吉村昭のレビュー一覧

  • 海軍乙事件

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    もともと海軍乙事件というものがあった事を知らなかった。
    これがあるからこそレイテ沖海戦などに大きな影響をあたえたんですね。

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    2018年10月27日
  • アメリカ彦蔵

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    漂流の果て、アメリカに辿り着き英語を習得して帰国した日本人はジョン万次郎が有名だが、その万次郎の帰国と入れ違うように、同じような運命を辿った播磨の漁師の子、彦蔵の物語である。永平丸という漁船で初漁に出るも台風に遭遇、運良くアメリカの捕鯨船に救助され13歳でアメリカに渡った彦蔵。当時、日本は未だ徳川幕府が支配しており、外国船が頻繁に現れはじめ攘夷の機運が高まった時期と重なり、海外渡航者の帰国は認められていなかった時代である。絶望の中、彦蔵は同時に救助された13人の水主たちを離れ、2人の仲間とアメリカ本土に向かう。そこで出会うアメリカ人たちは皆優しく、丁重に彼を取り扱ってくれている。当時は、すでに

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    2018年10月08日
  • 桜田門外ノ変(上)

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    歴史の教科書にも必ず載っている「桜田門外の変」という事件は、年号や事実だけが知られているが意外に、その背景までは理解されていないように思う。その背景とは、水戸藩による尊皇攘夷思想、そして当時の藩主であった水戸斉昭による幕政改革に対する反感という伏線があり、さらに将軍家定の世継問題の動きに対して、彦根藩主井伊直弼を筆頭とする紀州派と斉昭を中心とした一橋派の対立という構図である。

    しかし、著者はそうした政治的背景のみならず、彦根藩と水戸藩の間で起きた水上港運における積年のいさかいなどの描写も含め、特に水戸藩側からみた視点での怨恨が、読者にとってのそれであるような錯覚を覚えさせるかの如く描いている

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    2018年10月08日
  • 逃亡

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    ひとつの嘘を隠すために嘘を積み重ねていく男。
    戦時下、あらゆる物が不足している中で、海軍航空隊から逃亡を図る。
    紙面から伝わる緊迫感、焦慮、恐怖、苦悩。
    過酷な逃亡生活を克明に描き切った傑作。

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    2018年09月25日
  • 背中の勲章

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    「生きて虜囚の辱めを受くる勿れ」狂信的な軍律に縛られた一兵卒が過ごした4年半の俘虜生活を冷静に書き記す。戦闘で亡くなった人だけでなく、自ら命を絶った人が少なくない。帰国の輸送船で富士山を目にして海に飛込んだ人。戦争の悲惨さに息苦しくなる。題名が「背中の勲章」となってるが勲章ではないように思える。2018.9.3

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    2018年09月03日
  • 一家の主

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    肺病(結核)を患って肋骨を5本取った、会社員で小説家の主人公圭一と、これまた小説家の妻春子との、貧乏だけれども満ち足りた生活。

    1年に1回以上引っ越しをする圭一・春子夫婦は、お金もないのにアパートを転々とし、借金を繰り返しながら同人誌を出版するような生活をしている。一方で、仕事に関しては、結核上がりということもあって、最低限で細々と暮らしている。骨と死体ばかりをテーマにした小説ばかり書いている圭一だが、ある時、芥川賞候補に推薦されたという知らせが舞い込んでくる。

    結核上がりで奥さんも作家。これ吉村昭氏だよねえと読んでいるが、時代がよくわからないのと、他の吉村作品のようなぶん殴られるようなパ

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    2018年05月15日
  • プリズンの満月

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    戦後、戦争犯罪人が収容されていた巣鴨プリズン。
    戦勝国、アメリカから一方的に戦争犯罪人と言われ収容された者たち。
    敗戦国、日本としては従うしかない。
    だが、自分たちが何をしたのか、何故、収容されているのか分からない。
    徐々に処刑されていく者たち。
    残されていく者たちには、恐怖しか残らない。
    日本人を処刑する道具を日本人に作らせるアメリカ兵。
    作った者たちは、処刑されていく戦争犯罪人を見て徐々に狂っていく。
    全てが狂っていた時代だったのか。
    巣鴨プリズンの跡地は今、サンシャイン60として戦争犯罪人の墓石のように高々と聳えている。

