吉村昭のレビュー一覧

  • 新装版 北天の星(下)

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    緻密な調査に基づいた、冒険譚及び歴史譚。
    情報量が多く、最初はとっつきにくいかなと思ったものの1日で上下読み切ってしまった。
    ロシアでの死と隣合わせのサバイバル生活の描写は生々しく詳細で引き込まれる。読んでるだけでロシアの寒さが感じられる。

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    2022年01月16日
  • 桜田門外ノ変(下)

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    ネタバレ

    尊王の志士を鼓舞し維新につなげた一大事変。一瞬の出来事。それは、長期に及ぶ構想と緻密な計画の基に成された。商人に身をやつしての密談。厳重な警戒の中、発覚しなかったのは奇跡。一瞬のタイミングとわずかな判断の差異で事は起きなかったかもしれぬ。大老の死を秘し、彦根藩・水戸藩とり潰しによる動乱を避けた事変後の幕府の判断。その後日本は独立を保つ。実行を指揮した関鉄之介の逃亡。2年を経ての捕縛。歴史は必然であったり、偶然が織りなす運命でもある。また、先人の意志が創り出した結果でもある。そう思い、今を生きる。

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    2021年09月27日
  • 桜田門外ノ変(上)

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    ネタバレ

    黒船来航、迫られる開国、国の存亡の危機!非常事態を受けて就任した井伊大老。甚だしい専制政治。雄藩の大名の意見も無視。御三家ですら弾圧する。彦根藩としての私怨も手伝い窮地に立たされる水戸藩。続きは下巻へ。・・複数名の老中が大名の意見を聞きながら執政する。江戸時代も合議制が機能していた。民主主義に移行し易い土壌があった。早急な判断が迫られる緊急時、意見を集約する時間がない?だから独断専行?反対意見に耳を傾けずに正しい判断ができるのか。コロナ禍、緊急事態条項の必要性が叫ばれる中、よく考えておく必要がある。

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    2021年09月23日
  • 闇を裂く道

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    東海道線の三島~熱海間を結ぶ丹那トンネルは、全長7.8㎞。大正7年に着工され、当初の工期を大幅に超過し16年をかけて67名もの犠牲者を出しながら昭和8年に開通しました。本書は丹那トンネルの掘削工事にまつわる数々の事故や災害の実情を詳細に描いたノンフィクションです。
    今では様々な重機と工法の発達で安全かつスピーディーにトンネルは掘削されるようになりましたが、丹那トンネルは着工時は何と工夫による手掘りでした。工期途中からようやく電気による掘削機を使用されましたが、掘削した後の坑道を支える支保工は丸太などが多用され、掘削したズリ(掘り出した土砂)を坑道から搬出するトロッコも、着工当時は馬や牛が曳いて

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    2021年09月22日
  • 長英逃亡(下)

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    ネタバレ

    非業の死を遂げたのは嘉永三年。幕末志士の活動が活発化するのはその先。ペリーもまだ来航していない。それなりに法の秩序が保たれていたのだろう。もう少し混沌としていれば、、維新を生きていれば・・歴史のifを禁句とするのは学問の世界。空想に浸るのは自由。想像の補完がなければ、小説すらも成り立たない。薩摩、宇和島の雄藩に期待された能力。幕末・維新、列強に対抗するのにどれほど力になっただろう。生き残れなかった。そして日本が植民地化されることもなかった。それが歴史の事実。兵書の翻訳は読み継がれた。逃亡生活を生きた証として。

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    2021年09月21日
  • 長英逃亡(上)

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    ネタバレ

    火事による切り放し、義務付けられた3日以内の回向院への集合。知己の人を訪ね歩く。もちろん、戻る気はない。放火は長英の策略。始めからの計画。しかし、読者は葛藤に駆られる。戻って欲しいとも思う。もしかしたら寛大な処置が得られるかもしれない。言い含められ火をつけた栄蔵は後に捕らえられ火刑。逃亡中匿ってくれた隆仙は拷問を耐え抜き、元に戻らない体に。後少し待っていれば、厳罰を強いた町奉行耀蔵は左遷される。不当な裁きでも従うべきだったのか。個人の視点だけではなく、歴史的見地からも考えたい。逃避行は続く、下巻へと。

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    2021年09月19日
  • 虹の翼

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    ネタバレ

    飛行機がまだ登場していない頃、ライト兄弟よりも先に飛行原理を自ら考案したが、資金や軍の協力が得られないために、道半ばで終わってしまった日本人、二宮忠八の話。

    彼は、変化に富んだ激動な人生を送っており、非常に興味深い。
    しかし、自ら考案した飛行機開発を軍に提案したものの、何度も却下されてしまう。後年に彼の飛行原理の考案は世間から認められるが時すでに遅し。欧州で既に開発され、それが日本に入ってきている状況であった。

    解説にもあるとおり、日本人は優秀なのにイノベーションが生まれなかったのは、
    貧しかったから
    新しい発想を歓迎せず、時には変人として扱うといったような風土があったから
    ということがよ

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    2021年09月19日
  • 零式戦闘機

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    太平洋戦争における日本の象徴でもあるゼロ戦。開発者たちの飽くなき探求心、人命を疎かにした意思決定、大地震後の空襲による勤労学徒などの惨たらしい死にざま...。目を背けてはならないものがここにある。『戦艦武蔵』とセットでどうぞ。

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    2021年09月12日
  • 新装版 海も暮れきる

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    物語の半分(か、それ以上)は放哉のお酒の失敗エピソードなわけですが、“酒”というよりは“病”というものが、あるいは、“金が無い”ということがどれだけ人を卑屈にさせ、孤立させるものなのかと恐ろしくなった。

