吉村昭のレビュー一覧
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重めなのを読みたかったので吉村さんを選んだけど中でもとびきりなのを引いてしまった気がする。重めというかもう重すぎて、これほんとに現実にあったことなのファンタジーを読んでたんだっけと訳がわからなくなるレベルだった。
命が一番軽く扱われていたのは戦国時代あたりなのかなとふんわり思っていたけど明治の時代までこんな観念だったんだと物凄い衝撃を受けた。移植開拓時代の北海道の出来事もまったく、本当に全然知らずにいた。日本史の授業でも触れられた覚えがまったくないけれどもあえて伏せられていたのかな。
こんなふうに開拓された土地だとは全然知らなかったです。勉強になった。
次々名前が上がってたくさんの人が出てくるものの、登場人物を掘り下げるのではなくてあくまで主役は事象であり地域でありの描かれ方は本当に独特。
またしばらくしたらどっぷりな吉村ワールドに浸りたい。 -
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今から280年程前の江戸中期に刊行された「解体新書」に関わる人々の生涯と当時の社会情勢が記録映画ように綴られたお話し。
原本であるオランダ語で書かれた「ターヘル・アナトミア」を翻訳した前野良沢とそれを刊行した杉田玄白のその後の両極的な人生の明暗が読み進めていく内にコントラストを強め、読み手の心を捕らえていく。
個人が抱く矜持は人それぞれだが、前野良沢はそれに美しさを求め、杉田玄白は正しさを求めた。結果は歴史が証明したが、悔いのない人生であったのならば、それで良い。
「解体新書」は、西洋科学(医学)書の日本最初の翻訳書と言われている。
それまでは中国から伝わる文物が主流だったが、西洋科学の正確さに気が付いた彼らは、少ない情報を基に途方も無い苦労の末、翻訳を成し遂げる。
これは、もしかしたら西洋以外では初の試みなのかも知れない。
日本はここから西洋文明を怒涛の如く吸収し、脱亜入欧を掲げてアジアでは突出した文明国に成長していく。
これは「解体新書」が一つの切っ掛けにもなっているのではないか。
暗闇の中、手探りで翻訳を成し遂げた前野良沢を日本人は忘れてはいけないと思う。 -
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ままならない男女の仲、ふとした瞬間に生じる感情の揺れ、静かに広がる心中の波紋を、繊細に秘めやかに切り取ったような短編集です。
吉村昭さんって骨太の歴史小説・記録文学のイメージが強かったのだけど、人間の感情の機微を、日常から瞬時に精巧に切り取る繊細な短編に、最近徐々に魅せられていっています。
収録作品は全9編。表題作の「帽子」は珠玉の作品だと思います。
癌に冒された妻を看病する夫。しかし、妻の死期は刻一刻と迫り、夫は妻のために帽子を買うが……
死にゆく妻が夫と交わした二つの約束。そのいじらしさがたまらなく切なく、そしてクライマックスの運転のシーンの美しくも哀しい描写がまた素晴らしい。
感情描写はそこまで多くないのに、情景の描写だけで、夫の心情を、妻の去り行く感じを表現する。描写一つ一つの切り取り方が素晴らしく、それが積み重なって、一つの文学に収束していく。そんな印象を受けます。
「買い物籠」はかつて、自分の家に住み込みでお手伝いをしていた少女と、時を経て再会した医師の話。
女性の魔、退屈な日常の中に訪れた、少しだけ危険な匂いのする再会。こう書くと安い昼ドラみたいな話だけど、吉村さんはそこから少しだけ距離を取って、絶妙な描き方をしていると思います。
絡められた指から、戻れない道が一瞬覗いて、それから逃れられたことを幸いと思いつつ、どこか物足りなくも思う。
言葉にしがたい男の感情を、これも情景に載せて描きます。
「牛乳」はタイトルにある牛乳の使い方が抜群! 新婚旅行で岡山を訪れた夫妻。しかし妻が偶然、旅行先で仕事先の同僚という男に会ってから、夫の中では妻に対するなんとも言えない疑念が湧いてきて……
希望に溢れていた新婚生活や妻への思いと、現実の微妙なズレ。妻の朝食を楽しみにしていた夫が、短編の最後に、朝の駅の売店で牛乳を買う姿。
