吉村昭のレビュー一覧
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吉村昭『雪の火祭り 吉村昭初期中篇・短篇集』河出文庫。
未発表小説『新月』を含む未収録作品全9篇を収録した作品集。
吉村昭の小説を読み始めたのは40年以上前だろう。原作映画の『漂流』を試写会で観たのを切っ掛けに原作を読み、『破獄』や『羆嵐』、『高熱隧道』などを読んでいた。吉村昭は、こうした有名な中篇の傑作も面白いのだが、短篇にも名作が多数ある。自分が最も好きな短篇は『梅の蕾』だ。何度読んでも涙が零れる。舞台が故郷の岩手県であるだけに思い入れも強いのかも知れない。
『緑雨』。昔は結核で療養という話がよくあった。兄弟で経済的な負担をし合うのも、この頃の話。結核のため、家で療養している主人公 -
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ネタバレ4回脱獄した人の話。読者としての興味はその脱獄のすごさ。作者のテーマは矯正施設に勤務する人々の苦労や思いにスポットライトを当てることか。戦前、戦中の社会問題、特に食糧事情の描写がかなり細かい。食糧難でも囚人は食料が維持される矛盾。
脱獄のすごさは、針金で手錠を簡単に開けるとか、3メートルの壁を越えてしまうなどの小技と筋力が一つ、脅迫や懐柔、誘導で監視を甘くさせる謀略が一つ、少ない情報での(不完全なはずの)計画を実行しきる胆力、脱獄後に極寒の地で生き抜く生存力と意思(普通の脱走者は寒くて死ぬか戻る)。どれも規格外。施設や監視体制の強化ではどうしても防げないと考えた府中刑務所鈴江所長は、逆に普通に -
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ゴールデンカムイを観てからだと銀四郎のほうが羆に対しての恐怖やリスペクトをよっぽど持っているなと感じた。そういうものへの無知な村の人への対応は銀四郎にも問題はあるが、分からなくもないとは思った。未開の地を切り開き、肥沃な土地に当たるかどうかも分からない。そんなギャンブルのような生活をしている中で村や部落というものが生まれていくんだなということを感じた。
羆はいつも人間にとっての脅威であり、そしてカムイなんだと思った。太刀打ちできない圧倒的な存在として荘厳な存在ですらあると感じる。熊が全国各地で出没してアレコレ騒がれているが、難しい問題だと思うと同時に、共生していく在り方をこの本を通して改めて考 -
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副題に初期短篇集とあるが、収録された作品は一九五〇年に書かれた作品もあれば一九八五年に書かれた作品もある。すべての短篇が同時代の家族を題材に書かれていて、そして、それらの家族は次々と崩壊していく。崩壊の誘因は、病と性。なんとも暗く、読んでいて陰鬱になる。特に、発掘短篇だという「日曜日」(pp77-89)の救いの無さはすごい。どんよりした気分になりながらも、とても読みやすい文章なので、するすると読めてしまう。それにしても荒んだ話を連続で読み続けるのはつらいなあ、と思っていたら、最後に収録された「雪」(pp245-267)の老夫婦の寄り添いあう姿にようやくほっとできた。
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巣鴨プリズンの一刑務官の評伝のように読めましたが、後書きで主人公が架空の人物と知る。
この小説は、戦争責任の所在を問うものではありません。
また、戦勝国や敗戦国の善悪を論じるものでもない。
戦争という途方もないうねりの結果、戦犯という重苦しい処遇を背負った人々に対し、
ほんの灯火に過ぎずとも、人道的なあたたかさに全力を尽くした人間たちの記録を集め、淡々とつづっている。
(もちろん、戦中の日本上層部の行動を肯定している…という意味ではないですよ)
人によっては、地味で退屈する筆致と感じるかもしれません。
けれど、あの戦争はこうだったと簡単に論じる本より、遥かに誠実です。 -
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ネタバレ・あらすじ
昭和8年に青森県で起こった強盗致死事件の犯人として逮捕され無期刑判決を受けた佐久間清太郎は昭和11年、昭和17年、昭和19年、昭和22年と脱獄を繰り返す。
4箇所の刑務所を脱獄した佐久間の執念と、戦中戦後の混乱期の世相や治安維持に努めた執行機関の取り組みなどを描く。
・感想
読む前は主人公である佐久間がどうやって刑務所を脱獄したのか、という方法論やその執念がどこから来るのか?などの佐久間の人となりに焦点にあてた作品だと思ってた。
でも実際は、佐久間という脱獄犯を通して戦中戦後の日本の
移り変わりを描いた社会派作品だった。
そうだよね、吉村先生だもんね。
戦中の刑務所や警察組織が