あらすじ
戦争の本質を直視し、曇りなき冷徹さで描かれた傑作!
大戦末期、関東軍による細菌兵器開発の陰に匿された、戦慄すべき事実とその開発者の人間像を描き、戦争の本質に迫った異色長篇小説。
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Posted by ブクログ
731部隊の歴史的史実の小説でここ迄赤裸々に内容を知ってしまった事実が爆弾級でした。
曾根二郎と言う天才細菌学者が作り出す戦争兵器…
正義とは何か,各々にどう解釈する事が出来るか問われる1冊でした。
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細菌兵器を完成させるための、捕虜に対する人体実験。
戦時下という、特殊な状況が生み出した術なのか。
戦争というものは、ここまでしないといけないのか。
平和な時代に生まれた、自分たちには想像すらできない。
平和な時代に生まれたことを感謝しなければならない。
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淡々とした筆致で、日本史の暗部を描いたノンフィクションに近い小説。
細菌兵器。
命を大切にするという常識的な道徳・倫理感よりも、資源のない日本のために、細菌兵器という科学技術開発に、心血を注いだ天才的な医学者の戦争参加。
日本的な、あまりに日本的な組織の動き方に慄然とした。
細菌兵器の開発から人体実験、そして、敗戦近くになると、証拠隠滅。
関東軍防疫給水部の創設から解散、そして、戦後の関係者の様子までを見事に描いている。
関係する資料などは、関東軍などにより、「徹底的に」破壊・消滅したため、「証拠」はほとんどないが、吉村氏の入念な取材により、ここまで細部まで描くことができたのだろう。
今の若い人のほとんどは、この歴史を知らないのではないだろうか。
読み継がれるべき作品だと思う。
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さすが吉村氏。
北満州、ハルピン南方のその秘密の建物の内部では、おびただしい鼠や蚤が飼育され、ペスト菌やチフス菌、コレラ菌といった強烈な伝染病の細菌が培養されていた。俘虜を使い、人体実験もなされた大戦末期―関東軍による細菌兵器開発の陰に匿された戦慄すべき事実と、その開発者の人間像を描く異色長篇小説。
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これまで吉村昭の小説の中に731部隊に関するものがあることを知らずにいた。この小説が世に出たのは昭和45年頃で「細菌」というタイトルだった。
私が読んだのは4版目で今年の4月に出されたものである。私が最初に731部隊を知ったのは、森村誠一の「悪魔の飽食」(昭和58年)からだったが、その14年前に出ていたことになる。まだ敗戦の記憶が浅い頃である。文中に出てくる個人名の登場人物が少ないことからも分かるが、当時、かなり際どい題材だったに違いない。あらためて、吉村昭の記録文学の凄みを感じる。
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「時代の狂気」というのか、「狂気の時代」というのか、恐るべき企みに「大変に優秀な科学者」が熱中していく様が、何やら怖い…
“曾根二郎”とは、実在の人物をモデルとはしているが、飽くまでも「小説の主人公」である。そして本作は、「具体的な個人名」で語られる劇中人物は“曾根二郎”のみという印象である…そういう文面の雰囲気が、「時代の狂気」とも「狂気の時代」とも言えそうな、「或いは、今からそういうような事態に?」という“迫力”を醸し出している…
今年は戦後70年…こうした「戦中の秘話」に類する題材に触れてみる折なのかもしれない…
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フィクションのようになっているが、ノンフィクションだった。関東軍防疫給水部は731部隊で、曽根二郎は実在の軍医らしい。ペスト菌の蚤を風船に乗せアメリカに飛ばすという発想が怖い、凄い。戦争はやはり異常だ。
