吉村昭のレビュー一覧
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知らなければならない。知って正しく恐れなければならないことがある。
南三陸海岸大津波。
この言葉ですぐに思い出すのは衝撃的な3.11の圧倒的な自然の猛威とそれによってもたらされた甚大な被害。
あれだけでなく、過去に幾度となく襲ってきた津波。そしてその度に壊され失われる家や船やひと。人間関係や仕事。
自然の激しさと人間の無力さを痛感しながら、それでも生きる、その土地を選び生き抜く人々の覚悟に言葉を無くす。
記録文学の持つ力をまざまざと感じた。
昭和の桃の節句に襲った津波を生き抜いた子どもたちの作文が胸を打つ。
日本人として必読の書のリストがあるとしたら、必ず入れなくてはならない一冊だと思う。
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Posted by ブクログ
読むのを止められなくなって、一気に読んでしまいました。最後にこれが、作者の体験した実話だと知りました。
弟の凄絶な癌との闘いの様子に、正直ほぼ恐ろしさだけを感じて読み終わったくらいです。
たくさん兄弟がいる中の、末の2人である作者と弟。上の兄弟とは歳が離れていることもあり、2人の結び付きは幼い頃から強く、作者は弟のためにずっと傍に寄り添います。弟に「癌」という病名を隠して…。
癌であることを本人に知らせないこと、モルヒネの取り扱い方など、医療に関してど素人の私でも、
かなり違和感を感じたのですが、1980年代前半の話であったことに深く納得しました。
そして、この40年間でものすごく進化し、癌が絶対的な不治の病ではなくなったことや、緩和ケアもすごく良くなってきていることに、心から喜びを感じます。
当時から本人に告知をしていた欧米と、まだ本人に隠すのが主流だった日本の、死生観の違いについて作中で書かれていたのですが、とても興味深く感じました。
作者にも興味を持ち、経歴を調べていたら、作者本人も2006年に癌で亡くなられているのですが、その最期の死に方に衝撃を受けてしまいました…。
めざましい進化を遂げているがん治療ですが、更に研究が進んで、がんで亡くなる人がいなくなるといいのにと思います。
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Posted by ブクログ
日露戦争後、ロシアとの講和条約交渉に臨んだ外相・小村寿太郎の物語。旅順を攻略し、日本海海戦に勝ったとはいえ、既に日本は兵も物資も底をついており、戦争継続が不可能な状態で交渉に臨む。しかし、実態は国民には知らされず、我慢を強いられた人々は賠償金などの獲得を当然のものとして期待している。一方のロシアはまだ余力があり、極めて強気な姿勢で交渉に臨んでくる。
この困難な状況での緊迫した交渉の場面がスゴイ。冷静に強く交渉し、ポーツマス条約の締結を実現する。しかし、賠償金は取れない。小村が出国時に考えていたように、日本では条約に反対する人々の暴動が発生する。
小村寿太郎という人の強さと弱さを見事に描きつつ、近代日本の分岐点になった日露戦争から条約締結までを振り返る傑作ですね。 -
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面白かったー。読後、まずはどれだけが事実かが非常に気にになったが、どうもかなりが史実に基づいていると知り尚更に読んで良かったと思った。
あの時代に、言葉が一言も通じない外国に流れ着き、長い年月を過ごさなくてはいけないというのはどれだけの事だったか想像を絶する。仲間が一人ずつ亡くなっていったり、絶望していったりするのも胸が締め付けられた。
そして、過酷な状況においては賢くないと生き残れない、という事も改めて気づく。
光太夫に諦めてほしくない、と強く思いながら読み進め、一緒に悲しみ、苦しみ、焦れて、歓喜する。とても良い読書ができた。いつの時代も、異国の人であっても心を通じ合える人はいる、という事も再認識。
帰国して、最後は心穏やかに光太夫が過ごせた事に、とても安堵した。 -
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吉村昭『花火 吉村昭後期短篇集』中公文庫。
