吉村昭のレビュー一覧

  • 破船

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     帯に「本屋大賞超発掘本!」とあったので、気になって買ってみた。
     貧しい生活の村で、幸をもたらす「お船様」。簡単に言うと荷を多く積んだ商人の難破船のことだが、難破船をあえて呼び込むための方法もこの村には伝わっている。
     これを読むと人々の生活は誰かの犠牲の上に成り立っているのだなということが実感される。
     しかし、難破船が必ずしも幸のみをもたらしてくれるものではなく、時には災厄ももたらしてしまう。因果応報と言ってしまえばそれまでだが、そうでもしないと生きられない厳しい環境下に置かれた人々の苦しさもある。
     かなりのパンチ力を持っている作品。

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    2023年08月12日
  • 蚤と爆弾

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    戦中の細菌兵器研究の施設で行われた戦慄の事実。
    丸太と呼ばれた人々。
    苦しめられ死んでいった人々。
    それに従事していた人々。
    戦争は、人を人でいられなくする。殺し合い。
    知るべき事実がそこにありました。
    七三一部隊の本を読んだことがあるけれど、それとはまた違う、吉村昭さんの語り口に一気読み。

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    2023年08月11日
  • 破船

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    時代背景・地域不明、作者の作品群で異色なドキュメンタリー風小説。
    200pと控えめなボリュームながら、貧しい漁村の哀しい運命が過不足無く描かれる。
    個人的には、『漂流』を生み出した作者が、漂流者を餌食とする本作を描く事にとてつもない作家意欲を感じる。

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    2023年08月04日
  • ふぉん・しいほるとの娘(上)

    購入済み

    吉村昭らしい作風

    ドライで淡々としかも詳細に記述する。いわゆる記録文学の典型とも言える作風の作品である。この上巻で多くのページを費やして描かれているのは、フォン.シーボルトその人である。当時の典型的な知識人として、進歩が遅れている日本へ、進んだ医学を伝えると同時に、帝国主義.植民地主義の尖兵として地理的情報 風物情報を入手しようとする。一口に善悪を言い難い彼の言動を詳細に記述している。

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    2023年08月04日
  • 破船

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    暗い物語であった。

    僻地の漁村で日々を生き抜く三年間を、一人の少年を通して語った「破船」。
    農作は期待できず、季節ごとの漁労で糊口を凌ぐ生活。その暮らしの中、唯一の僥倖が難破船の訪れ。その船の積荷を奪うことが、稀に見る豊作と同様。ただ、積荷の略奪であるために、難破船の船員が生きていても、殺して口封じをするという残酷さが、村全体の共通の認識として受け継がれている。

    生きて行くために。生きるという目的が優先されるは「人」でなく「村」。「村」の存続が第一であり、そのためには個人の意志は破棄されるべき。という思考が隅々まで行き渡っている様は、過酷であり悲哀しかない。それが何よりも象徴されるのが、物

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    2023年08月03日
  • 破船

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    極めて悲劇的。貧しい村の暮らしを丹念に描くことで、船が来て欲しいと読者に思わせる手法がすごい。短いながら読み応えがすごい作品。名作!

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    2023年07月21日
  • 雪の花

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    天然痘による死者を減らしたい。その一念で私財を投げ打ち種痘の入手と接種に取り組み、戦い抜いた福井藩の町医、笠原良策、その人生。
    予備知識も興味もなくても、ぐんぐん読み進められる吉村昭さんの作品。読後には、読めてよかった、知ることができてよかった、と思わせてくれる。
    次の作品もたのしみ。

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    2023年07月15日
  • 海の史劇

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    原作者の遺志に背いて映像化された「坂の上の雲」。同時期に連載されていた本作。日ロ戦争。歴史文学と記録文学。事実が淡々と記述されてるだけのようでいて、引き込まれる。その作風にはいつも感心させられる。ロシア側の立場での描述も長い。両者の視点で考えられる。勝利したのは日本。負けていれば独立国としての存続はなかっただろう。一方、得た者は乏しい。そして、失ったものも大きい。夥しい数の戦死者、戦傷者。政情不安。米国の警戒。そしてあの大戦につながっていく。TVドラマは美しく作られる。だが、現実の戦争はきれい事ではない。

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    2023年07月15日
  • 新装版 落日の宴 勘定奉行川路聖謨(下)

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    幕府公務員の凄さを感じた。
    なんとなく幕府の家臣と政府役人ってイメージ違ったけど普通に感覚同じなんだなと気付かされた。FAIREとか絶対言ってないわな 笑

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    2023年07月09日
  • 闇を裂く道

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    ただのトンネル工事だけの話ではなく、7年の予定だった工期が16年にもなった原因、崩落事故や旦那盆地の渇水問題、その時の時代にあった出来事も詳しく書かれており、その頃のトンネル工事の大変さがよく書かれていた。

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    2023年07月01日
  • 光る壁画

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    世界初の胃カメラ開発物語。胃カメラを開発したのが日本人だとは知りませんでした。東大の先生が起案したものを現オリンパスの光学開発者が試行錯誤しながら試作・改良していく姿は、ベタながら胸が熱くなるものがあります。
    オリンパス社のホームページには、本書の初代胃カメラの開発背景と写真が掲載されていますが、とても飲めそうにはないサイズだなと...
    しかし、人類の健康に資する世界初の試みを日本が手掛けていたという事実に、単純に嬉しくなるものがあります。

