吉村昭のレビュー一覧
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吉村昭『歴史の街を歩く』河出文庫。
記録文学の第一人者として知られる吉村昭のエッセイ集。
取材旅行や家族旅行、プライベートな旅行で日本各地を訪れた際の話や他の作家との交流などが描いている。巻末には妻の津村節子との夫婦対談も収録されている。
吉村昭の作品との最初の出会いは高校時代だったと思う。大学受験を間近に控えた時期に北大路欣也主演の映画『漂流』の試写会に行き、その後、原作を読んだのが最初である。
その後、『三陸海岸大津波』や『羆嵐』、『破獄』など有名な記録文学は片っ端から読み、小説なども度々読んで来た。数年前に短編集の『遠い幻影』に収録されていた『梅の蕾』を読み、物凄く感動した。
さて本作。最初のエッセイからして面白かった。ある日、吉村昭が自宅近くの吉祥寺の料理屋で、板前と会話するうちに、その板前が吉村が少年時代に度々訪れた伊豆半島の船宿の次男であることを知る。そのことが切っ掛けで吉村は伊豆半島の思い出の地を旅するのだ。
また、夏になると吉村は家族と三陸海岸の田野畑村を旅行していたようだ。田野畑村が舞台となった『梅の蕾』という短編小説は日本人の忘れてしまった心の温かさを教えてくれる感動の傑作である。また、三陸海岸を舞台にした『三陸海岸大津波』という記録文学の傑作も忘れてはならない。
吉村はこの作品の中で北海道の苫前に伝わる『くま獅子』についても紹介している。かつて、苫前では世界でも類を見ない日本最大の羆害事件である『三毛別羆事件』が起きており、『くま獅子』はその事件を素材としているとのことだ。言わずもがな、この事件を題材にした『羆嵐』という記録文学の傑作も忘れてはならない。
定価1,100円
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ネタバレ・あらすじ
吉村昭初期短編集。
・感想
冒頭の「鋏」と最後の「雪」が特によかったなー。
特に「鋏」はこの作品を読めただけでこの本買ってよかったって思ったレベル。
太宰治の女子独白作品を踏襲したと思われる表彰状には意外性があった。
吉村先生もこういう作品書かれてたんだなー。
でも正直やはりこの分野?では太宰には敵わないな、と思ったり。
あの年頃の女子の過剰で「肥大した自意識と傲慢さ、そして繊細さの描写はやっぱ太宰がずば抜けてるもんね。
勘違いして入水なんてやりきれない最期だ。
雪は、執筆時に20代だったとは思えない作品。
最後が微笑ましくてとてもよかった。
表題作の「死まで」は養母の汚らしい描写が読んでてきつかった。
そりゃ奥さんもあんなのと同じ屋根の下四六時中一緒に暮らしてたら精神病むわ。
不倫してる男たちの話が多いんだけど、年代的にも時代的にも仕方ないよな…と思いながら読むしかないw -
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【2026年96冊目】
北海道の開拓民を襲った悲劇の実話を小説化。1915年、北海道苫前郡苫前村三毛別六線沢に住む開拓民を襲った一頭の羆。体長2mを越えたそれは、延べ6名の開拓民を死に至らしめ、3名に重症を負わせた。わずか二夜にして起こった悲劇に、開拓民たちは恐れ慄き、一人の熊撃ちに命運を託すことになるが…。
友人に勧められていたので、読もう読もうと思いつつ先延ばしして、ようやく手に取った一冊でした。熊騒動、最近は収まってきたように思いますが、こっわいですねぇ。羆の生態についても書かれてるんですが、想像しているよりもずっと知能が高いことがわかります。「戻り足」なんか使われたら勝てないでしょ。そして女の味を知った羆は…のところの恐ろしさ。実話なんですから、本当に震え上がりそうなほどの怖さです。
熊からしてみれば、餌が縄張りに入ってきていたようなものですから、100%熊が悪いとは言えないのかもしれませんが、言葉の通じない獣と対峙する怖さをまざまざと感じさせる一冊であることは間違いありません。
そういえば熊園から脱走した熊も、土を集めて壁をよじ登れるようにしたとかじゃなかったでしたっけ。獣だって、侮ってはいけない存在です。また今後も熊の話題は出てくるでしょうから、一度は読んでみるのが良い一冊なんじゃないでしょうか。
余談ですが、先日北海道の猟師の方からもらった熊肉を食べる機会がありました。鉄板で焼いて塩コショウでいただいたんですが、めちゃくちゃ美味しかった。また食べたいと思ったほどなので、食に対する欲求は獣も人間も変わりゃしないですね。 -