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第二次世界大戦中、満州で行われていた捕虜を使った細菌の人体実験や戦争で使用された細菌兵器の製造などが行われてたとされる731部隊(関東軍防疫給水部)について描かれている。京都大学医学部出身の曾根二郎(人物はフィクション)は細菌学者として細菌兵器の開発を満州にて行う。コレラやチフスなどの菌を蚤を使って兵器化し実際に寧波などで使用された。戦時中という倫理観が破綻した状況では人体実験を行うことにさえ正義が掲げられてしまうのはとても恐ろしいことだ。でも戦時中のこういう実験によって科学や医学が進歩している側面もあるんだよな。
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戦中の細菌兵器研究の施設で行われた戦慄の事実。
丸太と呼ばれた人々。
苦しめられ死んでいった人々。
それに従事していた人々。
戦争は、人を人でいられなくする。殺し合い。
知るべき事実がそこにありました。
七三一部隊の本を読んだことがあるけれど、それとはまた違う、吉村昭さんの語り口に一気読み。
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太平洋戦争の際に日本軍部が取り組んでいた細菌兵器を開発していた「731部隊」に関する歴史小説。
吉村昭の作風らしく、事実を淡々と伝えるアプローチで、却って迫ってくる恐怖を感じる。
ナチスの残忍な行為もそうだが、人間が人間性を失っていく、これが「戦争」の狂気、そして愚かなところ。この部隊を率いる石井四郎は、自分の任務、科学の発展のため、という錦の御旗に疑いをもたない。
今を生きる我々にとっては、このような悲劇を風化させない努力が必要なのだろう。
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731部隊を率いた細菌学者曾根二郎(石井四郎)を中心に描いた記録文学。医学者から殺戮者へと変貌を遂げる機縁、構造を淡々とした筆致で綴る。
非人道的な人体実験(かなりエグイ描写)、細菌兵器撒布による虐殺...。戦時中という非常時に現れる狂気に眩暈がする。
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作家買いで、久しぶりに購読。
大東亜戦争と狂気の天才医学者の小説。
命を大切にするという常識的な道徳・倫理感よりも、資源のない日本のために、細菌兵器という科学技術開発に、心血を注いだ天才科学者の戦争参加を描いた作品。
敢えて匿名とした主人公の戦争小説という形態だが、人体実験を犯した731部隊を率いた石井四郎中将を、作者流の丁寧な取材に基づいたノンフィクションと言っても過言ではない。
以前、731部隊を描いた「悪魔の飽食」を読んだことがあるが、比較にならないぐらいに、それを越える史実に近づく優れたノンフィクション。
また、たった248ページで、太平洋戦争前夜から戦後までの社会状況を描ききり、本当名作です。
保坂正康の解説も秀逸。
Posted by ブクログ
太平洋戦争でアメリカの戦力差を痛感した日本軍にとって、最後の切り札が細菌兵器だ。その開発を担った曾根二郎軍医率いる満州の極秘部隊は捕虜を使った人体実験を繰り返し、細菌兵器の実用化に努めていた。
作者は曾根の心情を一切書かず、人体実験という残酷な事実を淡々と述べることに徹し、曾根以外の人物には名前をつけない。こうした文章が曾根の不気味さ、孤独さを強調する。
また、曾根は一軍医でありながら、ただ細菌を作るだけでなく、ノミに寄生させて細菌を運搬する方法や人体実験患者の管理、陶器製の細菌爆弾の発明など、様々なアイデアを生み出しす。現実的な細菌兵器を作るためなら、人道や国際法ルールに違反しようが、彼にとっては関係ない。ただ、戦争に勝つための兵器を作るだけ。そんな無感情な細菌オタクが支配し、決して公にされることのない組織が日本軍にあった。
