吉村昭のレビュー一覧

  • ふぉん・しいほるとの娘(下)

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    シーボルトが長崎出島で、遊女のお滝との間にお稲という子をもうけ、その子の話。
    シーボルトが鳴滝館で、外科を中心に医学を教えたこと、オランダ政府の命で、生徒を使い、日本の地理、学術等を調べたこと、シーボルトが江戸に呼ばれた際には更に詳しい情報を入手したことなど、知らなかったことばかり。
    シーボルトは、幕府に見つかり、国外退去となり、関係生徒も罰せられる。
    お稲は、あいの子であり普通の生活ができないこと、シーボルトへの憧れから、学問を目指すこととし、愛媛に行き、シーボルトの弟子の家に居候。
    そこで、産科医を目指すように言われて、決意し、基本的医学を身に付けた後は、大阪の産科医でシーボルトの弟子の家

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    2019年12月29日
  • 大本営が震えた日

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    「開戦」という、絶対的な時間指定がある巨大プロジェクトを進めるために、広大な領域に広がる巨大な組織の隅々に機密情報を行き渡らせるのは困難な課題だが、いくつか失敗はあったものの我が国がそういった力を持っていたのは、いまだに陰に埋もれたままの無数の英雄がいたからなのだろう。

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    2019年12月28日
  • 虹の翼

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    文明開化の波が到来した明治期の日本で、時代の先端を行く飛行器の原理を独力で探求し、実現まで残すは動力の問題というところまで辿り着いた二宮忠八の話。

    飛行器の研究開発を提案した上申書が陸軍に却下されなければ、ライト兄弟に先駆けて空を飛ぶことができたのか、想像は尽きない。ただ、もし研究開発を続けていれば、資金難や実験失敗による人命の損失などの不幸に見舞われることも十分あり得ただろうから、忠八がその後実業の世界で成功し、子供にも恵まれ、飛行器研究の先駆者として存命中に再評価もされたというのは、運命の綾というか、人生において何を幸せとするかについて考えさせられる。

    忠八は、現代に生まれていたとして

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    2019年12月27日
  • 漂流

    ネタバレ 購入済み

    「創作する遺伝子」小島秀夫推薦

    断崖絶壁の木も生えない火山島で12年余りを過ごし、無事生還した人の記録を掘り起こした素晴らしい作品です。火打ち石が無く、火も起こせない、穀物も植物も取れない、ナイナイづくしの中で生きるすべを編み出し、一人になっても生きる気力を保つ前半部と、後半の帰還への努力と苦悩が深く胸を打ちます。色々なものがありすぎて、すぐに手に入るこの時代にこそお勧めです。

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    2019年12月21日
  • ポーツマスの旗

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    日露戦争終結に向け、小村寿太郎はポーツマス講和会議に臨みます。
    講話を成立させるために、ロシア側全権ウイッテとの交渉、駆け引きの末に劇的な講和を成立させます。
    日本人は交渉下手とよくいわれますが、小村寿太郎の交渉をみると、決してそうとはいえません。
    国民の憤懣を呼びますが、日本のために、平和のために、名利を求めず交渉妥結に生命をかけた外相小村寿太郎の物語です。
    感動しました!

    小村は、欧米殊にヨーロッパ各国の外交に長い歴史の重みを感じていた。国境を接するそれらの国々では、常に外交は戦争と表裏一体の関係にある。外交が戦争の回避に功を奏したこともあれば、逆に多くの人々に血を流させたことも数知れな

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    2019年10月09日
  • 夜明けの雷鳴 医師 高松凌雲

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    19世紀のパリ万博に派遣された医師、高松凌雲
    オランダで海軍学を学び帰還した榎本武揚
    英国に留学し、その後開拓使に働いた村橋久成
    新政府軍を指揮した黒田清隆

    明治期の激動の時代を生きた人々のものがたり

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    2019年09月24日
  • 虹の翼

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    ライト兄弟が、世界で初めて飛行機を飛ばした十数年前の明治期の日本。
    そこに、"飛行器"研究に生命を賭けた男がいた。
    男の名は、二宮忠八。
    ひたすらに、空を飛ぶことに憧れ、懸命に駆け抜けた人生。
    自分が夢見た、空飛ぶ器械。
    忠八が今の時代に生きていたら、どんなことを思うのだろうか。