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    2018年05月14日
  • 光る壁画

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    世界初となる胃カメラを作った男たちの記録。
    前例が無く、参考になるものが無い中でまったくの手探りの状態。
    失敗に失敗を重ね、それでも挫けることなく挑み続けた。
    挑み続ける姿は、格好良かった。
    これぞ、モノづくりニッポンの原点。

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    2018年05月08日
  • 桜田門外ノ変(下)

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    感想は上巻とほぼ同様なのだけど、事変に関しても現場から離れてみている関鉄之助の淡々とした記述であり、この徹底具合に驚いた。上巻でも書いた通り、これを情感たっぷりに書かれても何か違う気がして、この距離感だったからこそ、張り詰めた雰囲気が醸し出されているんではないかと思った。

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    2018年05月08日
  • 桜田門外ノ変(上)

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    感情移入を拒否するような淡々とした文章がちょっと退屈に感じる部分もあるが、価値観が全く異なる江戸時代の人間の感情を、現代の人に響くように描く事は無理なのかもしれなくて、そこに拘る事でわざとらしさが付きまとうのであれば、このような距離感のある文章だっていいのではないか、と思って読み進めた。

    この距離感のせいか、全体に対する記述内容の割合にも表れていると思うけど、主人公の考えや気持ちという事よりも、場所を移動する事に対する重みが今と全然違うなと思った。目的を達成するための移動に時間と体力がかかっている。私だったら耐えられない。そんな通信手段・移動手段が存在しない中で、しかも蟄居させられている主犯

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    2018年05月08日
  • 遠い日の戦争

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    戦争に勝てば英雄。
    負ければ戦争犯罪容疑者。
    そして、敗戦後、数年して空気が一変して戦争被害者へ。
    戦争とは、何なのか。
    戦争の為に国民を洗脳し、戦わせる。
    国と国が争って、負ければ個人へ責任を擦り付ける。
    こんなことがまかり通っていいのだろうか。
    こんなことに青春を奪われた若者が可哀想だ。

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    2018年05月04日
  • 東京の戦争

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     終戦を兵士としてではなく、かといって幼子としてでもなく、出征間際の年齢で迎えた著者の回想録である。

     「生れついてから××事変と称する戦争がほとんど切れ間なくつづき、遂には「大東亜戦争」と称されたあの戦争に一個の人間として直接接したことが珍しい経験なのかも知れぬ、と思うようになったのである」
     とあるように、著者の一歳年上の男子は徴兵され東京を離れていたし、小学生であれば学童疎開でやはり東京を離れていた。東京で生まれ育ち、東京で終戦を迎え、戦後も東京で暮らした庶民の生活というのはなかなか貴重であろうという話である。
     本書には戦中戦後の明日をも知れぬ日々の中にたくましく生きる姿がある。もち

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    2017年12月13日
  • 冬の鷹

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    ネタバレ

    菊池寛「蘭学事始」の前後左右に肉付けした感じ。ところがこの肉が厚くて豊かで魅力的。玄白がちょっとフォローされてるかな。まあでも、報帖で様子見とか家治への献上とかって玄白のアイデアだし、病弱で独り者だった玄白がこの成功で妻帯できたのは良かった良かった。

    良沢が中津から江戸へ戻る途中で、「大井川に渡しがない」って話が出てきた。先日、角倉了以が江戸初期に舟を通した話(岩井三四二「絢爛たる奔流」。この本の解説、偶然にもこの人)を読んだばかりだったので、あれ?っと思ったけど、よく考えたら了以のは京都の「大堰川」だったw

    あと、そもそもこの話、前野良沢と杉田玄白がダブル主役なんだけど、それぞれの交友範

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    2017年10月18日
  • 闇を裂く道

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    大正7年に着工し17年の歳月を掛けて完成した丹那トンネルの困難な工事を詳細に描いた記録文学。その詳細な資料集め、聞き取り調査等により感動的な一大叙事詩ともいえる作品に仕上がっている。途中呼んでてめげそうになるが、中盤からどんどん引き込まれて完成までを読み進むことが出来た。

