あらすじ
見合いの席、美しくつつましい女性に男は魅せられた。ふたりの交際をあたたかく見守る周囲をよそに、男は彼女との結婚に踏みきれない胸中を語りはじめる。男は、独り暮らしの彼女の居宅に招かれたのだった。しかし、そこで彼が目撃したものは……(「同居」)。日常生活の劇的な一瞬を切り取ることで、言葉には出来ない微妙な人間心理を浮き彫りにする、まさに名人芸の掌編小説21編。
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一編がわずか8ページほど。10分で読める短いお話ばかり。どれもたいへん興味深く、強く胸に迫り、何とも言えない、しみじみとした気持ちが残る。
明治時代の大津事件の犯人の子孫を取材したときの、こぼれ話。とても興味深く読み、さいごは涙がこぼれた。
作家の葬式にあらわれる香典泥棒ばあさんの話。ちょっとホッとする。
著者の遠い親戚を襲った過去の悲劇。哀れでしみじみ。
下町の近所のひとびとの思い出。
犬と人間の絆。生命の重さ。
妻子を捨てて年上の女に走った、作家志望の男の末路。
などなど、多種多様な人びとの、生々しい人生模様にお腹いっぱい、胸もいっぱいになった。
フィクションの体裁だけれど、実際にあったことをもとにしているのは著者の長編と同じと思われます。短かくても切れ味バツグン、胸を殴られるよう。短いからこそ、書かれてないことを想像してしまい、余韻が深まるのかも。
吉村昭は、短編も、凄い。
Posted by ブクログ
見合いの席、美しくつつましい女性に男は魅せられた。ふたりの交際をあたたかく見守る周囲をよそに、男は彼女との結婚に踏みきれない胸中を語りはじめる。男は、独り暮らしの彼女の居宅に招かれたのだった。しかし、そこで彼が目撃したものは……(「同居」)。日常生活の劇的な一瞬を切り取ることで、言葉には出来ない微妙な人間心理を浮き彫りにする、まさに名人芸の掌編小説21編。(裏表紙)
小説だけじゃなく、著者の取材紀行や過去の話など、わりとヴァラエティに富んでいる短編集。
久しぶりに読んだけど、やっぱり面白い。未読の諸々を探したくなってきた。
Posted by ブクログ
吉村昭『天に遊ぶ』新潮文庫。
吉村昭の21編を収録した掌編集。今どき文庫本で490円という価格はかなり珍しい。
普通に生きる市井の人びとの様々な人生の場面を切り取り、背後にある過去と後悔をも描写してみせた味わい深い掌編が並ぶ。
『鰭紙』。南部藩の庄屋だった家で見付かった古文書にはかつての飢饉の様子が描かれていた。明らかにしなくともよい歴史もある。
『同居』。上手く行くと思われた縁談だったが、まさかの理由で破談に終わりそう。
『頭蓋骨』。取材で北海道の漁師町を訪れた小説家は帰り道に思わぬ雨に途方に暮れる……
『香奠袋』。頻繁に文壇の著名人の葬儀に姿を現す老女は香奠婆さんと呼ばれ、香典泥棒を疑われる。
『お妾さん』。空襲の夜に見た孤独さを滲ませるお妾さんの姿。ひと昔前はお妾さんというのは当たり前のように居たように思う。
『梅毒』。梅毒を患っていたと思われた水戸脱藩士の関鉄之介の日記を読み解くと……
『西瓜』。離婚した元妻に突然呼び出された男の罪と戸惑い。
『読経』。父親の葬儀で三十数年ぶりに再会した親戚の男に過去の記憶が甦る。
『サーベル』。明治二十四年の大津事件でロシア皇太子をサーベルで斬り付け、国賊と呼ばれた津田巡査の末裔の百年に及ぶ苦悩。
『居間』。伯父の訃報を知らされた伯母の反応に自らの夫婦生活を重ね合わせ、振り返る主人公。ちょっとしたイヤミスだ。
『刑事部屋』。友人宅の強盗事件で、警察に呼ばれた主人公は……
『自殺 ー獣医 (その一)』。肺癌を患い、余命幾ばくもない犬が……
『心中 ー獣医 (その二)』。珍しい連作掌編。老女が犬と共に心中するが……
『鯉のぼり』。戦時中。紺屋を営む祖父と二人で暮らす少年が交通事故で死亡する。空襲の最中にも空に翻る鯉のぼり。
『芸術家』。温泉地でスナックを営む四十歳過ぎの女性は街に現れた小説家を名乗る男と財産を全て処分し、失踪する。やがて、岩手県の温泉地で女性は見付かるが……
