吉村昭のレビュー一覧

  • 逃亡

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    舞台は太平洋戦争中の日本。ある青年兵は些細な過ちをきっかけに、日本軍から脱走する。彼は長い逃亡生活を経て、庶民として現在にも生き続けた。そんな元青年兵のことを偶然に知った著者は、彼への取材を通してその過酷な生き様を小説スタイルで浮かび上がらせる。

    青年兵の逃亡中、日本は敗戦を迎え、彼は家族と再会します。フィクションならば、まさに感動の名場面。が、著者はこのシーンに多くの枚数を費やさない。逃亡兵という非国民の家族。戦争中、そんな嘲りを受け続けた者たちにとって、いくら家族でも、その青年兵に許せない感情を持っても不思議じゃない。青年兵は再び、戦後のすさんだ世界へ一人で戻っていく。そこで、小説は完結

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    2012年07月14日
  • 新装版 間宮林蔵

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    スリリングで緊張感のある展開、面白かった。日本の領土問題の原点。江戸後期、北方沿岸に頻繁に出没するロシア船の脅威が日に日に高まる中、ついに択捉島の集落が襲撃される。世界地図で唯一不明となっていた、樺太が中国東北地域の東契丹と陸続きかどうかを確かめる必要は国防上の最重要課題となった。百姓から立身した林蔵は、樺太の探検を命じられる。

    間宮海峡を発見したとして、歴史の教科書で必ず名前が出る人物だが、当時の江戸日本が置かれていた外交上の背景は教えない。ただ、行って見てきただけのような教え方も手伝ってか、彼の業績は過小評価され過ぎの感を禁じ得ない。

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    2012年05月05日
  • 天狗争乱

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    この天狗争乱が、はじめて読んだ吉村昭の本。

    独特の淡々とした文は、はじめ何も感情を感じ取ることができなく、
    これは小説なのかと戸惑った。

    しかし、読み進めていくうちに、この独特の文章から圧倒的なリアリティを感じることができるようになり、読後には、吉村昭の中毒にかかったように吉村昭の小説ばかりを読むようになってしまった。
    今でも、司馬遼太郎の次に好きな作家。

    もちろんストーリーも素晴らしかった。

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    2012年04月09日
  • 新装版 白い航跡(下)

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    既存の学説に依って立つ

    これは新たな発見に至る常套的な手段だ。

    ただし、どの学説を足がかりにするかの選択は、平明な視点でなされなくてはならない。

    この本で取り上げる脚気予防に関する陸海軍の軋轢は、権威に盲従的に、あるいは組織の対面(という名の権威)を優先することがいかに愚かで、ときには多くの悲劇を生み出すかという教訓に満ちている。

    学問は何のためか、研究は誰のためか、研究者はそれを忘れてはならない。

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    2012年03月29日
  • アメリカ彦蔵

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    13歳の時に乗っていた船が嵐のため漂流し、アメリカ人に助けられ、その後アメリカ人となって帰国を果たし、日本とアメリカの掛け橋となった彦太郎の一生。
    ジョン万次郎よりも若くて、多数のアメリカ高官に会っていた人が居たとは驚きました。帰国を果たした後にも、帰るところがないという寂しい感情が印象に残りました。

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    2012年03月25日
  • 桜田門外ノ変(上)

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    尊王攘夷思想が倒幕へ。幕末の激動を感じ先日、桜田門周辺を散策した。今度は一方の当事者である井伊直弼の彦根城あたりに行ってみたくなった。

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    2012年03月20日
  • 海軍乙事件

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    表題作の「海軍乙事件」をはじめ、「海軍甲事件」「八人の戦犯」「シンデモラッパヲ」の戦争記録小説4編を収録。
    「海軍乙事件」は山本五十六の後、GF長官となった古賀峯一大将とその司令部が、アメリカ軍攻撃からの避難のため二式大艇2機に分乗して飛行中に嵐に遭い古賀らが殉職、参謀長福留中将らはゲリラの捕虜となった事件を指す。出だしは陸軍の独立大隊がセブ島へ派遣されるという意外な場面からはじまるが、乙事件の顛末とともに見事に収斂されていく。結果論的にいえば、当時の戦略で策定された「Z作戦」の書類をアメリカ軍に奪われたにもかかわらず、それはないと強弁する福留中将や日本海軍の無責任・間抜けぶりと、アメリカ軍の

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    2012年03月14日
  • ニコライ遭難

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    吉村昭氏の「史実を歩む」を読んで、この作品を読みたくなった。
    明治24年、まだ、明治維新から24年しか経っていない日本に、当時、世界一の大国・ロシアから皇太子ニコライが日本に訪れた。
    国賓でも最大級のもてなしをし、長崎、鹿児島、神戸、京都と訪れ、滋賀の大津で暴漢に襲われる。
    その大津事件までと後の展開がみごとに綿密につづられている。
    いつもながら、淡々とした書き口のようで、登場人物であるニコライ皇太子、天皇陛下、西郷ほかの大臣、児島大審院長官などの「人物像」がよく伝わってくる。
    この事件の後に起こる、日露戦争、ロシア革命と、主人公の運命にも感慨深いものがある。

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    2012年02月28日
  • 漂流記の魅力

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    日本人初の「世界一周」が、図らずもこんな形で達成されていたとは。あまり知られていないのが不思議。1793年石巻から江戸へ輸送する米を積んだ「若宮丸」が悪天候のため漂流、アリューシャン列島の小島に漂着し、ロシア本国、バルト海、大西洋、ホーン岬、太平洋を経て長崎へ到着、帰郷。13年間の乗組員の想像を絶する艱難辛苦の史実。

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    2012年02月27日
  • 長英逃亡(下)

