吉村昭のレビュー一覧

  • 新装版 白い航跡(上)

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    登場人物も背景も予備知識なしで入る。薩摩藩の大工の家。主人公は幕末に生まれ西洋医学を志す。努力と実力。人格も手伝い偶然も呼び込む。次から次へ、膨らむ立場。責任も重い。下巻の展開が楽しみになる。…明治の日本。「坂の上の雲」を目指して歩く。その先に何があるかはわからない。ただ、ひたむきに登る。その答えを知るのは後世に生まれた我々。脱亜入欧。3度の戦争の勝利。日本は先進国の一員になる。さらにその先に起きる戦争の結末。この物語の登場人物には知る術もない。…学ぶことは多い。失われた30年。その先は我々も知らない。

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    2023年04月23日
  • 雪の花

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    江戸時代末期の福井藩。人々の命を奪う天然痘と闘った一町医の生涯を描いた物語。周りの理解を得られず、詐欺師と石を投げられても人を助けるために人生を捧げられたのは何故なのか。素晴らしい人を襲う苦難の人生。やるせなさに胸が詰まった。

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    2023年04月19日
  • 魚影の群れ

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    ネタバレ

    動物をテーマとした短編4作を収録。

    海の鼠は瀬戸内の島で大量発生した鼠に対応する人々を描いた実話にもとづいた話。
    鼠取り機、殺鼠剤、蛇など、鼠駆除に様々な方策が講じられ、一定の効果はあるものの、結局人間の力で鼠の群れを壊滅させることはできず、島民は鼠の害にあいつつも、状況を諦め、受け入れていく。そのうち、人口の減少と共に鼠は自然に減っていく。

    これはウィズコロナになっていく今の状況にも似ており、自然の力に対して、人間はどうにもできないことを知らされる。

    そのほかの話はフィクションだが、いつも淡々とした文体のノンフィクションを書く筆者であるが、心理描写も上手いと思った。

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    2023年03月25日
  • 戦艦武蔵

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    国を挙げた一大プロジェクト、超大型戦艦武蔵の起工から最期までを克明に記しあげたノンフィクション。
    手に余った巨大戦艦が辿る海上での末路は壮絶の一言。60年代にここまで緻密な調査を行い、当時の日本の愚かさやひたむきさを迫力と共に描き、花火のように終わる本作は記録文学として圧倒的な位置にいると感じた。

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    2023年03月17日
  • 戦艦武蔵

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    巨大戦艦「武蔵」の建設計画から、進水、戦歴、沈没に至るまでの7年間を描いた歴史文学。著者の吉村昭は、軍人や乗船兵でもなければ、造船会社の関係者でもなく、戦時中は少年だった。ある意味「第3者」という立場からフラットな目線で、「戦争に突き進み、敗色濃厚でも戦争を続けてしまう」当時の日本社会に迫ろうとしている。
    膨大な人命と物資、金銭と時間を浪費するだけなのに、なぜこのような非合理的な「愚行」が国としてまかり通り、社会に根強く残ってしまうのか。筆者は強い疑問を持っていたのだろう。

    実は、本書はページ数の過半数が、武蔵が建造される期間に割かれている。さすがに戦場、特にレイテ海戦における沈没までの正確

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    2023年02月23日
  • 幕府軍艦「回天」始末

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    明治初期の宮古湾海戦、「事実主義」の作品。
    さすがの吉村昭。なんでだろう‥臨場感が半端なくて一気読みでした。

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    2023年02月14日
  • 虹の翼

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    「吉村昭」の伝記的歴史小説『虹の翼』を読みました。

    「吉村昭」作品は昨年8月に読んだ『海軍乙事件』以来ですね。

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    「吉村」ファン必読の書が待望の新装版!

    人が空を飛ぶなど夢でしかなかった明治時代―「ライト兄弟」が世界最初の飛行機を飛ばす十数年も前に、独自の構想で航空機を考案した男が日本にいた。
    奇才「二宮忠八」の、世界に先駆けた「飛行器」は夢を実現させるのか?
    ひたすら空に憧れた「忠八」の波瀾の生涯を、当時の社会情勢をたどりながら緻密に描いた傑作長編。
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    1978年(昭和53年)、『京都新聞』に

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    2023年01月30日
  • 東京の下町

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    戦前戦後あたりの東京下町における人々の生活や考え方、感じ方が非常に良く分かり大変得るものが多かったと感じました。当時の文化を伝える貴重な資料との評価はその通りと思いきます。

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    2023年01月14日
  • 仮釈放

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    主人公のわかりそうでわからない人物像がすごい。
    殺人を犯し無期刑にもなったが、罪を悔いておらず、そのことを周囲に気づかれてもいない。主人公は生真面目な性格で、何も駆け引きを打たないが、それ故に垣間見える恐ろしさがある。
    怒涛の畳み掛けとなるラストは、誰の状況も一瞬で変わり得ることを感じさせられた。

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    2022年12月29日
  • 背中の勲章

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    太平洋戦争で米国の捕虜となった様子がコンパクトにまとめられて記述されていて読みやすい。

