吉村昭のレビュー一覧
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超大国ロシアへの恐れと疑心暗鬼も相まって、その対応に四苦八苦する明治政府。欧米列強に対しても、国内世論に対しても、対応に四苦八苦するできたて政府の姿が哀れでもあり滑稽でもある。再演で観た、三谷幸喜脚本+東京ヴォードヴィルショー公演の「その場しのぎの男たち」は、まさにこの政府要人達の滑稽なまでの慌てふためきを描いている。
芝居とは異なり、実際の当事者たちは日々蒼白だったに違いないことが本書を読むとよく分かる。それにしても登場人物がなんと多いことか。事件に関わった或いは関わらざるを得なかった人たちのその後が気になる。彼らは日露戦争中やその後の時代をどう生きたのだろう。 -
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漂流の果て、アメリカに辿り着き英語を習得して帰国した日本人はジョン万次郎が有名だが、その万次郎の帰国と入れ違うように、同じような運命を辿った播磨の漁師の子、彦蔵の物語である。永平丸という漁船で初漁に出るも台風に遭遇、運良くアメリカの捕鯨船に救助され13歳でアメリカに渡った彦蔵。当時、日本は未だ徳川幕府が支配しており、外国船が頻繁に現れはじめ攘夷の機運が高まった時期と重なり、海外渡航者の帰国は認められていなかった時代である。絶望の中、彦蔵は同時に救助された13人の水主たちを離れ、2人の仲間とアメリカ本土に向かう。そこで出会うアメリカ人たちは皆優しく、丁重に彼を取り扱ってくれている。当時は、すでに
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歴史の教科書にも必ず載っている「桜田門外の変」という事件は、年号や事実だけが知られているが意外に、その背景までは理解されていないように思う。その背景とは、水戸藩による尊皇攘夷思想、そして当時の藩主であった水戸斉昭による幕政改革に対する反感という伏線があり、さらに将軍家定の世継問題の動きに対して、彦根藩主井伊直弼を筆頭とする紀州派と斉昭を中心とした一橋派の対立という構図である。
しかし、著者はそうした政治的背景のみならず、彦根藩と水戸藩の間で起きた水上港運における積年のいさかいなどの描写も含め、特に水戸藩側からみた視点での怨恨が、読者にとってのそれであるような錯覚を覚えさせるかの如く描いている -
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肺病(結核)を患って肋骨を5本取った、会社員で小説家の主人公圭一と、これまた小説家の妻春子との、貧乏だけれども満ち足りた生活。
1年に1回以上引っ越しをする圭一・春子夫婦は、お金もないのにアパートを転々とし、借金を繰り返しながら同人誌を出版するような生活をしている。一方で、仕事に関しては、結核上がりということもあって、最低限で細々と暮らしている。骨と死体ばかりをテーマにした小説ばかり書いている圭一だが、ある時、芥川賞候補に推薦されたという知らせが舞い込んでくる。
結核上がりで奥さんも作家。これ吉村昭氏だよねえと読んでいるが、時代がよくわからないのと、他の吉村作品のようなぶん殴られるようなパ -
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感情移入を拒否するような淡々とした文章がちょっと退屈に感じる部分もあるが、価値観が全く異なる江戸時代の人間の感情を、現代の人に響くように描く事は無理なのかもしれなくて、そこに拘る事でわざとらしさが付きまとうのであれば、このような距離感のある文章だっていいのではないか、と思って読み進めた。
この距離感のせいか、全体に対する記述内容の割合にも表れていると思うけど、主人公の考えや気持ちという事よりも、場所を移動する事に対する重みが今と全然違うなと思った。目的を達成するための移動に時間と体力がかかっている。私だったら耐えられない。そんな通信手段・移動手段が存在しない中で、しかも蟄居させられている主犯 -
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終戦を兵士としてではなく、かといって幼子としてでもなく、出征間際の年齢で迎えた著者の回想録である。
「生れついてから××事変と称する戦争がほとんど切れ間なくつづき、遂には「大東亜戦争」と称されたあの戦争に一個の人間として直接接したことが珍しい経験なのかも知れぬ、と思うようになったのである」
とあるように、著者の一歳年上の男子は徴兵され東京を離れていたし、小学生であれば学童疎開でやはり東京を離れていた。東京で生まれ育ち、東京で終戦を迎え、戦後も東京で暮らした庶民の生活というのはなかなか貴重であろうという話である。
本書には戦中戦後の明日をも知れぬ日々の中にたくましく生きる姿がある。もち -
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ネタバレ菊池寛「蘭学事始」の前後左右に肉付けした感じ。ところがこの肉が厚くて豊かで魅力的。玄白がちょっとフォローされてるかな。まあでも、報帖で様子見とか家治への献上とかって玄白のアイデアだし、病弱で独り者だった玄白がこの成功で妻帯できたのは良かった良かった。
良沢が中津から江戸へ戻る途中で、「大井川に渡しがない」って話が出てきた。先日、角倉了以が江戸初期に舟を通した話(岩井三四二「絢爛たる奔流」。この本の解説、偶然にもこの人)を読んだばかりだったので、あれ?っと思ったけど、よく考えたら了以のは京都の「大堰川」だったw
あと、そもそもこの話、前野良沢と杉田玄白がダブル主役なんだけど、それぞれの交友範 -
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ネタバレ画像は新装版を使いましたが、実際は平成元年10月5日5刷りのハードカバーを読みました。
江戸後期から幕末にかけての外交史を語っている。小説だがセリフが少なく、まるでノンフィクションを読んでいるようだ。それでいて読みやすい。
前半では、日本に不法入国したアメリカ人のラナルド・マクドナルドが、オランダ語通詞の森山栄之助らに英語を教える過程を通じて日本の外交を描き、後半では幕末期の各国との外交の歴史を、森山が大通詞から外交官として活躍する流れとともに描いている。
後半はアメリカの横暴な態度に腹を立てながら読んだ。無理難題を押し付けてくるペリーに対し、日本側も譲歩しない。外交経験がほとんどない日