曾根というのは仮名だろうが、作者は事実を掴んだうえでの作品化なのだろう。
Posted by ブクログ
記録文学の第一人者による史実に基づいたフィクション小説。フィクションと言っても、殆どが史実に基づいており、敢えて実名を挙げなかったのは関係者に配慮してのことだろうか。
日本の歴史上の最大の暗部とも言うべき関東軍防疫給水部の創設から解散するまでを描いている。主人公は陸軍軍医中将・曾根二郎であり、石井四郎がモデルであることは自明である。
関東軍防疫給水部…七三一部隊はハルピン南部でペスト菌、チフス菌、コレラ菌などの細菌を兵器として活用しようと俘虜を使った極悪非道の人体実験を繰り返していたのは多くの日本人が知っていることだろう。本書では主人公の曾根二郎が関東軍防疫給水部を創設するに至った内面的な理由にも迫り、非常に興味深い内容になっている。
Posted by ブクログ
短大生のとき、造形の授業の講師に
おすすめされた一冊。
いや、なんでおすすめしてくれたんだ…?と
思いつつやっと読んだ。
というか、やっと読みきった。
(去年の夏あたりから読んでる笑)
描写が本当にキツい。本当にあってもなくても
そういう考え方を持っている人が少なからずとも
いるんだよね。怖い。
どうしようもない気持ちになる。
腹立つし、悔しいし、悲しい。怒り。
私が4年生まで通っていた小学校は
戦争学習や人権学習に力が入っていて
毎年終戦記念日のあたりに合わせて、夏休みにもかかわらず戦争の授業(自由参加)が設けられていたなぁ。
なんか思い出しちゃった。
その時はまだ、可哀想だな戦争反対!ぐらいにしか
思っていなかったけど、大人になって
そして今の時代になって、この本を読んで
もっと知らなくてはいけない過去があって
そこから学んでいかなくてはいかないことがあるんだなって思えた。反面教師にして。
Posted by ブクログ
第二次世界大戦時、細菌兵器を開発していた関東軍防疫給水部の研究と、その研究者の人間像を描いた歴史記録文学。
軍医の名前や部隊の名称は変えられているみたいです。しかし書かれている実験や研究活動の様子は以前読んだノンフィクションに勝るとも劣らぬ詳細さ。
そして、事実だけを冷徹に感情を挟まずに書く文体も吉村さんらしいです。
そうした感情を挟まない文体だからこそ余計に強く浮かび上がるのは、実験の異常さと残酷さです。
ペスト菌に汚染された大量の蚤の生産のため、体が干からびるまで吸血されるネズミ、より運動能力の高い蚤だけを選別するための作業、
そしてその残酷さや異常さは人間にも向かいます。凍傷の治療研究のため人為的に凍傷にさせられ、ペストに感染させられる捕虜たち、
また軍部は捕虜を”丸太”と呼ぶことからも、捕虜を人間として見ていないことが分かります。
そうした描写の数々は普通の小説以上の凄味にあふれています。
そしてこの部隊の率いる曾祢二郎の人間性もしっかりと描かれています。
自らの待遇や軍の派閥主義に嫌気が差し、先駆者のいない細菌兵器に活路を見出す姿や、すでに死刑が決まっている捕虜の実験だから、と言う理由で自らの実験を正当化し、
研究者としての好奇心を満足させ、ますます狂気の実験にのめりこんでいく様子がとてもリアルに感じられました。
戦後、戦争犯罪人として次々と軍部の人間が逮捕され、関東軍防疫給水部の隊員たちの多くも人体実験に罪の意識を抱くようになります。
そんな中曾祢に関してはそうした罪悪感を抱いている様子が描かれないまま生涯を終えたように読んでいて感じました。そこにあるのは、自分は戦争犯罪人だ、という罪悪感以上に実験による研究者としての満足と誇りがあったのかもしれません。
そして彼の罪を裁かず、研究資料の提供を求めたアメリカの振る舞いから、科学の発展は時にその裏にある罪や犠牲を飲み込んでしまうのかもしれないと思いました。
戦後、罪の意識を感じた隊員たちと曾祢の差と言うものは狂気の正義とそれによる成果を、戦後の正常な世界でも信じることができたのか、という違いだったのか、と思います。