吉村昭のレビュー一覧
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江戸時代、鎖国政策により外洋航海用の船作りを禁止させた日本の商船は、台風等により膨大な漂流民を生み出した。それまでは餓死していた漂流民も幕末頃になると鯨の油を求めて日本近海に来るようになっていた米国捕鯨船に助けられることが増え、そこから日本漂流民と米国人との様々なドラマが生まれたわけだが、このアメリカ彦蔵がそのドラマの最大のもののような気がする。
10代で漂流民として米国に行き、クリスチャンとなり、米国に帰化し、清国に渡り、ついに日本に帰り、日本で初の新聞を創刊しつつも、幕末の動乱の中で長州への砲撃をアメリカ船から見つけ、尊皇攘夷の志士達に命をつけねらわれる日々。。とにかく数奇すぎて、こんな -
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明治期の軍隊での大きな問題であった脚気の対策予防に成功した高木兼寛の物語というか伝記である。宮崎の大工の子だが医師を志し、戊辰戦争に従軍したものの満足に医師の役目が果たせなかったことにショックを受け、さらに努力し海軍軍医トップに上り詰める。
この時期の人に見られる尋常ではない努力と客観的な洞察力で脚気という大きな問題を解決に導く。また、慈恵医大を創立し、看護婦の養成にも取り組んだ。それでも晩年は評価されなかったことで鬱屈していたようだが、現在でもまだまだ評価が不十分であろう。
それにしても、敵役の陸軍と東大医学閥と森鴎外の厭らしさは何だろう。今に至るもその残滓が感じられるのは、高木の業績 -
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無期懲役の刑を受け、16年間刑務所で過ごした菊谷。彼の仮出所が決定してからの生活を描いた小説。
刑務所での習慣が抜けない菊谷の様子や、仮釈放後も自らの過去が発覚することを恐れる、元受刑者たちの心情や行動が非常にリアルでした。それだけでなく、出所後菊谷が就くことになる、養鶏場の仕事の描写までもがリアルで、吉村さんらしい綿密な取材と丁寧な描写力が光った作品だと思います。吉村さんの記録文学以外の作品を読むのは初めてだったのですが、綿密で丁寧な描写は吉村作品全般に通じるものがあるように思います。
罪と罰についても考えさせられます。菊谷は本当に更生していたのか? 本人の心情が分からないままに -
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吉村氏の本2冊目。氏のおかげで戦中、戦後史に俄然興味がわいている。この作は、戦後8年ほどを経て引き上げられた潜水艦の様子の記述に、とにかく度肝を抜かれた。おそらくこの艦だけでなく、他の場所でも多くの沈没艦があるはずで、それらの記録も一部には残っているのだろう。しかし、氏の綿密な調査により、ここまで詳らかになったものはほとんどないのでは?
30年以上も前の本の新装版ということで、さすがに当時小学生の自分はこの本を知る由もなかったが、とにかくインパクトがあった(その後、自分の生まれた年に発刊された書籍に、この沈没艦から9年ぶりに現れた軍人の姿を収めた写真も見た。本書をさらに記憶づけるに十分なも -
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「永遠のゼロ」を読み終えて、この小説を知りました。記録小説と言うものがあるとすればこの小説のことでしょう。この作家の作品は初めて読みましたが、読み応えのあるものでした。ゼロ戦は本当に凄い戦闘機だったのが分かります。ゼロ戦の高水準の性能を背景に太平洋戦争に突入して行ったように感じました。序盤では向かうところ敵無しの状況で、圧倒的な勝ち方でした。格段の性能に海軍が妄信して更なる戦争拡大に突き進んでしまったようです。戦争末期まで性能の優位性は保たれていましたが、残念ながら後続機を開発する余力がなかったのが残念でした。また出だしに詳細に書かれていますが、組立て前の戦闘機パーツの国内移動手段がまさか牛車
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〜13.10.22
日本の航空技術が世界を超えたことを零戦によって示された。それまで日本は海外の技術の真似でそれが最善だと考えてた。九六艦戦で追いつき、零戦で抜いたという印象を持った。
その零戦の質に賭けて日本があの大戦に突入していったようにも思える。
アリューシャン海戦でその質の神秘性が薄らぎ、日本全体の神秘性も失われアメリカの物量による押しに負けたように思う。
また、その戦争の裏でどのように製造されていたかもしっかりと描いている。戦場の側面と実際の製造現場の2つの側面からより客観的に零戦について知ることが出来た。
また牛車の輸送からも日本自体の未熟さも感じさせ、逆に零戦という世界水準を