吉村昭のレビュー一覧

  • 脱出

    Posted by ブクログ

    「脱出」「焰髪」「鯛の島」「他人の城」「珊瑚礁」を収録。離島で戦争にあった少年たちの戦争体験記、といったようなもの。
    しかし、単なる体験記にとどまらないのが、吉村昭の作品の見事なところ。
    戦争の影響が比較的少ない場合が多かった離島にありながらも、戦争に段々と巻き込まれていった少年たちの姿が見事に描かれている。

    0
    2013年09月21日
  • 冬の鷹

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    富と名声を無視してでもオランダ語の和訳に対して昏い情熱を燃やし続けた前野良沢と、日本の医学を発展させるために賢しく世を渡って富と名声を手にした杉田玄白。対照的な生き方の二人をターヘル・アナトミアの翻訳という史実を介して、オーバーラップさせて構築した歴史小説。外面描写に徹した文体や冷徹な目線での語りを見るだけでは公平な眼差しで物語を構築しているようにも見えるが、タイトルを見れば、吉村昭氏は前野良沢に対してシンパシーを抱いていたであろうことが想像できる。そんでもって、どうせ人は死んでしまうという虚無感が、この作品の根底にも冷え冷えを横たわっている。これが心地いい。

    0
    2013年09月20日
  • 天狗争乱

    Posted by ブクログ

    桜田門外の変から4年。
    水戸藩では尊王攘夷派が台頭し、横浜から外国人を打ち払おうと挙兵した。
    天狗勢と呼ばれる集団は、水戸で反攘夷派の市川ら門閥はと対立し追放された頼徳軍、武田耕雲斎と合流し、一橋慶喜への望みを抱いて進軍する。

    幕末の波に翻弄されながらも志を高く死んだ天狗勢の生き様を描く。

    0
    2013年09月01日
  • 漂流記の魅力

    Posted by ブクログ

    古本で購入。

    漂流を題材にした小説を6篇書いてきた吉村昭が、「日本独自の海洋文学」である漂流記について語る。
    新書創刊のラインナップにこれを入れてくる新潮社はなかなか渋い。

    イギリスには多くの海洋文学としての小説・詩が生まれた。
    しかし同じ島国の日本には存在しない。それはなぜか。

    理由は船の構造・性格の違いによると、吉村は言う。
    西洋の外洋航海用の大型帆船と違い、日本の船は主に内海航海用だった。一般に「幕府が鎖国を守るために外洋航海のできる船の建造を禁じた」と言われるが、実際はそのような禁令はなかったらしい。日本に外洋航海用船がなかったのは、「必要なかったから」だそうだ。
    物産豊富な日本

    0
    2013年08月31日
  • 東京の戦争

    Posted by ブクログ

    昭和2年生まれの著者が下町で見た戦争下の生活。時刻どおり運行する市電、しかし悲惨な車両。山梨に八王子から乗り継いでぶどうを一人で採りに行った思い出。空襲下で感じていたこと。病気の母を亡くし、電報を駅長に見せて切符を無理矢理売ってもらった話。墓場で見た出征による別れを惜しむ若い男女の逢い引き(セックス)シーン。食糧事情・・・。戦争をこのように日常生活の観点から書いた本は新鮮でしたが、段々このようなことを書くことが出来る作家は減っていくと思うと、貴重な体験談です。

    0
    2013年08月26日
  • 敵討

    Posted by ブクログ

    「敵討」天保の改革の時代に協力者の浪人と父と伯父の敵を追って二人で十数年。漸く見つけた相手は獄中に。このままでは敵討ちが出来ない・・・。この時代に敵討ちがいかに永年、収入もなく、あてもなく捜し回る悲劇。運良く討ち果たした後の二人の叙述もまた悲劇の深さをもの語ります。そして天保時代の政治の影を感じます。「最後の仇討」は明治元年、秋月藩の両親の暗殺を見た10歳の少年がやはり十数年後に判事になった敵を討つまでの苦難の日々と、敵討ち禁止令の施行により殺人罪とされてしまうこれまた悲劇。しかし、明治13年当時は未だ美風とされ、世の中の共感を集めたとの実話。時代の大きな変革に飲みこまれた人々の運命を痛感しま

