吉村昭のレビュー一覧

  • 新装版 海も暮れきる

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    人生の最晩年、肺を病み、小豆島に辿り着いた俳人・尾崎放哉。
    五七五にとらわれず、自由な作風で知られた。
    放哉の人生も作風と同じく自由であった。
    むしろ自己中心的である。
    俳人としては有能かもしれない。
    しかし、人としては最低だ。
    日に日に痩せ衰えてゆく放哉を冷徹に克明に描き切った大名作。

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    2019年01月31日
  • 背中の勲章

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    ネタバレ

    大東亜戦争で米軍捕虜となった海軍人を描く。虜囚の辱めを受けずという当時の思想は根深い。そこからの生き抜く決意をするまでの内面の動きが、かの小説の面白さだと思う。

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    2019年01月05日
  • ニコライ遭難

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    1891年5月11日、来訪中のロシア帝国皇太子・ニコライが滋賀県大津市で、警備中の巡査である津田三蔵にサーベルで襲われた──
    当時の日本人のロシアに対する感情は、複雑であった。
    軍事大国ロシアに征服されるかもしれないという恐怖。
    その中でのニコライの訪日。
    『このようなことがあっても、日本人民の好意に対する私の喜びの感情には変わりない』
    ニコライのこの言葉は、襲われた後に、なかなか言えることではない。
    そして、当時の日本国政府の焦慮、ロシアに対する恐怖が手に取るように分かった。

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    2018年12月09日
  • 星への旅

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    往来堂書店「D坂文庫 2017夏」からの一冊。
    吉村昭の作品はこれまでに何冊か読んでいたけれど、短編小説は初めて。しかも、これは昭和33年から42年にかけて書かれた作品を集めた、実質的なデビュー作ということらしい。
    その筆致は、後に書かれる社会派作品群と同様、緊張感にあふれて鋭い。しかし、本書はそう評するだけでは不十分だろう。何しろ、収められた6編はいずれも生と死をテーマに書かれていて、鋭さに重さが加わっているからだ。
    表題作の「星への旅」は、そのメルヘンっぽいタイトルとは裏腹に、日常の倦怠感と無力感から集団自殺を企てる若者の話であるし、「鉄橋」ではボクサーが列車に轢かれて不可解な死を遂げる。

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    2018年11月20日
  • ポーツマスの旗

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    ・小村は部屋の重苦しい空気も気にならぬらしく、平然としていた。ルーズベルトの質問にも適切な言葉で答え、表情になんの感情も現れていない。随員の竹下中佐は、その折の小村の態度について、「露国一行ハ大ニ畏敬ノ念ヲ生ジタル如ク見ヘタリ」と日記に記し、ロシア側の主席随員コロストヴェッツもその日誌に、「日本側の態度は謙虚で、分別と節度があり、立派であった」と述べている
    ・(講和条約妥結後)コロストヴェッツの日誌には「日本側は、何も特別なことが起こったわけではないように、泰然自若としていた」と、その折の小村らの印象が記され、本会議ははじまってからも、ウイッテが興奮を抑えきれぬように紙をしきりにちぎっている前

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    2018年11月04日
  • 新装版 赤い人

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    明治十四年から大正八年まで開拓のために囚人が次々と北海道へ送られた。
    北の最果て。
    無報酬。
    過酷な労働。
    猛威を振るう自然。
    人体実験紛いの行為。
    人権なんてない。
    時代のなせる業。
    三十八年で死亡者、延べ千四十六人。
    この囚人たちの上に北海道がある。

