吉村昭のレビュー一覧
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熊嵐とか漂流とか、以前に読んだ作品の方が、より好きでした。もちろん、これがつまらないってことではなく。先日読んだ「四十七人の刺客」でも感じたことだけど、比較的史実に忠実に則って、かつマイナーな登場人物もかなり網羅してっていう風だと、免疫がないとどうしてもとっつきづらさを感じてしまいます。まあ素養のなさがそもそもの問題なんだけど、入門編としては最適ではない、っていうくらいの意味です。桜田門外の変は歴史の教科書で読んだくらい、ってレベルだと、なかなかついていくのが大変でした。ただ、事変がメインなんだけどクライマックスではなく、その後日談がかなりの紙面を使って書き込まれているのは読み応え大でした。む
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はじめの「脱出」を読んで、素晴らしく良いとは感じなかったので表題作がこれくらいでは、他もそんなに大したことないのかも…と思いつつ読み進めると、この本のコンセプトが「脱出」というタイトルに象徴されていることがわかり、様々な人々を描きながら、一本の太い棒のようなものが貫かれていることに感心する。バラバラに読むよりまとめて読んだ方が、作者の言わんとすることがよくわかる。そういう意味で良い短編集である。
戦中戦後に、直接戦闘にはかかわらなかった子どもや僧がたとえ命は失わなかったにしてもどのように心身に傷を負ったかが、情緒を排した文章で描かれる。
特に児童労働と、労働させる人々を描いた「鯛の島」、生 -
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自由律俳句で有名な尾崎放哉の伝記小説。晩年の8ヶ月を描く。
尾崎放哉の俳句は、高校の授業で習った事がある。種田山頭火や高浜虚子、萩原井泉水などと共に明治大正の俳句について勉強したが30年経った今でも覚えているのは、山頭火の句と彼の「せきをしてもひとり」という哀愁漂う句くらいだ。
俳人の句は覚えていても、彼らの句がどのような背景で詠まれたのかは知らない。彼がどんな人物だったのか興味があって読んでみた。
彼は、東大卒で一流企業の重役を勤めながら、酒癖の悪さで身を崩し、妻には愛想を尽かされ、仏門に入るが酒のせいで上手く行かず、結核を患って死に場所を求めて小豆島に渡る。歌人としての才能は誰もが認めるの -
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明治24年にロシア皇太子ニコライが来日し、長崎、鹿児島、京都、滋賀と回る中で大津で警備を担当していた津田三蔵巡査に襲われた事件、いわゆる大津事件について描かれた小説。小説というか、吉村昭の作品は(というほど多くの作品を読んだわけではないが)、事実関係を丹念に取材して周辺情報まで含めて細かく書かれている一方で、小説が小説たる感情のもりあがりだとか登場人物の内面描写がないため、まるで解説記事を読んでいるような気分になる。それはそれでとても勉強になるのだが、ハマって一気に読破!みたいなことはない。
長崎でのニコライのお忍びに対する長崎県庁の苦慮や、津田三蔵の処分に対する政府対裁判官の戦いなど、なるほ -
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ネタバレ吉村昭の3冊目。
硬質な文章であると思うのだけれど、自然の描写が美しく……、その美しさ故に、描かれている時代の悲惨が、より際立ってくる・・・。
「鯛の島」
・・・なんともやるせない。敗色濃厚な戦況が国民には隠されていたということ自体は、歴史に疎い自分にも周知の知識ではあったけれど、その隠蔽のためにあんなことが・・・。
「他人の城」
・・・巻末解説文で「神の名によって許されさえする」と描かれた、極限状態での選択……。
生き残った後に心を保てるのかどうか?
・・・自分だったら?・・・
平成日本に生きる我々には、想像すらできないな。
「珊瑚礁」
・・・その“地獄”を生き延びた人達が実在したの -
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1793年、仙台から江戸へ向かった帆船、若宮号は途中で暴風雨により遭難。オホーツク海を北へ流され、たどり着いたのはロシアの東端。船員たちは極寒地で凍傷に倒れる者もいれば、ロシアへの永住を決意する者もいたが、それでも4人が帰国を訴え、ロシア皇帝と面会する。
そして、彼らは陸路で西へ向かう。モスクワを経由し、ロシア西端から船で地中海、大西洋、太平洋を横断して、日本の長崎へ到着。その間10年。おそらく、初めて世界を1周した日本人だろう。
そんな奇跡のような冒険を4人の帰国者から聞き取った文書が残されていたことを著者は紹介。日本にも「ロビンソン・クルーソー」に匹敵する漂流記があったのだ。