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40年におよぶ刑務官生活にピリオドを打った鶴岡に、再就職の話が舞い込んだ。それは、巣鴨プリズン跡地に建つ高層ビル建設の警備を指揮するというものだった。鶴岡の脳裏に、かつて自らが刑務官として勤務したプリズンの情景がよみがえった――。敗戦国民が同国人の戦犯の刑の執行を行うという史上類のない異様な空間に懊悩する人々の生きざま。綿密な取材が結実した吉村文学の新境地。
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Posted by ブクログ
これは多くの人に読んでもらいたいなぁと。 特に戦後の連合国の処置に夢を持っている人には。 私の母なんかはそうなんだけど、「アメリカが助けてくれた、軍国主義者をやっつけてくれた」ってよく言うんだけど、そういうもんじゃないんだって。 戦後70年、そういうものに目を向けるものがほとんどなく、切ない節目だ...続きを読むった。 だから、繰り返すんだろう。
太平洋戦争による日本国の敗戦責任は日本人個人にも割り振られた。そんな戦争犯罪者のみを収容するために作られた監獄が巣鴨プリズン。 しかし、それはあまりに監獄らしくない監獄だった。収容者の外泊やアルバイトを許可。時にはバス移動により、集団での野球観戦も催される。そして、戦勝国の気まぐれな判断で、理由も...続きを読むなく、減刑されたり、釈放されたり。 そんな無意味で、バカバカしい監獄があったという事実を詳細に記録した小説。 ちなみに巣鴨プリズン跡地は現在の池袋サンシャインビルが建っている。
吉村昭氏の本にはいつも頭が下がる。 こういう視点から歴史を垣間見ること、なぜ今までしなかったんだろう。 うわっつらの歴史からは想像もできない日本史。 私達は大事なことを知らないままで、すべてを知ったつもりになっているのではないか。 多くの人に読んで欲しい作品です。
巣鴨プリズンの一刑務官の評伝のように読めましたが、後書きで主人公が架空の人物と知る。 この小説は、戦争責任の所在を問うものではありません。 また、戦勝国や敗戦国の善悪を論じるものでもない。 戦争という途方もないうねりの結果、戦犯という重苦しい処遇を背負った人々に対し、 ほんの灯火に過ぎずとも、人道的...続きを読むなあたたかさに全力を尽くした人間たちの記録を集め、淡々とつづっている。 (もちろん、戦中の日本上層部の行動を肯定している…という意味ではないですよ) 人によっては、地味で退屈する筆致と感じるかもしれません。 けれど、あの戦争はこうだったと簡単に論じる本より、遥かに誠実です。
戦後、戦争犯罪人が収容されていた巣鴨プリズン。 戦勝国、アメリカから一方的に戦争犯罪人と言われ収容された者たち。 敗戦国、日本としては従うしかない。 だが、自分たちが何をしたのか、何故、収容されているのか分からない。 徐々に処刑されていく者たち。 残されていく者たちには、恐怖しか残らない。 日本人を...続きを読む処刑する道具を日本人に作らせるアメリカ兵。 作った者たちは、処刑されていく戦争犯罪人を見て徐々に狂っていく。 全てが狂っていた時代だったのか。 巣鴨プリズンの跡地は今、サンシャイン60として戦争犯罪人の墓石のように高々と聳えている。
刑務官を退職し、悠々自適の生活を送ろうと思っていた鶴岡。そんな彼の元にかつての上司から、ビル建設の警備の責任者の依頼が舞い込む。ビルが建設されるのは、鶴岡がかつて勤務していた、戦犯が収監された巣鴨プリズン跡地。鶴岡は警備責任者から退職する日に、かつての日々を回想する。 「正義は勝つって!? そり...続きを読むゃあそうだろ 勝者だけが正義だ!」 『ONE PIECE』というマンガで出てきた言葉ですが、巣鴨プリズンというのは、まさにその言葉通りの場所だったのだな、と読んでいて感じました。 戦勝国のアメリカによる一方的な裁判で、罪を問われ収監された囚人たち。もちろん、彼らが戦争を指揮し、あるいは人を殺したという事実は変わらないわけですが、じゃあ、アメリカの軍人や上層部も同じことをしたのに罰せられたのか、というとそういうわけでもなく。結局のところ戦勝国の正義ですべては決められてしまったわけです。 そうした巣鴨プリズンですが、刑務の実務をするのは鶴岡をはじめとした日本人たち。戦争をした国民が、同じ国民の刑を執行します。しかし、徐々に刑務官たちは、囚人たちに同情を感じるようになります。