吉村昭のレビュー一覧
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太平洋戦争開戦時、日本は12隻の戦艦を保有し、その大半は戦場で沈没しました。最大級の「大和級」に次ぐ「長門級」の2番艦「陸奥」は戦場以外で失われた数少ない戦艦で、「陸奥」は広島県柱島泊地(基地のこと)における爆発事故によって沈没しました。
本書はその爆発事故の原因究明にあたった当時の海軍関係者への取材をもとに、「陸奥」以前にも同じような爆発事故で沈没した艦船のケースにも言及しています。
日本海軍にとって、戦時中に国内基地で主力艦を失うというのは大変ショックな事件でした。発生当時、米軍(潜水艦や航空機)による攻撃、設計上のミス(漏電による火薬引火など)、人為的な問題(規律違反によるミスや、放火)などあらゆる可能性を検証しています。証拠を集めるために沈没した艦内へ過酷な条件下で潜水夫を何度も派遣したり、積載されていた火薬や砲弾の引火、爆発の実験も行われた様子が描かれています。そのような徹底的な調査の結果、最も可能性が高いとされたのが乗員による放火でした。
規律のとれた組織である海軍の、しかも軍艦の艦内で放火などが可能なのかと著者も当初は疑問を抱きますが、「陸奥」以前にも6回もの類似の事故があり、そのほぼ全てが放火、あるいは失火であることが判明します。
軍法会議の記録などを詳細にたどると、昇進が見送られて腹いせにやったケースや、日常の厳しい訓練で上官への恨みが募った挙句に行動に移したケース、艦内での金品の盗みが発覚するのを恐れ証拠隠滅を図ったケースなど、非常に人間臭い動機であることが明らかになっています。
いかに強固な艦船を建造しても、それを運用するのは”人”ですから、職場(この場合は艦船)の人間関係や、メンタルヘルスを維持することの重要性を再認識させられるノンフィクションでした。 -
Posted by ブクログ
烈震、大火、突風、津波、伝染病…ありとあらゆる脅威が一気に首都圏を襲った巨大地震、その凄まじい惨状の記録。流言による虐殺の横行はその時代の空気を感じさせるが、実は人心が一番怖かったりする。地震対策も情報化もはるかに進んでいるとはいえ、現在東京の人口は当時の 3 倍以上。ネットによるデマ拡散のスピードも比較にならない。同レベルの地震が起きたら今度はどんなパニックが起きるのか想像もつかない。大正 12 年はスペイン風邪大流行の数年後、そして98年後の今新型コロナのパンデミック…全く根拠なく、まさかとは思うが、南関東一帯を揺らす大地震がいつ再来してもおかしくないだけの時が流れたのは確か。震源地・相模トラフの間近に住む者として、昔話で済ますことはできない。自分の身は自分で守る!そのときに慌てないよう日頃の備えをしっかりしておこうと改めて思った次第。
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ネタバレシーボルト、その妻である其扇(お滝)、その娘イネの話。
シーボルトは、以前読んだ司馬遼太郎の胡蝶の夢で描かれているシーボルトとは少し違う。本書を読むと、シーボルトは日本に純粋に医療を広めにやってきたのではなく、オランダから日本の海防情報などを調べるために来た諜報部員のような位置付けであり、少し残念だった。また、其扇もシーボルトを愛してあるわけではなく、お金が目当てであったということだ。まあ、それもそのはずで、其扇は遊女であり、それを引いたのはシーボルトで、其扇にシーボルトを無理やり好きになれと言ってもそれはこちらの都合良く考えているだけだといわれることはごもっともだ。作品名から、イネの話がメインかと思いきや、イネは、やっと上巻の3分の1が過ぎてやっと登場した。
イネは聡明で、芯が強く、そして何より美しかった。産科医を目指して学業に打ち込み、やっと一人前になった時期に望みもしない妊娠をしてしまう。産科学を学んでいた師 石井宗謙におかされたのだ。イネの出産は凄まじく、ほぼ自分一人で産み上げたようだ。
イネは、長崎でシーボルトと再会するが、再会時の感動もシーボルトがすぐに召使いの しお を愛人にしたことに不信感を抱き、シーボルトから遠ざかるのだった。シーボルトは日本の医学を飛躍的に向上させ日本人に好意的であったものの、自分の家族への愛情については淡白であり、お滝やイネにはそれは耐えがたいものだった。シーボルトの手記では、お滝が再婚したり、お金をせびるようなことを嫌がったとあるが、これはシーボルトに愛情がなく、しっかりと日本に残された家族のことを考えていなかったことから来るものであることを自覚すべきだと思う。医者とはいえ、当時からすれば、お滝もイネも周りからは相当に肩身の狭い思いや不自由をしたはずで、そこはの思いやりが、シーボルトには足りなかったと思わざるを得ない。
やがてイネの子のタダ、後にタカと改名、が生まれイネも歳を取る。環境はどんどん変わり、関係のあった者は死んでいく。イネも伊篤と名を変え、孫に鳴滝塾の跡地を残して世を終えた。
やはり、著者の小説は、小説というより、歴史書のように物語は進む。登場人物の名も、改名したらそれを使うので統一感に欠け、しんどいこともあった。ただ、司馬遼太郎の花神や胡蝶の夢に出てくるシーボルトやイネ、お滝などの印象も本書を読むと是正され、歴史の正確な理解には役立つものと思う。
全二巻