吉村昭のレビュー一覧
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ネタバレ動物をテーマとした短編4作を収録。
海の鼠は瀬戸内の島で大量発生した鼠に対応する人々を描いた実話にもとづいた話。
鼠取り機、殺鼠剤、蛇など、鼠駆除に様々な方策が講じられ、一定の効果はあるものの、結局人間の力で鼠の群れを壊滅させることはできず、島民は鼠の害にあいつつも、状況を諦め、受け入れていく。そのうち、人口の減少と共に鼠は自然に減っていく。
これはウィズコロナになっていく今の状況にも似ており、自然の力に対して、人間はどうにもできないことを知らされる。
そのほかの話はフィクションだが、いつも淡々とした文体のノンフィクションを書く筆者であるが、心理描写も上手いと思った。 -
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巨大戦艦「武蔵」の建設計画から、進水、戦歴、沈没に至るまでの7年間を描いた歴史文学。著者の吉村昭は、軍人や乗船兵でもなければ、造船会社の関係者でもなく、戦時中は少年だった。ある意味「第3者」という立場からフラットな目線で、「戦争に突き進み、敗色濃厚でも戦争を続けてしまう」当時の日本社会に迫ろうとしている。
膨大な人命と物資、金銭と時間を浪費するだけなのに、なぜこのような非合理的な「愚行」が国としてまかり通り、社会に根強く残ってしまうのか。筆者は強い疑問を持っていたのだろう。
実は、本書はページ数の過半数が、武蔵が建造される期間に割かれている。さすがに戦場、特にレイテ海戦における沈没までの正確 -
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「吉村昭」の伝記的歴史小説『虹の翼』を読みました。
「吉村昭」作品は昨年8月に読んだ『海軍乙事件』以来ですね。
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「吉村」ファン必読の書が待望の新装版!
人が空を飛ぶなど夢でしかなかった明治時代―「ライト兄弟」が世界最初の飛行機を飛ばす十数年も前に、独自の構想で航空機を考案した男が日本にいた。
奇才「二宮忠八」の、世界に先駆けた「飛行器」は夢を実現させるのか?
ひたすら空に憧れた「忠八」の波瀾の生涯を、当時の社会情勢をたどりながら緻密に描いた傑作長編。
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1978年(昭和53年)、『京都新聞』に -
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初版は1971年9月、新潮社より刊行。
綿密な聞き取り取材と資料調査にもとづき執筆された記録文学作品。戦争小説というよりは、当時の技術の限界に立ち向かった巨大プロジェクトの記録という体裁で、いかにも高度経済成長期の作品という感じである。解説の磯田光一が、この作は「一つの巨大な軍艦をめぐる日本人の“集団自殺”の物語である」と看破したのは慧眼という他にない。この小説には、「なぜこの巨大戦艦を作るのか?」「戦艦建造をめぐる過程で、どうしてそこまでやらなければならないのか?」という問いが根本的に欠けているからである。つまり、戦争や軍事をめぐる価値判断が停止されている。 -
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「吉村昭」のノンフィクション短篇集『海軍乙事件』を読みました。
『戦艦武蔵』、『高熱隧道』に続き「吉村昭」作品です。
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昭和19年3月、パラオ島からフィリピンに向かった2機の大型飛行艇が、荒天のため洋上に墜落した。
機内には「古賀連合艦隊司令長官」と「福留参謀長」が分乗していた。
参謀長以下9名は一命をとりとめたが敵ゲリラの捕虜に。
そして参謀長の所持する最重要機密書類の行方は…。
戦史の大きな謎に挑戦する極上の記録文学。
太平洋戦争をたどる上でも、第一級の資料として、貴重な文献といえる。
表題作ほか、『海軍甲事件』 『八人の戦犯』 『シンデ -
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「吉村昭」のノンフィクション作品『戦艦武蔵』を読みました。
「吉村昭」作品は昨年7月に読んだ『零式戦闘機』以来なので約1年振りですね。
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日本帝国海軍の夢と野望を賭けた不沈の戦艦「武蔵」――。
厖大な人命と物資をただ浪費するために、人間が狂気的なエネルギーを注いだ戦争の本質とは何か?
非論理的“愚行”に驀進した“人間”の内部にひそむ奇怪さとはどういうものか?
本書は戦争の神話的象徴である「武蔵」の極秘の建造から壮絶な終焉までを克明に綴り、壮大な劇の全貌を明らかにした記録文学の大作である。
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