吉村昭のレビュー一覧
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刑務官を退職し、悠々自適の生活を送ろうと思っていた鶴岡。そんな彼の元にかつての上司から、ビル建設の警備の責任者の依頼が舞い込む。ビルが建設されるのは、鶴岡がかつて勤務していた、戦犯が収監された巣鴨プリズン跡地。鶴岡は警備責任者から退職する日に、かつての日々を回想する。
「正義は勝つって!? そりゃあそうだろ 勝者だけが正義だ!」
『ONE PIECE』というマンガで出てきた言葉ですが、巣鴨プリズンというのは、まさにその言葉通りの場所だったのだな、と読んでいて感じました。
戦勝国のアメリカによる一方的な裁判で、罪を問われ収監された囚人たち。もちろん、彼らが戦争を指揮し、あるいは人を殺したという事実は変わらないわけですが、じゃあ、アメリカの軍人や上層部も同じことをしたのに罰せられたのか、というとそういうわけでもなく。結局のところ戦勝国の正義ですべては決められてしまったわけです。
そうした巣鴨プリズンですが、刑務の実務をするのは鶴岡をはじめとした日本人たち。戦争をした国民が、同じ国民の刑を執行します。しかし、徐々に刑務官たちは、囚人たちに同情を感じるようになります。そして巣鴨プリズンはどんどん形骸化していくのです。
例えば、囚人たちの外出がほぼ自由になったり、収監されているにも関わらず、就職し仕事終わりに酒を飲んでプリズンに帰ってきたりと、刑務所とは思えない状況に。
そして、囚人たちは状況に応じて釈放されていくわけですが、刑期を終えたから、というよりかは国際政治のバランスを考慮して、というのがまた複雑なところ…
結局、正義とか罪とかって何なんだろう、と巣鴨プリズンって何だったんだろう、と考えさせられます。
こうした問いかけを可能にしたのが、綿密な取材から書かれる当時のプリズンや世相、社会状況や国際政治の説明や描写。この描写の詳細さと、冷徹な視線が吉村さんの持ち味であり、唯一無二のところだと思います。
ページ数的には短めの長編、といった感じですが、内容がしっかりと詰まった吉村さんらしい作品でした。 -
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☆☆☆2016年1月☆☆☆
薩英戦争だけでなく、長州による赤間関を通過する外国艦隊への砲撃なども扱われている。
★★★2019年3月★★★
あまり知られていないが、薩英戦争後の交渉にあたった重野厚ノ丞という人物は立派だと思う。薩摩藩のメンツはつぶさず、戦争を終結させるという離れ業をやってのけた。まず、幕府に言われたからやむなく和議を結ぶという形に持って行ったこと。賠償金の支払いなど譲るべきところは譲るが、きちんと自分の主張もすること。
戦争開始前に薩摩藩の軍艦を拿捕したことについて激しく責めるというのも、主張すべきことは言うという明快さがある。武器の斡旋を依頼することで薩摩と英国の今後の付き合いを深めるきっかけを作ったのも、交渉術として見事だ。
幕末の歴史を大きく揺るがした生麦村。この街道沿いの小さな村を駿河に落ちていく徳川家の行列。さらに官軍の華やかな行列が過ぎてゆく。
そのような描写でこの長い物語は終わる。 -
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★★★2016年1月★★★
生麦事件という事件を通して幕末史を深く分析した作品。「大名行列を横切った外国人を薩摩藩士が殺害した」という事件を、薩摩藩、幕府、外国人それぞれの動きが詳しく書かれている。これを読むと「幕府が可哀想」と思ってしまう。それぞれの人間に立場や苦悩があるんだと感じた。少し驚いたのはまるで島津久光が名君であるかのようになっていることだ。こんな本は初めて。
☆☆☆2019年3月☆☆☆
行列を横切ったという理由で殺されてしまったリチャードソンを憐れに感じた。彼らにも悪気はなかったように感じるから。また、立派だと思ったのは事件発生直後の英国公使ニールの冷静な態度。決して感情的にならず、横浜での戦争発生を防いだ。前回読んだ時と同様、島津久光が名君として描かれているのには違和感を感じた。
それにしても、事件発生直後に薩摩側から英国居留地を襲撃しようという計画を本気で持ち出した人物がいたというのも驚きだ、勇敢というか、野蛮というか。
この一連の事件では幕府に同情してしまう。 -
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ネタバレ皇帝(エカテリーナ)に帰国許可の勅諭をもらおうと,首都宛に願いを数度出すも,音沙汰なし.イルクーツクで知己となったキリロの提案で,直訴のためにペテルブルグまで真冬に数千キロの旅に出る.遂にお許しが出て帰国資金まで頂き,船を仕立ててオホーツクから根室まで.打ち払いの憂き目を見るかと思いきや,貴重なロシア情報源との扱いで,幕府から住まいと給金をあてがわれ,余生を過ごす.
