吉村昭のレビュー一覧

  • 漂流記の魅力

    Posted by ブクログ

    1793年、仙台から江戸へ向かった帆船、若宮号は途中で暴風雨により遭難。オホーツク海を北へ流され、たどり着いたのはロシアの東端。船員たちは極寒地で凍傷に倒れる者もいれば、ロシアへの永住を決意する者もいたが、それでも4人が帰国を訴え、ロシア皇帝と面会する。

    そして、彼らは陸路で西へ向かう。モスクワを経由し、ロシア西端から船で地中海、大西洋、太平洋を横断して、日本の長崎へ到着。その間10年。おそらく、初めて世界を1周した日本人だろう。

    そんな奇跡のような冒険を4人の帰国者から聞き取った文書が残されていたことを著者は紹介。日本にも「ロビンソン・クルーソー」に匹敵する漂流記があったのだ。

    0
    2016年10月31日
  • 冬の鷹

    Posted by ブクログ

    解体新書の訳に携わった人たちの物語。こういう風に翻訳していったのかと初めて知った。てっきり杉田玄白だけで翻訳したのかと。職人の脳みそだけだと生きづらいのが人生だけど、そちらのほうが尊いのかもしれないな。

    0
    2016年10月30日
  • 零式戦闘機

    Posted by ブクログ

    戦艦武蔵と並ぶ吉村昭の戦争文学の傑作。零戦の開発から重慶爆撃・パールハーバーでの活躍、ソロモン・レイテでの苦闘、そして生産もままならない戦争末期の名古屋工場が地震と空襲で学徒の命と共にほぼ壊滅する終戦までを、零戦を軸に描く。
    冒頭と掉尾を飾る零戦運搬用の牛馬の姿が、戦前の歪な工業国家としての日本の姿を鮮明に浮かび上がらせており、つくづくと上手い。

    0
    2016年10月19日
  • 彰義隊

    Posted by ブクログ

    幕末の江戸城明け渡し、彰義隊、奥羽越列藩同盟に関わった輪王寺宮を主人公にし、その生涯を綴った小説。
    幕末の人物とその関係とその時代の人々の想いが分かり、おもしろい。

    0
    2016年08月13日
  • 漂流記の魅力

    Posted by ブクログ

    吉村昭氏は、子どもの頃から、漂流記に興味を持っていたとあとがきに記している。私も、これまでに、漂流、破船、大黒屋光太夫、アメリカ彦蔵などの小説を読んできた。そして今回、漂流記の魅力を読むことができた。漂流記の魅力は、日本に限らず、ロビンソンクルーや白鯨など欧米の海洋小説はベストセラーとなって、人々に読まれてきた。その魅力は、ほとんど助かることがない境遇のなかで、いかに人間が闘い、生き抜ける力を持っているかが試される世界が描かれるからなのだと思う。そこには、不屈の精神や体力が大きくものを言うが、それだけでなく、鎖国政策にあった日本にとって、心の支えとなる宗教(キリスト教)に委ねることは、2度と故

    0
    2016年06月12日
  • 熊撃ち

    Posted by ブクログ

    最近秋田県で山菜採りに行った人が熊に襲われ、すでに3人が亡くなっているというニュースを見て、未読のままになっていたこの本を手に取り読み始めた。
    熊にまつわる実際の事件を題材に、熊撃ち猟師の名前をそれぞれのタイトルにした7編からなる短編集。
    熊に襲われた被害者の家族にとって熊撃ち猟師は仇討ちを託する刺客であり、猟師にとって熊は現金収入と名誉の対象であり、熊にとって人間は単なる獲物のひとつに過ぎない、そういう三者の関係を背景にして、それぞれの事情や葛藤を有する猟師と熊との命を懸けたドラマが展開する。人を襲った後の熊の生態や、襲われた人間の無惨な姿など、ニュースでは知ることのできない現実が描かれてい

    0
    2016年06月01日
  • 新装版 落日の宴 勘定奉行川路聖謨(下)

