吉村昭のレビュー一覧
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共生というテーマ
筆者のテーマ選びにはいつも感嘆させられる。物語はミツバチを通して、一貫して共に生きることを見つめているように思う。人もミツバチも一人で生きられはしない。そのことをミツバチの克明な生態を軸に、見事に浮かび上がらせている。
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Posted by ブクログ
吉村昭『天に遊ぶ』新潮文庫。
吉村昭の21編を収録した掌編集。今どき文庫本で490円という価格はかなり珍しい。
普通に生きる市井の人びとの様々な人生の場面を切り取り、背後にある過去と後悔をも描写してみせた味わい深い掌編が並ぶ。
『鰭紙』。南部藩の庄屋だった家で見付かった古文書にはかつての飢饉の様子が描かれていた。明らかにしなくともよい歴史もある。
『同居』。上手く行くと思われた縁談だったが、まさかの理由で破談に終わりそう。
『頭蓋骨』。取材で北海道の漁師町を訪れた小説家は帰り道に思わぬ雨に途方に暮れる……
『香奠袋』。頻繁に文壇の著名人の葬儀に姿を現す老女は香奠婆さんと呼ばれ、香典泥棒を疑われる。
『お妾さん』。空襲の夜に見た孤独さを滲ませるお妾さんの姿。ひと昔前はお妾さんというのは当たり前のように居たように思う。
『梅毒』。梅毒を患っていたと思われた水戸脱藩士の関鉄之介の日記を読み解くと……
『西瓜』。離婚した元妻に突然呼び出された男の罪と戸惑い。
『読経』。父親の葬儀で三十数年ぶりに再会した親戚の男に過去の記憶が甦る。
『サーベル』。明治二十四年の大津事件でロシア皇太子をサーベルで斬り付け、国賊と呼ばれた津田巡査の末裔の百年に及ぶ苦悩。
『居間』。伯父の訃報を知らされた伯母の反応に自らの夫婦生活を重ね合わせ、振り返る主人公。ちょっとしたイヤミスだ。
『刑事部屋』。友人宅の強盗事件で、警察に呼ばれた主人公は……
『自殺 ー獣医 (その一)』。肺癌を患い、余命幾ばくもない犬が……
『心中 ー獣医 (その二)』。珍しい連作掌編。老女が犬と共に心中するが……
『鯉のぼり』。戦時中。紺屋を営む祖父と二人で暮らす少年が交通事故で死亡する。空襲の最中にも空に翻る鯉のぼり。
『芸術家』。温泉地でスナックを営む四十歳過ぎの女性は街に現れた小説家を名乗る男と財産を全て処分し、失踪する。やがて、岩手県の温泉地で女性は見付かるが……
『カフェー』。友人が勧めてくれた敷島という煙草で思い出した過去の記憶。
『鶴』。かつての同人誌仲間の死に際し……
『紅葉』。山中の温泉宿で長期逗留していた友人の話。友人の隣部屋に泊まった男女の正体に……
『偽刑事』。八丈島を取材で訪れた小説家は刑事と間違われるが……
『観覧車』。束の間の父娘の時間。浮気を繰り返す男に愛想を尽かし、実家に帰った母娘。余りに酷い男の身勝手さ。
『聖歌』。教会葬となった姉の葬儀にかつての姉の恋人が現れるが……
本体価格490円
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購入済み
切り取り
歴史って、人生って、こんな角度からも切り取れるんだ。筆者の作品は読むたびに気付かせてくれる。戦時下の状況を刑務所から眺めるという発想はこの本を読まなければ一生持たなかったと思う。
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Posted by ブクログ
淡々と、出来事と人々を観察するように描かれていました。
表題作と「死体」「喪服の夏」が好きです。
逃れられない貧しさや家の柵。逃げ出してる女性もいたけれど、我慢して虐げられているのが、時代といえば時代だったのかな。読んでいて辛かったです。
「喪服の夏」のおばあちゃんの最期の決意、胸にくるものがありました。それまでやってきたことから、この人物は好きではないけれど。
「少女架刑」で、献体の料金(?)が安かったからと母親が遺骨を引き取らないのも酷い話だけど、その後の納骨堂の描写で、ああこういう家庭多かったのかな…って感じるのも悲惨です。亡くなって死体になってる女の子の目線で物語が語られるの、乙一さんでもあったけどこっちも凄まじかったです。 -
Posted by ブクログ
吉村昭『冬の道 吉村昭自選中期短篇集』中公文庫。
吉村昭が中期に描いた短編の中から選りすぐりの10編の短編を収録。
吉村昭と言えば、過去に埋もれ行く歴史の断片を描いた記録文学作品の他に、日本人の心を描いた一連の短編にも定評がある。『三陸海大岸津波』『関東大震災』『破獄』『羆嵐』『漂流』は前者で、後者の代表作は岩手県田野畑村を舞台にした『梅の蕾』だろう。『梅の蕾』は何度読んでも泣けてしまう。
本作では刑務所の看守を題材にした短編と戦争に翻弄される家族の姿を描いた短編が収録されている。『梅の蕾』同様、極めて淡々とした洗練された文章が読み手の心を揺さぶる。
『鳳仙花』。四季のうつろいと共に平穏に過ぎていく日常も普通の人には当たり前のこと。儚さと物悲しさが同居する吉村昭ならではの短編。刑務所の死刑囚たちを集めた句会。閉鎖された環境の中で僅かに感じる自然と四季のうつろい。櫛の歯が欠けるように少しずつ居なくなる句会の仲間。いつの間にか桜の季節は鳳仙花の季節に……
『休暇』。主人公の男のアイロニー的な心の内を描いた短編。子持ちの女性と結婚した刑務所の看守の男。結婚式の前日に死刑執行の支え役を勝って出て一週間の特別休暇を得た男は新妻と子供と3人で新婚旅行を楽しむ。しかし、心の中を過るのは……
他に『苺』『破魔矢』『黄水仙』『欠けた月』『冬の道』『飛行機雲』『鋏』『月下美人』を収録。
本体価格840円
★★★★