吉村昭のレビュー一覧
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烈震、大火、突風、津波、伝染病…ありとあらゆる脅威が一気に首都圏を襲った巨大地震、その凄まじい惨状の記録。流言による虐殺の横行はその時代の空気を感じさせるが、実は人心が一番怖かったりする。地震対策も情報化もはるかに進んでいるとはいえ、現在東京の人口は当時の 3 倍以上。ネットによるデマ拡散のスピードも比較にならない。同レベルの地震が起きたら今度はどんなパニックが起きるのか想像もつかない。大正 12 年はスペイン風邪大流行の数年後、そして98年後の今新型コロナのパンデミック…全く根拠なく、まさかとは思うが、南関東一帯を揺らす大地震がいつ再来してもおかしくないだけの時が流れたのは確か。震源地・相模
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吉村昭×疫病といえば「破船」が印象深いが、「北天の星」「花渡る海」そして「雪の花」は天然痘3部作と呼ばれるらしい。子どもの頃、世界中の歴史的な出来事をカレンダーのように紹介する本で、5月の出来事として、ジェンナーが子どもに牛痘を接種したというエピソードを強烈に覚えていて、それは同じ頃読んだ「ベルばら」でルイ15世が罹った天然痘はメチャメチャ恐ろしいとすり込まれたこともおおきいが、子どもに牛のなにかを植え付けるその本の挿絵の不気味さもあいまって、私の脳裏に刻まれていた。「雪の花」ではその種痘を子供から子供へ移していく様子が描かれる。私の中で勝手に気持ち悪いイメージが肥大化していたが、今、こうして
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ネタバレシーボルト、その妻である其扇(お滝)、その娘イネの話。
シーボルトは、以前読んだ司馬遼太郎の胡蝶の夢で描かれているシーボルトとは少し違う。本書を読むと、シーボルトは日本に純粋に医療を広めにやってきたのではなく、オランダから日本の海防情報などを調べるために来た諜報部員のような位置付けであり、少し残念だった。また、其扇もシーボルトを愛してあるわけではなく、お金が目当てであったということだ。まあ、それもそのはずで、其扇は遊女であり、それを引いたのはシーボルトで、其扇にシーボルトを無理やり好きになれと言ってもそれはこちらの都合良く考えているだけだといわれることはごもっともだ。作品名から、イネの話がメイ