夫の得も言われない感情をどんな文章で修飾するよりも、その一見何気ない描写で、新婚生活や妻への期待や思いと、現実のズレを表現してしまう。その表現力に、ただただ感心してしまいます。
「牛乳」でタイトルに書いてある物の使い方が抜群と書いたのですが、それが他の短編にも当てはまります。「帽子」「買い物籠」「踏切」「朝食」「歩道橋」
これら何気ない言葉が、短編の最後にはその物語を象徴する何かに変わり、読者の内面にさざ波を起こす。そのさざ波は切なさであったり、苦さであったり、色々なのですが、特筆すべきはそんな何気ない物に、物語を通して意味を与え、心理描写を重ねる以上の深みを与えてしまうこと。
行間を読ませる作家さんは色々いらっしゃると思うのですが、自分の中で吉村さんの右に出る人は、今後そうそう現れないのではないかなあ、と思います。 -
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ネタバレ
吉村昭作品に、どハマりした常連さんから
とても良かったと熱弁されたので、早速
太平洋戦争開戦直前
12月8日開戦を指令した
極秘命令書を積んだ旅客機「上海号」が行方不明になった
空路から、敵地である
中国に不時着した可能性が考えられる
絶対に、敵軍に漏れてはならない命令書を巡って、大本営に激震が走る
と、いう記録小説
昭和16年に入ってから
ドイツ、イタリアと三国同盟を結ぶ日本に対して
米英両国から、在外資産凍結令をはじめとして、重要物資の対日輸出禁止まで発展する
野村駐米大使による、日米交渉が始められるも、外交交渉は難航し
遂に、ハル国務長官から
「ハルノート」を提示された事で
日本側は、一気に開戦に踏み切る事となった
海軍は、ハワイ州オワフ島真珠湾にある
アメリカ海軍の太平洋艦隊と基地を
陸軍は、シンガポール島攻略を最終目的とした、マレー半島上陸を
同時に奇襲する作戦を計画した
12月1日の御前会議で、開戦日に選ばれたのは12月8日だった
主な理由は、月齢と曜日
航空作戦の第一撃を加えるためには
夜半から日の出頃まで月のある
月齢20日付近が望ましく
8日は月齢19日で、極めて好都合
また、日曜日は
アメリカ海軍の休息日で
主力戦艦の大半が、真珠湾に投錨、集結される
同時に奇襲する、南方作戦予定地の気象についても
11月下旬から、長期判断を始めた結果
8日は、最も気象状況が良いと判定された
関係各所では、連日の諸準備に忙殺されていた
南京の支那派遣軍総司令部から
既に、香港攻略作戦に伴う
広東第23軍に、暗号電報で指示が与えられていたが
慣習に従って、作戦命令書を23軍司令官宛に
直接手交することになった
その作戦命令書が、搭乗機と共に行方不明になったのだ
命令書には、近日中に
香港へ日本軍が攻撃を開始することや
マレー上陸作戦も明記されており
近々のうちに、大々的な軍事行動に移ることを明らかにするものだった
既に、海軍では
真珠湾奇襲作戦準備に着手
陸軍の南方作戦に対する準備も
密かに進行している
大本営陸海軍が、綿密に組み立てた
史上稀な大作戦計画で
奇襲という性格上、厳重な機密秘匿の上に成り立っていた
その為、その書類は
絶対に敵手に落ちてはならなかったのだ
12月2日から始まった、隠密捜索は
翌日3日、中国軍が発信した暗号電報を受信を元に
敵地に墜落している地点の確認に成功した
が、
平時では、全く考えられない指令が下る
総司令部からの命令は
「上海号を粉々に爆砕せよ」だった
上海号は、軍専用機ではない為
民間人も搭乗していた、にも関わらずだ
戦争の恐ろしさとは、細部にまで狂気が行き渡っているところなのではないか
鉢の穴に糸を通すような
一点の狂いも許されないような奇襲作戦を
当時の、優秀な頭脳が寄り集まって作り上げたとは…
厳重に張り巡らされていた企図秘匿は
一般国民はもちろんのこと
一部の上層部を除き、移動中の軍人ですら
「ニイタカヤマノボレ1208」まで
演習だと思わされていたと言うのは
驚き以外の何物でもない
いくつかの偽装工作が綴られる中で
最も滑稽だったのが
海軍水雷学校や、砲術学校の生徒3000人に
横須賀、佐世保、舞鶴、呉の各海兵団に扮して
東京見物をさせた事
実際の艦艇群は
ハワイ方面、南方方面に出動中のため
東京湾内には、修理中の艦艇しか存在せず
