吉村昭のレビュー一覧
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初めてオランダ書を目にして以来、オランダ語に強い関心を抱いた前野良沢は大通詞の西善三郎が江戸に来ていることを知り、会いに行くが、オランダ語の習得は難しく時間の無駄でしかない、と伝えられる。その後、青木昆陽に師事した良沢だったが、大通詞の吉雄幸左衛門からもオランダ語を理解することが厳しい旨を伝えられて消沈する。江戸でオランダ語を学ぶことに限界を感じた良沢は長崎でオランダ語を学ぶことになり……。
ということで本書は、オランダの解剖書『ターヘル・アナトミア』の翻訳という一大プロジェクトに共に挑みながらも、性格の違い、考え方の違いが対照的であったために、名声を得ていく杉田玄白と得られるはずだった名声を自ら捨てていく前野良沢の生き方が並行して綴られていき、切々と胸に染み入ってきます。出来上がったものに納得することはなく、さらに黙々とただ言葉にのみ向かい合っていく前野良沢の生き方に憧れつつも、なかなかこうはなれないよなぁ、などとも思ってしまいます。弟子を取ろうとしなかった前野良沢の心を若干解かしていく大槻玄沢や派手な生き方を好み牢屋で死を迎えた平賀源内など脇を固める登場人物も印象的でした。 -
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大規模工事について、ふと興味を持ち手に取る。
200ページ程の内容で、割とすぐに読み終わる。
戦前の黒部第三発電所工事にまつわる灼熱の掘削作業についての物語。
100度を上回る熱を発する岩壁の中、黙々と掘削が進められ、坑夫が犠牲になっていく。
物語は彼らを指導する技師の目線で描かれていた。
作業日誌のように、作業の進捗と起きた出来事を中心に語られていく。
人の手が加わることを拒むような黒部峡谷の自然が、数多の試練を課してくる。
起きている出来事が現代の基準とは大きく異なる。
社会にとっての人命の軽さ、家族にとっては現代と同じく重い家族の命、太平洋戦争直前の緊迫感、行政組織の歪さ。それが説得力を持って描かれている。
しかし、命を賭す者と指示する者の構造は現代に照らし合わせても同じことが続いているように感じた。
短期間で死に直結することはなくとも、じわりじわりと死んでいっている労働者。
そんな重いテーマを感じた。
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多くの人がレビューしている通り、13年間岩山の無人島で過ごし続けた長平という男性の物語である。自分が思ったこととしては、人間は規則正しい生活だったり、太陽を浴びて生活することや体を動かしておくことというのは生存において非常に重要だということです。体調崩す人たちの大半は生きることに希望を失ったりとか、生活に対してやる気を見出せなかったりとか、無理にでも体を動かそうという気持ちが沸き起こらない人たちからだったので、そこはすごく興味深く読ませてもらいました。あとは何度も何度も失敗して、最終的にそこに行き着くのかということと、生還するまでの過程が本当にすごいなと純粋に思いました。吉村昭さんの詳細な記録を物語に発展させる力、そして読む我々を奮い立たせるような筆致には本当に感動しました。
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自由律俳句の代表例として「咳をしても一人」があることしか知らないまま読んだ。太宰治もびっくり?の尾崎放哉の生き様もだが、何より作者には放哉と同じ病気の当事者として自分のこれまでの著作の中では「死への激しい恐れ、それによって生じる乱れた言動を私は十分に書くことはせず、筆を曲げ、綺麗ごとに済ませていたことを羞じた(作者あとがきより)」という強い意志があったことに想いを馳せながら一気に読みしてしまった。
尾崎放哉の残した書簡などの沢山の資料を研究された上での著作(伝記文学)であり、感銘を受けた。初発が講談社のPR雑誌「本」での連載ということにもびっくりした。
是非小豆島にも行ってみたい。
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江戸時代に無人島に漂流して生還するという。。しかも実話。え?江戸時代にそんなことが!?どうやって生還したんだ?と興味津々で手に取った。
島鳥(伊豆諸島)という岩だらけの火山島に12年間サバイバル。樹木も湧き水もない。食べるものは貝などやアホウドリ(渡り鳥だから期間限定)のみ。最初の数年間は孤独との闘いでもある。
