吉村昭のレビュー一覧

  • ふぉん・しいほるとの娘(下)

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    やー長かった。やっと読み終えました。読み応え十分!

    お滝の娘、お稲さんは宇和島の二宮敬作→石井宗謙と父の門下生に師事して産科医としての力をつけていく。
    しかし何と石井宗謙に犯され娘タカを産む。タカもまた結婚した三瀬周三(諸淵)と死に別れ、片桐重明に犯され男の子を産む(周三と名づけた)。

    お稲さんは東京に行って産科医として開業し最後は長崎へ。
    その間、シーボルトが再び来日し再会したり、異父弟のアレクサンデルに助けられたり、江戸後期~明治初期までの激動の歴史を背景に、じつに起伏にとんだ人生が描かれます。

    この辺の歴史って、どの藩が尊王なのか攘夷なのか、頭がごちゃごちゃになってくる。
    攘夷、開

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    2012年06月23日
  • 長英逃亡(下)

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    不運だった人には違いない。
    しかし、この作品を通じて『偉大』と感じられるのは、高野長英本人ではなく
    彼の才能を認め、庇い、手を差し伸べてくれた人々のほうだった。
    あの時代の人々の器の大きさ、優しさに触れられたことのほうが、むしろ収穫だったな。

    翻訳家として偉業をなしたことは事実だが
    人間としては時代ゆえの理不尽さによる僅かな同情以外には
    好きにはなれなかった。



    奇しくも、これを読んでいる最中にオウムの逃走犯二人が捕まった。
    高野長英は6年半。
    彼らは17年。

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    2012年06月23日
  • 冬の鷹

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    1774年(安永3年)8月、 オランダの医学書の訳本「解体新書」が出来上がった。 しかし、この本には後に我々が常識のように知っている前野良沢の名前は無い。前野良沢が訳者に自らの名を出すのを拒否したからである。杉田玄白、中川淳庵、桂川甫周との共同作業の中で1番オランダ語に通じていたのは前野良沢だった。しかし彼は「未完訳稿ともいうべきものを出版すること自体が、私の意に反する」と云う。いや、不完全でも医学の進歩のために早く出版するべきだ、と云うのが杉田玄白の考えだった。つまり、2人はたまたま志を同じくして大事業を成したが、性格は正反対だったのである。

    吉村昭はあとがきで、「良沢も玄白も同時代人とし

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    2012年06月21日
  • 長英逃亡(上)

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    蛮社の獄で捕らえられた開国論者、という予備知識しかなかった。
    この弾圧が理不尽なものだったのは理解できる。
    高野長英というひとが、蘭学を本当に頑張って、その道の第一人者であったのもわかる。
    頑張って勉強して一人前の学者になって国のために働くつもりがこんな目に遭って
    逃げ出したかった気持ちは、わからないではない。

    ただ、他に方法がなかったのかもしれないが
    彼のやり方は事有るごとに誰かを巻き込みすぎる。

    逃げろ、がんばれ、と思う気持ちの裏で
    巻き込まれ多かれ少なかれ犠牲になった人々のことを思ってしまうと
    彼の道行きを100%応援することがどうしてもできない。

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    2012年06月20日
  • 海の史劇

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    日本海海戦(日露戦争)を描いた歴史小説。「坂の上の雲」とは歴史の描写方法、スコープが異なるので重複感は全くないし、比較をしながら読むと却って興味深い。
    吉村昭のアプローチは史実を淡々と描写する手法であり、それ故に生々しさがより迫ってくる。また、登場人物への私情もないので、より客観的な人物像を知ることができる。
    日本海海戦がメインではあるが、それに深く関係することとして203高地攻略も登場する。
    「坂の上の雲」と比較すると、
    ・秋山兄弟が殆ど(全く?)登場しない!
    ・ポーツマス条約の小村寿太郎等の交渉状況も含まれている。ただ、これは「ポーツマスの旗」(吉村昭著)を読むと更によい。
    ・捕虜となった

