吉村昭のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ・あらすじ
吉村昭の中期短編集10篇。
・感想
どれも面白かった!
「鳳仙花」「休暇」「苺」「鋏」はどれも刑務官や篤志家(と言っていいのかな?服役中の受刑者を社会的に支える人たち)の話。
この中だと特に「休暇」が重たかったかも…。
鋏に出てくる片桐も不気味な印象があったな。
なにあいつ、慇懃無礼なのかよくわからん。
「無期刑を受けた犯罪者」という事実が余計に不気味さを醸し出してた。
あんなやつ一刻も早く追い出したくなるよw
「同情心を持たず一線引きつつも冷徹な視線で物事を観察する語り手」は読んでてストレスなくていい。
吉村先生のお父さん三部作は時代を感じたw
明治〜昭和初期の人間だもんな。
今からたった100年前なのにこんなに社会も国民性も変わるんだなーと感慨深い。
こんな父親からよくもまぁ立派な息子たちができたもんだわ。
戦中戦後の社会の様子なども知れるので興味深く読んだ。
そして巻末の編集者である池上冬樹の解説も面白かった。
私はシーラッハも好きなんだけど、解説で吉村昭先生とシーラッハの相似点を指摘してて得心した。
確かにこの二人は似てるわー。
現代小説を「ストレートに感情を描き、時に厚く塗絵をして共感を呼ぶことを第一義とした小説」という解説にも納得。
これでもか、というほどに一方的に押し付けて共感させようとする押し付けがましい作品が多くて最近の作品は読めなくなってしまった。
「感情を描かず、共感という媚びなど一ミリもない吉村昭の硬質な文学」がなんとも心地いんだよなぁ。 -
Posted by ブクログ
ネットでこの本のモデルになった人物のことを知る。
長平。江戸中期の土佐のひと。
漂着した孤島の鳥島でサバイバル生活を13年間。
後年、さらに漂着した二つのグループも合流して、船を作り、ぶじに生還したという。
その際、彼は島に生活道具や生活方法を記した書置きを残して、それがのちにジョン万次郎を救うことになったという。(←ジョン万次郎の部分は本書にはなく、史実なのかあやしいが)
凄すぎる。
漂流もの、島もの大好きの私が、この人物のことは全然知らなかったので、まずは、こんな人がいたんだ!と思った。
怖すぎて面白すぎて、半日で一気読みでした。
吉村は冒頭で、太平洋戦争の終結を知らぬまま、ジャングルに潜っていて、のちに発見された人々を、一種の漂流者だと評した。
(このなかにあった、アナタハン島の男十数人と女一人の集団で、女の取り合いから発生した内ゲバ=アナタハン島の女王事件が、ピトケアン島のバトルロワイヤルを思い出してギョエーと思った。
漂流ものに普通女性はいないけど、やっぱりいたら大変なことになるんやな。怖すぎ。)
『漂流』では、長平の信念や賢さ、器用さには感心したが、なにより、諦めずに生きようと思い続けた意思の強さに感服した。
私なんかは、絶望してまっさきに死ぬタイプだ。すんません。
長平が孤独に過ごした二年ほどが一番凄い。
気が狂うのが普通よな。
ロビンソンクルーソーのモデル、アレキサンダー・セルカークも四年間一人で暮らしたら言葉を忘れかけてたらしいし。
もともとある程度の知識や教養を持っていることも、非常に大切ですね。
方角と星座の知識はもとより、字が書けたり、造船や鉄作りの技術、酒造りの知識があったりする。
それがなくても、根気強さや明朗さ、器用さ、素直さが大事だ。そう、そういうことなんだぞ。
後半、脱出用の船造りで、みんなの知識を集めて、生きて帰るために尽力していくシーンがアツすぎる。
おみくじで適当に決めた方角が北西で本当に良かったね…。
運を味方につけたんだ。
そして苦労してやっと辿り着いた青ヶ島が、鳥島以上にヤバかったのには笑ってしまった。
読後、改めてシマダス(島の情報事典)を引っ張り出して読んだ。
鳥島もコラムコーナーにはちゃんと載っていたし、うっすら分かっていたけど、小笠原はもっともっと遠いんですね…! -
Posted by ブクログ
ノンフィクションというのが信じられないくらい壮絶な仕事内容。現代では考えられない忍耐力と根性と主従関係とお金の力。いや、考えられなくないのかもしれないけど。残業なし、有給、フレックス、〇〇ハラスメント。ホワイト企業とブラック企業。間違いなくこの建設会社は現代ではブラックであるが、そんなことを言っていたら発電所が作れないとなると、ブラックであればあるほど、意義のある仕事のような矛盾がある。当時スコップを手に瓦礫をかき集めていた彼らもやりがいとか、これが社会のためとか、国が豊かになるためとか、全く思ってないのではないか。単に生きたいくため。家族を食わせていくため。この想いだけでここまで過酷な仕事ができ、環境に順応している彼らにはリスペクトしかない。
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Posted by ブクログ
元々歴史物はあんまり好きじゃない.
