吉村昭のレビュー一覧

  • ニコライ遭難

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    吉村昭氏の「史実を歩む」を読んで、この作品を読みたくなった。
    明治24年、まだ、明治維新から24年しか経っていない日本に、当時、世界一の大国・ロシアから皇太子ニコライが日本に訪れた。
    国賓でも最大級のもてなしをし、長崎、鹿児島、神戸、京都と訪れ、滋賀の大津で暴漢に襲われる。
    その大津事件までと後の展開がみごとに綿密につづられている。
    いつもながら、淡々とした書き口のようで、登場人物であるニコライ皇太子、天皇陛下、西郷ほかの大臣、児島大審院長官などの「人物像」がよく伝わってくる。
    この事件の後に起こる、日露戦争、ロシア革命と、主人公の運命にも感慨深いものがある。

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    2012年02月28日
  • 漂流記の魅力

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    日本人初の「世界一周」が、図らずもこんな形で達成されていたとは。あまり知られていないのが不思議。1793年石巻から江戸へ輸送する米を積んだ「若宮丸」が悪天候のため漂流、アリューシャン列島の小島に漂着し、ロシア本国、バルト海、大西洋、ホーン岬、太平洋を経て長崎へ到着、帰郷。13年間の乗組員の想像を絶する艱難辛苦の史実。

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    2012年02月27日
  • 長英逃亡(下)

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    上巻は逃亡生活を克明に描くところが中心で高野長英の当代への影響については余り触れられていなかったが、下巻に入り島津斉彬や伊達宗城から評価を受け、彼の兵学書の翻訳が当時の開明的指導者に多大な影響を与えていたことが記されている。
    高野長英が幕末の思想的な中心人物であったことを今更ながら理解することができた。

    また、本著では彼やそれを匿う多くの人々の人間味あふれる関係にも心を動かされる。単に長英の博学ゆえだけでなく、江戸時代にはあった功徳の精神からなのであろうか。

    幕末維新からもっとも学ばなければならないことは、当時の人々の志の高さと、その志の高さを以ってのみ偉業を成し遂げることができる、という

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    2012年02月25日
  • 零式戦闘機

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    戦闘機という主人公が、生まれて死ぬまでのストーリーを当時の情勢と照らし合わせて描かれた一冊。欧米の模倣で生産されていた日本製戦闘機が、海軍厰と三菱重工設計者・その他全関係者の熱意と努力で世界一の性能に達し、第二次世界大戦にておよそ3年間は他を寄せ付けぬ大活躍を見せるが、米国の圧倒的な技術力・開発力・生産能力・人材資源を前に機も国家も敗れる。小説は敗戦と共に終わるが、その後のGHQによる統治で戦闘機生産は規制され、日本の航空機産業は競争力を失うも、50年以上を経た今、三菱は新たに旅客機でリベンジを図る訳ですな。とにかく歴史・技術・人間模様が見事なバランスで書かれていて、とても楽しめた!

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    2013年10月04日
  • 仮釈放

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    7年ぶりに読んでみると、単に仮釈放後の生活を書いたというだけでなく、かなり深いところまで書いた本なのだと気づかされました。

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    2012年02月01日
  • 海の史劇

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    ネタバレ

    上司に勧められて読んだ。歴史小説を読むきっかけになった本。史実が元となっているため結末は既にわかっているはずだが、淡々とした記述の積み重ねが重厚な世界観を作り出している。

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    2012年01月29日
  • 死顔

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    吉村昭の妻津村節子が、夫の発病から死に至るまでを綴った「紅梅」を読み終え、また吉村作品を読みたくなりました。書店に行って、遺作短編集としてのこの本を見つけて読んでいます。

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    2012年01月22日
  • 敵討

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    敵討ちは武士に許された特権だった。しかし、明治維新でそれは只の殺人になる。時代が変わるとはどういうことなのだろう。仇討ちを通して、国の形が変わることと、本当に時代が変わることとは何かについて考えてみたくなった。

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    2011年11月21日
  • 長英逃亡(下)

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    いやはやこれは力作でした。人間長英の逃亡劇。史実に忠実に、硬質なタッチで描く。
    わたしも一緒に逃亡している気分になった。

    彼を獄に投じた目付鳥居耀蔵が、彼の脱獄後失脚したことを知ったときの身もだえするような後悔。
    「長英は、自分が早まったことを強く悔いた。わずか2ヶ月余の差が、運命を大きく狂わせたことを知った。」(p.268)
    「悔いても悔いきれぬことであった。2ヶ月余牢にとどまってさえいれば追われる身にならずにすんだと思うと、胸の中が焼けただれる思いであった。」(p.269)
    「過ぎ去ったことを悔いても仕方がない、と自分に言いきかせた。運命というものは人智でははかり知れぬもので、自分が負わ

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    2011年11月03日
  • 桜田門外ノ変(下)

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    旧暦の3月3日、その桜田門外の変の日は、雪だった。
    その事件後のことも、くわしく展開される。
    事件にかかわった水戸藩士に資金的に援助していたのが、こんにゃく商人であることも興味深い。今は群馬が名産のこんにゃくは、もともと茨城が名産だったよう。