    0
    2013年08月25日
  • 大本営が震えた日

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    昭和16年12月。戦争を決意してから、ハワイ、マレー作戦を秘密裏に進める日本軍。中国に墜落した飛行機の「作戦計画」回収物語。真珠湾に向かう秘密部隊。マレー半島への輸送船。奇襲に全てを賭けた日本の手に汗を握る緊迫の日々。大本営が震える危機の連続だったようです。日本軍部の薄氷を踏む思いでの開戦を迎える様子がよく分かります。実に詳細な調査の成果です。

    0
    2013年08月25日
  • 三陸海岸大津波

    Posted by ブクログ

    日本でもこれだけ大きな津波を度々経験しているにも関わらず、何と無知だったのかと痛感します。三陸海岸の方言では「よだ」が明治29年(死者26,360人)、昭和8年(死者2,995人)と僅か37年の間の2回も襲った悲惨な経験は驚きでした。そして昭和35年のチリ大地震による津波(死者105人)の損害の大きさにも吃驚です。著者はあくまでも客観的に淡々と前兆から始まる時系列の経過、そして甚大な被害の様子を描いています。そして古文書だけではなく地元のお年寄りへのヒアリング調査の成果です。まるで昨年のニュースをもう一度文章だけで生々しく再現してくれたように思います。チリ地震との関連では過去の南米の地震・津波

    0
    2025年03月31日
  • 背中の勲章

    Posted by ブクログ

    淡々と描かれているからこそ怖い。
    直に人物たちの心情が伝わってくる。不純物がない感じ。

    日本人はこの狂信に陥りやすい。
    これは軍部だとか戦争に限ったことではない。
    災害が起きてもそうだ。いつだって、狂気はそばにいる、戦争だけに注視していたら、繰り返すのだ。

    0
    2013年10月04日
  • 深海の使者

    Posted by ブクログ

    太平洋戦争の戦前、戦中に、同盟国であったドイツに派遣された多数の潜水艦について書かれた作品。
    こういった事実があったということを今まで全く知らなかったので、興味を持って読むことができた。
    ただ、多数の潜水艦が登場しても、潜水艦内部での苦闘などに大差があるわけではないので、この記述はさっきもでてきたなと思う部分がいくつもあった。そのため途中まんねりに感じた部分もあった。
    しかし、こういった普段光が当たらない歴史に、目を向けた作者はすごいと思う。

    0
    2013年08月21日
  • 脱出

    Posted by ブクログ

    淡々としているからこそ、恐ろしい。
    自分だったらどうなるのだろうとつい考える。
    気づけば自分も登場人物たちと同じ時間軸に立ってしまっている。

    0
    2013年08月17日
  • 陸奥爆沈

    Posted by ブクログ

    天一号作戦の大和乗組員の生存率が8%だとすると、陸奥爆沈での生存率10%が如何に異常な数字なのかがわかります。

    戦ってもいないのに爆沈した陸奥は哀しいですが、その事実を隠そうとした海軍は昭和18年の時点でそれほどまでにすでに狂っていたのかと感じました。

    そして意外なほどに戦艦事故の原因は人為的なものだということに驚き、あっけないほどにもろく潰え去った陸奥はその後の海軍を象徴していると思いました。

    この小説は戦後26年経って書かれたもので当時はまだまだ生存者が残っており、吉村氏の丁寧な取材により徐々に真相が明らかになっていきます。

    馴染みのない用語が多量にあり途中飛ばしながら読みました。

    0
    2013年11月14日
  • 脱出

    Posted by ブクログ

    終戦直前から終戦直後の戦いの中の少年を掌編で纏めた一冊。スタートは樺太の住民の少年がロシア軍の進行で北海道にたどり着き苦労しながら生きていくさま。中でも沖縄からの疎開船対馬丸に乗り、母・弟・妹ともに潜水艦の攻撃で沈没。死の海の中を弟とともに生き延び、戦後沖縄に戻る少年の姿は痛ましい。まず沖縄で戦闘要員として戦っている中学の同級生達に引け目を感じ船に乗り込み、攻撃を受け沈没での人間性(自分だけの気持ち)、疎開先の宮崎での地元住民からの蔑視。沖縄に帰ってからの米軍の好き放題。結構読み応えがあった。