出来事が比較的淡々と書かれているのだが,出来事が相当ドラマチックなので,何度も読み返してしまい,同じ場所で感動する.
結局17人中無事に帰国できたのは3名のみで(1名は帰途に蝦夷で亡くなったので実質2人),運命を決したのは,帰国しようという強い意志,か(病死した人はやむを得ないんだけど).そう思えば,もしかして漂着したのがロシアでなく温暖な国であったならば,もっと違う結果になったかもしれない,と想像される.ここだけはどうしても勘弁,っていう. -
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吉村昭の初読み。
堅苦しい文体だが、不思議と最後まで引き込まれて読み続けられた。“事実”が持つ重みがそうさせたのだろう。
読前、筆者についてWikipediaにて検索してみた。吉村昭の特徴は“記録文学”であるという。
筆者の主観・創作は一切交えず、取材に基いた記述をただひたすら積み上げる……。
例えば、乗った列車の発時刻や史実上の天候に至るまで、資料に取材し忠実に描写する“ノンフィクション文学とも呼べる”的な記載があった。
そういう執筆姿勢で描かれた作品であるという事実が、歴史の重みを作品に加えていたのだろう。だからこそ“引き込まれ”た、と思う。
ただ楽しく読んだだけでなく、得るものの多い一冊だった。
★4つ、7ポイント半。
2015.09.11.図。
●ニコライは……何の悪気も、腹の一物もなく、典型的に無邪気な“良家のお坊ちゃん”だと感じた(笑)。よい意味で“育ちが良い”と。
(一国の皇太子を指して“良家”もないものだろうけど)
※皇后(母)の、盲目的な溺愛ぶり(今の世にも通じそう)が、見ていて哀しくなった。
●巻末解説者の「勇気と誠意の物語」に、共感。
●司法関係者たちの勇気と判断と、実践に感銘。
●津田三蔵の死……唐突な発病と病状の急変。
残された資料が語る“史実”は描写の通りであるとしても、史料に残されない闇の動き(?)によっての暗殺である可能性もあるのでは……?と、下品な想像も働いてしまった(笑)。
●↑の仮定をもとにした、大津事件を題材とするフィクションで映画など作ってみたら、なかなか面白いエンタテイメントになりそうだな・・・。
●同じ題材、同じ史実をもとに、他のフィクション作家が描いたら、どんな作品になるだろう……と妄想してみた(笑)。 -
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ネタバレ政治・外交に対して冷静な分析力をもち、家族に対して清廉な川路聖謨。
日本に外交力がない、と昨今もいわれているが、幕末、鎖国を解くことにより起こりうる 国内の内乱という危惧を抱えながら、譲歩せずに進めたロシアとの交渉。その手腕たるや、に感動する。
すでにこの時期、欧米諸国は日本に対しての情報を共有しつつあった、という状況。幕末に向け、物価の高騰、江戸の火事、といった時代の空気も伝わってくる。位替えになると、一両日ぐらいで行われる、屋敷替えというシステムもあったとは・・
幕府派遣の初の英国留学生の船に、コマ回し、手品、軽業師などの巡業芸人が、ロンドン巡業のために乗船している史実にも、驚きがあった。
四代にわたる将軍に仕え、しかも討幕軍が江戸入りする前に、身辺整理をして切腹。すでに病に侵されている箕でありながらの最期に、幕吏であった重みを思う。 -