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    2017年09月17日
  • 海の祭礼

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    ネタバレ

    画像は新装版を使いましたが、実際は平成元年10月5日5刷りのハードカバーを読みました。

    江戸後期から幕末にかけての外交史を語っている。小説だがセリフが少なく、まるでノンフィクションを読んでいるようだ。それでいて読みやすい。

    前半では、日本に不法入国したアメリカ人のラナルド・マクドナルドが、オランダ語通詞の森山栄之助らに英語を教える過程を通じて日本の外交を描き、後半では幕末期の各国との外交の歴史を、森山が大通詞から外交官として活躍する流れとともに描いている。

    後半はアメリカの横暴な態度に腹を立てながら読んだ。無理難題を押し付けてくるペリーに対し、日本側も譲歩しない。外交経験がほとんどない日

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    2017年08月26日
  • 新装版 白い航跡(下)

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    複数巻の長編を平行に読破しよう月間消化期間。残してるのはあと2作くらいかな?

    イギリス留学から帰ってきた高木兼寛。海軍の医師となり、最も直面すべき課題としての「脚気」の撲滅に向け、仮説を立て、食事療法によって現実に発症者を激減させるのだが…。

    科学的な衝突が出てきて、俄然面白くなってきた下巻。個人的に最も面白いのが、森鴎外(林太郎)と東大が、科学的根拠をはっきり示した脚気の原因と療法について長年批判と黙殺を続け、何万人もの日本兵を見殺しにした悪役として描かれている所。北里柴三郎も同じ穴の狢。森鴎外が好きでないので。

    現在の科学と違い、即日的に評価が広がらないことで、結局30年して退職して

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    2017年08月19日
  • 高熱隧道

    購入済み

    高熱隧道

    吉村昭氏の著作は愛読しています。歴史の表舞台に出てきた英雄的な人の話も好きですが、そうではない、縁の下の力持ちであった人々、普通に暮らしていたら知らなかったであろう人々の話が特に好きです。当作品は、登場人物は氏の創作によるものですが、事実を題材にしており、迫力があります。「闇を裂く道」も同じようなトンネルを掘る話で、こちらも面白かった。併せてご一読をお勧めします。

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    2017年08月08日
  • 新装版 落日の宴 勘定奉行川路聖謨(下)

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    川路の最期には、人間の悲哀を感じる。
    また、江戸時代の武士の忠義の盲目さにも、ここまで徹底していると、これもまたいまに生きる僕には、悲哀と滑稽さを感じる。

    彼の知識(西洋知識)を得る目的は、使うため。行動するため。

    それにしても、交通機関が徒歩というのは、想像を絶しますね。
    この描写をみてそういうのがまざまざと想像できる。

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    2017年07月01日
  • 新装版 落日の宴 勘定奉行川路聖謨(上)

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    幕末のロシア使節プチャーチンとの交渉記録を丹念に。
    そんな交渉の場、下田で大地震・大津波があったことを知る。
    いつか下田に行って見たいし、ここに出てきた町を自転車で巡って見たい。

    交渉の詳細、外交官気質(当時はそういうものはなかったでしょうが)みたいなものが克明に記述されていて、自分とはまったく違うので、ひたすら感服。

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    2017年07月01日
  • 新装版 白い航跡(上)

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    複数巻の長編を平行に読破しよう月間再開。

    慈恵医大を作った高木兼寛の生涯のドキュメンタリー。倒幕から明治維新の動乱期に、戦火をくぐり抜けながら、西洋医学の重要性に目覚め、留学するまでの波乱万丈を描いた上巻。

    吉村昭らしいパワフルな文体で、グイグイと押し進めるストーリーは、日本の混乱期、特に薩摩藩の動きと相まって、否応なく引き込まれる。

    そこに、兼寛の生活や医学授業の詳細は、マクロとミクロの文章のメリハリにつながっている。

    歴史小説やドキュメンタリーを読んでいて辛いと思うのが、登場人物がたくさん出てきて、それらがきっと伏線やストーリーの展開に絡むと思い込んでいると、単に歴史の一事件の関係

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    2017年06月15日