    0
    2013年07月24日
  • 長英逃亡(下)

    Posted by ブクログ

    一方、下巻では長英に影響を受ける人たちが確かにいたこと、また「志士」という人たちがどんなものなのかと考えさせられた。やはり現代において、ここまで気高い志を保つ人にならねばと思って仕方がない。
    しかし、不運。不運だが、気高い。

    0
    2013年07月23日
  • 長英逃亡(上)

    Posted by ブクログ

    江戸時代の獄中はこういうものなのかと感じられた作品。
    牢名主という存在があったのかと興味深く感じられた。
    上巻は獄中生活から幕末の世を見ている様子が感じられる。

    0
    2013年07月23日
  • 私の好きな悪い癖

    Posted by ブクログ

    古本で購入。
    吉村昭のエッセイ集。

    吉村昭作品のレビューで前にも書いたけど、淡々としているようで温かみのある文章が、氏の魅力のひとつ。
    本人が「エッセイとは人間を書くもの」と言うように、エッセイのメインは人間なわけです。
    それは歴史上の人物だったり友人だったり、旅で出会った人々だったり小料理屋の店主だったり。

    日々の些細な出来事や思いを書き綴ったエッセイが、微笑ましくていいです。

    0
    2013年07月22日
  • 遠い日の戦争

    Posted by ブクログ

    終戦と後のいわゆる戦争犯罪(人)に対して考えさせられる小説。
    主人公は終戦後、B29の搭乗員を処刑することに加わり、その事で戦後追われる身になる。B29の搭乗員は当時の国際条約に違反して民間人を大量虐殺した事で、日本軍部は処刑を決定し、国際社会にも宣言していた。戦後それらが戦争犯罪となるが、勝者が敗者を裁くことを見せつけられた思いがした。また裁く側の都合で量刑が斟酌され、減軽される政治的な流れについても人間の行いの空しさを覚えた。主人公が最後の場面でかつて働いていたマッチ工場のマッチを擦り、その質の変化を眺める様は時代の流れを思わせられてしんみりした。

    考えさせられる小説であったが、生きる勇

    0
    2013年07月17日
  • 虹の翼

    Posted by ブクログ

    ライト兄弟より先に飛び立とうとした日本人がいたことは知ってました。テレビでやってたので。そのプランを却下したのがあの長岡外史だということもしってました。しかしその二宮忠八が製薬業界の重鎮なのはちょっと想像ができませんでしたなあ。明治の日清日露の頃のエネルギーはどの切り口でも面白くて。浅田飴、龍角散、正露丸(征露丸)…。飛行機の話を読もうとしたら国産の製薬の事を知りましたよ。やはり吉村昭は面白いですね。

    0
    2015年05月25日
  • 東京の戦争

    Posted by ブクログ

    吉村昭が自らの戦争体験について語っている本。この時代に生まれた作家にとって、根底にあるのはこうした戦争の体験であることを再認識できる。

    0
    2013年05月25日
  • 生麦事件(上)

    Posted by ブクログ

    父にプレゼントした本。
    面白かったから読めとわたしのところに舞い戻ってきた(笑)
    読んでみると…
    品川、大森など、ちょうど通勤経路にあたる場所がバンバン出てきて、電車の中で読みながら、このあたりでこんな事件が…と臨場感ありまくり、かつ非常に不思議な気持ちになった。

    最初は英国人たちが斬られる場面描写に驚いた。
    「生麦事件」という名前しか知らなかった事件が、実際にはどんな人たちがどんな状況下で、どんなふうに殺傷されたのか…
    自分の生活圏で起きた事件であることも手伝って、何百年前の出来事が蘇ってくるように感じた。
    絵空事でも何でもなく、本当に人が血を流し、叫んだのだ…と胸に迫るものがあったのだ。

    0
    2013年05月23日