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    2011年10月29日
  • 島抜け

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    ネタバレ

    いやあ。面白かった。
    思えば初めて,江戸以前の歴史ものを読んだかも。

    種子島に流された罪人たちが島抜けを試みる「島抜け」,大飢饉の中で妻を失うまでを書いた「欠けた椀」,日本の解剖学のおこりについて書かれた「梅の刺青」。表題作「島抜け」は中篇程度で,あとの二つは短編です。
    いずれもとても興味深く,面白い物語でした。

    「島抜け」では,日本の懲罰制度について知ることができました。島流しとはよく聞きましたが,主人公瑞龍が島流しに遭った種子島のある村では,比較的自由が許されてただ「穏やかに暮らす」ことが望まれていたというのが意外でした。でも,妻子とも会えず,ただ静かに老いを迎えるというのは,確かに生

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    2011年10月29日
  • 生麦事件(下)

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    生麦事件から明治維新まで、わずか6年。その間に、薩英戦争があり、長州征伐があり、鳥羽伏見の戦いがある。同じ「尊王攘夷」を唱えながら、生麦事件をきっかけに、薩摩、長州の考え方、対応が大きく変化していくのが実によくわかる。

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    2011年10月27日
  • 月夜の記憶

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    大変面白く、興味深い随筆でした。
    この随筆集は5つに分かれています。巻末の秋山駿氏の解説によると、「一章が人間の原型などを探る原理編、二章がその視線を歴史に投げての実験編、三章が戦争と敗戦、日本のことを考える編、四章が歩道橋など社会問題編、五章が日常の中の自分、いわば私小説編である」そう。
    これを読めば本当に吉村昭と言う人の人となり、考え方が手にとるように解ってきます。そして誠に勝手ながら、吉村昭氏に親近感を抱くようになります。

    一章では、「作家」(あえてここでは作家という言葉を使う。笑)としての吉村昭氏の姿がありありと見えてきて、普段ヴェールに包まれている (と私は勝手に思っている)作家と

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    2011年10月23日
  • 三陸海岸大津波

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    ネタバレ

     先の震災後にも新たに注目されている三陸海岸を襲った大津波の記録です。書かれたのは昭和45年とあります。明治29年、昭和8年、昭和35年のチリ地震の津波について、丹念に地元を回り、生存者を訪ね歩いて書かれたものです。


     大津波の前兆があちこちで聞かれたようですが、今回の地震のときにはなかったのかとネットで検索してみました。やはり結果論が多いのかな、中には「私は予知夢をよく見ます」という怪しげなのもたくさんありました。


     それにしても三陸海岸というのはこの短い間に何度も壊滅的な打撃を受けて、人口のほとんどを失っていたとは驚きです。それでも海岸近くに家を建てるということは、それだけ魅力的な

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    2020年05月07日
  • 海の史劇

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    吉村昭さんの本は始めて読んだが、非常に詳しく頭の中でイメージが浮かんだ。特に旅順攻略の場面が面白い。これを読んで児玉源太郎に興味が湧いた

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    2011年10月03日
  • 島抜け

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    江戸時代、罪人として種子島に流された講釈師の脱獄生活を描いた小説。仲間と小舟で種子島を脱したものの、たどり着いたのは中国。言葉が通じない国で巧みに話をつけて長崎行きの船に乗せてもらう。

    逃亡生活に講釈師の能力がフルに活かされる。人間の才能は意外なところで発揮できるものなんだな。こんな信じられないような実話を見つけ出す著者の調査に感動。

    「がんばれ、講釈師」と、応援したくなる。

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    2011年09月27日
  • わたしの流儀

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    誰も知らぬなら思う通りに書けばよい
    ただ書くことに力を尽すだけでよい
    名作に感動しないときは、自分の個性とは相いれぬものとかんがえる。生まれつきの個性だからしかたない
    出前の皿は洗って返す しつけ
    電車内のサンドイッチも
    そばの食べ方
    長崎、皿うどん、福寿
    吉祥寺、寿司、富寿司
    札幌、バー、やまざき
    宇和島市、鯛めし、丸水がんすい
    南アフリカ外交官、あくまでも毅然と振る舞い、厳重に抗議する
    ★星野道夫、自分の判断に揺るぎない確信を抱いている人間の姿
    育児につとめる妻に感謝し、ゆとりを持って育児に専念できる環境を生み出すように努めるべき


    …この本に出会えてヨカッた
    吉村昭、よい

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    2011年08月27日
  • 三陸海岸大津波

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    過去の三陸津波を簡潔に、臨場感をもってまとめている。津波(災害)に対する心構えが重要と感じるとともに、文庫という形で資料化した筆者の活動に感謝したい。

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    2020年05月04日
  • 逃亡

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    緻密な取材と、その構成力は言うまでもありませんが、事実に対する感受性は、だれもまねができません。吉村昭は素晴らしい。その中でもとりわけ好きな作品です。

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    2011年07月18日
  • 桜田門外ノ変(下)

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    決行準備からその後の逃亡生活を詳細に記している。
    上下巻合わせて圧倒的なボリューム。
    よくぞこれほどまで調べ上げ一つの読み物としてまとめたものです。


    それにしても当初の予定が狂ったとはいえ、事件の後がお粗末ですね。
    赤穂浪士みたいに全員で自害するって思いはなかったのかな。

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    2011年06月14日