吉村昭のレビュー一覧

  • 戦艦武蔵

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    吉村昭は信頼している作家であり好きな作家の一人である。
    本作も期待を裏切らなかった。

    記録文学というらしいが、かなり綿密に調べてあり、フィクションというよりほぼノンフィクションの趣である。

    武蔵が完成するまでが作品のおよそ七割を占め、残りの三割が実際の戦争での記録になる。この配分がポイントの一つであり、武蔵の完成までは正に「プロジェクトX」の趣きである。日本人の一つのことに取り組む粘り強さと緻密さがよく描かれ、職工たちの平均的な質の高さがよく分かる。

    実際の戦争に投入されてからは、割とあっさり書かれている。

    海軍上層部が船の諸元性能の情報が漏れるのを恐れるあまり、船を戦闘に積極的には投

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    2025年08月24日
  • 高熱隧道

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    黒部第三発電所の建設に伴う隧道(トンネル)工事の記録文学。建設当時は日中戦争から第二次世界大戦へと突き進んでおり、阪神地区の軍需利用のためにもトンネル貫通は国策であったと思う。

    人を寄せ付けない黒部峡谷の厳しい自然との戦い、最高温度166度の高熱岩盤との戦い、工事監督者と労働者との戦いなど読者のすぐそばで人夫の息遣いや発破の爆発音などが聞こえてくるような臨場感がある。余談だが、先日入ったサウナは85度。ただ座っているだけで5分と持たなかった。この倍の温度で隧道工事に当たった人夫たちは筆舌に尽くし難い環境下だっただろう。私たちは多くの犠牲者、人夫たちの尽力の元、今の豊かな暮らしがあることを忘れ

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    2025年08月17日
  • 羆嵐

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    北海道開墾時代の命をかけた日々の厳しい生活が丁寧な筆致で描写されている。大正時代より熊と日本人がどのように対峙してきたか、自然に犠牲を払いながら、厳しい日常を送る人々の生き様に多くの気付きがあった。

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    2025年08月13日
  • ポーツマスの旗

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    明治38年。大西洋に面する港町。海軍工廠で開催された調停会議。全権を委任されたのは「ねずみ公使」と呼ばれた小柄な人物。財政難で継続できない戦争。講和するのが絶対条件の中、弱味を悟られずに交渉する。12か条の要求に対し合意された骨子は6つ。賠償金がとれないのは予定通り。樺太南半分が割譲されたのは大きな成果。だが、苦境を隠されていた国民の不満は膨らみ、日比谷での焼き討ちを招く。誠実さを貫くしかなかった当時の指導者たち。この後、日本は勢力拡張を図り、大戦の悲劇を招く。因があって果になる。その時があり、今がある。

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    2025年08月02日
  • 殉国 陸軍二等兵比嘉真一

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    辛い、只々辛い…。先ず開始一頁目から泣いてしまう。年端も行かない子供達が戦士として
    お国の為に役に立ちたいと泣いてるんですよ。名誉ある死とか犬死は嫌だとか言ってるんですよ…。これを辛いと言わずに何を辛いと言うのか。

    現地での悲惨さ、惨さの描写もさる事ながら段々と死について何も感じなくなる事や、真一が最後まで
    軍国主義である事も辛かったです。戦争は何も生まない…悲惨しかない。

    当時何があったのか、凄惨だが語り継がねばならない出来事。それを知る事の出来る貴重な一冊だと思います。

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    2025年08月01日
  • 高熱隧道

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    今では空気のように当たり前の存在となっている電力が、自然との格闘の末、築き上げられたものであることを記した記録文学。

    170℃近い岩盤温度により自然発火するダイナマイトや泡雪崩など、想像をはるかに超える自然現象との死闘と、そこに当たり前のように払われる人命の犠牲によって、管理者側と労働者側の間に生み出される不協和の描写にリアリティがあり印象的だった。

    黒部の太陽の映画も見てみたが、上のような感情の機微が描かれている本作に対して、大味で淡々とストーリーが進むだけであり、長い割にはあまり楽しめなかった。

    黒部の太陽の原作小説や、吉村昭の他の作品も読んでみたい。

    また、黒部ダムは、立山に登山

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    2025年07月23日
  • 新装版 赤い人

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    各地の囚人が北海道開拓の為に集められ、過酷な人権を無視した作業につかされる。
    極寒の大地でまともな防寒着も与えられず、食事も冷たい味噌汁、麦飯、漬物。
    藪蚊が身体に群がり、刺された所が化膿する。想像しただけで身震いしてしまった。
    脱走しても見つけられたらその場で殺されるか、逃げ切っても餓死するか、囚人になったらもう最後だ。



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    2025年07月21日
  • 高熱隧道

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    2025年7月21日、マツコの知らない世界の「ひんやり楽しい!観光トンネルの世界」にて。「富山県/黒部宇奈月キャニオンルート」が開通したばかりとのことで番組内で紹介されて。ゲスト?のおじさんが「吉村昭さんの小説にも書かれてましたけど、岩盤温度が160度ということで〜」と言ってた。