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    2019年09月20日
  • 冬の鷹

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    オランダ語で書かれた『ターヘル・アナトミア』を翻訳した前野良沢・杉田玄白、彼らの作業過程とその後の人生を詳細に描き出した作品。
    教科書などでは、この二人がほぼ同列の訳者として記載されているけれど、事実は前野良沢が苦心して翻訳したものを、杉田玄白が整理し文献の形に整えたという風に役割分担がなされていた。
    学究肌の良沢は訳を終え、『解体新書』として発行する話を、それはまだ不完全であるからとして喜ばなかった。そのため、『解体新書』の訳者として自分の名を載せるのを禁じた。
    そのこともあって、世間の評判は玄白にのみ集中し、彼は八十を超えて大往生を迎えるまで栄華の中にあった。一方の良沢は、傑出したオランダ

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    2019年09月17日
  • 陸奥爆沈

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    昭和十八年六月八日、戦艦陸奥爆沈。
    死者、千百二十一名。
    筆者の努力により、次々に明らかになる謎。
    果たして、ひとりの軍人による行為で、一隻の戦艦が瞬時に沈没したのだろうか。
    今も残る謎。
    証拠は、塵となって消えてしまった。

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    2019年08月10日
  • ポーツマスの旗

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    外交は当初から落としどころを決めて始める。

    最近の米国やEU、その他日韓関係などの緊張具合の現在進行形を体感する限り、その様子は見えない。

    この書籍当時の時代の外相は、胆が太い。
    いい意味で官僚じゃないからなのと、個人が日本を背負っていたんだろうと思う。
    日本を守ろうとするんじゃない。
    日本を創ろうと、救おうとする気概が、ただただ、そうさせてたのかも。

    「日本人は金銭よりも名誉を尊ぶ」

    講和成立時、小村寿太郎の言葉は重い。

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    2019年08月01日
  • ニコライ遭難

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    1891年来日したロシアの皇太子ニコライを、巡査の津田がサーベルで頭を切りつけた大津事件。事件より前のニコライの日本での過ごし方や、事件後の政府高官たちが、津田を死刑にしようと暗躍する様を描くドキュメント小説。

    とっても面白かった。

    ニコライが来る時に流れたデマが、実は西郷隆盛が生きていて西郷がやって来るのだというのが面白い。ロシアで西郷を見かけたという噂が流れたそうだ。西郷に帰ってきてもらっては困るので、ニコライ(=西郷?)をやっつけなくてはならないと考える輩がいるので、警戒が厳重になったとか。

    ニコライは日本滞在を大いに楽しんだそうでその辺も面白い。

    最大の読みどころは、松方首相や

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    2019年07月20日
  • 蚤と爆弾

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    細菌兵器を完成させるための、捕虜に対する人体実験。
    戦時下という、特殊な状況が生み出した術なのか。
    戦争というものは、ここまでしないといけないのか。
    平和な時代に生まれた、自分たちには想像すらできない。
    平和な時代に生まれたことを感謝しなければならない。

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    2019年06月22日
  • 新装版 赤い人

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    明治維新直後の日本。不平士族の反乱や政府部内での対立などで刑務所に収監される囚人が急増。その需要に応えるため、政府は新たな収監所として、北海道に目を向ける。厳寒の地での収監は刑罰としては適しているし、北海道開拓の労働者としても期待できる。囚人の人権なんて考える必要のない時代、政府は容赦なく囚人を北海道へ送り込む。

    囚人たちは番号のついた赤い服を着せられ、移送される。たどり着いた北海道で待ち受けるのは防寒対策が不十分な獄舎と粗末な食料、過酷な労働。使い捨ての開拓員としてこき使われた囚人のほとんどは凍傷に悩まされ、亡くなる者、脱獄する者が後を絶たない。

    第2次大戦後のソ連によるシベリア抑留に似

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    2019年05月19日
  • アメリカ彦蔵

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    襟を正される
    という言葉がしっくりくる

    吉村昭さんの「作品」を手に取るたびに
    思わせられる言葉です。

    播磨の地に暮らす者ですが
    ジョセフ・ヒコの名を出したときに
    おぉー その方は…
    と 話のやりとりができる機会は
    残念なことに あまりない

