吉村昭のレビュー一覧
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シーボルトが長崎出島で、遊女のお滝との間にお稲という子をもうけ、その子の話。
シーボルトが鳴滝館で、外科を中心に医学を教えたこと、オランダ政府の命で、生徒を使い、日本の地理、学術等を調べたこと、シーボルトが江戸に呼ばれた際には更に詳しい情報を入手したことなど、知らなかったことばかり。
シーボルトは、幕府に見つかり、国外退去となり、関係生徒も罰せられる。
お稲は、あいの子であり普通の生活ができないこと、シーボルトへの憧れから、学問を目指すこととし、愛媛に行き、シーボルトの弟子の家に居候。
そこで、産科医を目指すように言われて、決意し、基本的医学を身に付けた後は、大阪の産科医でシーボルトの弟子の家 -
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文明開化の波が到来した明治期の日本で、時代の先端を行く飛行器の原理を独力で探求し、実現まで残すは動力の問題というところまで辿り着いた二宮忠八の話。
飛行器の研究開発を提案した上申書が陸軍に却下されなければ、ライト兄弟に先駆けて空を飛ぶことができたのか、想像は尽きない。ただ、もし研究開発を続けていれば、資金難や実験失敗による人命の損失などの不幸に見舞われることも十分あり得ただろうから、忠八がその後実業の世界で成功し、子供にも恵まれ、飛行器研究の先駆者として存命中に再評価もされたというのは、運命の綾というか、人生において何を幸せとするかについて考えさせられる。
忠八は、現代に生まれていたとして -
ネタバレ 購入済み
「創作する遺伝子」小島秀夫推薦
断崖絶壁の木も生えない火山島で12年余りを過ごし、無事生還した人の記録を掘り起こした素晴らしい作品です。火打ち石が無く、火も起こせない、穀物も植物も取れない、ナイナイづくしの中で生きるすべを編み出し、一人になっても生きる気力を保つ前半部と、後半の帰還への努力と苦悩が深く胸を打ちます。色々なものがありすぎて、すぐに手に入るこの時代にこそお勧めです。
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日露戦争終結に向け、小村寿太郎はポーツマス講和会議に臨みます。
講話を成立させるために、ロシア側全権ウイッテとの交渉、駆け引きの末に劇的な講和を成立させます。
日本人は交渉下手とよくいわれますが、小村寿太郎の交渉をみると、決してそうとはいえません。
国民の憤懣を呼びますが、日本のために、平和のために、名利を求めず交渉妥結に生命をかけた外相小村寿太郎の物語です。
感動しました!
小村は、欧米殊にヨーロッパ各国の外交に長い歴史の重みを感じていた。国境を接するそれらの国々では、常に外交は戦争と表裏一体の関係にある。外交が戦争の回避に功を奏したこともあれば、逆に多くの人々に血を流させたことも数知れな -
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オランダ語で書かれた『ターヘル・アナトミア』を翻訳した前野良沢・杉田玄白、彼らの作業過程とその後の人生を詳細に描き出した作品。
教科書などでは、この二人がほぼ同列の訳者として記載されているけれど、事実は前野良沢が苦心して翻訳したものを、杉田玄白が整理し文献の形に整えたという風に役割分担がなされていた。
学究肌の良沢は訳を終え、『解体新書』として発行する話を、それはまだ不完全であるからとして喜ばなかった。そのため、『解体新書』の訳者として自分の名を載せるのを禁じた。
そのこともあって、世間の評判は玄白にのみ集中し、彼は八十を超えて大往生を迎えるまで栄華の中にあった。一方の良沢は、傑出したオランダ -
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1891年来日したロシアの皇太子ニコライを、巡査の津田がサーベルで頭を切りつけた大津事件。事件より前のニコライの日本での過ごし方や、事件後の政府高官たちが、津田を死刑にしようと暗躍する様を描くドキュメント小説。
とっても面白かった。
ニコライが来る時に流れたデマが、実は西郷隆盛が生きていて西郷がやって来るのだというのが面白い。ロシアで西郷を見かけたという噂が流れたそうだ。西郷に帰ってきてもらっては困るので、ニコライ(=西郷?)をやっつけなくてはならないと考える輩がいるので、警戒が厳重になったとか。
