吉村昭のレビュー一覧

  • 殉国 陸軍二等兵比嘉真一

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    14歳の少年が目撃した沖縄戦。

    吉村氏の取材力によって、壮絶な沖縄戦の実態がノンフィクションのように描かれる。

    鉄血勤皇隊と国のために奉仕、死もいとわない少年たち。
    一人でも多くの米兵を殺し、生き恥をさらさずに死ぬ、純真な心はそれを当然のこととして、強く思い、願う。

    しかし、戦況が悪化するにつれ、友人や沖縄の市民の死を目撃するにつれ、非日常であるはずの「死」が日常のものとなり、何の感慨ももたなくなってしまう。

    風化させたくない沖縄戦の実相。

    あの場所で何が起きたのか。
    読み継がれるべき本だと感じた。

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    2021年06月27日
  • 透明標本 吉村昭自選初期短篇集II

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    吉村昭の初期短編集のその2。表題作含めて7編が収録。
    表題作でもある「透明標本」は大学で検体された遺体から骨格標本を作ることを生業とする男が独自に編み出した技術で透明な骨格標本を作ることに取り憑かれる話。「蔵六の奇病」など日野日出志的ロマンチシズムを感じさせる作品。
    評価の高い無気力な若者たちの集団自殺を扱った「星への旅」も面白いが、商品にならないカラーひよこを墓地に捨てに行く少年を描いた「墓地の賑わい」が山野一の「四丁目の夕日」的な地獄味があって印象的。

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    2021年06月21日
  • 大黒屋光太夫(下)

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    面白かったー。読後、まずはどれだけが事実かが非常に気にになったが、どうもかなりが史実に基づいていると知り尚更に読んで良かったと思った。

    あの時代に、言葉が一言も通じない外国に流れ着き、長い年月を過ごさなくてはいけないというのはどれだけの事だったか想像を絶する。仲間が一人ずつ亡くなっていったり、絶望していったりするのも胸が締め付けられた。

    そして、過酷な状況においては賢くないと生き残れない、という事も改めて気づく。

    光太夫に諦めてほしくない、と強く思いながら読み進め、一緒に悲しみ、苦しみ、焦れて、歓喜する。とても良い読書ができた。いつの時代も、異国の人であっても心を通じ合える人はいる、とい

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    2021年06月02日
  • 花火 吉村昭後期短篇集

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    吉村昭『花火 吉村昭後期短篇集』中公文庫。

    吉村昭が昭和後期から平成18年に没するまでの後期に発表した作品群より遺作『死顔』を含む16篇を収録した短編集。いずれも身近にある『死』を感じさせる短編ばかり。自らの死期を悟り、描いたのだろうか。

    『船長泣く』。三崎から出港した太平洋を漂流するマグロ漁船の中で、飢餓と渇きの狭間に繰り広げられる船長と船員の葛藤を描いた秀作。史実に基づいた記録文学なのだろう。

    『雲母の柵』。監察医務院に勤める新米検査員を主人公にしたサスペンスフルな香りのする短編。日々変死体と向き合う中、同期の3人の中の女性検査員が突如辞職する。彼女に僅かばかりの好意を抱いていた主人

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    2021年05月29日
  • 星への旅

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    高校生の頃、タイトルや表紙で宮沢賢治みたいなファンタジーだと勝手に思い込み購入。
    それまで死について深く考えて来なかった若い頃の私にとっては衝撃的な内容だった。
    しかし…静謐な空気感のなか死に向かう人間の、美しくも淡々とした描写に心を奪われた。そして「もう少し大人になって、また読み返そう」と心に決めた。
    いま数十年が経ち、再読。
    粗筋は何となく覚えていたので記憶通りだったが、特筆すべきはやはり繊細で美しく儚い描写力。現代の人気作家にはない昭和の文士の力量をまざまざと見せつけられた。

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    2021年05月28日
  • 少女架刑 吉村昭自選初期短篇集I

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    吉村昭の自薦初期短編集を2分冊にして文庫化したもの。
    ネットで久しぶりに「少女架刑」の名を目にして読み直したくなり購入。
    表題の「少女架刑」は1959年に発表された短編で、若くして死んだ少女が病院に検体され解剖され骨となっていく過程を死んだ少女の一人称のモノローグで淡々と語られていくというもの。
    他の短編もそうだが何れも死が題材だが、描かれるその死は非常に即物的で、一切の感情のない「死=死体」でしかないような死。まだ深沢七郎の方が死に対するセンチメンタリズムを感じるぐらい。

