吉村昭のレビュー一覧
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吉村昭氏は、子どもの頃から、漂流記に興味を持っていたとあとがきに記している。私も、これまでに、漂流、破船、大黒屋光太夫、アメリカ彦蔵などの小説を読んできた。そして今回、漂流記の魅力を読むことができた。漂流記の魅力は、日本に限らず、ロビンソンクルーや白鯨など欧米の海洋小説はベストセラーとなって、人々に読まれてきた。その魅力は、ほとんど助かることがない境遇のなかで、いかに人間が闘い、生き抜ける力を持っているかが試される世界が描かれるからなのだと思う。そこには、不屈の精神や体力が大きくものを言うが、それだけでなく、鎖国政策にあった日本にとって、心の支えとなる宗教(キリスト教)に委ねることは、2度と故
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最近秋田県で山菜採りに行った人が熊に襲われ、すでに3人が亡くなっているというニュースを見て、未読のままになっていたこの本を手に取り読み始めた。
熊にまつわる実際の事件を題材に、熊撃ち猟師の名前をそれぞれのタイトルにした7編からなる短編集。
熊に襲われた被害者の家族にとって熊撃ち猟師は仇討ちを託する刺客であり、猟師にとって熊は現金収入と名誉の対象であり、熊にとって人間は単なる獲物のひとつに過ぎない、そういう三者の関係を背景にして、それぞれの事情や葛藤を有する猟師と熊との命を懸けたドラマが展開する。人を襲った後の熊の生態や、襲われた人間の無惨な姿など、ニュースでは知ることのできない現実が描かれてい -
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記録文学とは、こういうものかとの思いで読み進んだ。
幕末時代は、とかく倒幕側の人物ばかりに焦点が当たりがちだが、幕府側にも、その崩れかかる屋台骨を何とか支えたいと必死の思いで誠心努力する、優秀な幕吏がおり、もっと光を当てるべき人材がいるのではないか。
本作品の主人公川路聖謨は、その筆頭たる人物と言っていい。
著者吉村昭が、彼を取り上げたのは、そのその豊かな人間性とともに、彼の中に、著者自身とも相照らす資質を見出したからではないか。
条約交渉をめぐる談判。この交渉経過を詳細に記した著者の取材の綿密さに、改めて畏敬の念を抱いた。
このような歴史上の偉大な人物に巡り会えることが、読書の喜びであり、醍 -
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刑務官を退職し、悠々自適の生活を送ろうと思っていた鶴岡。そんな彼の元にかつての上司から、ビル建設の警備の責任者の依頼が舞い込む。ビルが建設されるのは、鶴岡がかつて勤務していた、戦犯が収監された巣鴨プリズン跡地。鶴岡は警備責任者から退職する日に、かつての日々を回想する。
「正義は勝つって!? そりゃあそうだろ 勝者だけが正義だ!」
『ONE PIECE』というマンガで出てきた言葉ですが、巣鴨プリズンというのは、まさにその言葉通りの場所だったのだな、と読んでいて感じました。
戦勝国のアメリカによる一方的な裁判で、罪を問われ収監された囚人たち。もちろん、彼らが戦争を指揮し、あるいは人を殺し -
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☆☆☆2016年1月☆☆☆
薩英戦争だけでなく、長州による赤間関を通過する外国艦隊への砲撃なども扱われている。
★★★2019年3月★★★
あまり知られていないが、薩英戦争後の交渉にあたった重野厚ノ丞という人物は立派だと思う。薩摩藩のメンツはつぶさず、戦争を終結させるという離れ業をやってのけた。まず、幕府に言われたからやむなく和議を結ぶという形に持って行ったこと。賠償金の支払いなど譲るべきところは譲るが、きちんと自分の主張もすること。
戦争開始前に薩摩藩の軍艦を拿捕したことについて激しく責めるというのも、主張すべきことは言うという明快さがある。武器の斡旋を依頼することで薩摩と英国の今 -
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★★★2016年1月★★★
生麦事件という事件を通して幕末史を深く分析した作品。「大名行列を横切った外国人を薩摩藩士が殺害した」という事件を、薩摩藩、幕府、外国人それぞれの動きが詳しく書かれている。これを読むと「幕府が可哀想」と思ってしまう。それぞれの人間に立場や苦悩があるんだと感じた。少し驚いたのはまるで島津久光が名君であるかのようになっていることだ。こんな本は初めて。
☆☆☆2019年3月☆☆☆
行列を横切ったという理由で殺されてしまったリチャードソンを憐れに感じた。彼らにも悪気はなかったように感じるから。また、立派だと思ったのは事件発生直後の英国公使ニールの冷静な態度。決して感情 -
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ネタバレ皇帝(エカテリーナ)に帰国許可の勅諭をもらおうと,首都宛に願いを数度出すも,音沙汰なし.イルクーツクで知己となったキリロの提案で,直訴のためにペテルブルグまで真冬に数千キロの旅に出る.遂にお許しが出て帰国資金まで頂き,船を仕立ててオホーツクから根室まで.打ち払いの憂き目を見るかと思いきや,貴重なロシア情報源との扱いで,幕府から住まいと給金をあてがわれ,余生を過ごす.
出来事が比較的淡々と書かれているのだが,出来事が相当ドラマチックなので,何度も読み返してしまい,同じ場所で感動する.
結局17人中無事に帰国できたのは3名のみで(1名は帰途に蝦夷で亡くなったので実質2人),運命を決したのは,帰国し -
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吉村昭の初読み。
堅苦しい文体だが、不思議と最後まで引き込まれて読み続けられた。“事実”が持つ重みがそうさせたのだろう。
読前、筆者についてWikipediaにて検索してみた。吉村昭の特徴は“記録文学”であるという。
筆者の主観・創作は一切交えず、取材に基いた記述をただひたすら積み上げる……。
例えば、乗った列車の発時刻や史実上の天候に至るまで、資料に取材し忠実に描写する“ノンフィクション文学とも呼べる”的な記載があった。
そういう執筆姿勢で描かれた作品であるという事実が、歴史の重みを作品に加えていたのだろう。だからこそ“引き込まれ”た、と思う。
ただ楽しく読んだだけでなく、得るものの