あらすじ
かつて電車で目にした、席を譲られた老紳士の優美な仕種。我が家に家出娘を迎えに来た父親が農村の事情を語る言葉の奥深さ。結核による死を覚悟した頃を思えば感じる、今この時に生きる幸せ――。気取らず、気負わず、殊更には憂いを唱えず。いつも心に普段着を着て、本当に知った人生の滋味だけを悠悠閑閑と綴ってゆく。静かなる気骨の人、吉村昭の穏やかな声が聞こえるエッセイ集。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
「あの学生は小説を読みふけり、それで頭がおかしくなって自殺した。小説などは読むものではない」言い放った父から商人の気質がないと落胆された吉村氏は、「生きる道は異なっていても、真摯に一筋の道を生きた商人の父の仕方は、わたしの道にも通じている。商いに徹していた父が、わたしの師表とするものに思えてもいる」と静かに文を結ぶ。奇をてらわずストイックで誠実さに満ちながらも、どこか可笑しさと悲しみの混じったテキストの数々にしみじみ感動する。
Posted by ブクログ
これまで読んだ作品のエピソードが満載!!興味深かった。つくづく私はこの作家さんが大好きだなぁと思う。日常のなんでもない出来事を素敵なことのように文章に残す。氏のブログのような本です。
Posted by ブクログ
静かなる気骨の人、吉村昭の穏やかな声が聞こえるエッセイ集。(親本は平成17年刊、平成20年文庫化)
ⅰ 日々を暮らす
ⅱ 筆を執る
ⅲ 人と触れ合う
ⅳ 旅に遊ぶ
ⅴ 時を歴る
著者は、史伝小説の作者である。小説の中で自分を出すということが無い分、エッセイでは、人柄が溢れている。「資料の処分」は、死後のことを考え、不要となった資料を処分する話であるが、氏の考えは考えとして、もったいなく思った。小説家にとって、小説を書いてしまえば、無用の長物というのは分かるが、何が元ネタなのか、追跡が可能な方が後世のためだと思う。(とはいえ、一個人にそこまで求める事は酷であるが)
「小説に書けない史料」の話も面白い。江戸時代の飯田藩で、初めて火炙りを行った時の史料を巡るエピソードである。罪人を固定した縄が切れて、失敗しやり直したお話であるが、衆人環視のなか「大いに体裁悪かりしと」と記録を綴った役人の心境はいかばかりであったろうか。
Posted by ブクログ
著作の裏話が興味深い。締切は必ず守る、身体が原因で大学中退、史実は正確を期する。語り部が加齢で減ってきて、戦争小説は見限り歴史小説に目を移した。真面目で几帳面な人だったのだろう。2019.9.3