あらすじ
胃潰瘍や早期癌の発見に絶大な威力を発揮する胃カメラは、戦後まもない日本で、世界に先駆けて発明された。わずか14ミリの咽喉を通過させる管、その中に入れるカメラとフィルム、ランプはどうするのか……。幾多の失敗をのりこえ、手さぐりの中で研究はすすむ。そして遂にはカラー写真の撮影による検診が可能となった。技術開発に賭けた男たちのロマンと情熱を追求した長編小説。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
最近胃の内視鏡検査を受けたので興味を持って読んだ。さすが大御所だ。文章が淡々と簡潔で、決して感動を煽るような文体じゃないのに登場人物たちの情熱がちゃんと伝わってくる。公私の間で悩む主人公の設定はフィクションらしいが、これで開発物語として単調になるのを免れていると思う。終戦直後で物資も貧しく素材もまだ原始的なものしかなかっただろう。開発を支える職人たちの技は将来も絶対滅びてほしくないものだ。この人たちの努力が元になって様々な技術革新が私たちの健康や治療に貢献してくれていると思うと感謝の気持ちがわく。
Posted by ブクログ
吉村氏ならではのノンフィクション小説。今回は戦後、世界発の胃カメラを実現した話。オリンパスの技術者と東大医研の先生との協同研究の顛末については、かつてプロジェクトXでも取り上げられていたが、別の視点からの事実ベースの小説で、非常に引き込まれた。短い記述ながら、技術的にはまってしまい苦悩する様子がありありと浮かぶ。当時のなんでもありの風潮もあったろうが、彼らの一途な指向に驚嘆する。残念ながら今、こんなかたちで開発のできる技術者は国内には存在しえないかもしれないが、思想、発想、そして哲学は継承されうる。とても臨場感があり、今後のためにも読んでおくと良いと思えた本であった。
Posted by ブクログ
胃カメラを作り出すために奮闘する菊男、宇治、杉浦の奮闘が描かれている。宇治と杉浦は実際の人物と同じで菊男は深海氏をモデルとしているそう。今までにないものを作ることの大変さ、それに伴う家庭の問題とかが描かれている。戦後間もないのに技師として開発に携わる菊男の凄さに驚かさせた。話自体はテンポよくて読みやすかったが開発中の挫折がそこまで悲観してない感じがなんか気になった。日本人が開発したって凄いことよ。
Posted by ブクログ
世界初の胃カメラ開発物語。胃カメラを開発したのが日本人だとは知りませんでした。東大の先生が起案したものを現オリンパスの光学開発者が試行錯誤しながら試作・改良していく姿は、ベタながら胸が熱くなるものがあります。
オリンパス社のホームページには、本書の初代胃カメラの開発背景と写真が掲載されていますが、とても飲めそうにはないサイズだなと...
しかし、人類の健康に資する世界初の試みを日本が手掛けていたという事実に、単純に嬉しくなるものがあります。
Posted by ブクログ
世界初となる胃カメラを作った男たちの記録。
前例が無く、参考になるものが無い中でまったくの手探りの状態。
失敗に失敗を重ね、それでも挫けることなく挑み続けた。
挑み続ける姿は、格好良かった。
これぞ、モノづくりニッポンの原点。
Posted by ブクログ
戦後の日本で初めて胃カメラを発明した人達の話。
胃カメラが日本で発明されたということは知りませんでした。
技術開発者たちのロマンと情熱の長編でした。
何かを発明する,やり遂げるということは,こういう事か!と思わされました。
この本を読んで,私が思うに,まず柔軟な思考を持つこと。胃カメラを開発するに当たって,車のランプとか,自転車のチューブとか,コンドームなんかが出てきます。色んなものを先入観にとらわれず試してみること。大切です。
そして素朴な疑問や思いつきを大切にすること。どんなに素朴で,人が聞いたら笑うかもしれない,と思うようなことでも,そこに問題解決の糸口が隠されているかもしれない。
そして諦めないこと。壁にぶつかっても決して諦めないこと。
そんなことを思いました。この情熱は是非読んでもらいたいw
そしてこの本のさすが!と思わせるところは,奥さんの存在です。
胃カメラ開発に没頭し帰宅しない夫の傍ら,旅館業を一人営む奥さん。この辺はフィクションなんですが,夫が仕事に没頭していると破綻する家庭生活が必ずあるはずです。
数ヶ月も夫が帰ってこなかったら,そりゃあ妻としては耐えられないと思います。嫌味ったらしくなったり,拗ねた手紙を送りたくもなります。
そういうリアリティまで描いているのがやっぱり吉村昭。単に技術開発の情熱物語で終わらせないところがいいですね。
タイトルの「光る壁画」は,全体を読むと,「確かに光る壁画だ!」と納得します。考えられたタイトルですねー。
今の胃カメラは苦しさが軽減されていたり,カプセル型だったり,様々な発展を遂げています。それもこれも,この開発があってのこと。すごいですねー。
Posted by ブクログ
胃カメラが日本で開発された様子が描かれる。
途中苦労はあったものの、順調に開発は進んでいく。
開発者の夫婦関係も興味深かったが、こちらは虚構らしい。
Posted by ブクログ
胃カメラが出来るまでの話し。実話ベースの本に凝っていて読んでみる。ゴムホースや小さいカメラ、フラッシュを探したり作ってもらったり、犬での実験等は面白く読むが話し事態はそんなに。
Posted by ブクログ
ドラマ化されてたので、なんとなく再読。
ドラマの脚本、上手く出来てるなー・・と感心。
「下町ロケット」や周辺、ドキュメンタリーを観ててずーっと痛感するのだけども、町工場の技術と発想をもっとサポートする体制を国が作ってくれればいいのに・・でないとそういったものは失われるか他国に流出するばかり・・・。
それこそ恩田陸の「ネバーランド」のIT少年の様な発想を!
Posted by ブクログ
胃カメラ開発の実話に基づいた小説。
取材の前に「胃の病気とピロリ菌」を読んでいて、
その中でこの本が紹介されていたので、早速読みました。
全体的に、かなり淡々とした印象。
物資も情報も少ない戦後に、世界で初めて、人間の体内を撮影する・・・
そんなカメラが、あっさりできてしまったのか、とも感じられるのですが。
ただ、実際に医師を取材してみると、
お医者さんって、知識も体験も豊富なのに、
本当に、起伏もなく、わかりやすくお話されるのだ、と
最近になって、ようやくわかりました。
医師は、たくさんの症例を経験した上で話をしているのだから
もう、当たり前のことになっているし、
研究結果が評価されるべきで、その過程は自明のこと、と
思われる方が多いように感じられます。
一般人にとっては、なるほど、すごい!と思うことばかりなのですが。
この小説も、「もっといろんなハプニングや苦労があったのだろう」と
読み終わった後にも勘ぐってしまうのですが
そうではなく、あくまで現場の雰囲気を大切に
まとめられているような印象で、そこに好感がもてます。
いずれにせよ、激動の時代に、ひとりの医師と、
日本が誇る、光学技術の技術者たちの想いがこもったストーリー。
それが書かれていること、知ることができたことで
知識欲はしっかりと満たされました。