    Posted by ブクログ

    この作品を読み進む中で、この時代にも、3.11や熊本地震にも勝るとも劣らない地震、津波、火事が頻発したこと、そしてロシア使節の艦船が被害を受けて沈没し、長期にわたって下田の地に滞在せざるを得なかった歴史があったことを改めて知った。
    作品の中で、主人公川路聖謨が、精力を維持するため(もちろん彼の仕事を怠りなく遂行するために)、風呂に入るたびに睾丸を塩で揉み洗うという行為には、謹厳実直な人柄(妻以外の女性を相手にせず、家の存続のためと妻から説得されやっと側女を持つような)を想像すると、何となく可笑しみを禁じ得ない。

    0
    2016年05月13日
  • 新装版 落日の宴 勘定奉行川路聖謨(上)

    Posted by ブクログ

    記録文学とは、こういうものかとの思いで読み進んだ。
    幕末時代は、とかく倒幕側の人物ばかりに焦点が当たりがちだが、幕府側にも、その崩れかかる屋台骨を何とか支えたいと必死の思いで誠心努力する、優秀な幕吏がおり、もっと光を当てるべき人材がいるのではないか。
    本作品の主人公川路聖謨は、その筆頭たる人物と言っていい。
    著者吉村昭が、彼を取り上げたのは、そのその豊かな人間性とともに、彼の中に、著者自身とも相照らす資質を見出したからではないか。
    条約交渉をめぐる談判。この交渉経過を詳細に記した著者の取材の綿密さに、改めて畏敬の念を抱いた。
    このような歴史上の偉大な人物に巡り会えることが、読書の喜びであり、醍

    0
    2016年05月13日
  • 冷い夏、熱い夏

    Posted by ブクログ

     母を癌で亡くしたわたしとしては、当時を思い出し共感するとともに、いたたまれない気持ちにさせる内容であった。身内の死は必ず訪れるのだが、亡くなったことに整理をつけなければ、残された者たちは不幸である。人生折り返しを過ぎ、自身の死生観をあらためて問われた作品である。

    0
    2016年03月11日
  • プリズンの満月

    Posted by ブクログ

     刑務官を退職し、悠々自適の生活を送ろうと思っていた鶴岡。そんな彼の元にかつての上司から、ビル建設の警備の責任者の依頼が舞い込む。ビルが建設されるのは、鶴岡がかつて勤務していた、戦犯が収監された巣鴨プリズン跡地。鶴岡は警備責任者から退職する日に、かつての日々を回想する。

    「正義は勝つって!? そりゃあそうだろ 勝者だけが正義だ!」

    『ONE PIECE』というマンガで出てきた言葉ですが、巣鴨プリズンというのは、まさにその言葉通りの場所だったのだな、と読んでいて感じました。

     戦勝国のアメリカによる一方的な裁判で、罪を問われ収監された囚人たち。もちろん、彼らが戦争を指揮し、あるいは人を殺し

    0
    2016年03月02日
  • 脱出

    Posted by ブクログ

    第二次大戦において民間人の生と死の修羅場を描いた5つの短編。屍体を物としか感じず、他人のことをお構いなく般若となる。取材による事実なのだろう。後世に残すべき小説。2016.1.31

    0
    2016年01月31日
  • 仮釈放

    Posted by ブクログ

    吉村昭の小説で初めて読むフィクション。書評にもあったが、犯罪を犯した者が罪の償いをしたことにより、罪に対する心からの悔い改まった。と映ることの危うさを良く表しており、自分だったらと身を置き換える。そうした、現実味のある、肌感覚の恐ろしさを感じさせるところに吉村昭の小説らしさを感じる。淡々と主人公の気持ちを書き下ろす文体が読み手の感覚をあらわにする。小説とは、人の内面を書くもの。と言う吉村昭の主張がそこにある。

    0
    2016年01月19日
  • 生麦事件(下)

    Posted by ブクログ

    ☆☆☆2016年1月☆☆☆

    薩英戦争だけでなく、長州による赤間関を通過する外国艦隊への砲撃なども扱われている。


    ★★★2019年3月★★★


    あまり知られていないが、薩英戦争後の交渉にあたった重野厚ノ丞という人物は立派だと思う。薩摩藩のメンツはつぶさず、戦争を終結させるという離れ業をやってのけた。まず、幕府に言われたからやむなく和議を結ぶという形に持って行ったこと。賠償金の支払いなど譲るべきところは譲るが、きちんと自分の主張もすること。
    戦争開始前に薩摩藩の軍艦を拿捕したことについて激しく責めるというのも、主張すべきことは言うという明快さがある。武器の斡旋を依頼することで薩摩と英国の今

