あらすじ
皇族でありながら、戊辰戦争で朝敵となった人物がいた──上野寛永寺山主・輪王寺宮能久親王は、鳥羽伏見での敗戦後、寛永寺で謹慎する徳川慶喜の恭順の意を朝廷に伝えるために奔走する。しかし、彰義隊に守護された宮は朝敵となり、さらには会津、米沢、仙台と諸国を落ちのびる。その数奇な人生を通して描かれる江戸時代の終焉。吉村文学が描いてきた幕末史の掉尾を飾る畢生の長篇。
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鶯谷駅から徒歩10分。現在の地図で見るとさほど広くない。当時の寛永寺のほとんどは上野公園となっている。上野戦争は慶応4年の旧暦5月15日。1日だけで決着がつき、山主の輪王寺宮は逃亡生活に入った。天皇の叔父である皇族が幕府側に立ち朝廷の敵になる。江戸町民への思い。後ろにいる薩長だけの好きなようにさせてはいけない。奥羽列藩同盟は早期に瓦解。無血開城。敗者に対する寛大な措置。比較的穏便に進行したという明治の政権交代。欧米列強の脅威。日本が早期に一つにならなければいけない。そのためにもささやかな抵抗は必要だった。
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輪王寺宮の生涯を通して、明治維新を見る。
徳川方という敗者の視点から見た歴史は、今までの話しとちょっと違って新鮮。
40代で台湾で従軍中に病死というのも切ないものがあるが、その理由は理解できる。
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江戸城無血開城前の動きから戊辰戦争の終結までを描く。タイトルは彰義隊だが上野寛永寺山主・輪王寺宮能久親王を中心に物語は進む。上野戦争の描写も細かい。
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幕末の江戸城明け渡し、彰義隊、奥羽越列藩同盟に関わった輪王寺宮を主人公にし、その生涯を綴った小説。
幕末の人物とその関係とその時代の人々の想いが分かり、おもしろい。
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輪王寺宮の伝記です。上野戦争だけでなく、東北戦争についても知識を得ることができる。吉村昭が得意の「逃げる」描写が映画を見ているような。
一読の価値アリ。
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戊辰戦争で朝敵となった皇族がいた。
二十代前半の若さで、先の見えない中で奔走する宮と彼を守ろうと供をする人々の苦難。
和宮との婚約を破棄させられた有栖川宮熾仁親王の怨念。
日本史を学んでても、ほとんど理解していなかったあたりの歴史を、この機会に学び直すことができた。
幕末に生きた方々のお蔭で今がある。感謝。
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著者の小説は逃亡をテーマにしたものが多いが、本著も輪王寺宮能久親王とその側近の戊辰戦争に沿った逃亡劇となっている。なので、終章とあとがきで振り返って彰義隊の記述がなければ、題名に少し違和感をおぼえる。内容は、主人公の生涯を全うするまでで、相変わらず事実に対する調査の執念を感じる。2020.10.21
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黒船の来航してからというもの、どうも弱腰を隠せない徳川幕府は
鎖国にこだわる朝廷をなだめるのでずっと手一杯だった
その間
新しい日本の主導権を握ろうと、野望を燃やす薩摩・長州は
勝手にイギリスと組み、近代的な軍事力を得て
大政奉還・王政復古を成し遂げたあとにも飽きたらず
旧幕府殲滅計画を着々とすすめていた
そんな薩長を、朝廷も支持したというのは要するに
強いものになびいただけの話
…というのでもなくて
婚約者を将軍に奪われた人の私怨が大きく絡んでいたらしいのだが
いずれにせよ朝廷が
現実の武力に対してなすすべのなかったことに変わりはなかった
しかしそれでも…いや、だからこそ
旧幕府派の志士たちはあくまで尊皇の立場を重んじ
賊臣薩長を打ち倒すという大義名分のもとに結集したのである
それが彰義隊の誕生だった
その頃、徳川家の墓所を守る寛永寺では
皇族出身の、輪王寺宮が山主を勤めていた
徳川と関係が深く、江戸が戦火に包まれることを望まない輪王寺宮は
進入した薩摩武士から治安を守っている彰義隊を
非常に好ましく思っていた
しかし、あくまで江戸の完全支配を目指す新政府は
大村益次郎を擁し、彰義隊壊滅のための戦をしかけた
彰義隊は、寛永寺のある上野東叡山を拠点に抵抗したが
あえなく敗走した
輪王寺宮も、そこを脱出するしかなかった
その際、人目につくことを避けるため
彰義隊隊士からの警護の申し出はすべて断った
例えば、最後まで兵たちと運命を共にした西郷隆盛に比べ
それは冷たい対応だったかもしれない
…などと思う読者がいてもおかしくはないが
貴人だからそういうもの
輪王寺宮に西郷のようなロマンチシズムはなかった
ただ、宮の場合は
私情混じりの動機で他者をひたすら排除しようとする者たちへの怒りが
抵抗の理由になった
その怒りによって彼は武士階級と結びついていた
同じく私情を振り回していることに変わりないとはいえ
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上野合戦をメインにおくと思いきや、彰義隊が出て来たのは冒頭及び中盤辺りまでで、ほとんどが輪王寺宮の話という予想外の展開になっていた。史実に基づいているため淡々としていて面白みはないが、勉強にはなる。
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敗者の美学
解説にも掲載されているように、この作品は吉村昭最後の歴史小説だ。
作者の生誕地に伝わる彰義隊の言い伝えだけでは物語として物足りないので、皇族でありながら朝廷でなく幕府側についた輪王寺宮を主人公にその悲劇の生涯を描くことによって、幕末から明治の流れを描くことが出来たのだという。
勝てば官軍という言葉があるように、歴史では敗者側の扱いが偏っていることが多い。
しかし日本では吉村昭や中村彰彦などの作家だけでなく、白虎隊の悲劇のように敗者側の物語が長い間愛されている。
これこそが他国との国民性の大きな違いであると私は思う。
この作品もそんな良作の一つである。
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激動の時代に巻き込まれた輪王寺宮の後半生に迫る作品でした。心理描写や過剰な演出を極力排した硬派な構成なので、輪王寺宮の人柄が今ひとつ把握できず淡々としているので盛り上がりに欠けるところもあり、ヒロイズムを欲する人には物足りないのでしょうが、幕末史のあまり知られていない面を丁寧に扱っていますので特に幕府側に思い入れのある人なら一読の価値は大きいかと思います。ただ戊辰戦争後の宮の処遇は脱藩大名・林忠崇の話を知っているとかなり好待遇な気がしてなりません。このあたりはやはり皇族と小藩の大名の違いなのでしょうか。
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上野寛永寺山主であった輪王寺宮を中心に据えて描かれる、上野戦争と維新。
筆者の史料を追う姿勢からともすれば出来事の羅列になりかねないところを、主人公の宮があまり主張しない描き方によって逆に、奥ゆかしく静かな目線の持ち主と云う性格で物語が成り立っていると思う。
幕府崩壊から後の宮の生涯を書いている訳ですがタイトルを「彰義隊」としたのは、宮があの日を一生忘れえないものとして抱えていた事に由来するのでは。
Posted by ブクログ
幕末史は倒幕側から読む事が多く彰義隊と言えば、ならず者の集まりのような印象を受けていた。
立場が変われば当然見方も変わり、江戸を守る為に結成され江戸市民からもとても人気があったようでちょっと驚きました。
話は彰義隊より、輪王寺宮の話が中心であり、宮様が左幕側に回った人達の盟主となり時代に翻弄された姿を描いている。