吉村昭のレビュー一覧

  • 漂流記の魅力

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    記録文学・小説ではなく新書として著者の作品を読むのは新鮮。同じ島国であるにも関わらず、イギリスに多く日本にはない海洋小説の背景分析と、自らの力ではないが日本最古の世界一周録を紹介する内容。漂流に至るプロセスやその対処法、その後の顛末などに触れており、海や異国の地の過酷さを追体験できる。他の漂流小説を読んでから手に取るべき作品。

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    2020年01月01日
  • 生麦事件(上)

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    神奈川県を舞台とした小説の一つとして。
    タイトルの通り、幕末の大きな事件の一つである「生麦事件」を扱った歴史小説です。
    作者の吉村昭は『羆嵐』などで有名ですが、史実に基づいた精緻な描写がこの作品でも展開されています。

    幕府や薩摩藩の対応を批判するのでもなく、かといって賛美するのでもなく、冷静な視点から描かれており、戦闘描写・外交交渉の様子などもとてもリアルに感じます。
    特に、事件についての久光の主張「生麦村の事件については、家臣が外国人に斬りつけたのはやむを得ぬことと久光はその行為を是認していた。大名行列は、班の威信をしめすもので、藩士たちは身なりを整え、定められた順序に従って整然とした列を

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    2019年10月21日
  • わたしの普段着

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    著作の裏話が興味深い。締切は必ず守る、身体が原因で大学中退、史実は正確を期する。語り部が加齢で減ってきて、戦争小説は見限り歴史小説に目を移した。真面目で几帳面な人だったのだろう。2019.9.3

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    2019年09月03日
  • 新装版 赤い人

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    ゴールデンカムイという漫画に影響され、網走旅行中に購入。

    明治維新後、国事犯や民権運動により囚人が牢獄に収まらなくなった。またソ連南下の脅威を感じている日本政府。そこで囚人たちに北海道開拓をさせることに。「苦役に絶えず死ねば国の出費も減る」とのこと積極的に囚人が送られた。

    現地の労働は超極寒の中、履物や手袋、食料までもが十分に支給されず命を落としていく。北海道に囚人が送られることは死と同義と言っても過言ではなく、自暴自棄になり脱獄を試みる囚人も多数。

    旭川から網走に道を一本作るのが一番過酷だったよう。交通網が国力に直結するのは理解できるが、国のために命を落としていく囚人を思うとやるせなく

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    2019年08月17日
  • 死顔

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    吉村昭、遺作短編集。
    吉村昭の死を見つめる、真摯な姿勢がよく分かる作品。
    自らの死期を悟っても、うろたえない姿が目に浮かぶ。
    作家で、夫人の津村節子による「遺作について」も、吉村昭のひととなりがよく分かった。

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    2019年05月24日
  • 逃亡

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    少年兵の脱走をテーマにした小説。逃亡劇をドラマチックに描いた作品。太平洋戦争下の日本で自ら起こした数々の事件を主人公目線で描いている。

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    2019年03月21日
  • 星への旅

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    戦艦武蔵とは全く異なる死をテーマにした短編小説。不思議かつ不気味な作品が多い。細かなディテールの描写や独特の視点、詩的な表現はさすが。文学的価値は高いかもしれないが、好みで言うと好きな小説ではない。完全に好き嫌いの問題。

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    2019年01月27日
  • 星への旅

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    標題作以外にも秀逸な短編が収められた納得の一冊。
    特に「少女架刑」での死者の視点で語られる物質的な死と存在価値(霊的苦痛)、対となる「透明標本」での生きがいを持ちながらも無能となっていく人としての社会的な死への道程に立ち会うがごとき感覚に陥った。
    この時代の文章(というか著者の特徴)は安心して読むことができる...。別の意味でハラハラしなくて良い。

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    2018年12月30日
  • 脱出

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    太平洋戦争末期の日本を、少年の目を通じて描いた5篇からなる短篇集。舞台となっているのは、樺太、瀬戸内海、沖縄、サイパンなど、辺境の地である。これまで戦争とは縁がなかった地域が突然、最前線となり、日常と戦争との境目が極めて曖昧で紙一重である状況が描かれている。普通の生活を送っていて、突然戦争の影がそこに忍び寄っても誰もがそれを目の前に迫る来る現実的な危機とは捉えることが出来ずにいる様がそこにはあった。そして、自分や家族がどのようにするかという判断のほんの少しの些細な差が、生と死を分ける無情な結果がその先に待っているのである。戦争と日常が背中合わせである中、誰もがそれを現実として受け止められないま

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    2018年10月08日
  • 天に遊ぶ

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    原稿用紙10枚(4000字?)以内の珠玉の短編集。
    ここまで短いのに、物語が成立していて、うならされたりちょっとほろ苦かったり。
    名人芸ですね。

