吉村昭のレビュー一覧

  • 桜田門外ノ変(上)

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    感情移入を拒否するような淡々とした文章がちょっと退屈に感じる部分もあるが、価値観が全く異なる江戸時代の人間の感情を、現代の人に響くように描く事は無理なのかもしれなくて、そこに拘る事でわざとらしさが付きまとうのであれば、このような距離感のある文章だっていいのではないか、と思って読み進めた。

    この距離感のせいか、全体に対する記述内容の割合にも表れていると思うけど、主人公の考えや気持ちという事よりも、場所を移動する事に対する重みが今と全然違うなと思った。目的を達成するための移動に時間と体力がかかっている。私だったら耐えられない。そんな通信手段・移動手段が存在しない中で、しかも蟄居させられている主犯

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    2018年05月08日
  • 遠い日の戦争

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    戦争に勝てば英雄。
    負ければ戦争犯罪容疑者。
    そして、敗戦後、数年して空気が一変して戦争被害者へ。
    戦争とは、何なのか。
    戦争の為に国民を洗脳し、戦わせる。
    国と国が争って、負ければ個人へ責任を擦り付ける。
    こんなことがまかり通っていいのだろうか。
    こんなことに青春を奪われた若者が可哀想だ。

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    2018年05月04日
  • 三陸海岸大津波

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    歴史の継承 明治、昭和における三陸 津波の歴史。

    吉村氏らしい綿密な取材に基づいた作品。語り部もいなくなった明治・昭和の津波についてこれ以上無い記録と感じる。

    繰り返した歴史から、これ以上死者は出ないと綴っている。しかし3.11は発生した。いつも、想定以上は起こりうる。津波は忘れた頃にやってくる。歴史の継承が難しくなっている今、どう伝え、どう戦うのか。津波に限らず全ての事象に対する問いかけだ。

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    2025年12月28日
  • 東京の戦争

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     終戦を兵士としてではなく、かといって幼子としてでもなく、出征間際の年齢で迎えた著者の回想録である。

     「生れついてから××事変と称する戦争がほとんど切れ間なくつづき、遂には「大東亜戦争」と称されたあの戦争に一個の人間として直接接したことが珍しい経験なのかも知れぬ、と思うようになったのである」
     とあるように、著者の一歳年上の男子は徴兵され東京を離れていたし、小学生であれば学童疎開でやはり東京を離れていた。東京で生まれ育ち、東京で終戦を迎え、戦後も東京で暮らした庶民の生活というのはなかなか貴重であろうという話である。
     本書には戦中戦後の明日をも知れぬ日々の中にたくましく生きる姿がある。もち

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    2017年12月13日
  • 冬の鷹

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    ネタバレ

    菊池寛「蘭学事始」の前後左右に肉付けした感じ。ところがこの肉が厚くて豊かで魅力的。玄白がちょっとフォローされてるかな。まあでも、報帖で様子見とか家治への献上とかって玄白のアイデアだし、病弱で独り者だった玄白がこの成功で妻帯できたのは良かった良かった。

    良沢が中津から江戸へ戻る途中で、「大井川に渡しがない」って話が出てきた。先日、角倉了以が江戸初期に舟を通した話(岩井三四二「絢爛たる奔流」。この本の解説、偶然にもこの人)を読んだばかりだったので、あれ?っと思ったけど、よく考えたら了以のは京都の「大堰川」だったw

    あと、そもそもこの話、前野良沢と杉田玄白がダブル主役なんだけど、それぞれの交友範

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    2017年10月18日
  • 闇を裂く道

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    大正7年に着工し17年の歳月を掛けて完成した丹那トンネルの困難な工事を詳細に描いた記録文学。その詳細な資料集め、聞き取り調査等により感動的な一大叙事詩ともいえる作品に仕上がっている。途中呼んでてめげそうになるが、中盤からどんどん引き込まれて完成までを読み進むことが出来た。

