもたらす。…栄えてなくても終わらぬ政権。過ちが正されることもない。現代日本の衰退は続く。

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    2023年09月16日
  • 関東大震災

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    吉村昭『関東大震災』文春文庫。

    関東大震災から丁度100年という区切りの年。我々日本人は、この100年の間に阪神淡路大震災、東日本大震災という2つの震災を経験している。日本列島が大陸のプレートの狭間に存在する以上、これからもこのような大震災を経験するのは間違いない。大切なことは震災への備えと心構えといざという時の知恵、情報であろう。

    記録文学の第一人者である吉村昭の菊池寛賞受賞作。

    少し前に読んだ江馬修の『羊の怒る時 関東大震災の三日間』では、当時の東京市とその近郊の混乱の状況が生々しく描かれていたが、本作では関東大震災の8年前の前震と思われる群発地震から震災当日からその後の状況までが、

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    2023年09月14日
  • 破獄

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    すごい奴が世の中にはいるもんだ。最後は少し心が温かくなる。戦前から戦後にかけての混乱も感じ取れて、よかったです。

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    2023年09月08日
  • 漂流

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    映像で見たい!そんなお話でした。
    私の知識不足か、なかなかイメージが湧かない部分があった。ストーリーとしては単純なのだが、映像として見たら、面白いだろうなぁと思ってしまった、というか映画あったのか!?
    以前、テレビで刑務所か無人島を選ぶならどっち?みたいなのがあったけど、この小説読んだなら、刑務所一択かもしれない。

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    2023年09月01日
  • ふぉん・しいほるとの娘(上)

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    幕末の長崎出島、シーボルトの妻、娘を描いた物語。
    感想は次巻へ。
    タイトルはシーボルトの娘とあるが、むしろ上巻はシーボルトお抱えの女郎おたきの物語だった。
    人間らしい生々しいシーボルトが描かれた物語だと思う。

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    2023年08月30日
  • 高熱隧道

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    評価3.5
    迫力ある内容だったけど、自分の都合で細切れでしか読めなかったので3.5。そこが残念。
    命と工事が天秤にかけられ工事が重くなる、技師と人夫の関係からくる緊張感、そして最後の爽快感とは遠い終わり。(貫通してよかったで終わると思った)
    読みごたえあった。

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    2023年08月28日
  • 逃亡

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    ネタバレ

    吉村昭さんの作品は淡々と書かれているので何とも言えない怖さがある。
    幸司郎が全て誤った判断で罪を重ねていく前半部分と、その罰から逃れるためにあらゆる思考を巡らす後半とで主人公に対する印象が180度変わる。
    戦争の渦中にあって、規律にしばられ倫理的に暴走していく旧日本軍の影響を強く受けた者は冷静な判断ができなくなるという受け取りかたをしました。
    そして、逃げてはいるがしかし自由に自分の思考を活かせる環境下で徐々に冷静に人間らしさを取り戻すように感じました。

    物語の構成も、第三者の目線から描かれていて、いわばネタバレからスタートしているのがなんとも面白い。

    すっきりした読後感ながら、やっぱり

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    2023年08月23日
  • 漂流

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    実話をもとにしていると聞くと、本当に想像がつかない。読んでいて大事だと思ったことは、生きている時に何か目指すべき目標が必要であるということ。何もない中では生きられない。短期的目標と長期的目標の2つが必要ではないかと思った。

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    2023年08月22日
  • 高熱隧道

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    昭和11年から昭和15年、軍需産業のために建設が進められた黒部第三発電所。

    未開の大自然を切り拓く人々のエネルギーと、それを阻むかのように犠牲を生むその大自然。
    大きく熱く冷たいこの自然は本当に人間が入り込み、制してよいのかとたくさんの疑問を持たざるを得ない迫力があった。

    その人々が費やした時間やエネルギーに、現代の人々は支えられ知らぬ間に恵みをも与えられている。

    少なくともそうした事実を知り、考える時間が出来たことに感謝。

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    2023年08月29日
  • 新装版 落日の宴 勘定奉行川路聖謨(下)

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    川路聖謨は幕末の官吏である.官吏としては異例の出世を遂げ,開国を求めてやってきたロシアの使節プチャーチンとの開国交渉の幕府側責任者のような役割につき,高圧的な態度のプチャーチンに対しても一歩も引かず,穏当な和親条約の締結にこぎつけるところまでが第一幕.
    後半はアメリカのハリスからの通商条約締結に関する,さらに(当時の日本側からの見方からすると)一方的な要求を受け,幕府側の意見をまとめ,一方,攘夷論に固執する徳川斉昭や朝廷との板挟みとなり,右往左往する.井伊直弼の大老就任の辺りからは年齢的な問題もあり,川路は第一線から外れ,幕府崩壊までは引いた立場で幕末の動乱を見守ることになる.
    それほど身分は

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    2023年08月12日