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ネタバレ記録文学という分野は珍しく、私も初めてで。事実に基づいて客観的に綴るから読みやすいけれど、ここにいちいち登場人物の心理が描写されていたら辛くて読めなかったかも知れないと思った作品でした。
藤平目線で書かれているけれど、神目線を勘違いしてしまいそうなほどに淡々と、様々な現場トラブルが語られ、バラバラになった遺体を血まみれになって運ぶ根津の姿、下山後、繋ぎ合わせる様子は藤平同様、胸にぐっと来ました。
最高温度166度という高熱地帯で行う過酷な工事。
熱と疲労感に抗いながら隧道を掘るその情熱と執念は一体どこから滲み出るのか。
更には大自然の脅威に翻弄され続け、中止を言い渡されながらも、真っ直ぐに完遂を目指す。
ラストシーンはさらっと締めている印象だったが、人夫たちの暴発寸前の殺気に、震えを感じてしまった。
人夫頭の「急いで現場を離れろ」という指示。その目に宿る昏い憎しみの光。
独特な敗北感ともに、口を噤み、軌道トンネルを下り続ける藤平たち。
やりきれない思いが残った。
狂ってしまった千早の人生。同期をそんな形で失くした成田。
常に精神も肉体も極限状態の人間のストーリーを、息も絶え絶えに読ませて頂いた感じがした。
面白かった。 -
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本日は、吉村昭文学忌、悠遠忌(ゆうえんき)。
“はるか遠く果てしない”そんな壮大な言葉は、吉村氏が自ら選び、墓石に刻まれたものだそうです。
『羆嵐』は1976年、『小説新潮』に一年間連載され、翌年単行本として刊行されました。
舞台は大正4年、北海道・天塩山地の麓にある開拓村。実際に起きた熊による村人殺傷事件をもとに、吉村昭が取材を重ねて描き上げた記録文学です。
日本各地で熊による被害が相次いだ昨今。人と自然が衝突したその時を、再び読もうという選書でしょうか。
貧しい開拓村へ、冬眠をし損ねた一頭の羆が突然現れました。
子どもと女性が襲われ、女の味を覚えた羆は、その匂いを求めるように村々を渡り歩きます。残された遺体はあまりにも凄惨で、村人だけの力では太刀打ちできません。区長は報奨金を用意し、熊を撃てる男を探します。一方、警察の呼びかけで二百名もの討伐隊が組織されますが、その多くは熊の習性を知らず、統率も十分ではありませんでした。
物語の視線は、この開拓村を預かる区長に置かれています。住民の命を守らなければならないという責任感が、作品全体に緊張感を与えています。そして、最後に羆を仕留めた猟師は、熊の習性を熟知しているだけでなく、討ち取った後の山の仕来たりまでをも厳格に守ります。その姿には、自然への畏敬を思います。
現在も各地で熊による被害が報じられていますが、本作を読むと、その報道の向こう側にある現実を思わずにはいられません。実際にその地で暮らし、命を脅かされなければ理解できない恐怖があり、そこには「共存」という言葉だけでは語れない現実があります。
吉村昭の文章は終始感情を抑制しています。しかし、その静かな筆致に 自然の脅威と、それに対する人間の畏れや敬意が、かえって鮮明に伝わってきました。 -
Posted by ブクログ
本作は、日中戦争の遂行に必要な電力を賄うという軍需目的のもと、黒部第三発電所の建設に挑んだ人々を描いたノンフィクションである。
最初、私は『高熱隧道』というタイトルだけでは一体何が高熱なのか分からなかった。「隧道(ずいどう)」という漢字自体、何と読めばよいのかさえ知らなかった。それが「トンネル」を意味すると知っても、なお「高熱のトンネル」という存在が結びつかず、想像すらできなかった。しかし、読み進めるうちに驚かされた。わが国には、岩盤温度が160℃を超える「高熱断層」なるものが存在していたのだ。本作は、世界でも稀有な温泉湧出地帯にトンネルを穿(うが)つ、壮絶な記録である。
万が一の非常事態にもすぐには助けを求められない山奥の秘境。そんな過酷な環境のなかで、人夫たちは灼熱の地盤と対峙し、悪戦苦闘しながら掘り進めていく。最終的な工事による死者数は300名を超えたという。
特に印象的だったのは、人夫たちの宿舎が消滅する場面だ。どこかファンタジー小説(例えば上橋菜穂子の「守り人」シリーズ)を読んでいるかのような非現実感を覚えたが、これが実際に起きた出来事だというから恐ろしい。宿舎という巨大な建物を約600メートルも吹き飛ばす「泡雪崩(ほうなだれ)」の威力は凄まじく、現代でもこのような災害が発生しうるのだろうかと、自然の脅威に戦慄を禁じ得なかった。