吉村昭のレビュー一覧
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共生というテーマ
筆者のテーマ選びにはいつも感嘆させられる。物語はミツバチを通して、一貫して共に生きることを見つめているように思う。人もミツバチも一人で生きられはしない。そのことをミツバチの克明な生態を軸に、見事に浮かび上がらせている。
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吉村昭『天に遊ぶ』新潮文庫。
吉村昭の21編を収録した掌編集。今どき文庫本で490円という価格はかなり珍しい。
普通に生きる市井の人びとの様々な人生の場面を切り取り、背後にある過去と後悔をも描写してみせた味わい深い掌編が並ぶ。
『鰭紙』。南部藩の庄屋だった家で見付かった古文書にはかつての飢饉の様子が描かれていた。明らかにしなくともよい歴史もある。
『同居』。上手く行くと思われた縁談だったが、まさかの理由で破談に終わりそう。
『頭蓋骨』。取材で北海道の漁師町を訪れた小説家は帰り道に思わぬ雨に途方に暮れる……
『香奠袋』。頻繁に文壇の著名人の葬儀に姿を現す老女は香奠婆さんと呼ばれ、香典 -
Posted by ブクログ
ネタバレ太平洋戦争の最中、当時の技術を結集して作られた最強の戦艦武蔵の建造とその最後を描く。
前半では、超機密裏のうち、多大なる資源、時間、労力が投入され、製造されていく武蔵が描かれている。
その裏には巧みな機密保持工作や造船技術者の苦悩があった。
武蔵は完成後、あまり実戦に出るチャンスが無く、最終的には米軍の航空隊と魚雷攻撃の集中砲火でコテンパンにやられて沈没する。
前半で描かれていた機密保持や技術者の苦労は一体何だったのか…というほどのあっけない最後であり、なんとも言えない虚しさが残る。
吉村氏特有の冷静で客観的な表現で描かれており、とても読みやすい。 -
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切り取り
歴史って、人生って、こんな角度からも切り取れるんだ。筆者の作品は読むたびに気付かせてくれる。戦時下の状況を刑務所から眺めるという発想はこの本を読まなければ一生持たなかったと思う。
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淡々と、出来事と人々を観察するように描かれていました。
表題作と「死体」「喪服の夏」が好きです。
逃れられない貧しさや家の柵。逃げ出してる女性もいたけれど、我慢して虐げられているのが、時代といえば時代だったのかな。読んでいて辛かったです。
「喪服の夏」のおばあちゃんの最期の決意、胸にくるものがありました。それまでやってきたことから、この人物は好きではないけれど。
「少女架刑」で、献体の料金(?)が安かったからと母親が遺骨を引き取らないのも酷い話だけど、その後の納骨堂の描写で、ああこういう家庭多かったのかな…って感じるのも悲惨です。亡くなって死体になってる女の子の目線で物語が語られるの、乙一さん -
Posted by ブクログ
吉村昭『冬の道 吉村昭自選中期短篇集』中公文庫。
吉村昭が中期に描いた短編の中から選りすぐりの10編の短編を収録。
吉村昭と言えば、過去に埋もれ行く歴史の断片を描いた記録文学作品の他に、日本人の心を描いた一連の短編にも定評がある。『三陸海大岸津波』『関東大震災』『破獄』『羆嵐』『漂流』は前者で、後者の代表作は岩手県田野畑村を舞台にした『梅の蕾』だろう。『梅の蕾』は何度読んでも泣けてしまう。
本作では刑務所の看守を題材にした短編と戦争に翻弄される家族の姿を描いた短編が収録されている。『梅の蕾』同様、極めて淡々とした洗練された文章が読み手の心を揺さぶる。
『鳳仙花』。四季のうつろいと共に平 -
Posted by ブクログ
非常に面白く、細部まで圧倒される力が注がれた作品だった。
根を込めて読んだ事もあり、長英の目線でoneショットカメラ的に彼の人間的なものを共有して行った想い。
当所は「インテリ特有の不遜傲岸」さが有れども、長い逃避行の裡に、下賤問わず(たいていは裕福な医師や商人だったが)人に触れて、温もりへの謝意に溢れて行った日々。それでも晩年では「世話になり続けたことへの卑屈な感情の高まり」は押し殺せず、拗ねた思いになったことも有ったろう。
驚のは毎度の事、筆者の考え・・どこまで資料が有ったのか!
例えば、捕縛のきっかけとなった男・・良く「身内に気をつけろ」というものの、アリ得る設定。
一番納得がいくの