    捉えられた日本兵は捕虜となることを恥じるが、意外と人道的な扱いを受けていることが分かる。

    生き残ったことに後悔する、国のため戦死することに何の疑いもない当時の考えに、人生とは、命とはという意味をかんごえさせられる。

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    2022年12月25日
  • 戦艦武蔵

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     初版は1971年9月、新潮社より刊行。
     綿密な聞き取り取材と資料調査にもとづき執筆された記録文学作品。戦争小説というよりは、当時の技術の限界に立ち向かった巨大プロジェクトの記録という体裁で、いかにも高度経済成長期の作品という感じである。解説の磯田光一が、この作は「一つの巨大な軍艦をめぐる日本人の“集団自殺”の物語である」と看破したのは慧眼という他にない。この小説には、「なぜこの巨大戦艦を作るのか?」「戦艦建造をめぐる過程で、どうしてそこまでやらなければならないのか?」という問いが根本的に欠けているからである。つまり、戦争や軍事をめぐる価値判断が停止されている。

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    2022年11月26日
  • 桜田門外ノ変(下)

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    桜田門外の変は、幕府と水戸藩の対立、諸外国どの向き合い方をめぐる立場の違いを背景としている。この作品は、水戸藩士の関鉄之介を主人公に事件の詳細を描く。明治維新のたった8年前。歴史のネジを巻くことになった事件。

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    2022年11月23日
  • 桜田門外ノ変(上)

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    同じ筆者の生麦事件と合わせて読むのが良いです。桜田門外の変では、尊王攘夷に燃える水戸藩の熱量を、生麦事件では尊王攘夷が不可能と知った薩摩藩や長州藩の視点が描かれてます。

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    2022年11月17日
  • 海軍乙事件

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    「吉村昭」のノンフィクション短篇集『海軍乙事件』を読みました。

    『戦艦武蔵』、『高熱隧道』に続き「吉村昭」作品です。

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    昭和19年3月、パラオ島からフィリピンに向かった2機の大型飛行艇が、荒天のため洋上に墜落した。
    機内には「古賀連合艦隊司令長官」と「福留参謀長」が分乗していた。
    参謀長以下9名は一命をとりとめたが敵ゲリラの捕虜に。
    そして参謀長の所持する最重要機密書類の行方は…。

    戦史の大きな謎に挑戦する極上の記録文学。
    太平洋戦争をたどる上でも、第一級の資料として、貴重な文献といえる。
    表題作ほか、『海軍甲事件』 『八人の戦犯』 『シンデ

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    2022年11月11日
  • 戦艦武蔵

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    「吉村昭」のノンフィクション作品『戦艦武蔵』を読みました。

    「吉村昭」作品は昨年7月に読んだ『零式戦闘機』以来なので約1年振りですね。

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    日本帝国海軍の夢と野望を賭けた不沈の戦艦「武蔵」――。

    厖大な人命と物資をただ浪費するために、人間が狂気的なエネルギーを注いだ戦争の本質とは何か? 
    非論理的“愚行”に驀進した“人間”の内部にひそむ奇怪さとはどういうものか? 
    本書は戦争の神話的象徴である「武蔵」の極秘の建造から壮絶な終焉までを克明に綴り、壮大な劇の全貌を明らかにした記録文学の大作である。
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    2022年11月11日
  • 生麦事件(上)

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    かなり早い段階で事件が起こって、これからどうするん?と思ったけど、その後のほうが大事なのね………。攘夷と外国協調路線、薩摩藩、幕府、朝廷それぞれの思惑とパワーバランス。激動期をダイナミックに描く。

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    2022年11月05日
  • 私の好きな悪い癖

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    昭和2年に生まれた著者の書籍で既読のものは、『羆嵐』のみだった。本書は、表題が気になり購入したが、『羆嵐』の著者と意識はしていなかった。
    この随筆では、子供時代から順をおって、印象に残る出来事が綴られていく。ご自身の体調のことや、小説創作のために訪れた取材先での出来事や、戦時中の話など、縦横無尽である。最後に掲載されている講演を収録したものも、興味深い。「尾崎放哉と小豆島」というテーマで語られる。いつか現地に行ってみたくなった。
    本書は、寝る前のひとときの楽しみで、毎日少しずつ読み進めた作品。

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    2022年11月05日
  • 羆嵐

    匿名

    購入済み

    ヒグマ怖い

    あの有名な日本最大の獣害事件をモチーフとした本作。描写が非常にリアルでヒグマに襲われる人間の恐怖をしっかり感じさせてくれる傑作。

    #ドロドロ #怖い #ダーク

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    2022年11月05日
  • 大黒屋光太夫(下)

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    日露戦争に東西冷戦、北方領土問題にウクライナ危機。残念ながら両者が友好であった期間は短い。お互いをよく知らない時代。日本側の恐れとは裏腹にロシア側には憧憬の念があった。自国に流れ着いた漂流民。相手を知るための教師から自分たちを理解させる特使として使う。政策の道具である一方、本物の誠意も感じさせる。寒さ故か、その情は”熱い”。死にもつながる凍傷。順応しなければ住めない国。ナポレオン、ヒトラーが敗れた冬将軍。決して攻めてはいけない国。悪い感情ばかり抱いてはいけない。遠くて近い国。糸口をつかむヒントをもらう。

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    2022年10月10日
  • 蚤と爆弾

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    太平洋戦争の際に日本軍部が取り組んでいた細菌兵器を開発していた「731部隊」に関する歴史小説。
    吉村昭の作風らしく、事実を淡々と伝えるアプローチで、却って迫ってくる恐怖を感じる。
    ナチスの残忍な行為もそうだが、人間が人間性を失っていく、これが「戦争」の狂気、そして愚かなところ。この部隊を率いる石井四郎は、自分の任務、科学の発展のため、という錦の御旗に疑いをもたない。

    今を生きる我々にとっては、このような悲劇を風化させない努力が必要なのだろう。

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    2022年10月09日