大艦隊が湾内にいると見せかけ、開戦決意を偽装させるためだった
何も知らされていない学生達は
朝日新聞社の見学や、銀ブラを楽しんだという…
大本営の緻密な奇襲作戦とのギャップがハンパない
陸海軍人230万人
一般人80万人
途方もない人々が犠牲になった太平洋戦争の陰には、いろんなドラマが隠されている
#大本営が震えた日
#吉村昭
#太平洋戦争
#優秀な頭脳が集まると
#一周回って短絡的な結果になる
#歴史に学ぶことの多さよ
#吉村作品にハズレなし -
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吉村昭作品を読むのは、戦艦武蔵についで2作品目になる。
開戦に至るまでの様々な出来事が緻密かつ丹念な取材で書かれている記録文学の良書。
作戦の全容は少数の首脳部しか承知していなかったにも関わらず、ここまでの大規模な国家プロジェクトが徹底した企図秘匿の基にすすめられたことは只々驚いた。
択捉島単冠湾からハワイまで航行し大艦隊で奇襲攻撃するという一か八かの作戦を立てたこと自体、日本が追い込まれていたんだと思う。歴史にタラレバは無意味かもしれないが、奇襲戦法が成功したことは奇跡と言えるが、もし成功してなければ原爆の犠牲者も出なかったかもしれないと思うと複雑。いずれにせよ、戦争ほど悲惨なものはない。 -
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土木工事と自然について 東海道本線の丹那トンネルという難工事についての、職員の努力と地域の苦悩。吉村昭氏お得意の歴史的事業について。
トンネルの難工事ぶりについて「高熱隧道」同様によく伝わる。それと同じ大問題が、地域の方々の渇水問題についてだ。工事によって渇水が引き起こされた地域であるが、当初は因果関係がわからないため、相手にされない。しかし明らかにそして異常に、水不足が進んでいく。
現在、リニアの工事が進み、それにおいても静岡県とJRの対立が進んでいる。余所者としてはどうしてこんなにこじれているのかと思うが、その背景にはこの難工事があり、県は同じ被害を発生させたくないのだろう。
自然を相手にする土木工事においては、人知を超越する出来事がしばしば起こる。自然、そして地域に住む方々のことを、第一に考えなければならない。 -
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2015年3月、マイクロソフトの共同創業者の故ポール・アレン氏の捜索プロジェクトチームが8年がかりで、シブヤン海底に眠る武蔵を発見した。本書を読みながら発見時のテレビの衝撃的な映像を思い出した。
大和は海軍の施設である呉海軍工廠で造艦されたのに対して、武蔵は三菱重工長崎造船所という民間企業が造ったことは初めて知った。
武蔵の起工から竣工までが造艦に関わる人間ドラマとともに完成するまでの過程が克明に記されており記録文学の傑作と言える名著だと思う。
造船所から海軍に引き渡されるまでを前編、海軍が所有してから沈没までを後編として、最新の映像技術でぜひ映画にしてほしい作品。豪華キャストに実力派の監督が手掛けてくれればヒットは間違いないと思う。映像化されれば万難を排して見に行くだろうと思わせてくれる作品だった。 -
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「これは映像になる」
と、どなたかが感知して映画になったのかどうか
2,3前に映画が完成しブレイクしいたのを思い出す
たしかに読んでいて
雪の霏々と舞う中の惨劇を絶えず思い浮かべてしまう小説
日本史の勉強で
「安政の大獄」1859年(安政6年)
「桜田門外の変」 1860年(蔓延1年)
と暗記した昔が懐かしい
けれどもたった2行の年表事項、試験が終われば忘れてしまう
その歴史的事実を忠実に吉村昭さんは小説になさった
ルポルタージュでもない、創作でもない作品
ましていわゆる時代小説でもない
しかし
感動を呼び起こし夢中にさせる筆力
それはなんだろうなぁ、誠実な筆運びというのかな
と、わたしは夢中で読んでしまったのであったが
さてさて、この事件を肯定する気にもなれない
歴史は人々を幾人殺せばいいのかと思う
人間は殺し合いという遺伝子をたれながしつつ滅亡に向かう