    だから
    はい! あの「新聞の父」と呼ばれた…
    の方と出逢ってしまったときの 歓び

    何回目かの再再読ですが
    読むたびに 新鮮な気持ちにさせられてしまう
    その筆力に脱帽です

    近いうちに 播磨町の郷土資料館の
    彦蔵氏の写真に逢ってこよう

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    2019年05月04日
  • 新装版 赤い人

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    北海度の発展と囚人たち。淡々と語られるその内容は初めて知るものばかり。歴史とは…学校では習わない歴史の存在を痛感した。

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    2019年04月19日
  • 大黒屋光太夫(上)

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    ネタバレ

    「凄まじい」の一言。江戸中期に紀州から江戸を目指した商船が暴風雨に巻き込まれ、アリューシャン列島まで漂流した後、ロシア人に助けられる。その後、帰国の願いを訴え続けるが、鎖国下の日本との交渉役に仕立てたいロシアとしてはなかなか許さない。時の女王エカテリナの許しを得てようやく帰国したのは、紀州を出発してから10年の歳月が経ち、17名の船員のうち、帰国できたのは3名だった。航海技術も海図も不十分、海外に出るなんて夢にも思わない、言語も慣習も何も情報がない、栄養状態も医療技術も現代とは全く異なる状況で、10年間も帰国の望みを持ち続け、ロシア人と日本人の双方から賞賛される態度をとり続けた主人公に大きな感

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    2019年04月14日
  • 仮釈放

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     殺人を犯し無期刑をいい渡された元高校教師が、服役成績が優秀であるとして仮釈放されるものの社会に溶け込めず、戸惑いと苦しみを抱えながら生きていく姿を描く。この小説はネタバレ厳禁だと思うので詳しく書きませんが、最後の数ページは驚くような苦い展開でした。小さなメダカの命を大事にする男が、どうしてこんなことになってしまうのだろうか。

     小説家というものは想像力が豊かで、なかには頭の中だけで組み立てたことを自由に書いていける人がいるのかもしれません。しかし、想像力だけで書かれた小説はどうしても薄っぺらなものになるような気がします。それに比べて吉村昭の作品は、どれもどっしりとしていて堅牢です。この小説

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    2019年04月04日
  • 東京の戦争

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    戦中戦後に、吉村昭氏が目にしたり聞いたりした、生死にかかわるものすごいことどもが、驚くほどたんたんと書かれている。氏の他の作品と同様、読み終わるのが惜しい。深く味わいたくて、何度も同じところを読んでいる。ゆっくりと、よく噛みしめたい。

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    2019年04月04日
  • 天に遊ぶ

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    一編がわずか8ページほど。10分で読める短いお話ばかり。どれもたいへん興味深く、強く胸に迫り、何とも言えない、しみじみとした気持ちが残る。

    明治時代の大津事件の犯人の子孫を取材したときの、こぼれ話。とても興味深く読み、さいごは涙がこぼれた。

    作家の葬式にあらわれる香典泥棒ばあさんの話。ちょっとホッとする。

    著者の遠い親戚を襲った過去の悲劇。哀れでしみじみ。

    下町の近所のひとびとの思い出。

    犬と人間の絆。生命の重さ。

    妻子を捨てて年上の女に走った、作家志望の男の末路。

    などなど、多種多様な人びとの、生々しい人生模様にお腹いっぱい、胸もいっぱいになった。

    フィクションの体裁だけれ

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    2019年03月05日
  • 新装版 赤い人

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    明治以降の北海道開発は囚人が担った歴史の事実を記録する
    明治14年月形に樺戸集治監を作り、北海道開拓の労役に囚人を利用 コストのかからない労働力確保と、北海道開拓の早期実現
    当初の農業開墾から始まり、基幹道路の開削、石炭・硫黄の鉱物資源を掘出しなど、人間扱いされない労働力として消耗
    囚人の絶望と多数の死、そして脱走・恩赦などのドラマが織りなされた
    国家が危機に有るとき、国家権力がどれだけ暴力的になるのか、吉村昭氏は丁寧に描いている
    一人一人の囚人のドラマで有るとともに、明治の時代における国家存亡の危機という歴史も見事に描いている
    司馬遼太郎氏の坂の上の雲とは異なる影の部分にスポットを当てており

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    2019年02月08日