    0
    2019年03月27日
  • 生麦事件(上)

    Posted by ブクログ

    ★★★2016年1月★★★


    生麦事件という事件を通して幕末史を深く分析した作品。「大名行列を横切った外国人を薩摩藩士が殺害した」という事件を、薩摩藩、幕府、外国人それぞれの動きが詳しく書かれている。これを読むと「幕府が可哀想」と思ってしまう。それぞれの人間に立場や苦悩があるんだと感じた。少し驚いたのはまるで島津久光が名君であるかのようになっていることだ。こんな本は初めて。

    ☆☆☆2019年3月☆☆☆

    行列を横切ったという理由で殺されてしまったリチャードソンを憐れに感じた。彼らにも悪気はなかったように感じるから。また、立派だと思ったのは事件発生直後の英国公使ニールの冷静な態度。決して感情

    0
    2016年01月08日
  • 大黒屋光太夫(下)

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    皇帝(エカテリーナ)に帰国許可の勅諭をもらおうと,首都宛に願いを数度出すも,音沙汰なし.イルクーツクで知己となったキリロの提案で,直訴のためにペテルブルグまで真冬に数千キロの旅に出る.遂にお許しが出て帰国資金まで頂き,船を仕立ててオホーツクから根室まで.打ち払いの憂き目を見るかと思いきや,貴重なロシア情報源との扱いで,幕府から住まいと給金をあてがわれ,余生を過ごす.
    出来事が比較的淡々と書かれているのだが,出来事が相当ドラマチックなので,何度も読み返してしまい,同じ場所で感動する.
    結局17人中無事に帰国できたのは3名のみで(1名は帰途に蝦夷で亡くなったので実質2人),運命を決したのは,帰国し

    0
    2015年12月31日
  • 大黒屋光太夫(上)

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    鈴鹿から出航し,暴風雨のために半年以上も漂流したあげくにアリューシャン列島に漂着.その後,数年を経て島を脱出,カムチャッカ,オホーツク,ヤクーツク,イルクーツクまで移動.光太夫とその仲間は,次々と斃れ,帰国の目処も全く立たない,というところまでが上巻.
    大黒屋光太夫の話は実話だが,本書も比較的淡々と話が進み,脚色部分は少ないと思われる.下巻が楽しみ.

    0
    2015年12月27日
  • ふぉん・しいほるとの娘(下)

    Posted by ブクログ

    シーボルトの娘お稲が医師となり、明治維新を経て紆余曲折ありながらも日本初の産科医として働く姿を描く大河ドラマ。NHKも意味不明なヒロインやめて、こういうしっかりした原作使えばいいのに。

    0
    2015年12月22日
  • ふぉん・しいほるとの娘(上)

    Posted by ブクログ

    シーボルトが長崎の遊女に産ませた娘お稲の物語。前半はほぼシーボルトと遊女其扇の話しで、シーボルト事件を軸に来日から追放まで。

    0
    2015年12月15日
  • 遠い日の戦争

    Posted by ブクログ

    無差別な空襲から怒りを覚え米捕虜を処刑。官憲から逃亡生活に入る。雰囲気で裁かれ、時の流れで変わる判決、運で転ぶ人生に冷めた境地に達する。2015.11.28

    0
    2015年11月28日
  • 生麦事件(下)

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    生麦事件により薩摩藩とイギリスの戦争に発展し、その最中、長州藩とフランスも戦争となる。その後、さらに長州藩と英米仏蘭各国連合軍との戦争が勃発する。そして薩摩と長州は幕府とともに戦後処理に苦慮を重ねた。これだけでは話は終わらない。蛤御門の変、長州征伐、大政奉還、鳥羽伏見の戦いと幕末の一連の出来事が分かりやすく描かれていました。アメリカの南北戦争が、幕末の日本に少なからず関わっていたことを知りました。

    0
    2015年09月26日