吉村昭のレビュー一覧
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昭和33年から昭和42年にかけて発表された短編6編を収録したもの。
「鉄橋」(昭和33年)
「少女架刑」(昭和34年)
「透明標本」(昭和36年)
「石の微笑」(昭和37年)
「星への旅」(昭和41年)
「白い道」(昭和42年)
の6編である。「死」をテーマにした作品が多い。最初の「鉄橋」や表題作の「星への旅」は自殺がテーマとなっている。
「鉄橋」は死にそうもないプロボクサーが鉄橋で轢死する。自殺か事故か、その謎解きをするサスペンス仕立ての小説だ。
また「少女架刑」は、病死した少女が献体をし、自分の身体の部分部分がそれぞれ切り取られていく様子を、あたかも少女の魂が冷静に観察している。
「 -
Posted by ブクログ
難解。でも読み応えのある一冊。
70年も前のことだし、戦争なんて勢いで始まって勢いで終わるものだと思っていた。でも違ったようだ。
衛星中継もインターネットもない時代でも、人と人との化かし合い、情報戦から戦いは始まっている。それがよく分かる。
ミッドウェーを境に転落を続け、貧すれば鈍するで精神論が先行して破滅の一途を辿ったことは周知のとおりだが、少なくとも開戦に至るまでの過程は多分に運に依拠する部分もあれど緻密に練り上げた一大作戦が実を結んだ戦史上でも空前の出来事だということは伝わった。
ついでに、解説で引用されていた一文にも妙に納得。
「日本の一般市民はそれまで戦争を特に悪いことと考えて -
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第二次世界大戦時、細菌兵器を開発していた関東軍防疫給水部の研究と、その研究者の人間像を描いた歴史記録文学。
軍医の名前や部隊の名称は変えられているみたいです。しかし書かれている実験や研究活動の様子は以前読んだノンフィクションに勝るとも劣らぬ詳細さ。
そして、事実だけを冷徹に感情を挟まずに書く文体も吉村さんらしいです。
そうした感情を挟まない文体だからこそ余計に強く浮かび上がるのは、実験の異常さと残酷さです。
ペスト菌に汚染された大量の蚤の生産のため、体が干からびるまで吸血されるネズミ、より運動能力の高い蚤だけを選別するための作業、
そしてその残酷さや異常さは人間にも向かいます。凍傷 -
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【本の内容】
<上>
若き水主・磯吉の人間臭さのにじみ出た生々しい陳述記録をもとに紡ぎだされた、まったく新しい光太夫たちの漂流譚。
絶望的な状況下にも希望を捨てず、ひたむきに戦いつづけた男の感動の物語。
<下>
十年に及ぶ異国での過酷な日々。
ロシア政府の方針を変更させ、日本への帰国をなし遂げた光太夫の不屈の意志。
吉村歴史文学、不滅の金字塔。
著者渾身の漂流記小説の集大成。
[ 目次 ]
<上>
<下>
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険 -
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幕末の長崎、オランダの医官ポンペから実証的な西洋医学を、日本人として初めて学んだ松本良順。幕府の西洋医学所頭取を務め、新選組に屯所の改築を勧め、会津藩で戦傷者の治療を指南、さらに榎本武揚に蝦夷行きを誘われる。幕末、そして維新の波にもまれながらも、信念を貫いた医家を描く感動の歴史長編。(親本は2005年刊、2008年文庫化)
吉村昭、最晩年の作品。史伝小説のせいか、淡々としている。
この本の良順にはイマイチ、共感を感じない。読んでいて、つまらないということではないが、水を飲んでいるような感じがして、コクとか旨味とか手応えを感じない。あるいは、良い酒は水に近くなるということなのだろうか。史伝小説