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    上巻は逃亡生活を克明に描くところが中心で高野長英の当代への影響については余り触れられていなかったが、下巻に入り島津斉彬や伊達宗城から評価を受け、彼の兵学書の翻訳が当時の開明的指導者に多大な影響を与えていたことが記されている。
    高野長英が幕末の思想的な中心人物であったことを今更ながら理解することができた。

    また、本著では彼やそれを匿う多くの人々の人間味あふれる関係にも心を動かされる。単に長英の博学ゆえだけでなく、江戸時代にはあった功徳の精神からなのであろうか。

    幕末維新からもっとも学ばなければならないことは、当時の人々の志の高さと、その志の高さを以ってのみ偉業を成し遂げることができる、という

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    2012年02月25日
  • 零式戦闘機

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    戦闘機という主人公が、生まれて死ぬまでのストーリーを当時の情勢と照らし合わせて描かれた一冊。欧米の模倣で生産されていた日本製戦闘機が、海軍厰と三菱重工設計者・その他全関係者の熱意と努力で世界一の性能に達し、第二次世界大戦にておよそ3年間は他を寄せ付けぬ大活躍を見せるが、米国の圧倒的な技術力・開発力・生産能力・人材資源を前に機も国家も敗れる。小説は敗戦と共に終わるが、その後のGHQによる統治で戦闘機生産は規制され、日本の航空機産業は競争力を失うも、50年以上を経た今、三菱は新たに旅客機でリベンジを図る訳ですな。とにかく歴史・技術・人間模様が見事なバランスで書かれていて、とても楽しめた!

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    2013年10月04日
  • 仮釈放

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    7年ぶりに読んでみると、単に仮釈放後の生活を書いたというだけでなく、かなり深いところまで書いた本なのだと気づかされました。

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    2012年02月01日
  • 海の史劇

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    ネタバレ

    上司に勧められて読んだ。歴史小説を読むきっかけになった本。史実が元となっているため結末は既にわかっているはずだが、淡々とした記述の積み重ねが重厚な世界観を作り出している。

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    2012年01月29日
  • 死顔

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    吉村昭の妻津村節子が、夫の発病から死に至るまでを綴った「紅梅」を読み終え、また吉村作品を読みたくなりました。書店に行って、遺作短編集としてのこの本を見つけて読んでいます。

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    2012年01月22日
  • 敵討

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    敵討ちは武士に許された特権だった。しかし、明治維新でそれは只の殺人になる。時代が変わるとはどういうことなのだろう。仇討ちを通して、国の形が変わることと、本当に時代が変わることとは何かについて考えてみたくなった。

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    2011年11月21日
  • 長英逃亡(下)

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    いやはやこれは力作でした。人間長英の逃亡劇。史実に忠実に、硬質なタッチで描く。
    わたしも一緒に逃亡している気分になった。

    彼を獄に投じた目付鳥居耀蔵が、彼の脱獄後失脚したことを知ったときの身もだえするような後悔。
    「長英は、自分が早まったことを強く悔いた。わずか2ヶ月余の差が、運命を大きく狂わせたことを知った。」(p.268)
    「悔いても悔いきれぬことであった。2ヶ月余牢にとどまってさえいれば追われる身にならずにすんだと思うと、胸の中が焼けただれる思いであった。」(p.269)
    「過ぎ去ったことを悔いても仕方がない、と自分に言いきかせた。運命というものは人智でははかり知れぬもので、自分が負わ

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    2011年11月03日
  • 桜田門外ノ変(下)

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    旧暦の3月3日、その桜田門外の変の日は、雪だった。
    その事件後のことも、くわしく展開される。
    事件にかかわった水戸藩士に資金的に援助していたのが、こんにゃく商人であることも興味深い。今は群馬が名産のこんにゃくは、もともと茨城が名産だったよう。

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    2011年10月29日
  • 島抜け

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    ネタバレ

    いやあ。面白かった。
    思えば初めて,江戸以前の歴史ものを読んだかも。

    種子島に流された罪人たちが島抜けを試みる「島抜け」,大飢饉の中で妻を失うまでを書いた「欠けた椀」,日本の解剖学のおこりについて書かれた「梅の刺青」。表題作「島抜け」は中篇程度で,あとの二つは短編です。
    いずれもとても興味深く,面白い物語でした。

    「島抜け」では,日本の懲罰制度について知ることができました。島流しとはよく聞きましたが,主人公瑞龍が島流しに遭った種子島のある村では,比較的自由が許されてただ「穏やかに暮らす」ことが望まれていたというのが意外でした。でも,妻子とも会えず,ただ静かに老いを迎えるというのは,確かに生

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    2011年10月29日
  • 生麦事件(下)

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    生麦事件から明治維新まで、わずか6年。その間に、薩英戦争があり、長州征伐があり、鳥羽伏見の戦いがある。同じ「尊王攘夷」を唱えながら、生麦事件をきっかけに、薩摩、長州の考え方、対応が大きく変化していくのが実によくわかる。

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    2011年10月27日
  • 月夜の記憶

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    大変面白く、興味深い随筆でした。
    この随筆集は5つに分かれています。巻末の秋山駿氏の解説によると、「一章が人間の原型などを探る原理編、二章がその視線を歴史に投げての実験編、三章が戦争と敗戦、日本のことを考える編、四章が歩道橋など社会問題編、五章が日常の中の自分、いわば私小説編である」そう。
    これを読めば本当に吉村昭と言う人の人となり、考え方が手にとるように解ってきます。そして誠に勝手ながら、吉村昭氏に親近感を抱くようになります。

    一章では、「作家」(あえてここでは作家という言葉を使う。笑)としての吉村昭氏の姿がありありと見えてきて、普段ヴェールに包まれている (と私は勝手に思っている)作家と

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    2011年10月23日