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    2023年06月27日
  • 破獄

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    実話を元にした小説。

    佐久間清太郎は秋田、青森刑務所を破獄し当時一番の体制の網走刑務所に移送される。

    極寒の地、網走。破獄は不可能と思われた日、佐久間は破獄する。

    捜索もかなわず見つからなかった佐久間。とても冬は越せず死んだと思われていた。
    そして、終戦。

    突然砂川で佐久間が逮捕されたというニュースが入り、札幌刑務所に収監。
    破獄の責任を回避したい進駐軍の考えもあり、府中刑務所に移送。

    府中刑務所ではそれまでと違った破獄対策を佐久間に施す。

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    2023年06月25日
  • わが心の小説家たち

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    ネタバレ

     吉村昭さん、敬愛する8人の小説家について語ってらっしゃいます。「わが心の小説家たち」、1995.5発行。森鴎外、志賀直哉、梶井基次郎には文章の教えを受けた。川端康成からは感覚を教えてもらった。著者が好きだということは、一作のこらず日記の類まで読んだということだそうです。女性作家では個性の強烈な岡本かの子、平林たい子、林芙美子がお好きだったと。

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    2023年06月24日
  • 新装版 間宮林蔵

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    感情的に盛り上げることなく淡々と客観的に綴る文体だからこそ、林蔵の執念というか情熱が強く強く伝わってくるような気がした。
    断片的な史料を想像で繋ぎ合わせた部分が大きいって後書きには書いてあったけど、普通に細かな手記とか残ってたんじゃないかって思ってしまうくらい端々に「実際の出来事らしさ」を感じた。

    周りの人々やシーボルトを題材にした物語や伝記にも触れて、多角的に味わってみたいな……。

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    2023年06月12日
  • 新装版 間宮林蔵

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    いやこれはまた重厚な本なのですよ。
    基本的には間宮林蔵がどこで何したかとか書いてるだけ、っちゃあだけなんけどね。
    とりあえず樺太を探検した人って感じの認識だったんで、半分ぐらい読んで探検終わって、あれどうなるんじゃろって思ったら、残り半分は隠密の旅だった!
    というわけで、3へぇ。

    しかし欧米の奴らは勝手にやってきてクジラを殺しまくってしかも油だけ取って捨ててしまうとか酷い話ですよ。しかも陸地に上陸して薪とか要求してって何様なんだこれ。いや流石であるよニンニン。

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    2023年05月18日
  • 天狗争乱

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    勝者は讃え、敗者は美しく描く。幕末劇の定番。維新で日本は植民地になることを免れ、先進国の一員となる。開国派と攘夷派がせめぎあい幸運にも成し遂げられた奇跡。その過程で生まれた多くの犠牲。…元治元年、栃木町。悲劇が起きる。焼き払われた家並み。路頭に迷う町民。家族を殺され怒りは心頭に発す。天狗党憎し…舞台は水戸へ。門閥派対攘夷派。それぞれの言い分。どちらにも肩入れできない。…敗れた攘夷派と天狗党の合流。京への旅路。様相が変わる。畏敬もされる。…降伏。痛々しい結末。それが綴られるのも歴史。こんな人々もいたのだ。

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    2023年05月17日
  • 関東大震災

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    大震災では、地震による建物の倒壊だけでなく、家財の持ち出しに寄る避難経路の遮断、火災、火災が誘因となる暴風、そして人心の乱れであることがよくわかった。大正の関東大震災では過去の大地震の経験が生かされなかったのである。最近とみに地震を想定した防災訓練なども行われているが、実際どうなったのか過去の事実を知った方が身につまされる。必読の書。2023.5.14

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    2023年05月14日
  • 破獄

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    高校時代に友達に勧められて読みました。私のそれまでの読書遍歴に登場しなかったジャンルで非常に新鮮だったことを覚えています。
    主人公は牢破りの犯罪者なのに憎めないキャラクターで次はどんな手口で脱獄するのかハラハラさせられます。追う側と追われる側の攻防戦。かと言ってエンタメに終わらない重厚感。
    紹介してくれた友人に感謝。

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    2023年05月03日
  • 新装版 白い航跡(下)

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    帰国後の活躍。下巻に入っても上り調子は続く。日本の風土病とされた脚気。治療法の追求。仮説。確信。戦艦訓練での実験。許されぬ失敗。結果を待つ。成功の知らせ。地位は揺るぎないものになるはず。しかし、そこに立ちはだかるものが。二度目の世界大戦まで続く陸軍という病。…精力的に働きながらもその晩年はどこか暗い。慈恵病院の設立・生命保険の創立・看護教育の充実。偉大な業績を上げながらも現代では高木兼寛という名を知る人は少ない。…多くの人が気づきながら公に正解が認められない。今もあるその構造。それは日本の風土病なのか。

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    2023年04月27日
  • 関東大震災

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    関東大震災についてすこし詳しく知りたいと思い手に取りました。本所被服廠跡や吉原の悲劇について知り、大火の恐ろしさに戦慄しました。流言や朝鮮人虐殺、大杉栄事件などの章には大災害で動揺する人々が記録されていました。愚かとは思えません。コロナの初期にも様々な噂が流れたのを思い出しました。
    吉村昭の記録文学は手堅くしかも読みやすいという点で大好きです。

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    2023年04月26日