吉村昭のレビュー一覧
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吉村昭は信頼している作家であり好きな作家の一人である。
本作も期待を裏切らなかった。
記録文学というらしいが、かなり綿密に調べてあり、フィクションというよりほぼノンフィクションの趣である。
武蔵が完成するまでが作品のおよそ七割を占め、残りの三割が実際の戦争での記録になる。この配分がポイントの一つであり、武蔵の完成までは正に「プロジェクトX」の趣きである。日本人の一つのことに取り組む粘り強さと緻密さがよく描かれ、職工たちの平均的な質の高さがよく分かる。
実際の戦争に投入されてからは、割とあっさり書かれている。
海軍上層部が船の諸元性能の情報が漏れるのを恐れるあまり、船を戦闘に積極的には投 -
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黒部第三発電所の建設に伴う隧道(トンネル)工事の記録文学。建設当時は日中戦争から第二次世界大戦へと突き進んでおり、阪神地区の軍需利用のためにもトンネル貫通は国策であったと思う。
人を寄せ付けない黒部峡谷の厳しい自然との戦い、最高温度166度の高熱岩盤との戦い、工事監督者と労働者との戦いなど読者のすぐそばで人夫の息遣いや発破の爆発音などが聞こえてくるような臨場感がある。余談だが、先日入ったサウナは85度。ただ座っているだけで5分と持たなかった。この倍の温度で隧道工事に当たった人夫たちは筆舌に尽くし難い環境下だっただろう。私たちは多くの犠牲者、人夫たちの尽力の元、今の豊かな暮らしがあることを忘れ -
Posted by ブクログ
今では空気のように当たり前の存在となっている電力が、自然との格闘の末、築き上げられたものであることを記した記録文学。
170℃近い岩盤温度により自然発火するダイナマイトや泡雪崩など、想像をはるかに超える自然現象との死闘と、そこに当たり前のように払われる人命の犠牲によって、管理者側と労働者側の間に生み出される不協和の描写にリアリティがあり印象的だった。
黒部の太陽の映画も見てみたが、上のような感情の機微が描かれている本作に対して、大味で淡々とストーリーが進むだけであり、長い割にはあまり楽しめなかった。
黒部の太陽の原作小説や、吉村昭の他の作品も読んでみたい。
また、黒部ダムは、立山に登山 -
Posted by ブクログ
2025年7月21日、マツコの知らない世界の「ひんやり楽しい!観光トンネルの世界」にて。「富山県/黒部宇奈月キャニオンルート」が開通したばかりとのことで番組内で紹介されて。ゲスト?のおじさんが「吉村昭さんの小説にも書かれてましたけど、岩盤温度が160度ということで〜」と言ってた。
ゲスト?おじさん「実際、窓を開けてみると、かるく40度くらいあるんですよ。2つの火山の下にあるので、いまも非常にたいへんなところですし、もちろん工事はたぶん日本の土木史上、最大の難工事だったと思います」
テロップ《日本の土木工事史に残る難工事といわれる》
こんなにレビュー多くて高評価とは。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ・あらすじ
江戸時代末期、福井藩で町医者をしていた笠原良策が天然痘撲滅のために生涯を賭けて奮闘する話。
・感想
人間の性質ってのはやっぱりそんなに変化しないものなんだなと思った。
未知に対する恐怖心は動物であるなら当然持っている生存に必要な能力ではあるので、それがいい方向に行く時もあればそうじゃない時もある。
己の立場や既得権益を守りたい権力争いなんかも「あるあるだなー」と思って読んでた。
私財を投げ打ち自分の全てを賭けて天然痘撲滅のために尽力した笠原先生はとても尊敬する。
でも11月に雪山を超えて福井に帰るくだりは、おそらく作中で1番過酷でドラマッチくな部分だろうとは思うんだけど、個人的