    ゲスト?おじさん「実際、窓を開けてみると、かるく40度くらいあるんですよ。2つの火山の下にあるので、いまも非常にたいへんなところですし、もちろん工事はたぶん日本の土木史上、最大の難工事だったと思います」

    テロップ《日本の土木工事史に残る難工事といわれる》

    こんなにレビュー多くて高評価とは。

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    2025年07月21日
  • 背中の勲章

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    戦争と聞くと激しく戦う様子や原爆などを連想するが、この本はそういう描写は少しだけ、あとは捕虜になった男の生活や周りの様子を描いている。今までなかなか触れることがなかった戦争の側面を知れて興味深い。

    米兵と日本兵が収容所で長い時間を共に過ごすうちに生まれる交流なんかも描かれており、敵である前にお互い人間よなぁと思わされる。

    冷静で感情の抑えられた筆致ながら、ふとした描写に主人公の感情の揺れや動揺、機微が感じられてどんどん読み進めてしまう。吉村昭はやっぱり素晴らしい。

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    2025年07月18日
  • 暁の旅人

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    良順が新撰組の近藤勇と会い、医師としてアドバイスしたり無料で傷の手当をしてあげたりした所は新鮮で印象に残った。
    江戸幕府は今の自民党の様な気がする。
    総取替するには不安だが、新しい変化が出来ないからだ。

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    2025年07月09日
  • 新装版 赤い人

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    ゴールデンカムイにも登場した樺戸監獄の歴史。北海道という土地を切り拓いた人々の情熱が伝わる。極限状態の過酷な描写が光る。

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    2025年07月07日
  • ふぉん・しいほるとの娘(上)

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    ネタバレ

    一気に読んだ上下巻
    めちゃくちゃ面白かった!

    歴史的時代背景も詳細に分かり
    生々しい表現もあった。

    シーボルトの娘は、幕末という時代に
    母として女医として力強く生きていく。
    イネについてもっと知りたくなる小説。

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    2025年07月05日
  • 花火 吉村昭後期短篇集

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    ネタバレ

    長編も好きだけど短編や掌編もよい。
    私小説のような著者周りの話も、淡々とした記述で読ませてくれる。

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    2025年07月02日
  • 高熱隧道

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    協業していても労働者と技術者の間には深い溝がある。労働者側からの角度で見た本も読みたい。より苦しくなると思うが。
    大きなことを為すには犠牲は止むなし、そんな価値観は時代錯誤ではあると思いつつ、先人たちの狂気に溢れた成果をまずはただただありがたく思いたい。

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    2025年06月19日
  • 東京の下町

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    下町の様子がクリアに想像できた。
    細かく思い出せるという事は、作者は幸せな子供時代を過ごしたからだろう、世間より生活レベルが高いと思った。

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    2025年06月18日
  • 漂流

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    よかった!吉村さんさすが!時間を感じず読めた。すごい話だった。「無人島の16人」と並ぶ漂流でした(笑)

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    2025年06月16日
  • 雪の花

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    天然痘の治療のため尽力した福井の町医者のお話。
    種痘(予防接種)を行おうにも無理解で上手くいかず、他の町医者からはオカルト扱いされ、藩に訴えても無視され....と大変な思いをしつつも信念を持つ有様が心に響きます。
    技術が発達した現代でも心根は同じかな、と思いつつも自分の頭で考える癖を持ちたいと思わせる話だった。

    『牛肉や豚肉を食べる西洋人を野蛮な民族だと見ていた』という旨の記載があるんだけど、ハッとさせられた。明治になるかならないかという時代のお話だけど、お肉を食べるようになったのってほんと最近なんだねぇ。

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    2025年06月12日
  • 七十五度目の長崎行き

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    吉村さん自身の旅に関する作品を読むと、日本にはまだこんなに行ってみたいと思う場所がたくさんあるんだと感じてしまう。
    タイトルにもあるように、長崎へ行ってみたい。

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    2025年06月10日
  • 雪の花

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    ネタバレ

    ・あらすじ
    江戸時代末期、福井藩で町医者をしていた笠原良策が天然痘撲滅のために生涯を賭けて奮闘する話。

    ・感想
    人間の性質ってのはやっぱりそんなに変化しないものなんだなと思った。
    未知に対する恐怖心は動物であるなら当然持っている生存に必要な能力ではあるので、それがいい方向に行く時もあればそうじゃない時もある。
    己の立場や既得権益を守りたい権力争いなんかも「あるあるだなー」と思って読んでた。

    私財を投げ打ち自分の全てを賭けて天然痘撲滅のために尽力した笠原先生はとても尊敬する。
    でも11月に雪山を超えて福井に帰るくだりは、おそらく作中で1番過酷でドラマッチくな部分だろうとは思うんだけど、個人的

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    2025年06月01日
  • 破船

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    ある漁村に伝わる「お船様」。嵐の夜に近づく船を座礁させその積荷を奪い取る異様な風習。犯罪だが村が生き残るために必要なこととして描かれる。現代でも組織内のルールに基づくものの、世間ズレをした倫理なき問題が起こる。閉鎖社会の怖さを感じる作品。

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    2025年05月31日