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放火・脱獄という前代未聞の大罪を犯した高野長英に、幕府は全国に人相書と手配書をくまなく送り大捜査網をしく。その中を門人や牢内で面倒をみた侠客らに助けられ、長英は陸奥水沢に住む母との再会を果たす。その後、念願であった兵書の翻訳をしながら、米沢・伊予宇和島・広島・名古屋と転々とし、硝石精で顔を焼いて江戸に潜伏中を逮捕されるまで、六年四か月を緊迫の筆に描く大作。
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Posted by ブクログ
いやが上にも、緊迫感の増した下巻。 家族のために、逃亡を続ける高野長英。 長英を逃亡させた、汚名を回復するために必死な幕府。 遂に、決着が見られる。 過酷な逃亡を、克明に記した大力作。
上巻に引き続き高野長英の逃避行。発覚した場合自分の家が没落するという大きな危険を孕みながらもこれだけの人々にゆく先々で助けられる姿や、薩摩藩・宇和島藩等までも協力する様子を見て高野長英という男が只者ではないことを再認識させられた。先見の明があり、学のあるものはどの時代も国からは恐れられる存在である。...続きを読む長英も例外なくその1人であるが、この人物が果たして明治維新後も生きていたとしたら日本にどのような影響を与えただろうか、そんなことを考えるととても惜しいことをしたような思いになる。 歴史の教科書では決して語られない詳細の記述により、まるで自分も共に逃避行しているかのようなスリリングな描写に読む手がとまらなかった。
上巻は逃亡生活を克明に描くところが中心で高野長英の当代への影響については余り触れられていなかったが、下巻に入り島津斉彬や伊達宗城から評価を受け、彼の兵学書の翻訳が当時の開明的指導者に多大な影響を与えていたことが記されている。 高野長英が幕末の思想的な中心人物であったことを今更ながら理解することができ...続きを読むた。 また、本著では彼やそれを匿う多くの人々の人間味あふれる関係にも心を動かされる。単に長英の博学ゆえだけでなく、江戸時代にはあった功徳の精神からなのであろうか。 幕末維新からもっとも学ばなければならないことは、当時の人々の志の高さと、その志の高さを以ってのみ偉業を成し遂げることができる、ということである。 高野長英も逃亡する中で安全な場所に留まれば生き延びることができたのだが、世の中を正しい方向へ動かしたい、という強い志ゆえに自らを危険に晒し、自分の志を実現することを行動基軸とした。
いやはやこれは力作でした。人間長英の逃亡劇。史実に忠実に、硬質なタッチで描く。 わたしも一緒に逃亡している気分になった。 彼を獄に投じた目付鳥居耀蔵が、彼の脱獄後失脚したことを知ったときの身もだえするような後悔。 「長英は、自分が早まったことを強く悔いた。わずか2ヶ月余の差が、運命を大きく狂わせた...続きを読むことを知った。」(p.268) 「悔いても悔いきれぬことであった。2ヶ月余牢にとどまってさえいれば追われる身にならずにすんだと思うと、胸の中が焼けただれる思いであった。」(p.269) 「過ぎ去ったことを悔いても仕方がない、と自分に言いきかせた。運命というものは人智でははかり知れぬもので、自分が負わされたかぎりそれを素直にうけとめ、新しい活路を見出すべきなのだ、と思った。」(p.270) こんなふうに、とても人間らしい面が描かれる。 赤松氏の解説が的確で素晴らしい。「自身の語学力、医師としての技量、西洋事情に関する学識などに絶大な自負をもつ長英は、ややもすれば倣岸不遜な振る舞いがあったらしい。しかし脱獄後、追われる身の罪人をどこまでも救援してくれる人びとの親切に接して、謙虚に反省する姿や、……」」。 そう、これがまたとても人間らしいと思った。 長い長い逃亡劇の果てに、手に汗握るようなクライマックスが待っているという構成。 江戸に戻り、顔を焼いて町医者として生計を立てるも最後は捕らわれの身に。十手で半殺し状態にされ、護送される途中で息絶える……。 じつに、時代に早すぎた者の悲運…日本には、鎖国を批判してこんな目にあった人がいた。胸を打たれる。
高野長英という名は知っていたが、こんなにも過酷な人生だったなんて知らなかった、吉村昭さんの語る長栄にグイグイ引き込まれて、地図を見ながら自身も逃亡している気分で読み込みました。
壮絶な終わり方だった。伊達宗城、島津斉彬など幕末の有名人が登場して、時代は一気に動いていく。せっかく開けたと思った長英の運命が、生活費のために落ちていってしまったのが悲哀である。
非常に面白く、細部まで圧倒される力が注がれた作品だった。 根を込めて読んだ事もあり、長英の目線でoneショットカメラ的に彼の人間的なものを共有して行った想い。 当所は「インテリ特有の不遜傲岸」さが有れども、長い逃避行の裡に、下賤問わず(たいていは裕福な医師や商人だったが)人に触れて、温もりへの謝意...続きを読むに溢れて行った日々。それでも晩年では「世話になり続けたことへの卑屈な感情の高まり」は押し殺せず、拗ねた思いになったことも有ったろう。 驚のは毎度の事、筆者の考え・・どこまで資料が有ったのか! 例えば、捕縛のきっかけとなった男・・良く「身内に気をつけろ」というものの、アリ得る設定。 一番納得がいくのは向学心、栄誉、自尊心からくる「蘭学の和訳」を増やしていったこと。実るほど首を垂れるじゃないが、「実らせないように」コウベは垂れ続けないと。 明治の夜明けまであと13年という散り方。とは言え、3人の子持ちでは生活が辛すぎる。
綿密な調査で史実に基づいた作品。生涯のうちの僅か6年の短い期間の逃亡生活をスリルに満ちた長編に仕立てた。長英の強い意志はもとより、周囲の人が命懸けで支援する。友人はありがたい存在だ。追われる身で妻子と過ごせたのは信じ難いが、娘が吉原に売られる話は真実味があって暗澹たる気持ちになった。2019.1.2...続きを読む2
一方、下巻では長英に影響を受ける人たちが確かにいたこと、また「志士」という人たちがどんなものなのかと考えさせられた。やはり現代において、ここまで気高い志を保つ人にならねばと思って仕方がない。 しかし、不運。不運だが、気高い。
不運だった人には違いない。 しかし、この作品を通じて『偉大』と感じられるのは、高野長英本人ではなく 彼の才能を認め、庇い、手を差し伸べてくれた人々のほうだった。 あの時代の人々の器の大きさ、優しさに触れられたことのほうが、むしろ収穫だったな。 翻訳家として偉業をなしたことは事実だが 人間としては時...続きを読む代ゆえの理不尽さによる僅かな同情以外には 好きにはなれなかった。 奇しくも、これを読んでいる最中にオウムの逃走犯二人が捕まった。 高野長英は6年半。 彼らは17年。
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