いやいやいや、アホウドリを生で食べ続けるとかちょっと無理なんだが・・・生死の選択を迫られたら最初は人間何でもやれそうだが、生への執着がよほどでないと、ここまで長期間がんばれない気がする。まず神経の細い人は生き残れなさそう。現代人は誰でも無理そう。
その後、何回か同じように漂流してきた人たちとチームを組んで、知恵を絞って生還するとうムネアツ展開。後半は一気読みでした。これが実話というのが本当に凄まじい。
(2年ほど前に読んで記録したままにしていましたが、この本は紹介したい!と思い感想を残しました。) -
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主人公の幼稚性が垣間見れるように感じた。同じ受刑者で女遊びにも慣れた鈴木から、幼稚なほど真面目な人間だと言われているシーンがある。この主人公は真面目なのでは無く、決まった自分の世界でしか生きることのできない幼稚な人間であると考える。確かに不倫をされる苦しみなどはあるかも知れないが、彼は妻を殺害する時に苦しみや怒りに燃えていたわけでは無く、清冽とした中で殺人を働いている。房内でハエの翅を毟り取り、紐でくくりつけて逃げないようにするシーンはまるで虫を捕まえた幼稚園児のような姿であった。結局のところ彼は幼稚な人間であり、罪を意識することができておらず、自己弁護することに終始している。罪を意識できなければ罰を理解することはできない。罰とは外部的なモノでは無く、受刑者の内的な意識にこそ宿るものではないかと考える。
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ネタバレ長崎から棕櫚が消えた。何かが起こっている。冒頭の不気味さ。その棕櫚のすだれに隠された港で造られていたものは。。。
いやあ、もう悔しいというか怒りというか、時代遅れの巨大戦艦を造るまでの異常なまでの秘密主義に翻弄された人々と、ほとんど成果を上げることなくあえなく海中に沈んだ戦艦の乗組員たちが哀れでなりません。
それにしても淡々と事実を積み上げてその狂気を描く吉村氏にはますます敬意を払いたい。素晴らしい作家です。現代でこのようなことができるのは。。。。小川哲さんぐらいでしょうか。まだ吉村氏の読んでない作品がたくさんあるので、これからも読んでいきたいです。 -
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圧倒的な読みごたえと面白さ、学びにあふれていた。
どこまでが真実なのかはわからない。緻密な取材による確かな骨組みと、その上に乗る人間ドラマ。
あとがきで登場人物は架空だと語られていた。恐らくそう大差ないやり取りは実際あっただろうし、真面目で極めつくす性分や帰属意識など日本人として共感できる部分も多い。
厳しく圧倒的な自然への挑戦。泡雪崩ホウナダレという言葉を初めて知った。人間がどうにかできるレベルではない。それでも立ち向かう人々の描写に心を打たれる。
日々上昇を続ける温度の不気味さの表現も素晴らしい。絶望感が重くのしかかってくる。
それでも諦めることなく試行錯誤を繰り返す姿勢に感銘を受けた。
多数の犠牲者が出てしまった。戦争もそうだけどご先祖さまが礎となり守ってくれた日本を、我々もつないでいく責任がある。日々の暮らしで意識することはあまりないけど、ふとした時に思い出すきっかけになればいい。
ところで、文庫本の巻頭に地図が折りたたまれていて参考にしながら読むのに役立ちありがたかった。
が、一番重要なエリアが折り返し部分に当たっていて見づらく残念すぎる。 -
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戦争末期の軍隊の悲惨さと、状況が変わった途端に、転向して、あの戦争は軍部がやったと言う文化人などの話を興味深く読む。
天地が自分のものという主観の拡大、夜郎自大の問題、大割拠という間違い、そして、文民統治すべき背広組自体が金権政治と腐敗に堕落して力をなくし、内部から軍服まがいの背広を育てて自壊したとの由。
この状況が、戦後80年の今、2025年の政況と符合しているのが恐ろしい。
何も信じないということ、現場と一次資料に当たるという吉村さんの姿勢は、研究と同じような姿勢だなと思い、信頼できる。
明治維新以降を批判する一つの史観として英雄豪傑の出てくる司馬遼太郎と、人情、人間を描く池波正太郎と、観念と激情に緻密さと血肉を与える北方謙三とは、異なる次元で記録文学的な立ち位置にいるのが、吉村昭と城山三郎なのではないか。
観念ではない小説とはあり得るのか?両氏の小説を深く読んでみたい