特に,武将モノや戦記ものなど,権力とか戦争を物語化したものがコンセプト的に既に大嫌いで,そう言ったものは読んだことが無いと言っても過言ではない.
しかし,こう言った作品は例外.
勿論,時代背景として,鎖国であったり,それに伴う幕府の姿勢であるだとか,権力が学問に及ぼす影響であったりは出てくるのだけど,それはあくまでも市井の人々——医師や蘭学者まで含めた「非権力」側の人間の視点で描かれている.
だからこそ,我々一般市民が推し量れる,推し量るべき「時代の空気感」として認識出来る.
本書を手に取ったきっかけは,小学2年生の娘の公文の課題だった.
ほんの短い引用であったが,「解体新書」の刊行を巡る杉田玄白と前野良沢の,専門家としての譲れない信念のぶつかり合いと葛藤は圧倒的に惹きつけるものがあった.
最初は「面白くない」と言っていた娘も,問題文を読み進めるうちにどんどん引き込まれていって,最後には「え?もうこの話おしまい?もっと読みたかったのに!」というほどだった.
1976年,今から50年も前に刊行されたものだけに,手紙のやり取りなどは原文を忠実に引用しており,現代文からの「落差」にちょっとスローダウンする場面はある.
ただ,安易に全部現代語訳にしてしまわないのは,当時の作家としての「良心」や常識だったのかな,と理解出来る程度.
みずみずしく,人間臭く,ページを躍動する歴史上の医家が放つエネルギーに,こちらも感化されてしまいそうだ.
それにしても,当時の「学問」と呼ばれるものの多岐にわたって「医師」が関わっていたこと,先導していたことは大変興味深い.
前野良沢など,翻訳家としての認識が強かっただけに,「そうか,そう言えば医者だったんだ」というところから,あの平賀源内も医者だったと知り,恥ずかしながら全然そんな認識がなかったので,とにかく興味の尽きない1冊だった.
こういう歴史物なら大歓迎.
これは日本の医学史の黎明期の躍動を描いたものであって,言ってみれば僕の「大先輩」である人たちの物語.面白くない訳がないのだ. -
Posted by ブクログ
タイトルから想像できるようにサバイバルもの。
不毛の火山島が舞台なので、よくあるサバイバルものの大衆映画とは全く違って、できることが限られてて、無人島生活を謳歌するような内容では全くない。
干し肉作ったり、池作ったり、果てには船まで作ってしまう。
厳しい環境の中、少しの諍いはあっても協力して生活して、生きることを諦めない忍耐力に脱帽。
念仏を唱えて精神の安定をはかったり、船の材料になるものを発見するたびに「神仏のおさずけものだ」と感謝したり、病に臥せってしまった仲間を甲斐甲斐しく世話し、亡くなった後も埋葬しお墓を作って丁重に弔う姿勢は、宗教関係なく尊く、こういう人達だったからこそ報われたのだなと感じた。
これが実話を元にしてるっていうんだから、さらに畏敬の念を覚える。
とはいえ、もちろん直接話を聞いたわけではなく、残された記録だけを元にした物語で、実際に何があったか詳しく残っているわけではない。
解説内で評されているように、作者の吉村昭さんの“人間への愛情を伴った関心”で補完された物語。
でも船に残ってた紋所や、何人出発して何人帰ってきて何を持ち帰ったかなどは確かな記録であるので、かけ離れてはいないんじゃないかな、と思いたい。
終盤舟が完成する場面、舟の完成ももちろんだけど、舟の紋所を仲間の出身に合わせて三つ巴にするってのもお互いを尊重し合ってるのが伝わってきてグッときた。
しかも島を去る前に、これからも来るであろう遭難者に向けて道具や情報を残すなんて。
さらに仲間のお墓から遺骨もちゃんと持ち帰ってあげるなんて。
人間って、仲間を思う心って本当に美しいと思った。