吉村昭のレビュー一覧

  • 東京の下町

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    吉村昭の、子供の頃のエッセイが好きで購入。何度か読んだことのあるエピソードもあるんだけど、何度だって読みたい。

    淡白な文章はエッセイでも同じで、だからこそ、急に遠くに去る光景や人々の背を追ってしまう気持ちになる。戦争の波、白黒でしか頭に浮かんでいなかった少女に突然色がのる瞬間。つい自分も少年吉村昭になって息をつめていたり。

    当時の日常の資料としてもいいとのことだが、もう遠くに去ってしまった日々を思うのも、生きることを振り返るためにはいいかもしれない。

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    2018年01月02日
  • 仮釈放

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    吉村昭による立派な仮釈放された人物かいる。
    ノンフィクションが多い吉村昭にしては珍しいフィクションだが、ノンフィクションのように仮釈放と言うなかで生きる菊谷がいる。
    無期懲役から仮釈放され、長期刑が染み付いた人の考え方心情、変わり行く時代はとてもリアル。
    菊谷が慎ましく生きささやかな幸せわ感じて行くステップの一つにまた悲劇があり、上手くいかないもどかしさを感じた作品。

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    2018年01月01日
  • 新装版 赤い人

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    明治期の北海道開拓には、樺戸集治監をはじめとする囚人たちの労働が大きな役割を果たしていた、というお話。囚人vs看守の緊迫した攻防はドキドキする。
    罪を犯して北海道におくりこまれるならともかく、囚人監視のために未開の地に送り込まれた看守の方がよっぽどお気の毒…という気がする…。
    冬の間に雪の上に囚人が埋葬されていくさまが、アンデス山中の飛行機事故で生き延びた「生きてこそ」を思い出して怖かった…

    ゴールデンカムイの元ネタのような話がいっぱい出てきて面白い。慶さんとか長庵とか四郎助とか。

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    2017年12月03日
  • 海の史劇

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    日露戦争の、その始まりと終わって講和を結び、その後の日本の行く先が見えるようなところまでが描かれていた。
    もう途中、ロシア艦隊がつらすぎてつらすぎて、暑さに喘ぐロシアの兵と同じようにして、私も帰りたくなりました。イギリスや日本の外交、怖い。文章が淡白だから、想像が膨らんで余計に寒気がする。

    でも一番鳥肌ものだったのは、小村寿太郎の講和を結ぶまでの場面。
    この悲壮感。教科書にこの背景くらい書いた方がいいんじゃないのと思う。急に日比谷焼き討ち来るから単純すぎて。書かないのはあれかな、戦争は軍部が仕込んだものだと言いたいからなのかな。

    吉村昭は大衆の熱量と戦争のつながりを特に注視しているのだけれ

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    2017年10月08日
  • 夜明けの雷鳴 医師 高松凌雲

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    幕府への忠義も素晴らしいが、箱館戦争で幕府軍、官軍分け隔てなく負傷者の治療にあたった博愛の精神は学ぶべきところが多い。想像するに、西郷隆盛が座右の銘としていた「敬天愛人」は凌雲の姿勢に影響されたのではないか?そもそも凌雲を取り巻くキーパーソンが凄い。渋沢栄一、榎本武揚、徳川慶喜。考えてみたら奇跡としか言いようがない。

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    2017年09月25日
  • 海軍乙事件

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     氏の小説は記録小説というジャンルらしい。本書創作のための氏の調査から、歴史の新事実が発見され、ほぼほぼ解を見たというのがまず感動した。短い小説ではあるが、凝縮された情報に基づくことを想像しつつ読み進めた。

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    2017年09月16日
  • 新装版 落日の宴 勘定奉行川路聖謨(下)

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    川路は毎日ランニングをしていたこともあって、身体が頑健であった。そのために58歳で隠居しようと思ったのに止められてしまう。幕末、川路は自分たち一派の推す一橋慶喜が将軍になれず、井伊直弼らの推す一派が政治的に勝利したおかげで不遇をかこつ。また私生活でも残念なことなどもあり、井伊らが大老になるまでの成功した人生からは哀しい状態となってしまう。最後を考えると、勝海舟のように幕府ではなく、もっと国そのものを考えても良かったのではと思ってしまう。

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    2017年09月07日
  • 新装版 落日の宴 勘定奉行川路聖謨(上)

