吉村昭のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
著者初の随筆集『二つの精神的季節』を改題したもの。日清日露戦争を経験した人々にとって、戦争の終りとは勝利を意味していた。
だから先の大戦時、銃後の国内は連日長く続くお祭りのような日々だったという。
それが敗戦によって転換する。
何より変わったのは、人の意識だった。それまで戦争をきらびやかな光として考えられていたのが、敗戦の日から罪悪となった。
終戦の日を境にしてまったく異なった二つの精神的季節を生きた著者は、その隔絶感を二十年の長きに渡り保持し、やがて鬱屈した気分を感じ続けることを堪えがたいとして、自身が見たことを正直に述べようとする。
著者が何を背負って戦争を題材とした小説を書いたのかが見え -
購入済み
閉じた世界の恐ろしさ
狭い世界に閉ざされた人々にとって、長年培われた常識は絶対のもの。とはいえ、外の常識とここまでかけ離れてしまうものか。それでいて、外との繋がりは捨てきれない、人の性が恐ろしく、そして悲しい。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ「日本史上最後の仇討はいつだったと思いますか?」と訊かれたら、歴史好きならわくわくするだろう。明治13年12月17日、臼井六郎という青年が幕末に秋月藩の内部抗争で殺された両親の仇を討ち果たしたのが最後だといわれている。
六郎の父・臼井亘理は佐幕派であったが、国内の情勢を鑑みて勤皇派に転じて藩士たちの怒りを買い、干城隊という一派に寝込みを襲われて妻ともども惨殺された。当時六郎は11歳。成人するまで仇討への思いを胸に秘め、やがて上京して幕末の剣豪・山岡鉄舟に師事しながら両親殺害の実行犯である一瀬直久と萩谷伝之進の行方を捜し求め、ついに一瀬が東京で裁判所判事になっていることを突き止める。同郷の人 -
Posted by ブクログ
現代に事実を知っているだけに、非常に読むのが辛く、苦しかった。
氏いわく、「事実と事実の間を埋めて行く資料が乏しい中で。考えをめぐらす作業の辛さ、面白さを語っている。が、これほどまでにリアリティに迫る文学があるだろうかと息をのむ。
間道、街道が好きでちょくちょく行くことが多い為、場面と人の息遣いを想像しながら読んだためになかなか進まなかった。
蛮社の獄による処刑としか習っておらず、1850年という時間にさらし首になった彼。逃亡の時間は13年。科学のツールが無い現代とは違うとはいえ、捜査から逃れる我身を守るツールもない。灼熱、豪雨・暴風、極寒積雪、そして捕縛に寄与するミラ美との目と口から逃 -
Posted by ブクログ
吉村昭氏の作品にはまっている。たまたま手にとったものだが衝撃的だった。貴重な資料であった。こんなものがあったことをしらなかった自分が恥ずかしいほどだ。東日本大震災の津波の記憶がまだ生々しく残っているが、三陸地方は明治29年、昭和8年、35年と津波に遭っている。大漁、干潮、井戸水が干上がる、沖での閃光と爆弾のような音がその前兆だと。泥に埋まっている行方不明者を探す時に死体から脂がでるので水を撒くと脂が浮き出たところで見つける、とか。衝撃的な文が続く。東海沖での地震の不安が増す今、絶対読んでおくべき本だ。これだけの資料をまとめられた吉村氏に感謝しかない。
-
購入済み
祈り届かず
筆者は祈りにも似た気持ちで、連綿と続いてきた防災意識が人々を守ってくれると信じていたのだろう。しかし現実には、その象徴である田老町の防潮堤をあざ笑うかのように、津波は遙か上を越えていった。期せずして、筆者の詳細な記録が平成の大震災の恐ろしさを際立たせる結果となっていることが、唯々つらい。
-
購入済み
見えない圧倒的恐怖
普段は姿を見せない圧倒的な力ほど、恐ろしいものはない。筆者が描く津波や吹雪然り、この作品の羆も恐ろしいことこの上ない。ゴジラで描かれているような、人の行為に対する自然界からの戒めといったテーマも読み取れる。
-
購入済み
手に汗握る
時代も場所もかけ離れ、歴史上の偉人の出来事でありながら、目の前で繰り広げられているかのような緊迫感を醸し出す。筆者の作品はいつも一気に読み切ってしまう。