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    2017年09月17日
  • 海の祭礼

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    ネタバレ

    画像は新装版を使いましたが、実際は平成元年10月5日5刷りのハードカバーを読みました。

    江戸後期から幕末にかけての外交史を語っている。小説だがセリフが少なく、まるでノンフィクションを読んでいるようだ。それでいて読みやすい。

    前半では、日本に不法入国したアメリカ人のラナルド・マクドナルドが、オランダ語通詞の森山栄之助らに英語を教える過程を通じて日本の外交を描き、後半では幕末期の各国との外交の歴史を、森山が大通詞から外交官として活躍する流れとともに描いている。

    後半はアメリカの横暴な態度に腹を立てながら読んだ。無理難題を押し付けてくるペリーに対し、日本側も譲歩しない。外交経験がほとんどない日

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    2017年08月26日
  • 新装版 白い航跡(下)

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    複数巻の長編を平行に読破しよう月間消化期間。残してるのはあと2作くらいかな?

    イギリス留学から帰ってきた高木兼寛。海軍の医師となり、最も直面すべき課題としての「脚気」の撲滅に向け、仮説を立て、食事療法によって現実に発症者を激減させるのだが…。

    科学的な衝突が出てきて、俄然面白くなってきた下巻。個人的に最も面白いのが、森鴎外(林太郎)と東大が、科学的根拠をはっきり示した脚気の原因と療法について長年批判と黙殺を続け、何万人もの日本兵を見殺しにした悪役として描かれている所。北里柴三郎も同じ穴の狢。森鴎外が好きでないので。

    現在の科学と違い、即日的に評価が広がらないことで、結局30年して退職して

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    2017年08月19日
  • 高熱隧道

    購入済み

    高熱隧道

    吉村昭氏の著作は愛読しています。歴史の表舞台に出てきた英雄的な人の話も好きですが、そうではない、縁の下の力持ちであった人々、普通に暮らしていたら知らなかったであろう人々の話が特に好きです。当作品は、登場人物は氏の創作によるものですが、事実を題材にしており、迫力があります。「闇を裂く道」も同じようなトンネルを掘る話で、こちらも面白かった。併せてご一読をお勧めします。

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    2017年08月08日
  • 新装版 落日の宴 勘定奉行川路聖謨(下)

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    川路の最期には、人間の悲哀を感じる。
    また、江戸時代の武士の忠義の盲目さにも、ここまで徹底していると、これもまたいまに生きる僕には、悲哀と滑稽さを感じる。

    彼の知識(西洋知識)を得る目的は、使うため。行動するため。

    それにしても、交通機関が徒歩というのは、想像を絶しますね。
    この描写をみてそういうのがまざまざと想像できる。

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    2017年07月01日
  • 新装版 落日の宴 勘定奉行川路聖謨(上)

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    幕末のロシア使節プチャーチンとの交渉記録を丹念に。
    そんな交渉の場、下田で大地震・大津波があったことを知る。
    いつか下田に行って見たいし、ここに出てきた町を自転車で巡って見たい。

    交渉の詳細、外交官気質(当時はそういうものはなかったでしょうが)みたいなものが克明に記述されていて、自分とはまったく違うので、ひたすら感服。

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    2017年07月01日
  • 新装版 白い航跡(上)

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    複数巻の長編を平行に読破しよう月間再開。

    慈恵医大を作った高木兼寛の生涯のドキュメンタリー。倒幕から明治維新の動乱期に、戦火をくぐり抜けながら、西洋医学の重要性に目覚め、留学するまでの波乱万丈を描いた上巻。

    吉村昭らしいパワフルな文体で、グイグイと押し進めるストーリーは、日本の混乱期、特に薩摩藩の動きと相まって、否応なく引き込まれる。

    そこに、兼寛の生活や医学授業の詳細は、マクロとミクロの文章のメリハリにつながっている。

    歴史小説やドキュメンタリーを読んでいて辛いと思うのが、登場人物がたくさん出てきて、それらがきっと伏線やストーリーの展開に絡むと思い込んでいると、単に歴史の一事件の関係