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    2018年10月13日
  • 破船

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    世の中と隔絶した名も無き漁村を舞台に描かれる、江戸時代の極貧生活。わずか17戸の小さな貧村では、夜の岬で塩焼きという風習が行われていた。しかしその本当の目的は、遭難した船をおびき寄せ座礁させるためものであった。
    口減らし、年季奉公という名の身売り、死を意味する山追いなど、一般庶民がまともに食えない時代である。遭難船は「お舟様」と呼ばれ、村にとって恵みをもたらす一大慶事であった。前年に、大量のコメを積んだ「お舟様」によって潤った村が、2年連続で新たな「お舟様」を迎えた。しかし、船には積荷はなく、20数名の乗船者は皆一様に、謎の赤い布を身に付けて死に絶えていた。村長はその着衣を村民に分配する。しか

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    2023年10月07日
  • 虹の翼

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    明治時代から日清・日露戦争の中、飛行〝器″を発明した天才 二宮忠八の苦難に満ちた人生の記録。そして、航空史も学べる。絶対に傑作です。

    名作「漂流」の心理描写、代表作「戦艦武蔵」の歴史記録小説の間をとったバランスが絶妙。

    貧乏ながら、企業家・ビジネスマンとしても一流で、画期的な発明家である、このような鬼才を登用できなかったこの国とは。

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    2018年09月11日
  • 魚影の群れ

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    「海の鼠」「蝸牛」「鵜」「魚影の群れ」の4篇の短篇集。

    実話に基づくらしい。
    筆者の綿密な取材により、ありありとその世界が伝わる。

    中でも、大量発生する鼠に苦慮する島の顛末を描いた「海の鼠」。自然現象にいかに人は無力か。島民の悲哀。そして、「鼠駆除」がもたらしたもの…。氏の筆致が秀逸。

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    2018年08月07日
  • 冬の鷹

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    『解体新書』といえば、杉田玄白。
    しかし、前野良沢という名前を聞いたことがある人は、少ないのではないか。
    自分もその1人だった。
    陽の杉田玄白と陰の前野良沢。
    このふたりがいたからこそ、『解体新書』が生まれた。
    それならば、何故、前野良沢は『解体新書』に名を残さなかったのか。
    頑固で潔癖なる性格ゆえか。
    頑固で潔癖。
    これが、良沢の人生を表している。
    オランダ語に人生を捧げた前野良沢と名声を得るために人生を捧げた杉田玄白の対比が如実に現れている。

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    2018年07月21日
  • 星への旅

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    「鉄橋」「少女架刑」「透明標本」「石の微笑」「星への旅」「白い道」の六篇。
    吉村昭氏の初期作品。「死」が色濃く表れている。
    表題作「星への旅」。名状しがたい読後感。

    個人的には、「少女架刑」「透明標本」が印象的。ある意味。対のようになっている。
    「少女架刑」は、吉村昭氏には珍しい、「私」という一人称の語り。また、物語る「少女」の視点も不思議で。そして、怖い。

    収録されている6つの短篇の登場人物たちは、“星への旅”になっていくのだろう。
    “星への旅”という言葉の響きは綺麗だが、表題作の「星への旅」は、テーマが重い。

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    2018年06月30日
  • 仮釈放

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    己の犯した罪に悔いは無いと思っている男。
    その男が、仮釈放で世に出てきたらどうなるのか。
    暖かい目で迎えられながらも、心の底では冷めた己がいる。
    男は、何を悔い、どう改悛すればいいのか分からないまま時だけが過ぎていく。
    己の犯した罪の大きさと己の心情の狭間で揺れ動くさまを吉村昭の大胆で繊細な筆致で重厚に描いていく。
    これは、間違いなく大名作である。

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    2018年06月27日
  • 新装版 赤い人

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    北海道開拓史の暗部。
    囚人による苛酷な強制労働の上に成り立つ。北海道開拓の一端を囚人達が担っていた。しかし、囚人達は国益のために使い捨ての労力として扱われていた。
    樺戸集治監の盛衰物語とも言える。
    ほんの少し昔の日本の暗部であり、史実でもある。
    それを多くの資料から掘り起こし、淡々とした筆致で描きる吉村昭氏。すごい。