そして巣鴨プリズンはどんどん形骸化していくのです。 例えば、囚人たちの外出がほぼ自由になったり、収監されているにも関わらず、就職し仕事終わりに酒を飲んでプリズンに帰ってきたりと、刑務所とは思えない状況に。 そして、囚人たちは状況に応じて釈放されていくわけですが、刑期を終えたから、というよりかは国際政治のバランスを考慮して、というのがまた複雑なところ… 結局、正義とか罪とかって何なんだろう、と巣鴨プリズンって何だったんだろう、と考えさせられます。 こうした問いかけを可能にしたのが、綿密な取材から書かれる当時のプリズンや世相、社会状況や国際政治の説明や描写。この描写の詳細さと、冷徹な視線が吉村さんの持ち味であり、唯一無二のところだと思います。 ページ数的には短めの長編、といった感じですが、内容がしっかりと詰まった吉村さんらしい作品でした。
戦犯収容所である巣鴨プリズンを一人の刑務官の目を通して描く。証言者のいるうちに綿密な取材をし遺した貴重なドキュメンタリーと言ってもよい。2014.11.20
巣鴨プリズンが極東軍事裁判によって、 A級戦犯とされた人々の収容所だったという事実や 池袋のサンシャイン60がその跡地であり、 サンシャイン60に隣接する公園の片隅に ひっそりとたたずむ「永久平和を願って」の碑の存在を はたして今、どれだけの人が知っているのでしょうか。 この小説の主人公鶴岡は、 ...続きを読むA級戦犯を収容した巣鴨プリズンに勤務する刑務官です。 同じ日本人でありながら、 戦犯の日本人を米兵の命令で看守しなければならない苦悩。 戦争の勝ち負けで大きく変わる戦犯の罪。 人が人を裁くのは、何と罪深いことでしょう。 鶴岡の眼をとおして、 戦後の日本の混乱した時代がリアルに描かれていました。 ほとんどが事実に添ったストーリーですから、 小説というよりも、ノンフィクションのような感じで読めました。 実直に勤務をし続けて定年を迎えた鶴岡ですが、 その胸中には深い傷が残っています。 巣鴨プリズンでの話は遠い遠い昔のこと・・・・ でもしっかりと記憶に刻まれたやるせない思いは 鶴岡ばかりでなく、 一人の読者の私にも感じられるものでした。 来年は戦後70年を迎えるといいます。 戦争は起こっても悲劇だし、終っても悲劇しか残らない! プリズンの夜空に浮かんだ満月が見ていた事実や 刑にあった人々の慰霊碑が物語る史実を 忘れることのないようにし、 同じ過ちをおこさないようにしなければならないと思いました。
ひとりの元刑務官による巣鴨プリズンの回想。 羆嵐が無茶苦茶良かったので読んでみた吉村昭2冊目。 徹底した調査と取材を元に構成したフィクションというのは羆嵐と同じ。 一見硬質な飾り気のない文体が実はとても読みやすく、逆に主人公に感情移入しやすかった。 羆嵐読んだ時にこの作家好きになるかも、と感じたのは...続きを読む間違いじゃなかった。
・巣鴨プリズンを含めて40年間刑務官を務めた鶴岡って主人公の半生を描く小説。 ・と、いう体裁を取ってはいるが、実は巣鴨プリズンに関するノンフィクション、と言った方が正しい。鶴岡の回想ですら無い部分も多い。 ・GHQから日本に管理が移った後の巣鴨プリズンが、どんどんグダグダになっていく様子がとても意外...続きを読むだった。まさか入所者たちが内職をしたり自由に(じゃないけど)故郷に帰ったり外部に就職して酒を飲んで帰ったり、などと言うことが起きていたとは全く知らなかった。 ・「戦争受刑者の即時釈放要請に関する決議」が昭和30年にあって、その翌年に講和条約第11条の手続きをして、そして釈放となったと理解していたんだけど、実際は五月雨式に釈放が行われていて最後の釈放者は昭和33年だったということ。世の中には知らないことが多い。 ・上述のような事が起こり得たのは、やっぱり「戦犯」っていう存在のあいまいさ、インチキさ、立脚点の無さ、それに尽きる。そもそも意味の無い裁判の結果であり、そこにすがっていつまでも厳しく拘禁していく事は日本は当然として連合国側だってできなかったと言うことだ。それともう一点、朝鮮戦争から冷戦を迎える時局であり日本の存在が無視できないものになっていたからというのもある。 ・フィリピンからの帰国のくだりは泣けた。 ・吉村昭の書いた本は始めて読んだけど、これはなんだか章立ても無くて回想と現在がメリハリ無くつながった妙な本だったなあ。 ・古本屋で100円にて購入。
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