ニコライは日本滞在を大いに楽しんだそうでその辺も面白い。
最大の読みどころは、松方首相や -
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明治維新直後の日本。不平士族の反乱や政府部内での対立などで刑務所に収監される囚人が急増。その需要に応えるため、政府は新たな収監所として、北海道に目を向ける。厳寒の地での収監は刑罰としては適しているし、北海道開拓の労働者としても期待できる。囚人の人権なんて考える必要のない時代、政府は容赦なく囚人を北海道へ送り込む。
囚人たちは番号のついた赤い服を着せられ、移送される。たどり着いた北海道で待ち受けるのは防寒対策が不十分な獄舎と粗末な食料、過酷な労働。使い捨ての開拓員としてこき使われた囚人のほとんどは凍傷に悩まされ、亡くなる者、脱獄する者が後を絶たない。
第2次大戦後のソ連によるシベリア抑留に似 -
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ネタバレ「凄まじい」の一言。江戸中期に紀州から江戸を目指した商船が暴風雨に巻き込まれ、アリューシャン列島まで漂流した後、ロシア人に助けられる。その後、帰国の願いを訴え続けるが、鎖国下の日本との交渉役に仕立てたいロシアとしてはなかなか許さない。時の女王エカテリナの許しを得てようやく帰国したのは、紀州を出発してから10年の歳月が経ち、17名の船員のうち、帰国できたのは3名だった。航海技術も海図も不十分、海外に出るなんて夢にも思わない、言語も慣習も何も情報がない、栄養状態も医療技術も現代とは全く異なる状況で、10年間も帰国の望みを持ち続け、ロシア人と日本人の双方から賞賛される態度をとり続けた主人公に大きな感
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殺人を犯し無期刑をいい渡された元高校教師が、服役成績が優秀であるとして仮釈放されるものの社会に溶け込めず、戸惑いと苦しみを抱えながら生きていく姿を描く。この小説はネタバレ厳禁だと思うので詳しく書きませんが、最後の数ページは驚くような苦い展開でした。小さなメダカの命を大事にする男が、どうしてこんなことになってしまうのだろうか。
小説家というものは想像力が豊かで、なかには頭の中だけで組み立てたことを自由に書いていける人がいるのかもしれません。しかし、想像力だけで書かれた小説はどうしても薄っぺらなものになるような気がします。それに比べて吉村昭の作品は、どれもどっしりとしていて堅牢です。この小説 -
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一編がわずか8ページほど。10分で読める短いお話ばかり。どれもたいへん興味深く、強く胸に迫り、何とも言えない、しみじみとした気持ちが残る。
明治時代の大津事件の犯人の子孫を取材したときの、こぼれ話。とても興味深く読み、さいごは涙がこぼれた。
作家の葬式にあらわれる香典泥棒ばあさんの話。ちょっとホッとする。
著者の遠い親戚を襲った過去の悲劇。哀れでしみじみ。
下町の近所のひとびとの思い出。
犬と人間の絆。生命の重さ。
妻子を捨てて年上の女に走った、作家志望の男の末路。
などなど、多種多様な人びとの、生々しい人生模様にお腹いっぱい、胸もいっぱいになった。
フィクションの体裁だけれ -
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明治以降の北海道開発は囚人が担った歴史の事実を記録する
明治14年月形に樺戸集治監を作り、北海道開拓の労役に囚人を利用 コストのかからない労働力確保と、北海道開拓の早期実現
当初の農業開墾から始まり、基幹道路の開削、石炭・硫黄の鉱物資源を掘出しなど、人間扱いされない労働力として消耗
囚人の絶望と多数の死、そして脱走・恩赦などのドラマが織りなされた
国家が危機に有るとき、国家権力がどれだけ暴力的になるのか、吉村昭氏は丁寧に描いている
一人一人の囚人のドラマで有るとともに、明治の時代における国家存亡の危機という歴史も見事に描いている
司馬遼太郎氏の坂の上の雲とは異なる影の部分にスポットを当てており