吉村昭のレビュー一覧
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吉村昭らしい作風
ドライで淡々としかも詳細に記述する。いわゆる記録文学の典型とも言える作風の作品である。この上巻で多くのページを費やして描かれているのは、フォン.シーボルトその人である。当時の典型的な知識人として、進歩が遅れている日本へ、進んだ医学を伝えると同時に、帝国主義.植民地主義の尖兵として地理的情報 風物情報を入手しようとする。一口に善悪を言い難い彼の言動を詳細に記述している。
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Posted by ブクログ
暗い物語であった。
僻地の漁村で日々を生き抜く三年間を、一人の少年を通して語った「破船」。
農作は期待できず、季節ごとの漁労で糊口を凌ぐ生活。その暮らしの中、唯一の僥倖が難破船の訪れ。その船の積荷を奪うことが、稀に見る豊作と同様。ただ、積荷の略奪であるために、難破船の船員が生きていても、殺して口封じをするという残酷さが、村全体の共通の認識として受け継がれている。
生きて行くために。生きるという目的が優先されるは「人」でなく「村」。「村」の存続が第一であり、そのためには個人の意志は破棄されるべき。という思考が隅々まで行き渡っている様は、過酷であり悲哀しかない。それが何よりも象徴されるのが、物