吉村昭のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ本当はハードカバーで読んだんですが,こちらにレビュー。
文庫版も解説読みたいなあ。
吉村昭さんの弟さんが肺癌に侵され,亡くなるまでを描いたノンフィクション。
辛いですね。読みながら何度も涙ぐみました。
これは身内や親類を癌などの病魔で亡くした人にとって,色々なことを想起させるきっかけになる本です。
私は祖母が癌で亡くなった時のことを思い出しながら読みました。
吉村さんと弟さんのつながりの深さや愛情が感じられました。時折元気だったときの弟さんの回想が入るんですが,それが病気の描写よりも切ないです。
弟さんの心臓が強いことが,命を存えさせるのに役に立った,との記載があり,私の祖母は心臓が弱かったために,長い間苦しむことなく息を引き取ることができたのが幸せだったねと話していたことを思い出しました。
弟さんの闘病記を見る限り,心臓が強くて存えられることも,結構辛いことだなと感じました。本当に最後のほうは読むのが辛い。
でも,最後は弟さんを看取ることができてよかったなと思います。
私の祖母は,たった数十分,タオルを取りに伯母がその場から離れた間に突然急変して亡くなり,病院関係者しか看取ることができませんでした。ベッドの上で誰かに看取られて息を引き取ることができてよかったね,と話したけれど,最後を看取ることが出来なかった伯母や母は当然のことながら悔いていました。
吉村さんの弟さんは信頼できる親族みんなに見守られながら,息を引き取ることができて,きっと幸せだったろうなと思います。
吉村さんと弟さんの体験を通して,考えるきっかけを与えてくれる本。
きっと誰もが経験する肉親との死別。私もこれから父や母との死別が必ず待ち受けています。その時を考えると辛いですが,この本はそれまで心の片隅に置いておきたいです。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ戦後の日本で初めて胃カメラを発明した人達の話。
胃カメラが日本で発明されたということは知りませんでした。
技術開発者たちのロマンと情熱の長編でした。
何かを発明する,やり遂げるということは,こういう事か!と思わされました。
この本を読んで,私が思うに,まず柔軟な思考を持つこと。胃カメラを開発するに当たって,車のランプとか,自転車のチューブとか,コンドームなんかが出てきます。色んなものを先入観にとらわれず試してみること。大切です。
そして素朴な疑問や思いつきを大切にすること。どんなに素朴で,人が聞いたら笑うかもしれない,と思うようなことでも,そこに問題解決の糸口が隠されているかもしれない。
そして諦めないこと。壁にぶつかっても決して諦めないこと。
そんなことを思いました。この情熱は是非読んでもらいたいw
そしてこの本のさすが!と思わせるところは,奥さんの存在です。
胃カメラ開発に没頭し帰宅しない夫の傍ら,旅館業を一人営む奥さん。この辺はフィクションなんですが,夫が仕事に没頭していると破綻する家庭生活が必ずあるはずです。
数ヶ月も夫が帰ってこなかったら,そりゃあ妻としては耐えられないと思います。嫌味ったらしくなったり,拗ねた手紙を送りたくもなります。
そういうリアリティまで描いているのがやっぱり吉村昭。単に技術開発の情熱物語で終わらせないところがいいですね。
タイトルの「光る壁画」は,全体を読むと,「確かに光る壁画だ!」と納得します。考えられたタイトルですねー。
今の胃カメラは苦しさが軽減されていたり,カプセル型だったり,様々な発展を遂げています。それもこれも,この開発があってのこと。すごいですねー。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ終戦という転換期を様々な場所で,かたちで,生きた人々の短編集。
全体として,たとえば燃え尽きた都会で玉音放送を聞いて・・・という感じではなく,どちらかというとあまり戦争らしい戦争を経験しないで終戦を迎えて,時代の急激な移り変わりを虚ろな目で見つめる,と言った感じ。
終戦と一言に言っても,色々な終戦があったのだなと思わされました。
「脱出」「焔髪」「鯛の島」「他人の城」「珊瑚礁」の五編が収録されているのですが,私の印象に残ったのは「他人の城」と「珊瑚礁」。もちろん他の作品もとてもよかったですが。
「他人の城」は,沖縄からの学童疎開船「対馬丸」に乗船していた中学生の話。
学童疎開船である対馬丸・亜米利加丸の沈没・・・民間人の多くが犠牲になったそうです。疎開船が沈没なんて,気の毒過ぎます。気の毒の一言じゃ済みませんが,乗っている船が沈没したらもう,為す術がないですね・・・。