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    主人公は川路聖謨。川路は幕末の幕府官僚であり、最高の地位である勘定奉行に上り詰めた人物。高邁・清貧、知的でそのくせユーモアのセンスも抜群な有能な人物だった。その彼の大仕事が、ロシアとの和親条約及び修好通商条約の締結。ロシア大使プチャーチンを相手に一歩も引かぬ姿勢は、当時の鎖国情勢の中でも情報収集に努めていたこと、そして開明的な発想と、上記の人格故。厳しい交渉をしつつもプチャーチンに尊敬された。川路聖謨というと、私には、手塚の漫画「陽だまりの樹」で漢方医と激しく対立しつつ種痘所を江戸に作ろうという主人公たちの側に大きな支援をした人物という認識だった。こんな有能な人がいたのかというのが驚き。しかし

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    2017年09月07日
  • ニコライ遭難

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    司馬遼太郎の作品は印象的な書き出しが多いと思いますが、一番好きなのは「坂の上の雲」です。
    「まことに小さな国が開化期を迎えようとしている」
    明治維新後のちっぽけな日本が近代的国家として歩み始めた時代を、この短い文章は簡潔に表現しています。

    吉村昭さんが描く「ニコライ遭難」は、この時代、明治24年に起きた大津事件に戦慄する日本人の姿です。大津事件は車夫がロシアの皇太子ニコライに軽傷を負わせた事件。圧倒的な軍事力をもって極東進出を目論むロシアに対して日本は「七五三のお祝いに軍服を着た幼児」。事件をきっかけに天皇を始め日本中が震撼します。当時の刑法では犯人津田三蔵は懲役刑。しかし、武力報復を恐れる

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    2017年09月03日
  • 海軍乙事件

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     第二次大戦で、連合艦隊の福留参謀長が遭難し、保持していた機密書類を紛失した事件を乙事件と言い、戦後それが米軍の手に渡っていたことが判明した。
     作者は、戦後生き残っていた当時の事件現場にいた関係者を訪ね歩き、その遭難の状況を再現したのが本書である。したがって、小説というよりもほとんどノンフィクションである。戦争の実態は、このような現場の一挙手一投足というか、兵士や下士官一人ひとりの息遣いが分かるような描写にこそ顕れるのではないだろうか。将官や参謀の言動や武器の優劣や軍部の戦略を見ていても、戦争の本質すなわち悲惨で苦しく哀しいところは後ろに隠れてしまうのだ。
     甲事件の作品も収められており、吉

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    2017年08月31日
  • 総員起シ

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    吉村昭による短編小説集。太平洋戦争末期、現日高町厚賀沖にて、兵員輸送船「大誠丸」が米軍の攻撃を受け沈没した事件を主題とする作品『海の柩』が収録されています。実際に多数の将兵が亡くなった事件である為非常に暗い作品ですが、戦争という現実の中で暮らしていた厚賀の人々の姿が克明に描かれています。(日高門別 あ)

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    2017年07月20日
  • 一家の主

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    吉村さんの自伝的小説。家庭内での奮闘振りがよくわかる。吉村さんが「主」の地位を守ろうと振る舞えば振る舞うほど、奥様(節子さん)の大物っぷりが目立ってしまうのが、とても面白かった。夫が失敗したり、自分中心で物事を決定したりしても「眼に涙をためながら笑」って送り出せるなんてすごいよー。吉村さんのことと彼がその先に起こす行動、もう完全掌握。吉村さんもうっすら分かっているから、尚更「俺が家長」だって思いたくなるんだろうね。そもそもそこに情熱を燃やすことも、女からしたら子供っぽいんだけれど。男の矜持ってムズカシイ笑

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    2017年07月18日
  • 零式戦闘機

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    ネタバレ

    随分と長い間積読にしていた。
    なんで今読み始めたのか…分からない。吉村昭を読みたいなと思い、それと書き途中の原稿のこともあったのかな。

    読みながら何度も鳥肌が立った。
    感情を排して書かれた文章はより胸に迫る。ある時は部品の置かれた格納庫に、ある時は皆が駆け寄ってくる滑走路、そしてその物量に押しつぶされていくしかない戦場に、自分も立っているような気持だった。

    いつも思うのは、日本軍だから、なのではなく、日本人だからこうなったということ。
    国力とは何か、きれいな言葉の裏にある、それを支える土台の危うさ、そういったものも思い返すことになって、読み終えた時ひどく疲れた。