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クリミア戦争で英仏と戦う祖国を離れて折衝に臨むプチャーチンの艦船が地震、津波で被害を受けて沈没し、乗組員五百人が上陸する事態に。厳しい折衝を終え、幕府の配慮で完成した「戸田号」で帰国の途につくプチャーチン。日ロ関係のみならず、日本外交史において最大の功労者ともいうべき川路聖謨の生涯。(親本は1996年刊、1999年文庫化、2014年新装版)
下巻の前半は、船を失ったプチャーチンを帰国させるための苦心が描かれている。幕府は、開国はしたものの通商は拒否していたが、どのように国益を守るのかが描かれている。後半は、日米通商条約の締結に向けて、朝廷の勅許を得るために苦心する様子や、安政の大獄に巻き込まれ、隠居を余儀なくされる様や、病を得た晩年の様子が描かれている。幕府の凋落する様子は、宴の終わりともいえる。 -
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江戸幕府に交易と北辺の国境策定を迫るロシア使節のプチャーチンに一歩も譲らず、領土問題にあたっても誠実な粘り強さで主張を貫いて欧米列強の植民地支配から日本を守り抜いた川路聖謨。軽輩の身ながら勘定奉行に登りつめて国の行く末を占う折衝を任された川路に、幕吏の高い見識と豊かな人間味が光る。(親本は1996年刊、1999年文庫化、2014年新装版)
本書は、勘定奉行としての川路聖謨の事績を小説化したものである。内容の大半を、プチャーチンとの交渉が占める。幕末にロシア使節、プチャーチンが来航した事は知っていたが、どの様な交渉が行われていたのか、イマイチわからなかった。
本書を読むと、幕臣たちが幕末の外交交渉に苦心したことがわかる。国力の著しく劣る日本が、ネゴシエートにより、言うべきことは言い、妥協点を見出していく様は、読んでいて外交官になった気分(爽快感は無いが達成感はある)になる。
当時の史料として、川路の日記(東洋文庫から刊)があるが、取っつきにくい。事前に、本書を読んで置くと、理解が深まるのではないか。そういった意味でもオススメの一冊である。 -
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医師・松本良順を扱った司馬遼太郎氏の「胡蝶の夢」を読んでいたので、ずっと気になっていた本だった。
司馬遼太郎氏のような、人格を浮きださせるような描写はないものの、蘭方医が必然不可欠になっていくのが判る。開国に向かうにつれ、日本でコレラが流行り、対処効果が見られたのは蘭方であり、天然痘にも種痘が効果的となっていく。
この時代の流れは凄い。さらに松本良順の魅力は時代に乗るのでなく、本人に備わった能力から、時代が取り残さなかった、”暁”という存在出している。
幕末から明治になる中、戊辰戦争側について、会津藩、仙台藩へと進み、横浜へ戻っての投獄。才覚と実績あればこそ、日本初の私立病院の設立、初の軍医組織の編成と軍医頭にと、世に埋もれずに再び表舞台へと出てくる。
牛乳普及も良順だったのかと、驚いた。
ドクロのエピソードは、家茂崩御の口止めにオランダ医官ボードウィンに渡した(吉村昭)のか、江戸を脱出する時に医学所に置いてきたものを関寛斎が保管していた{司馬遼太郎)のか、前者は、良順らしい交渉術がでていて、後者は現実的な創造に思えた。