対馬丸に乗っていて,沈没して,たくましく漂流して救助されるところまででも十分ドラマチックですが,さらにこの小説の魅力は,本土に残った学友たちが沖縄戦を闘い,散っていたことに対して主人公が負い目を感じていること。
疎開船が沈没するというだけで十分な被害者ですが,やっぱり本人の感情としてはそれだけでは済まされない。そういう葛藤が描いてあるのが良かったです。
そして改めて沖縄戦の悲惨さを思い知りました。日本で唯一決戦の地となり,10万人以上の人々の命が失われた沖縄戦。私の実感として,戦争と言えば沖縄戦,として語られることがあまりないように思うのですが(戦後生まれ,本州在住として),もっと学ばれて然るべきだと思いました。
「珊瑚礁」はサイパン島に住んでいた日本人が,米軍上陸によって山中を逃げ惑い,家族を失いつつ,捕虜になり,戦後を迎える話。
敵を恐れて家族で山中を逃げ惑う。うう。怖い。こんな生活耐えられないよなーとつくづく思いました。
毎日安心して布団で寝られる幸せよ。
昭和の転換点・・・とても興味深い短編集でした。
事実の悲惨さやむごさのようなものが中心に描かれるのではなく,主に少年の心の移り変わりのようなものが中心に描かれていて,そこが良かったです。 -
Posted by ブクログ
吉村昭の短編小説。
短編も短編、原稿用紙10枚分ぐらいの短編。
でも、そのたった10枚の中に人間の姿、心の動きが描かれていて、不思議な気分。
日常の一部分を切り取って貼ったような。注意して見ていなければ、あっという間に見過ごされてしまうような感じ。
読んでいた間は、楽しかったはずなのに、あまりに高速に過ぎてしまったから、あとからどれが面白かったかな・・・と思い返すと、ページをもう一度開かなければ解らない感じです。
強いて、印象に残ったものを挙げるならば、吉村氏が始めて挑戦したという激短編である、「観覧車」、また、なんとなく薄気味悪くて、想像できてしまう「同居」。
観覧車は、男のしょうもなさが如実に表されていて、「なんてしょうもない男なんだ」と思わず溜息を漏らしてしまうような作品。笑
でもその不快感が逆に印象に残ったのかなあと思います。これだけ短いと、感情が揺さぶられるに至らないので。
「同居」は、現代の女性にもこういう人居そうだなーとありありと想像できました。単なる寂しさの慰みとしてのペットじゃなく、最早同居人にしか見えない犬。そんな犬を飼う女性に対して、結婚を思い止まる男性。
吉村昭氏は日常の片鱗を切り取るのが本当にうまい。
自分が普通だと思っている日常も、他人から見ると奇妙に映るかもしれないんですが、普段はそんな境界線を意識することはないと思います。
その境界線を明確にして、切り取って、提示しているかのような珠玉の短編集でした。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ私にとっては非常に長くて、一ヶ月ぐらい読んでましたw
日露戦争時の、日本海海戦を、どちらかというとロシア側からまとめた史劇。
最初はロシア人ばかり出てきて、早く日本軍出して欲しいなあとじれったく思って読んでいたのですが・・・
だんだんとロシア側に感情移入していったのがまさに吉村マジックです。
しかし、当たり前だけど本当に知らなかったことばかり。
バルチック艦隊が日本に来るまでもなかなか壮絶で、死者が何名も出ていて、なかなか大変なものだったんですねー。
メインの海戦そのものは、息を呑むような展開で、ぐいぐい引き込まれました!東郷平八郎の丁字戦法からの、巧みな砲撃戦。あっという間にロシア艦隊はばらばらに。
船が爆撃を受けて破損して、沈没していくときの何とも言えない刹那さ。そして切なさ。
ロジェストヴェンスキーと長い間旅をともにしてきたクニャージ・スヴォーロフが、命ある戦艦から、ただの鉄塊に成り下がるシーンは日本にとって敵国ながら切ない思いでした。やっぱり命吹き込まれた人工物や、その乗組員が亡くなっていくのは、どんな立場であれ悲哀を感じます。
戦いの面の迫力もさることながら、客観的データも非常に興味深かったです。日本とロシアの損害の差は、海戦の中では歴史に残るようなものだったとか。
捕虜の扱いも、この頃はまだちゃんと国際規定を守って、しっかりしていたんだなーと。第二次大戦時の捕虜の扱いとは結構違うんですね。
そしてロシア兵をこんなに手厚くもてなした日本が・・・国際規定ガン無視のシベリア抑留強制労働orzとか思ってしまいました。ロシアが日本に対して臥薪嘗胆の思いでいたのもわかりますが。
とにかく長かったですが、色々と勉強になりました。本当にガッツリと日露戦争の日本海海戦について知れました。