あらすじ
津軽海峡を舞台に、老練なマグロ釣りの孤絶の姿を描く表題作。四国に異常発生した鼠と人間との凄絶な闘いの記録「海の鼠」。名人気質の長良川の鵜匠の苦渋を描く「鵜」など動物を仲立ちとして自然と対峙する人びとの姿を精密に描いた傑作小説四篇を収録した作品集。
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Posted by ブクログ
うちは今、けっこうな田舎にあって、この前、2、3日うちを開けたら、ネズミかハクビシンか、アナグマが天井裏に住みついてた。というか東京に住んでた時も、防災用のビスケットがネズミにやられて、そこはあんまり田舎関係ないかも。前に虫に詳しい友達が言ってたんだけど、害虫を家に入れないためには、たえず「ここは人間のテリトリー!」とアピることが大事らしい。なので天井は、クイックルワイパーでドスドスつついてがんばった。ケーブルかじられて火事とか怖いし。人間さまの尊厳ってないね。虫やハクビシンとタイマン張らないと、家も守れない。
よく「自然を守ろう」とかって言ったりするけど、自然って、ちょっと気を抜くと、自分なんてぷちっと潰してくる。それは不運も大きいし、それこそ「災害級」の確率でしか起こらないかもしれないけど、毎日地味にナワバリ争いは続く。
ナワバリが崩れるのは対自然だけじゃなかった。この本では、「おいおい、他人も自分の力ではどうにもならないのかよ〜!」いう気持ちになった。周囲のすべてにたいして、わたしの尊厳はとってももろい。わたしは、わたしのどんな部分に、わたしの尊厳と存在意義を見出せるか。
Posted by ブクログ
1950年頃愛媛県戸島で起きたネズミ大量発生騒動をモデルにした「海の鼠」など4編。自然災害を書かせたら神。時代も環境も違うのに臨場感があって、村人の一人になって一緒に毒ダンゴを作ってる気持ちになった。名作揃いの吉村昭氏の著作の中でも決して引けを取らない。高熱隧道や羆嵐と同じレベルの衝撃。短いページの間に何度も期待と歓喜と失望が繰り返される。1960年代から70年代にかけて吉村昭と新田次郎の新作が読めてたなんて、その時代の読者は幸せだなぁ。
Posted by ブクログ
「海の鼠」「蝸牛」「鵜」「魚影の群れ」の4篇の短篇集。
実話に基づくらしい。
筆者の綿密な取材により、ありありとその世界が伝わる。
中でも、大量発生する鼠に苦慮する島の顛末を描いた「海の鼠」。自然現象にいかに人は無力か。島民の悲哀。そして、「鼠駆除」がもたらしたもの…。氏の筆致が秀逸。
Posted by ブクログ
マグロ、鼠、鵜、蝸牛をテーマにした「動物小説」の短編集(4編)。
動物を通じて自然の厳しさを描き、また自然(動物)と対峙するプロの生き様をヒューマンタッチに描く。
吉村昭の作風でもある詳細な事実調査の積み重ねからなる迫りくるリアリティに自ずと惹きこまれてしまう。
歴史小説にはない新鮮さを堪能できた。
Posted by ブクログ
濃淡の差はあれ、いずれも動物との関わりが深い四つの中編を搭載。記録文学的描写の「海の鼠」は、この作家らしい重厚かつ客観的な語り口で読ませるし、「鵜」と「魚影の群れ」は父と嫁ぐ娘との破綻が運命的に描かれている。一方、「蝸牛」はユーモラスだが不気味。
Posted by ブクログ
動物をテーマとした短編4作を収録。
海の鼠は瀬戸内の島で大量発生した鼠に対応する人々を描いた実話にもとづいた話。
鼠取り機、殺鼠剤、蛇など、鼠駆除に様々な方策が講じられ、一定の効果はあるものの、結局人間の力で鼠の群れを壊滅させることはできず、島民は鼠の害にあいつつも、状況を諦め、受け入れていく。そのうち、人口の減少と共に鼠は自然に減っていく。
これはウィズコロナになっていく今の状況にも似ており、自然の力に対して、人間はどうにもできないことを知らされる。
そのほかの話はフィクションだが、いつも淡々とした文体のノンフィクションを書く筆者であるが、心理描写も上手いと思った。
Posted by ブクログ
久しぶりに本を読んで鳥肌がたった。総毛立つとはこのことであろう。
それが、最初の海の鼠である。
あくまでリアルにリアルに(この話は実話であるようなのだが)描く筆力に感服。
最後の話、表題作もよい。
心に迫るものを感じて本を置いた。