吉村昭のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
巣鴨プリズンの一刑務官の評伝のように読めましたが、後書きで主人公が架空の人物と知る。
この小説は、戦争責任の所在を問うものではありません。
また、戦勝国や敗戦国の善悪を論じるものでもない。
戦争という途方もないうねりの結果、戦犯という重苦しい処遇を背負った人々に対し、
ほんの灯火に過ぎずとも、人道的なあたたかさに全力を尽くした人間たちの記録を集め、淡々とつづっている。
(もちろん、戦中の日本上層部の行動を肯定している…という意味ではないですよ)
人によっては、地味で退屈する筆致と感じるかもしれません。
けれど、あの戦争はこうだったと簡単に論じる本より、遥かに誠実です。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ・あらすじ
昭和8年に青森県で起こった強盗致死事件の犯人として逮捕され無期刑判決を受けた佐久間清太郎は昭和11年、昭和17年、昭和19年、昭和22年と脱獄を繰り返す。
4箇所の刑務所を脱獄した佐久間の執念と、戦中戦後の混乱期の世相や治安維持に努めた執行機関の取り組みなどを描く。
・感想
読む前は主人公である佐久間がどうやって刑務所を脱獄したのか、という方法論やその執念がどこから来るのか?などの佐久間の人となりに焦点にあてた作品だと思ってた。
でも実際は、佐久間という脱獄犯を通して戦中戦後の日本の
移り変わりを描いた社会派作品だった。
そうだよね、吉村先生だもんね。
戦中の刑務所や警察組織が -
Posted by ブクログ
ネタバレ熊の被害が毎日のようにニュースで流れていますが、過去(大正時代)にこんな凄惨な事件があったことも知らなかったです。だいたい知り合いに、ツキノワグマと羆では大きさがぜんぜん違うというのを教わりました。知らない事ってたくさんあります。
羆に村の者たち6人も殺され、特に女の人の人肉がうまいと知るや、女の人だけ狙い男は殺されるだけ。村の者たちが集まっても、銃は5丁しかない。羆を見つけても、銃からは弾が出ず不整備が露見。
もう、逃げるしかなく、警察に依頼さそ、他の村の者たちも羆刈りに参加する。
しかし、囮の遺体を見て戦意喪失する者も多く、軍隊への救援要請をすることに。
薪が崩れ落ちただけでも、皆先を競っ -
Posted by ブクログ
実話に基づく吉村昭の小説。
大正4年12月、北海道苫前郡三毛別六線沢。
開拓民の家に押し入り、女子どもを襲った一頭の羆。人間は食べないと思い込んでいた村人達を震撼とさせる。
羆と人間の闘い。当初は簡単に仕留められると甘い考えだった人々が、犠牲者を見てその威力にビビり始める。数でかかっても無駄。銃すらも技術が無ければ意味を為さない。そんな中、羆は次の獲物を狙いに来る…。
羆が家に押し入り人間を貪り食う場面が生々しい。文字から音や匂いが感じられ恐ろしさが増す。女はほとんど何も残らず全て持ち去られ、食べられてしまっている。(ヤメテ〜。酷すぎる)一度、人間の味を知ってしまったら、後戻りできない。この