吉村昭が昭和後期から平成18年に没するまでの後期に発表した作品群より遺作『死顔』を含む16篇を収録した短編集。いずれも身近にある『死』を感じさせる短編ばかり。自らの死期を悟り、描いたのだろうか。
『船長泣く』。三崎から出港した太平洋を漂流するマグロ漁船の中で、飢餓と渇きの狭間に繰り広げられる船長と船員の葛藤を描いた秀作。史実に基づいた記録文学なのだろう。
『雲母の柵』。監察医務院に勤める新米検査員を主人公にしたサスペンスフルな香りのする短編。日々変死体と向き合う中、同期の3人の中の女性検査員が突如辞職する。彼女に僅かばかりの好意を抱いていた主人公だが、彼女の闇の部分を知ることに。
『花曇り』。恐らく小学校の低学年であろう少年の目を通じて、普通ではない両親の関係を炙り出す。大人の犠牲になるのはいつも子供なのだ。
『手鏡』。近所の公園で見付かった嬰児の死体、癌を患い苦しみの中で亡くなった友人と『死』を意識させる出来事の連鎖に主人公はかつて結核で療養していたことを思い出す。
『花火』。かつて結核を患った主人公が執刀医の死に思いを馳せる。もしかしたら、『手鏡』と同じ主人公だろうか。
『法師蝉』。友人の死と主人公の結核療養の記憶、そして、主人公の妻の死。『手鏡』『花火』、そして本作と次第に『死』が身近に迫って来るようだ。
『寒牡丹』。夫の定年を機に離婚を切り出す妻。娘の結婚式を目前に控え、妻は退職金の半額を手に家を出る。余りにも打算的で身勝手な妻。もしかしたら、かなり耐えていたのかも知れないが、哀しいね。
『桜まつり』。長兄の遺産相続で長兄の娘の相談に乗る主人公。問題は長兄の婚外子の相続だった。
『観覧車』。自らの浮気により離婚を余儀なくされた主人公が幼い娘との束の間の幸福を味わう。身勝手にも、よりを戻したいなど所詮無理からぬことなのだ。
『西瓜』。離婚した妻に呼び出され、突然告げられた知人との再婚。残酷だな。
『自殺-獣医(その一)』。次の『心中-獣医(その二)』との連作。肺癌を患った犬の突然の死は自殺だったのか。
『心中-獣医(その二)』。突然、主人公獣医の元に運び込まれた瀕死の犬。犬を道連れにした心中事件。
『遠い幻影』。戦時中に幼き主人公が記憶しち静岡で起きた特急富士の轢死事故の真実を明らかにするという内容の短編。事故は実際にあったのか。
『聖歌』。 教会で行われた姉の葬儀。聖歌が流れる中、姉の波乱の人生に思いを馳せる主人公。
『見えない橋』。36回も刑務所に入った69歳の累犯者の面倒を見ることになった保護会の主幹。刑務所の中で死ぬのは嫌だと真人間になろうとするが。
『死顔』。遺作。年老いた兄弟。次兄が亡くなったことから、遠い昔に亡くなった父母の記憶を思い出す。幸せな死などは無く、人は皆、幾ばくかの未練を抱えて天国に召されるのではないか。
本体価格860円
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Posted by ブクログ
著者初の随筆集『二つの精神的季節』を改題したもの。日清日露戦争を経験した人々にとって、戦争の終りとは勝利を意味していた。
だから先の大戦時、銃後の国内は連日長く続くお祭りのような日々だったという。
それが敗戦によって転換する。
何より変わったのは、人の意識だった。それまで戦争をきらびやかな光として考えられていたのが、敗戦の日から罪悪となった。
終戦の日を境にしてまったく異なった二つの精神的季節を生きた著者は、その隔絶感を二十年の長きに渡り保持し、やがて鬱屈した気分を感じ続けることを堪えがたいとして、自身が見たことを正直に述べようとする。
著者が何を背負って戦争を題材とした小説を書いたのかが見える、「二つの精神的季節」はとても重大な意味を持つ一作だと思う。
表題作は、肺浸潤により肋骨を数本取り去る手術を待つ著者の隣室に、手術が怖いといって泣く女性の患者がいた時の話。
著者の術後、隣室の彼女が死んだことを知る。その時著者の胸に去来したのは優越感だった。
また、麻酔が足りない時代であったため術中の痛みが激しかったにも関わらず、笑いを止められなかったこと。
母親が他界したのを聞き、頬が緩んだこと。
どれも変わった反応のように思え、著者もそれを自覚してその理由を自らの内の求める。生死の極点まで行くと、人の反応などわからないという。
こういった深刻な話から、お酒や食べ物のこだわりといった軽い話まで幅広く所収。
電話の受け方、切り方にも著者固有の頑なさが見え、それに合わなかったらもう掛けないといった話は面白かった。