    最初に放哉の心に巣食った病はなんだったのか。
    物語が始まる頃には既に終わりが始まっていて、知る由もない。

    妻にも見捨てられ、彼には小豆島の寂しい庵しか、行くアテがない。
    徐々に衰えていく身体から削り出されたかのような言葉は、どれも骨のように白く軽い。
    放哉の句を読むことは、彼の骨を拾うような行為だと思う。

    圧巻は放哉絶命のシーン。
    ワンカット長回しのような臨場感、緊張感。
    これは吉村昭に

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    2021年08月31日
  • 雪の花

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    天然痘の予防接種

    情報化社会の現代でも、コロナワクチンへの恐怖がある。何も情報がないなかで、子供に傷をつける、と言われて、渡す親がいないのは、よく理解できる。
    そこの苦労を丁寧にかきあげていて、素晴らしい。

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    2021年08月14日
  • 大黒屋光太夫(下)

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    ネタバレ

    実話であるが、物語として非常に興味深い。

    ロシアに漂流し、10年後に日本に帰国できたのは17名のうち、光太夫を含むわずか3名。
    多くの者は寒さや栄養不良で死亡したほか、キリスト教に改宗してロシアに留まる者もいた。

    当時のロシアの方針として、基本的に漂流民は帰国させず、来るべき日ロ通商の手段を確保するため、日本語教師としてロシアにとどめ置くという冷酷な措置が取られていた。

    その一方で、光太夫らを帰国させようと無償の尽力をしてくれたキリロはじめ親切なロシア人がいて、ロシアの二面性が感じられる。

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    2021年08月09日
  • ポーツマスの旗

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    ロシア戦争後のポーツマス講和会議の名前くらいは歴史として知っているが、海戦に買った日本が屈辱的な講和を結ぶまでの小村寿太郎については何も知らなかった。史実に基づきながら当時の歴史的人物の思いを確実に書き進める小説で日本の歴史の1ページを知ることができた。

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    2021年08月08日
  • 遠い日の戦争

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    戦犯容疑者として追われる元将校の心の葛藤がとてもリアル。死罪に怯えながらの逃避行に息が詰まった。戦後処理を通して正義とは一体何かが問われる。価値観逆転による混乱の大きさは戦後生まれには想像もつかないが、トップの責任逃れやら、メディアの手のひら返しやらはいつの世も変わらないなと…。

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    2021年08月04日
  • 雪の花

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    吉村昭氏の文献の読み込み、取材力の賜。

    私財をなげうち、天然痘の予防接種に尽力した医師の話。

    いかに予防接種(種痘)が大事であるかを医師がわかっていても、未知なるものに対する恐怖があり、接種を怖がるのは、いつの時代でも同じか。

    鎖国下の日本。西洋から持ち込まれた最先端の医療技術=種痘(予防接種)と痘苗(ワクチン)に対する、偏見や不理解は、想像に難くない。

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    2021年07月25日
  • 三陸海岸大津波

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    明治29年、昭和8年の三陸沖地震に起因する津波と、昭和35年のチリ地震に起因する遠地津波について、学術論文のように時系列で系統だった記述ではないが、現地のフィールドワークに基づいた著者の文章は心に響くものがある。津波で被災しても、先祖伝来の住み慣れた土地を離れられない人情。海岸付近の土地の嵩上げは賛否両論あるが、それも津波から守るという意味ではありだったのだろう。1970年に上梓された著作の文庫版は、14年後の文庫化あとがき、H16(2004)年の再文庫化あとがきが収録されている。

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    2021年07月21日
  • 大本営が震えた日

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    太平洋戦争前夜の日本軍の隠密の準備行動を描く。

    真珠湾攻撃や南部侵攻など、日本の奇襲で始まった太平洋戦争だったが、その準備活動はかなり危なっかしいものだったということが分かる。
    一歩誤れば、作戦は実行前に露呈し、戦争はもっと早く終わっていたのかもしれない。

    タイと一歩誤れば戦争状態になっていたことなど、知らなかったことも多く、勉強になった。

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    2021年07月19日
  • 蚤と爆弾

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    731部隊を率いた細菌学者曾根二郎(石井四郎)を中心に描いた記録文学。医学者から殺戮者へと変貌を遂げる機縁、構造を淡々とした筆致で綴る。
    非人道的な人体実験(かなりエグイ描写)、細菌兵器撒布による虐殺...。戦時中という非常時に現れる狂気に眩暈がする。

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    2021年07月11日
  • 戦艦武蔵

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    日本帝国海軍の夢と野望を賭けた不沈の戦艦「武蔵」―厖大な人命と物資をただ浪費するために、人間が狂気的なエネルギーを注いだ戦争の本質とは何か?
    非論理的“愚行”に驀進した“人間”の内部にひそむ奇怪さとはどういうものか?
    本書は戦争の神話的象徴である「武蔵」の極秘の建造から壮絶な終焉までを克明に綴り、壮大な劇の全貌を明らかにした記録文学の大作である。

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    2021年06月27日
  • 零式戦闘機

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    神がかった性能を誇った零式戦闘機を通して、第二次世界大戦を描いた話。

    零戦を使い、最初は優勢に見えた米国との戦争だったが、その工業力にかなうはずもなく、どんどんつんでいく日本の様子が淡々と描かれている。

    最終的に零戦は特攻機として使われ、製造工場は地震と空襲でボロボロになり、その運命は哀れに思える。

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    2021年06月22日
  • 戦艦武蔵

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    詳細な下調べに基づく事実を順を追って記載しているのみであるが、だからこそ感じさせる異常性と虚無感がすごい。解説が絶妙に言い表している。

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    2021年06月10日