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    2018年09月18日
  • 総員起シ

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    「海の柩」は次々と流されてくる兵隊の水死体、という状況からして恐ろしいのですが、それらに共通するある特徴の理由がわかった時、あまりの殺生ぶりに戦慄せずにはいられませんでした。「総員起シ」は潜水艦サルベージのドキュメントとして非常に興味深い話でした。せっかく戦争を生き残ったのに、9年後に引き揚げられた潜水艦のメタンガスで死んでしまった三名の元海軍技術士官が不憫でならない。

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    2018年09月16日
  • 高熱隧道

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    ネタバレ

    昭和10年頃黒部渓谷上流の仙人谷から下流の阿曽原谷付近の水路・軌道トンネルの掘削について、工事過程をベースに描かれた物語。阿曽原谷側から掘削を進めるにつれて上昇する岩盤温度。熱気。冬季も作業を進めるために起こる、谷での雪崩。全工区での死者が300名超のところ、佐川組請負工区で230名。非常に厳しい環境でトンネル工事が進む様子が叙述的に描かれている。
    いっそトンネルなど開通してほしくなかった。

    とは言いつつ、いつか水平歩道と下ノ廊下を歩きたいと思う。

    三ノ輪の吉村昭記念館オススメ。

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    2024年05月29日
  • 闇を裂く道

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    大正七年四月一日起工。
    昭和九年三月十日完成。
    十五年十一ヵ月、延べ二百五十万人の作業員によって完成した丹那トンネル。
    当初の甘い予測を遥かに上回る難工事。
    付近の住民の非難。
    自然災害。
    それらを乗り越えて作り上げた大傑作”丹那トンネル”
    著者の『高熱隧道』と共に読むと熱いトンネル屋の魂が感じられる。

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    2018年05月27日
  • 星への旅

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    死を題材にした短編集。
    吉村昭の記録小説以外の物語を読むのは初めてだった。
    記録小説で見せる重厚感無く、ひたすらに儚げでロマンティシズム。
    少し、肩透かしを食らったような感じがした。

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    2018年04月11日
  • 熊撃ち

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    色んな人間がいるように、色んな熊撃ちがある。それぞれの熊撃ち。背景は勿論、心理状態も違う。よく描写されており、読者としておそるおそる参加してみた。それぞれのケースに熊撃ちという言葉に括ることが出来ない独自性と共通性を見出すことができた。

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    2018年03月23日
  • 生麦事件(下)

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    生麦事件が冒頭に始まり、その余波を描いていくストーリー。
    途中タイトルは薩英戦争のほうがいいのではと思ったが、発端は生麦事件にあるだろうなと。
    教科書では字面しか出てこないが、重要であった。
    薩摩の徹底的な抵抗姿勢がなければ日本は中国のようになり、植民地になっていたのはたしか。
    賛否両論はあるが、日本に薩摩のような藩があってよかった。

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    2018年03月17日
  • 彰義隊

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    黒船の来航してからというもの、どうも弱腰を隠せない徳川幕府は
    鎖国にこだわる朝廷をなだめるのでずっと手一杯だった
    その間
    新しい日本の主導権を握ろうと、野望を燃やす薩摩・長州は
    勝手にイギリスと組み、近代的な軍事力を得て
    大政奉還・王政復古を成し遂げたあとにも飽きたらず
    旧幕府殲滅計画を着々とすすめていた
    そんな薩長を、朝廷も支持したというのは要するに
    強いものになびいただけの話
    …というのでもなくて
    婚約者を将軍に奪われた人の私怨が大きく絡んでいたらしいのだが
    いずれにせよ朝廷が
    現実の武力に対してなすすべのなかったことに変わりはなかった
    しかしそれでも…いや、だからこそ
    旧幕府派の志士たち

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    2018年02月11日
  • 海軍乙事件

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    太平洋戦争などにまつわる事件や逸話を作者が丹念に取材し、まるで論文のように書いていく作品。
    海軍Z作品が米軍の手に渡り、そのことをさとられないように、潜水艦で日本軍に返し・・・というところで、もしやと思ったが、この話が栄光なき凱旋の元ネタかと繋がった。
    さらっと書いてあるが史実としては実際にあの日系人二人が返したのだろうか。ちょっと調べてみる必要がありそうである。
    読書は続けているとぱっと繋がる瞬間がたまに訪れるのである。

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    2017年11月26日
  • 東京の戦争

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    戦時戦後の人々の様子がわかる。作者は比較的裕福な家庭だったからか本人の性格もあるのか戦争というものにをどこか達観しているように思う。それは彼の兄弟、親が次々に亡くなっていき死が生きるなかで自然なこととして受け入れていたからなのだろうか。

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    2017年11月24日
  • 彰義隊

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    上野合戦をメインにおくと思いきや、彰義隊が出て来たのは冒頭及び中盤辺りまでで、ほとんどが輪王寺宮の話という予想外の展開になっていた。史実に基づいているため淡々としていて面白みはないが、勉強にはなる。

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    2017年11月24日