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    2012年06月17日
  • ふぉん・しいほるとの娘(上)

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    遊女として長崎の出島に出入りしシーボルトの子を産んだ其扇(ソノギ)さん。
    幕府の政策やら時代背景の記述とともに物語は続いていくのだけど、その部分は飛ばしてソノギさんの部分だけ読みたくなってしまう。
    どういう時代に生きた人たちであるかがわからないと本当の理解は得られないだろうから仕方ないと思うけど。

    本書の主人公・シーボルトの娘イネは本書の後半まで赤ちゃんなのだけど、ようやく終盤になって四国・卯之町の二宮敬作のところに学問をしに行く。おお、やっと面白くなってきた!というところで後編へ。
    しかしまー長編だね、これ。

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    2012年05月17日
  • 大本営が震えた日

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    昭和16年12月1日、台北から飛び立った旅客機(上海号)が仙頭上空で通信を絶つ。これには開戦の指示書が持ち込まれており、敵に渡れば今後の戦局に大きく揺るがすものとなる。大本営は必死に捜索するが敵に渡ったかどうか判明しない。同時にハワイ奇襲攻撃の艦隊も千島列島の択捉島、単冠湾に大艦隊が集結。これも秘密裏にハワイ、真珠湾を目指す。またマレー半島を落とすべく陸上舞台はも秘密裏にマレー半島を目指す。いずれも薄氷を履むが如く進んでいく。日本に先に手を出させるべく、アメリカも日本を追い詰めてくる。

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    2012年04月13日
  • 桜田門外ノ変(上)

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    偕楽園に梅を見に行ったとき、ロケセットを訪ねた。資料を見ながら、原作を読みたいと思いリクエストした本 安政の大獄を起こした伊井直弼を襲撃した水戸脱藩士の関鉄之助を中心に描いた本 桜田門外の変から明治維新までわずかに8年であることに驚きを感じた

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    2012年04月07日
  • 長英逃亡(上)

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    高野長英が政治犯として牢獄に入るところから小説は始まる。
    牢獄内での凄惨な生活、その後との脱獄と逃亡生活。読む者の心も締め付ける程の描写。自分が他人から追われているような錯覚。
    この『逃げる』ことの心理描写は、吉村昭の得意とするところで、「桜田門外の変」、「彰義隊」でも存分に堪能できる。
    下巻が楽しみだ。

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    2012年02月24日
  • ふぉん・しいほるとの娘(上)

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    日本がもっとも変わる時代に、長崎の出島は輝いた場所だった。シーボルト、出島、西洋医学。当時の日本人の世界を知りたいエネルギー、新しい医学への情熱は、すばらしい! オランダ人と日本人はこのころ出会っていたんですね。

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    2012年01月28日
  • 暁の旅人

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    司馬遼太郎の「胡蝶の夢」は自分の理想を強引に推し進めるため、古い制度を破壊するエネルギッシュな良順なのに対して、吉村の描く良順は幕藩体制の組織の一員が少しづつ改革を行う、等身大で身近な人物として描いている。歴史小説と評伝の違いか。

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    2013年06月16日
  • 長英逃亡(下)

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    奇しくも、オウム逃走犯平田が自首してきたタイミングと近い。もっとも、長英は捉えられてすぐさま殺されたのであるが。
    それにしても人望が厚かったのと、類まれなる才能を持っていたのは間違いないようだ。

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    2012年01月09日
  • 仮釈放

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    贖罪ってなんだろう。
    仮釈放の制度に疑問をもって書かれたのかなぁ。
    なんとなくですが、吉村氏は殺人という罪をとても憎んでいるような
    イメージがあります。

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    2011年12月25日
  • ふぉん・しいほるとの娘(下)

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    幕末から明治にかけての混乱期、男たち、女たちの生き様がリアルに描かれている。
    シーボルトの孫、高の「つくづく男運のない女」というのが印象的だった。その後の彼ら彼女らの未来に栄光があったことを心より祈る。