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    2018年06月08日
  • 海の史劇

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    日本海海戦を描いた吉村昭の記録文学の傑作。

    日本海海戦と言えば司馬遼太郎の傑作小説「坂の上の雲」のクライマックスシーンとして有名である。
    私も手に汗握りながらあのシーンを読んだものである。
    それ以来日本海海戦には関心を抱いていたが、他にも同じテーマを扱った作品で良いものがあると聞いて本書にたどり着いた。

    非常に緻密な調査の上に成り立っている作品と感じた。
    これを読んでしまうと司馬さんの作品は、彼の評価している人物とそうでない人物の書き分けが極端で、小説としては面白くなるのだろうが、現実とは乖離してしまうの
    だろうなと思ってしまう。


    日本海海戦とは日本史だけではなく世界の海戦史においても

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    2018年05月04日
  • 新装版 間宮林蔵

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    間宮林蔵といえば、江戸時代、樺太を調査し、世界で初めて樺太が島であることを発見。その功績で「間宮海峡」という地名を後世に残した。というのが、教科書的説明。本小説でも、林蔵の樺太探検は詳細に描かれ、当時の乏しい装備で死を覚悟して赴く林蔵の覚悟が伝わってくる。

    しかし、間宮林蔵がアドベンチャーというのは彼の一面に過ぎない。彼の人生の真骨頂は樺太探検後、豊富な地理の知識と行動力が認められ、スパイや政治アドバイザーとして幕府に貢献したことだ。

    何よりも、林蔵は正義を重んじる。若き頃、日本領土にロシア人が侵入したとき、徹底抗戦を主張する。樺太探検のために異国のユーラシア大陸にまで足を踏み入れてしまっ

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    2018年05月11日
  • 逃亡

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    人間の弱さ、そして、作中ずっと続く、主人公が体験する恐怖と緊張感を、自分も味わう。

    太平洋戦争末期、主人公が犯したある犯罪が引き金となり…。

    一気に読んだ。

    終戦前後の空気感も背景として描かれている。

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    2018年04月24日
  • 冷い夏、熱い夏

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    作者と弟の熱い結びつきに心の底から熱いものが込み上げてきた。
    徐々に弟の体を蝕んでいく癌細胞。
    実際に体験した作者でないと描けない緊迫感。
    吉村昭は、弟の死をどう見つめたのか。
    魂を揺さぶられる傑作。

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    2018年04月02日
  • 敵討

    購入済み

    作品自体に不服はないが

    ふりがなが少ないので、なんて読むのかわからない人名がいっぱい出てきた。

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    2018年03月05日
  • 羆嵐

    ネタバレ 購入済み

    開拓地での惨劇

    入植間もない集落が、文字通り羆の餌食になった事件を扱っている。
    厳しい気候のもと農作物を育て、農閑期には出稼ぎをする。貧しさに耐えながら必死に生きようとする人々。
    集落の人達はもちろん、隣接集落の人達も羆のことを詳しく知らない。
    これは意外なことだった。


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    2018年02月14日
  • 零式戦闘機

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    吉村昭が書いた歴史文学の傑作の一つ。

    ゼロ戦(零式戦闘機)の誕生からその最後までを綴ることにより、太平洋戦争を描き出した傑作小説。
    恥ずかしい話だが、戦争末期のゼロ戦が無残に米軍の戦闘機や対空砲火に撃ち落とされていくイメージが強く、ゼロ戦もまた世界の水準に到達しえない兵器であり、そんな兵器で戦わされた将兵の悲哀のみ感じていた。

    しかし、この本で描かれていたゼロ戦は、私の思っていたものと全く違っていた。
    相反する要素を含んだ厳しい戦闘機の仕様に技術者堀越二郎が心血を注いで答えた結果生み出された航空機は、当時類を見ない長大な航続距離と速度そして優れた格闘戦能力を持った世界最強の戦闘機であった。

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    2018年01月13日