吉村昭のレビュー一覧
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終戦を兵士としてではなく、かといって幼子としてでもなく、出征間際の年齢で迎えた著者の回想録である。
「生れついてから××事変と称する戦争がほとんど切れ間なくつづき、遂には「大東亜戦争」と称されたあの戦争に一個の人間として直接接したことが珍しい経験なのかも知れぬ、と思うようになったのである」
とあるように、著者の一歳年上の男子は徴兵され東京を離れていたし、小学生であれば学童疎開でやはり東京を離れていた。東京で生まれ育ち、東京で終戦を迎え、戦後も東京で暮らした庶民の生活というのはなかなか貴重であろうという話である。
本書には戦中戦後の明日をも知れぬ日々の中にたくましく生きる姿がある。もち -
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ネタバレ菊池寛「蘭学事始」の前後左右に肉付けした感じ。ところがこの肉が厚くて豊かで魅力的。玄白がちょっとフォローされてるかな。まあでも、報帖で様子見とか家治への献上とかって玄白のアイデアだし、病弱で独り者だった玄白がこの成功で妻帯できたのは良かった良かった。
良沢が中津から江戸へ戻る途中で、「大井川に渡しがない」って話が出てきた。先日、角倉了以が江戸初期に舟を通した話(岩井三四二「絢爛たる奔流」。この本の解説、偶然にもこの人)を読んだばかりだったので、あれ?っと思ったけど、よく考えたら了以のは京都の「大堰川」だったw
あと、そもそもこの話、前野良沢と杉田玄白がダブル主役なんだけど、それぞれの交友範 -
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ネタバレ画像は新装版を使いましたが、実際は平成元年10月5日5刷りのハードカバーを読みました。
江戸後期から幕末にかけての外交史を語っている。小説だがセリフが少なく、まるでノンフィクションを読んでいるようだ。それでいて読みやすい。
前半では、日本に不法入国したアメリカ人のラナルド・マクドナルドが、オランダ語通詞の森山栄之助らに英語を教える過程を通じて日本の外交を描き、後半では幕末期の各国との外交の歴史を、森山が大通詞から外交官として活躍する流れとともに描いている。
後半はアメリカの横暴な態度に腹を立てながら読んだ。無理難題を押し付けてくるペリーに対し、日本側も譲歩しない。外交経験がほとんどない日 -
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複数巻の長編を平行に読破しよう月間消化期間。残してるのはあと2作くらいかな?
イギリス留学から帰ってきた高木兼寛。海軍の医師となり、最も直面すべき課題としての「脚気」の撲滅に向け、仮説を立て、食事療法によって現実に発症者を激減させるのだが…。
科学的な衝突が出てきて、俄然面白くなってきた下巻。個人的に最も面白いのが、森鴎外(林太郎)と東大が、科学的根拠をはっきり示した脚気の原因と療法について長年批判と黙殺を続け、何万人もの日本兵を見殺しにした悪役として描かれている所。北里柴三郎も同じ穴の狢。森鴎外が好きでないので。
現在の科学と違い、即日的に評価が広がらないことで、結局30年して退職して -
購入済み
高熱隧道
吉村昭氏の著作は愛読しています。歴史の表舞台に出てきた英雄的な人の話も好きですが、そうではない、縁の下の力持ちであった人々、普通に暮らしていたら知らなかったであろう人々の話が特に好きです。当作品は、登場人物は氏の創作によるものですが、事実を題材にしており、迫力があります。「闇を裂く道」も同じようなトンネルを掘る話で、こちらも面白かった。併せてご一読をお勧めします。
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複数巻の長編を平行に読破しよう月間再開。
慈恵医大を作った高木兼寛の生涯のドキュメンタリー。倒幕から明治維新の動乱期に、戦火をくぐり抜けながら、西洋医学の重要性に目覚め、留学するまでの波乱万丈を描いた上巻。
吉村昭らしいパワフルな文体で、グイグイと押し進めるストーリーは、日本の混乱期、特に薩摩藩の動きと相まって、否応なく引き込まれる。
そこに、兼寛の生活や医学授業の詳細は、マクロとミクロの文章のメリハリにつながっている。
歴史小説やドキュメンタリーを読んでいて辛いと思うのが、登場人物がたくさん出てきて、それらがきっと伏線やストーリーの展開に絡むと思い込んでいると、単に歴史の一事件の関係 -
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熊嵐とか漂流とか、以前に読んだ作品の方が、より好きでした。もちろん、これがつまらないってことではなく。先日読んだ「四十七人の刺客」でも感じたことだけど、比較的史実に忠実に則って、かつマイナーな登場人物もかなり網羅してっていう風だと、免疫がないとどうしてもとっつきづらさを感じてしまいます。まあ素養のなさがそもそもの問題なんだけど、入門編としては最適ではない、っていうくらいの意味です。桜田門外の変は歴史の教科書で読んだくらい、ってレベルだと、なかなかついていくのが大変でした。ただ、事変がメインなんだけどクライマックスではなく、その後日談がかなりの紙面を使って書き込まれているのは読み応え大でした。む
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はじめの「脱出」を読んで、素晴らしく良いとは感じなかったので表題作がこれくらいでは、他もそんなに大したことないのかも…と思いつつ読み進めると、この本のコンセプトが「脱出」というタイトルに象徴されていることがわかり、様々な人々を描きながら、一本の太い棒のようなものが貫かれていることに感心する。バラバラに読むよりまとめて読んだ方が、作者の言わんとすることがよくわかる。そういう意味で良い短編集である。
戦中戦後に、直接戦闘にはかかわらなかった子どもや僧がたとえ命は失わなかったにしてもどのように心身に傷を負ったかが、情緒を排した文章で描かれる。
特に児童労働と、労働させる人々を描いた「鯛の島」、生 -
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自由律俳句で有名な尾崎放哉の伝記小説。晩年の8ヶ月を描く。
尾崎放哉の俳句は、高校の授業で習った事がある。種田山頭火や高浜虚子、萩原井泉水などと共に明治大正の俳句について勉強したが30年経った今でも覚えているのは、山頭火の句と彼の「せきをしてもひとり」という哀愁漂う句くらいだ。
俳人の句は覚えていても、彼らの句がどのような背景で詠まれたのかは知らない。彼がどんな人物だったのか興味があって読んでみた。
彼は、東大卒で一流企業の重役を勤めながら、酒癖の悪さで身を崩し、妻には愛想を尽かされ、仏門に入るが酒のせいで上手く行かず、結核を患って死に場所を求めて小豆島に渡る。歌人としての才能は誰もが認めるの