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    2011年12月14日
  • 冷い夏、熱い夏

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    ネタバレ

    本当はハードカバーで読んだんですが,こちらにレビュー。
    文庫版も解説読みたいなあ。

    吉村昭さんの弟さんが肺癌に侵され,亡くなるまでを描いたノンフィクション。

    辛いですね。読みながら何度も涙ぐみました。
    これは身内や親類を癌などの病魔で亡くした人にとって,色々なことを想起させるきっかけになる本です。
    私は祖母が癌で亡くなった時のことを思い出しながら読みました。

    吉村さんと弟さんのつながりの深さや愛情が感じられました。時折元気だったときの弟さんの回想が入るんですが,それが病気の描写よりも切ないです。

    弟さんの心臓が強いことが,命を存えさせるのに役に立った,との記載があり,私の祖母は心臓が弱

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    2011年12月10日
  • 磔

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    克明な記録に近い内容。普通の作家のように作中人物の心理描写はほとんどないながら、その場に居合わせて記録したかのように深く書きとめられている作家の技量はすごいと思う。

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    2011年12月09日
  • ふぉん・しいほるとの娘(上)

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    母国を思うあまり国禁を犯し、追放となった点は致し方ないと思えるが、当時の日本へ医学を惜しみなく伝承した点、また、遊女であっても深い愛情に溢れていた点はシーボルトに好感が持てる。対して、当時の日本には悲しい現実が多々あったものだと思わされる。娘の稲の今後に期待し下巻へ。

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    2011年11月30日
  • 光る壁画

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    ネタバレ

    戦後の日本で初めて胃カメラを発明した人達の話。

    胃カメラが日本で発明されたということは知りませんでした。
    技術開発者たちのロマンと情熱の長編でした。

    何かを発明する,やり遂げるということは,こういう事か!と思わされました。

    この本を読んで,私が思うに,まず柔軟な思考を持つこと。胃カメラを開発するに当たって,車のランプとか,自転車のチューブとか,コンドームなんかが出てきます。色んなものを先入観にとらわれず試してみること。大切です。
    そして素朴な疑問や思いつきを大切にすること。どんなに素朴で,人が聞いたら笑うかもしれない,と思うようなことでも,そこに問題解決の糸口が隠されているかもしれない。

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    2011年11月23日
  • 脱出

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    ネタバレ

    終戦という転換期を様々な場所で,かたちで,生きた人々の短編集。

    全体として,たとえば燃え尽きた都会で玉音放送を聞いて・・・という感じではなく,どちらかというとあまり戦争らしい戦争を経験しないで終戦を迎えて,時代の急激な移り変わりを虚ろな目で見つめる,と言った感じ。
    終戦と一言に言っても,色々な終戦があったのだなと思わされました。

    「脱出」「焔髪」「鯛の島」「他人の城」「珊瑚礁」の五編が収録されているのですが,私の印象に残ったのは「他人の城」と「珊瑚礁」。もちろん他の作品もとてもよかったですが。

    「他人の城」は,沖縄からの学童疎開船「対馬丸」に乗船していた中学生の話。
    学童疎開船である対馬

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    2011年11月23日
  • 漂流記の魅力

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    「漂流」や「大黒屋光太夫」など漂流をテーマにした小説で知られる著者が幕末の漂流の中でも比較的知られていない1793年の若宮丸乗組員の漂流から日本への帰還までをとりあげる。
    天候不良による遭難とロシア領内への漂着、ペテルブルグを経て南米大陸南端をまわって長崎までの帰還という日本人初の「世界一周の旅」は興味深い。小説作中では事実描写に徹し滅多に持論を語ることのなかった著者が「(江戸期の漂流記録は)日本独自の海洋文学である」と熱く語るのも強い印象を残す。

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    2011年10月31日