吉村昭のレビュー一覧
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神奈川県を舞台とした小説の一つとして。
タイトルの通り、幕末の大きな事件の一つである「生麦事件」を扱った歴史小説です。
作者の吉村昭は『羆嵐』などで有名ですが、史実に基づいた精緻な描写がこの作品でも展開されています。
幕府や薩摩藩の対応を批判するのでもなく、かといって賛美するのでもなく、冷静な視点から描かれており、戦闘描写・外交交渉の様子などもとてもリアルに感じます。
特に、事件についての久光の主張「生麦村の事件については、家臣が外国人に斬りつけたのはやむを得ぬことと久光はその行為を是認していた。大名行列は、班の威信をしめすもので、藩士たちは身なりを整え、定められた順序に従って整然とした列を -
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ゴールデンカムイという漫画に影響され、網走旅行中に購入。
明治維新後、国事犯や民権運動により囚人が牢獄に収まらなくなった。またソ連南下の脅威を感じている日本政府。そこで囚人たちに北海道開拓をさせることに。「苦役に絶えず死ねば国の出費も減る」とのこと積極的に囚人が送られた。
現地の労働は超極寒の中、履物や手袋、食料までもが十分に支給されず命を落としていく。北海道に囚人が送られることは死と同義と言っても過言ではなく、自暴自棄になり脱獄を試みる囚人も多数。
旭川から網走に道を一本作るのが一番過酷だったよう。交通網が国力に直結するのは理解できるが、国のために命を落としていく囚人を思うとやるせなく -
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太平洋戦争末期の日本を、少年の目を通じて描いた5篇からなる短篇集。舞台となっているのは、樺太、瀬戸内海、沖縄、サイパンなど、辺境の地である。これまで戦争とは縁がなかった地域が突然、最前線となり、日常と戦争との境目が極めて曖昧で紙一重である状況が描かれている。普通の生活を送っていて、突然戦争の影がそこに忍び寄っても誰もがそれを目の前に迫る来る現実的な危機とは捉えることが出来ずにいる様がそこにはあった。そして、自分や家族がどのようにするかという判断のほんの少しの些細な差が、生と死を分ける無情な結果がその先に待っているのである。戦争と日常が背中合わせである中、誰もがそれを現実として受け止められないま
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黒船の来航してからというもの、どうも弱腰を隠せない徳川幕府は
鎖国にこだわる朝廷をなだめるのでずっと手一杯だった
その間
新しい日本の主導権を握ろうと、野望を燃やす薩摩・長州は
勝手にイギリスと組み、近代的な軍事力を得て
大政奉還・王政復古を成し遂げたあとにも飽きたらず
旧幕府殲滅計画を着々とすすめていた
そんな薩長を、朝廷も支持したというのは要するに
強いものになびいただけの話
…というのでもなくて
婚約者を将軍に奪われた人の私怨が大きく絡んでいたらしいのだが
いずれにせよ朝廷が
現実の武力に対してなすすべのなかったことに変わりはなかった
しかしそれでも…いや、だからこそ
旧幕府派の志士たち