『カフェー』。友人が勧めてくれた敷島という煙草で思い出した過去の記憶。
『鶴』。かつての同人誌仲間の死に際し……
『紅葉』。山中の温泉宿で長期逗留していた友人の話。友人の隣部屋に泊まった男女の正体に……
『偽刑事』。八丈島を取材で訪れた小説家は刑事と間違われるが……
『観覧車』。束の間の父娘の時間。浮気を繰り返す男に愛想を尽かし、実家に帰った母娘。余りに酷い男の身勝手さ。
『聖歌』。教会葬となった姉の葬儀にかつての姉の恋人が現れるが……
本体価格490円
★★★★
Posted by ブクログ
・ごく短い短編が20篇ほど。これ以上短かったら小説として成立しないだろうなーってくらいの短編。いくつかドキッとさせられるものがあってうまいなーと感心しながら読んだ。
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吉村昭の短編小説。
短編も短編、原稿用紙10枚分ぐらいの短編。
でも、そのたった10枚の中に人間の姿、心の動きが描かれていて、不思議な気分。
日常の一部分を切り取って貼ったような。注意して見ていなければ、あっという間に見過ごされてしまうような感じ。
読んでいた間は、楽しかったはずなのに、あまりに高速に過ぎてしまったから、あとからどれが面白かったかな・・・と思い返すと、ページをもう一度開かなければ解らない感じです。
強いて、印象に残ったものを挙げるならば、吉村氏が始めて挑戦したという激短編である、「観覧車」、また、なんとなく薄気味悪くて、想像できてしまう「同居」。
観覧車は、男のしょうもなさが如実に表されていて、「なんてしょうもない男なんだ」と思わず溜息を漏らしてしまうような作品。笑
でもその不快感が逆に印象に残ったのかなあと思います。これだけ短いと、感情が揺さぶられるに至らないので。
「同居」は、現代の女性にもこういう人居そうだなーとありありと想像できました。単なる寂しさの慰みとしてのペットじゃなく、最早同居人にしか見えない犬。そんな犬を飼う女性に対して、結婚を思い止まる男性。
吉村昭氏は日常の片鱗を切り取るのが本当にうまい。
自分が普通だと思っている日常も、他人から見ると奇妙に映るかもしれないんですが、普段はそんな境界線を意識することはないと思います。
その境界線を明確にして、切り取って、提示しているかのような珠玉の短編集でした。
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少なめなエッセイと短編小説の薄い本
実家に犬がいるだけ私としては、「飼い犬が癌になった話」が印象深いかったです。
コンパクトながら、リアリティのある作品でした。
但し、初めて吉村昭を読む人に対しては、短編だけの吉村昭じゃないよ。本当の良さは、緻密な資料に基づく小説です。といいたくなる程の良い作品。
Posted by ブクログ
平瀬は犬が好き嫌い言う問題ではなく、綾子がその犬とあたかも一体化したように生活していることに、深い戸惑いを覚えている
無言で自分を見下している警察官の眼の光に、私は不審者として疑われているのを感じた
私は、気持ちの赴くままに10枚を限度にした短編を書き続け、十枚以下のものも書いた
ここに収録された二十一篇には、男女の不可思議な邂逅、夫婦や家族の絆、友人とのつながり、などなど、様々な人間関係が開かれていて、それを通して人生の断面を垣間見ることができる
Posted by ブクログ
21編の小さな小さな短編集。
『はて、それから⁇』と戸惑う物語も多い中、一つ一つに共感できる人間臭さ。日本人らしさ。
そして人生は『はて、あれからどうなったのだろう』と思う出来事がいつの間にか流れ続けているものなのかもしれないと感じた。
Posted by ブクログ
原稿用紙10枚(4000字?)以内の珠玉の短編集。
ここまで短いのに、物語が成立していて、うならされたりちょっとほろ苦かったり。
名人芸ですね。