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昭和19年3月、パラオ島からフィリピンに向かった2機の大型飛行艇が、荒天のため洋上に墜落した。機内には古賀連合艦隊司令長官と福留参謀長が分乗していた。参謀長以下9名は漂流するも一命をとりとめたが、米匪軍とよばれるフィリピンゲリラの捕虜になる。果たして参謀長の所持する海軍の最重要機密書類は敵方に渡ってしまったのか……。戦史の大きな謎に緻密な取材で挑戦する、極上の記録文学。「海軍甲事件」「八人の戦犯」「シンデモラッパヲ」もあわせて収録。
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Posted by ブクログ
氏の小説は記録小説というジャンルらしい。本書創作のための氏の調査から、歴史の新事実が発見され、ほぼほぼ解を見たというのがまず感動した。短い小説ではあるが、凝縮された情報に基づくことを想像しつつ読み進めた。
第二次大戦で、連合艦隊の福留参謀長が遭難し、保持していた機密書類を紛失した事件を乙事件と言い、戦後それが米軍の手に渡っていたことが判明した。 作者は、戦後生き残っていた当時の事件現場にいた関係者を訪ね歩き、その遭難の状況を再現したのが本書である。したがって、小説というよりもほとんどノンフィクショ...続きを読むンである。戦争の実態は、このような現場の一挙手一投足というか、兵士や下士官一人ひとりの息遣いが分かるような描写にこそ顕れるのではないだろうか。将官や参謀の言動や武器の優劣や軍部の戦略を見ていても、戦争の本質すなわち悲惨で苦しく哀しいところは後ろに隠れてしまうのだ。 甲事件の作品も収められており、吉村昭の筆力を堪能できる作品である。
1934年、山本五十六氏を乗せた日本軍機が待ち伏せされて南海に散った翌年、氏の後任を含む一向が空襲を逃れパラオからミンダナオに飛ぶ途中に遭難。 その折、ゲリラに没収された海軍Z作戦計画書が米軍の手に渡っていたにも関わらず、同計画書没収の事実を大営本部がエリート意識の高さゆえ握りつぶしたため作 戦は...続きを読む実行され、当然大敗を喫してしまったという海軍乙事件(甲事件は五十六氏の待ち伏せに繋がった復号技術の漏えい)のルポ。 重要なのは事実(あるいは事実とされるもの)ではなく、科学的態度を如何にして失わないでいるかであるという意味では、今も昔も変わらないと感じました。
古本で購入。 吉村昭はやっぱり凄いな、と改めて思う1冊。 飛行艇の遭難により古賀連合艦隊司令長官が殉職、更には参謀長らの携行した極秘作戦書を米軍が指導するゲリラに奪われた事件を描く「海軍乙事件」。 巻末に付された「調査メモ」によると、吉村昭がこの事件を調べ始めたのは、昭和47年のことだという...続きを読む。 僕はここに驚いた。僕の生まれる10年程度前のことでしかないのだ。 当たり前だが、今でも大勢の戦争体験者の方々がご存命である。 兵役に就いたご老人と会ったこともある。 しかし「海軍乙事件」という、日本の敗勢を加速させた歴史的事件の関係者がその頃に生きていたということに、驚いてしまった。 この矛盾と言うか違和感と言うか、妙な感覚は何だろう。 現在が戦争と敗戦からの文脈上にあることを頭で理解している一方で、戦争を完全に「歴史化」しているのだろうか。 ともかくも一次資料の読み込みと多数の関係者からの聞き取りとによって、この短編は「記録文学」「ドキュメント」という以上に、「史料」の域に達している。 彼の調査ノートなんかは1級の資料だろうなぁ。聞き取りの録音テープも残ってるのかな。 徹底的な調査を通じて得た推測が真相を言い当てていたことが後に明らかにされるなど、吉村昭の面目躍如と言えると思う。 他の収録作品は… 視察に赴く山本連合艦隊司令長官の搭乗機が米軍機に待ち伏せされ撃墜、戦死した事件を描く「海軍甲事件」。 ポツダム宣言受諾後、日本軍の軍法会議により裁かれた「戦犯」を描く「八人の戦犯」。 日清戦争時、弾丸を胸に受けながらもラッパを吹き続け絶命したラッパ手が白神源次郎から木口小平へと訂正されたことで起きた騒動を描く「シンデモラッパヲ」。 吉村昭の淡々とした、冷徹に見えてその実は人間を描くことに徹している文章が心地いい。 事件を描くんじゃなくて、そこにいた人間を描いてるんだよね。 右にも左にもぶれない、記録者としての軸もまた、吉村昭の魅力だな。