    また時折読み返したい本。

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    2017年06月25日
  • 冬の鷹

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    司馬遼太郎のファンで、似た毛色の作家を探し求めている人には吉村昭をお勧めします。そして、いま困難なプロジェクトに四苦八苦している人にこそ、この本をお勧めします。
     大河ドラマにするなら絶対この作品の方がよい!高山彦九郎・平賀源内というサブキャラも魅力的に関与していますし、なにしろ杉田玄白と前野良沢の人生と処世観の差が鮮やかに引き出されています。また、長崎・江戸・中津(大分)と取材箇所が各地に分散する点も魅力を感じます。
     ちなみに、蘭学事始で著名な「鼻はフルヘッヘンドである」云々のエピソードはこの本の中に出てきていません。その理由もあとがきで吉村昭自身が言及しており、資料に丹念に向き合って小説

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    2017年04月18日
  • 新装版 白い航跡(上)

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    ネタバレ

    明治維新の時期の面白さの1つは、身分や家柄とは関係なく、能力や資質のある人間が世に出る機会を得て活躍するケースが多かったことだと思う。本書の高木兼寛しかり、同じ著者の「ポーツマスの旗」の小村寿太郎しかり。九州の豊かとも言えない村の大工で終わる可能性もあった兼寛の活躍の舞台が、本人の才能、実直さに加えて周囲の人間のサポートもあり鹿児島、横浜、そしてイギリスへと広がっていく様はすがすがしい。努力すること、いつ来るかわからない人生の分かれ道の前に準備をしておくことの大切さを教えられる。

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    2017年03月27日
  • 虹の翼

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    いやぁ。すごい。二宮忠八もすごいけど、著者の吉村昭もすごいよ。どれだけ取材したんだろうねぇ。って感じ。伝記としてだけじゃなくて、日清戦争や日露戦争の頃の日本の姿も良く分かった。

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    2017年02月18日
  • 闇を裂く道

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    大正〜昭和にかけたトンネル工事の記録文学。

    丹那トンネル(東海道本線・熱海−函南間)の工事を題材とした作品。

    トンネル掘削による崩落事故の経過は、手に汗握る。

    また、関東大震災にまつわる記録も混じっており、重要な記録である。

    また、トンネル工事により、その真上にある村落の水の枯渇、村民と鉄道省との軋轢なども真に迫っている。

    大量の湧水、地震などに悩まされ、工事中止を主張する声も上がる中、16年もの歳月と多くの犠牲を払ってようやく開通したトンネル。

    交通の利便を求める一方で、多くの人命を犠牲にし、また、一つの村の存亡、水資源の枯渇といった代償も払うことになった。

    自然にあらがうこと

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    2017年02月11日
  • ポーツマスの旗

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    日露戦争の経緯と講和交渉時点の国情の無駄なく十分な描写の後に、アメリカはポーツマスにて日本の全権大使小村寿太郎がロシアの全権ウィッテと息詰まる講和交渉を展開するストーリー。決して報われることの無い仕事と分かっていながら日本にとってほぼ最善と思われる手を尽くし、精根尽き果て条約締結後数年で小村が病気に蝕まれ果てていく様は、日露戦争の危うい勝利を頂点として破局へと転落していく戦前日本の国家と民衆のその後の暗い行く末を暗示しているよう。そうした後の事情を抜きにしても、ポーツマスでの日本とロシアとの極限の交渉についての史実に基づく詳細な描写は、外交官はもちろん厳しい国際環境の下で働くビジネスマンにとっ

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    2017年01月21日
  • 蚤と爆弾

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    淡々とした筆致で、日本史の暗部を描いたノンフィクションに近い小説。

    細菌兵器。

    命を大切にするという常識的な道徳・倫理感よりも、資源のない日本のために、細菌兵器という科学技術開発に、心血を注いだ天才的な医学者の戦争参加。

    日本的な、あまりに日本的な組織の動き方に慄然とした。

    細菌兵器の開発から人体実験、そして、敗戦近くになると、証拠隠滅。


    関東軍防疫給水部の創設から解散、そして、戦後の関係者の様子までを見事に描いている。

    関係する資料などは、関東軍などにより、「徹底的に」破壊・消滅したため、「証拠」はほとんどないが、吉村氏の入念な取材により、ここまで細部まで描くことができたのだろ

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    2016年12月14日
  • 新装版 白い航跡(下)

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     著者による「あとがき」を読んで、この小説が出るまでは、主人公のことはあまり世の中に知られていなかったのかも知れないと思った。
     こういう人物のことをきちんと掘り起こして描くというのが、吉村昭の小説の面白さだろう。
     司馬遼太郎も面白いけれど、50歳代になって、吉村昭の小説が面白く感じるようになってきた。

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    2016年11月12日