吉村昭のレビュー一覧
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口語自由俳律で知られる尾崎放哉。その小豆島での最期の8カ月を描いた作品。享年41。
酒乱で酒を飲めば攻撃的になる。人の施しによってしか生きられない。どうしようもない人間だと思うのだが、「結核」を病み、家族から疎んじられ、長くは生きられないと悟ると、そうなるのかもしれない。もっと句を詠みたかっただろうし。
没後、放哉の師にあたる井泉水が「捨てて捨てきつて、かうした句境にはいつてきた」「大自然と同化していた」と表現したそうだ。俳人として名を残すには、この捨てきった8カ月が大切だったのかもしれない。
はるの山のうしろからけむりが出だした
春の訪れを誰よりも待っていた放哉だったのに。
吉村昭 -
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昨日、吉村昭の「暁の旅人」を一気に読みました。
このテンポの良さは何だろう!
会話文が極端に少ないせいかもしれません。
話は幕末時代の幕臣医師・松本良順の生涯です。
幕府から派遣され、長崎でオランダの医師ポンペから本格的な近代的西洋医術を教わります。
そのためには当時としては大変珍しい刑死した遺体の解剖までおこなっております。
その後、幕府の西洋医学所頭取、幕府陸軍軍医なり、
戊辰戦争となり維新をむかえ、一時投獄されます。
彼の豊富な医学知識と技術をおしんだ山県有朋らは
新政府の初代軍医総監としてむかえております。
この様に書くと彼は英雄の様に思われそうですが、
吉村の筆は実子を失った不幸、近 -
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江戸時代後期、蘭学隆盛の端緒となった解体新書の翻訳・刊行の中心人物であった前野良沢、杉田玄白の話。技術英語の翻訳に関わることもある仕事柄、読む前から強く興味を惹かれるテーマだったが、未知の蘭語の翻訳の困難に関わる話は、解体新書の刊行に至る物語の中盤よりも前で触れられている。ここをより深く掘り下げて欲しかった気持ちがあることは否めない。しかし、辞書という概念すらほとんど知られていない時代にわずかな手掛かりから原書の記述の意味を探り出そうとする苦労は十分に伝わってきた。
物語後半は、他者に抜きんでた専門性を持ちつつも学究肌で柔軟性に欠ける良沢と、専門知識には劣るが社会性に秀でて解体新書の刊行をき -
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事実が淡々と書かれているところがいい。三陸海岸の自然やそこに住む人々の暮らしが好きって著者が話しているところも好感が持てる。
チリ地震津波について被害があったことは知っていたけど実際の様子は初めて知った。私自身は自分の地域にも他の地域にも知り合いの古老となる人はいないので、たとえ悲惨なものだったとしても過去にあった体験を教えてもらえる話は有り難い。明治、昭和の三陸地震の住民の声を基に短かめにまとめられていて被害の様相を比べながら読んでいくのにも分かりやすくてよかった。
嫌な予感がして起きるんだけど「冬の日や晴れてる日は津波はこない」という迷信を信じて、それで安心してもう一度眠りにつく部分もと -
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ネタバレ本書で特に私の心を掴んだのは昭和8年の津波で家族の全てを失った牧野アイさん(当時尋常6年)の作文である。
無駄な表現を取り払い、目の前で起きた現象を淡々と描写するその文章は一見すると子供っぽくて単純にうつるかもしれない。だが私はこれこそが本当に美しい文章だと思う。大袈裟なことを言わずとも、牧野さんのような真っ直ぐな言葉で、彼女の悲しさや絶望は十分すぎるほど伝わった。
私たちは大人になるまでに多くの言葉に触れ、覚え、使う。そしてその過程で何故か必然性のない比喩や誇張をよく用いるようになる。しかし目の前で何が起きているか正確に掴み取り、ありのままに表現することも大切だ。 -
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吉村昭の短編集。
短編とは言え読み応えは十分すぎる。
講釈師の島流から始まる島抜けは、講釈師という職業の凄さを想像させられる。
思いがけず漂流し異国に流れつき、企てでないにしても嘘に嘘を重ねていくしかなくなる。
あぁそのまま逃してやって…そう思わずにはいられない作品だった。
欠けた腕は飢饉に喘ぐ農民夫婦の話。
四つ足と、そんな言い方していたんだ…
そんなに不貞腐れるならと意地悪な考えをしたが死んでいるなんて。
食べるものがない、飢えるとは狂気だと考えさせられた。
梅の刺青も感慨深い作品。
献体に供したいと思う事があったが、今では足りており需要と供給が合わないと聞き諦めていた。
もう一度献