表題作の「海軍乙事件」をはじめ、「海軍甲事件」「八人の戦犯」「シンデモラッパヲ」の戦争記録小説4編を収録。 「海軍乙事件」は山本五十六の後、GF長官となった古賀峯一大将とその司令部が、アメリカ軍攻撃からの避難のため二式大艇2機に分乗して飛行中に嵐に遭い古賀らが殉職、参謀長福留中将らはゲリラの捕虜とな...続きを読むった事件を指す。出だしは陸軍の独立大隊がセブ島へ派遣されるという意外な場面からはじまるが、乙事件の顛末とともに見事に収斂されていく。結果論的にいえば、当時の戦略で策定された「Z作戦」の書類をアメリカ軍に奪われたにもかかわらず、それはないと強弁する福留中将や日本海軍の無責任・間抜けぶりと、アメリカ軍のしたたかさが際立っている。救出作戦の場面はたんたんと再現しているにもかかわらず、ドラマ性のある緊迫感あふれる場面で、記録小説の真骨頂を感じました。 「海軍甲事件」は、GF長官であった山本五十六大将の戦死事件を指す。基地訪問を行う旨の暗号電文をアメリカ軍に解かれ、待ち伏せ攻撃により戦死してしまうのであるが、護衛戦闘機のパイロットの目線で、緊迫感のある顛末を描き出している。これも結果論的にいえば間抜けな話であるが、さらに暗号電文は解かれていないと思いこむ日本海軍の無能さぶりもよく再現している。 「八人の戦犯」は、敗戦直後の日本国が自らの手で戦犯を裁くという政治的思惑の中で抽出された八人と、その事件や裁判の様子を掘り起こした作品。結局、日本側による戦犯裁判は認められず、この八人は2重裁判を受けることになるが、歴史の冷たい事実を記録小説としてよく描き出している。 「シンデモラッパヲ」は、戦前の修身教科書に載せられた有名な「戦争美談」が、実は2人の人物の間で真贋騒動になっていたという話。日清戦争当時、「美談」を作りだす側の不手際により、それを受け入れる地元の悲喜こもごもが淡々とつづられていて面白かった。
「吉村昭」のノンフィクション短篇集『海軍乙事件』を読みました。 『戦艦武蔵』、『高熱隧道』に続き「吉村昭」作品です。 -----story------------- 昭和19年3月、パラオ島からフィリピンに向かった2機の大型飛行艇が、荒天のため洋上に墜落した。 機内には「古賀連合艦隊司令長官」と...続きを読む「福留参謀長」が分乗していた。 参謀長以下9名は一命をとりとめたが敵ゲリラの捕虜に。 そして参謀長の所持する最重要機密書類の行方は…。 戦史の大きな謎に挑戦する極上の記録文学。 太平洋戦争をたどる上でも、第一級の資料として、貴重な文献といえる。 表題作ほか、『海軍甲事件』 『八人の戦犯』 『シンデモラッパヲ』の全4篇を収録。 解説「森史朗」 ----------------------- 本作品に収録されている『海軍乙事件』と『海軍甲事件』については、当事者への綿密な取材をした際のエピソードを記録した『戦史の証言者たち』を読んだことがあったので、思い出しながら読んだ感じです、、、 重複する情報もありましたが、『戦史の証言者たち』には含まれていない内容もあり、興味深く読めました。 ■海軍乙事件 ■海軍甲事件 ■八人の戦犯 ■シンデモラッパヲ ■「海軍乙事件」調査メモ ■文庫本のためのあとがき ■関連地図 ■解説 森史朗 『海軍乙事件』は、パラオからフィリピンのダバオへ退避する途中、「古賀峯一連合艦隊長官」が行方不明となり、連合艦隊司令部の「福留繁参謀長」等は悪天候の中、海に不時着し、「クッシング大佐」率いる抗日ゲリラに身柄を拘束されてしまう… 彼等の救出劇と、その後の運命を描くとともに、と「福留参謀長」たちが保有していた「Z作戦要項」という今後の海軍の作戦を含む最重要機密書類の行方を推理した作品、、、 セブ島の守備隊を率いる「大西精一中佐」が「クッシング大佐」率いる抗日ゲリラを追い詰めた際、ゲリラのアジトに海軍の高級幕僚が捕らえられていることが判明… 「大西中佐」の的確な判断により、一行が無事に引き渡される展開が印象的でしたね。 特に引き渡しの際、その時間帯だけ、日本軍と抗日ゲリラの間に友情に似た感情が芽生えるシーンは感動的で忘れられないですね、、、 それにしても… 「福留参謀長」は、作戦の流出を否定し続け、当時は不問にされたようですが、実際にはアメリカに流出しており、それが、レイテ沖海戦の大敗北に繋がったのかもしれませんね。 『海軍甲事件』は、暗号が解読され、待ち伏せにあって撃墜された「山本五十六連合艦隊長官」の事件を題材にした作品、、、 長官機を直掩した零戦戦闘機乗りで、唯一人の生き残りの操縦士「柳谷謙二飛行兵長」の証言をもとに、その事件に関わった零戦戦闘機の操縦士の苦悩が描き出されています。 長官機を直掩した6名の戦闘機乗りは、表向きは不問にされたものの、周囲の視線は厳しく自ら死地へ旅立つように戦闘を続けたようですね… その気持ちもわかりますね、、、 その後、唯一生き残った「柳谷飛行兵長」は、ガナルカナル沖で敵の機銃によって右手に銃弾を受け、手首から先を切断されて本土へ帰還したとのこと… 事件後の、それぞれの運命について、色々と考えさせられましたね。 海軍が、アメリカの巧妙な情報戦により、暗号が解読されたことに気付かず、事件後も暗号が見破られていないと誤って判断してしまったところには、アメリカの方が情報戦で何枚も上手だったんだなぁ… と改めて感じました。 『八人の戦犯』は、日本軍自身が日本軍の戦犯を軍事裁判で裁き、連合国に引き渡した八人の真実を探った作品、、、 この八人を自らで裁くことにより、他の戦犯を護ろうとした… そんな意図が見え隠れしました。 部下をかばう美談が悲劇に変わったり、完全な冤罪だったり… 等々、そんな切ないエピソードばかりでしたね。 『シンデモラッパヲ』は、日清戦争中、撃たれた後も進軍ラッパを離さなかった兵士の物語の裏話を語った作品、、、 当初、英雄譚として名前が報じられたラッパ兵は、岡山県浅口郡船穂村の「白神源次郎」で、村では日清戦争唯一の戦死者であり、英雄として顕彰碑が作られ、そればかりか、海外でも高名な詩人によって、題材とされたりしたが… 後日、同じ岡山県の川上郡成羽村から出征した「木口小平」であったことが発覚する。 戦争英雄譚に潜在する、根拠が不明確な報道… 戦中の美談は、人々のニーズによって操作されかねないので、疑ってかかるべきなんでしょうね、、、 でも、イチバンの犠牲者は、情報に振り回された当人や遺族ですよね… 実際のところ、どっちが本当かなんて、誰も証明できないんじゃないかな。
海軍乙事件、甲事件、8人の戦犯、木口小平のシンデモラッパヲ、の4中編。 全てが佳作良作。軍部の愚かさと戦犯の影と陰。
もともと海軍乙事件というものがあった事を知らなかった。 これがあるからこそレイテ沖海戦などに大きな影響をあたえたんですね。
単に戦史をなぞるだけでなく、そこにさらっと人間を混ぜ込んできているから、のめりこんで読んでしまった。 人物たちの緊張や悔しさなどがひしひしと伝わってくる。自然と涙がにじむ。 こういう本が、千円もしないで買えるってすごいなあ。
不都合な事実に目を瞑ると、かえって甚大な被害が出る、というお話。 旧日本軍の失敗談が事欠かないことと、旧日本軍の影響から脱し切れていない自分達が恐ろしい。 他山の石としたいところ。
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