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    2017年06月15日
  • 破獄

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    逃げては捕まりまた逃げて。

    吉村氏らしく、1人の脱獄犯を中心とし、それを取り巻く看守達の心情や戦時戦後の社会情勢を詳細に描写している作品。

    逃げる捕まるの繰り返しになるので、地味ではある。
    しかし、男達の執念にはただ熱くなるし、当時の貧しい社会には今を生きる有難さを感じる。

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    2025年12月28日
  • 桜田門外ノ変(下)

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    熊嵐とか漂流とか、以前に読んだ作品の方が、より好きでした。もちろん、これがつまらないってことではなく。先日読んだ「四十七人の刺客」でも感じたことだけど、比較的史実に忠実に則って、かつマイナーな登場人物もかなり網羅してっていう風だと、免疫がないとどうしてもとっつきづらさを感じてしまいます。まあ素養のなさがそもそもの問題なんだけど、入門編としては最適ではない、っていうくらいの意味です。桜田門外の変は歴史の教科書で読んだくらい、ってレベルだと、なかなかついていくのが大変でした。ただ、事変がメインなんだけどクライマックスではなく、その後日談がかなりの紙面を使って書き込まれているのは読み応え大でした。む

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    2017年06月13日
  • 新装版 間宮林蔵

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    この人の人生を左右したのは間宮海峡を発見したことというより、むしろシーボルド事件だったのかもしれない。いろんな意味で幕末の日本のカギを握っていたといえよう。

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    2017年04月30日
  • 桜田門外ノ変(上)

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    それこそ、事件名と井伊直弼その人の名前に関しては、小学生の頃から知っていた割りに、実際の事件のあらましとか背景に関しては殆ど知らず。で、安心ブランドの吉村昭作品ってことで、今回読むことにしました。忘れただけかもしらんけど、実行犯の名前とか全く思い浮かばず、そのせいもあり、ひたすら聞き慣れない名称が出てくる序盤、正直ちょっとしんどさあり。でもある程度人物関係とかが見えてくると、あとはさすがの表現力でもって、どんどん物語に引き込まれていきます。いよいよ安政の大獄がなされて、ここから討伐に向けて動き出す気配で、後半の展開が楽しみです。

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    2017年04月13日
  • 遠い日の戦争

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    海と毒薬のB面というか(亜流という意味ではなく)、戦争犯罪人のひとつの形。
    海と毒薬ほどテーマに奥深さが無いことが、逆に作品を何故書かれなくてはならなかったのか?を感じる。

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    2017年04月03日
  • 闇を裂く道

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    世界大戦前の大正から昭和にかけて工事が行われた丹那トンネルにかかわった人々の記録文学(といっていいのか)。吉村昭は「小説」と言っている。
    工事の進捗が、ノミで岩盤を穿つような文体で、語られる。歴代の工事所長、主任技師、労働災害、被害を受けた地元の群像で進む。

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    2018年10月20日
  • 零式戦闘機

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    優れた技術者とその傑作零式戦闘機の華々しいストーリーは日本人として読んでいて誇らしかった。
    緻密さや真面目さは日本人が得意とするところだと本気で思う。(口に出してはいけない)

    敗戦が続き出した頃、資源が足りなくなってきた頃からの軍の判断と意識は異常。まさに盲目。人命さえも爆弾保持装置くらいにしか考えられなくなる恐ろしさ。一般市民もそれが当たり前と思っていたとは。

    全員気がおかしくなっていたんだろう。生涯この感覚を理解できないであろうが理解したくもない。

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    2017年02月27日
  • 脱出

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    はじめの「脱出」を読んで、素晴らしく良いとは感じなかったので表題作がこれくらいでは、他もそんなに大したことないのかも…と思いつつ読み進めると、この本のコンセプトが「脱出」というタイトルに象徴されていることがわかり、様々な人々を描きながら、一本の太い棒のようなものが貫かれていることに感心する。バラバラに読むよりまとめて読んだ方が、作者の言わんとすることがよくわかる。そういう意味で良い短編集である。
     戦中戦後に、直接戦闘にはかかわらなかった子どもや僧がたとえ命は失わなかったにしてもどのように心身に傷を負ったかが、情緒を排した文章で描かれる。
     特に児童労働と、労働させる人々を描いた「鯛の島」、生

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    2017年02月26日