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    2021年05月05日
  • 月夜の記憶

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    著者初の随筆集『二つの精神的季節』を改題したもの。日清日露戦争を経験した人々にとって、戦争の終りとは勝利を意味していた。
    だから先の大戦時、銃後の国内は連日長く続くお祭りのような日々だったという。
    それが敗戦によって転換する。
    何より変わったのは、人の意識だった。それまで戦争をきらびやかな光として考えられていたのが、敗戦の日から罪悪となった。
    終戦の日を境にしてまったく異なった二つの精神的季節を生きた著者は、その隔絶感を二十年の長きに渡り保持し、やがて鬱屈した気分を感じ続けることを堪えがたいとして、自身が見たことを正直に述べようとする。
    著者が何を背負って戦争を題材とした小説を書いたのかが見え

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    2021年03月29日
  • 少女架刑 吉村昭自選初期短篇集I

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    すごい、の一言。ここまで詳細に解剖を表現できるのか。想像ではなく、細かい調査によるものだろうが、それを客観的に眺める魂の怖さが半端ない。

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    2021年03月28日
  • 闇を裂く道

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    「戦艦武蔵」を読んで吉村昭にハマったのだが、あとがきにある通り「戦艦武蔵」の書き方に似た群像劇であった。
    当時の世相、大正、昭和、そして戦争をあっさり描く所など、あくまで主軸はトンネルである事が分かる。傑作と感じる小説。

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    2021年03月26日
  • 破船

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    閉じた世界の恐ろしさ

    狭い世界に閉ざされた人々にとって、長年培われた常識は絶対のもの。とはいえ、外の常識とここまでかけ離れてしまうものか。それでいて、外との繋がりは捨てきれない、人の性が恐ろしく、そして悲しい。

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    2021年02月19日
  • 熊撃ち

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    マタギや熊撃ちハンターのインタビューから短編小説化した7本収録。野生動物の中でも巨大で500kgにもなることもあるヒグマ(羆)相手に命がけで挑む人々。

    羆嵐と言う作品は短編に収まりきらなかったから、後日発刊されたと、あとがきより。

    羆の人を襲うシーンはエグくて、残虐なのでご注意。

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    2021年02月14日
  • 敵討

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    ネタバレ

    「日本史上最後の仇討はいつだったと思いますか?」と訊かれたら、歴史好きならわくわくするだろう。明治13年12月17日、臼井六郎という青年が幕末に秋月藩の内部抗争で殺された両親の仇を討ち果たしたのが最後だといわれている。
      六郎の父・臼井亘理は佐幕派であったが、国内の情勢を鑑みて勤皇派に転じて藩士たちの怒りを買い、干城隊という一派に寝込みを襲われて妻ともども惨殺された。当時六郎は11歳。成人するまで仇討への思いを胸に秘め、やがて上京して幕末の剣豪・山岡鉄舟に師事しながら両親殺害の実行犯である一瀬直久と萩谷伝之進の行方を捜し求め、ついに一瀬が東京で裁判所判事になっていることを突き止める。同郷の人

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    2021年01月22日
  • 大黒屋光太夫(下)

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    天明2年暴風でロシアのアリューシャン列島に漂着した漁師の大黒屋光太夫と17人の仲間たちが帰国を夢見てシベリアからペテルブルクまで赴き帰国するまでを描いた歴史小説の傑作。いや、冒険小説の傑作。女帝エカテリナに請願する不屈の光太夫の行動力、船主として乗組員を励まし、また苦悩する姿。キリスト教の洗礼を受けて帰国をあきらめる者、凍傷で命を落とす者、それぞれの者たちの苦しみや悲しみ、そして帰国への情熱が痛いほど身に刺さる。かなり燃えます。

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    2021年01月12日
  • 闇を裂く道

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    丹那トンネルの工事の様子を描いた,ほぼノンフィクション.ほとんどプロジェクトX.主人公のいない,いわゆる「群像劇」である.なぜなら工事には16年間もの長い時間を要したから,さらには鉄道省の人々が役人であって,数年で配置換えになるからである.では事実が淡々とかかれているだけであるかというと,そうではなく,極めて困難な工事に挑んだ熱い記録である.最初に水抜き坑が貫通するくだりは,何度も繰り返し読んでしまった.

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    2020年12月18日
  • 零式戦闘機

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    軍部からの無茶な要求をできるだけ満たそうと思いつく限りのアイデアと改良を詰め込んだ結果、よもや大傑作の戦闘機が誕生してしまった。
    その零式戦闘機が中国での初戦から太平洋戦争の半ばまで無敵を誇り、連合国側を恐怖に落し入れた。
    大戦終盤には特攻機として無残に散っていくが、その姿は日本の太平洋戦争の興亡そのままである。
    当時、世界に誇る戦闘機を作ったが、部品を調達するにもリュックを背負って電車で調達に行ったり、完成した機体を牛馬に引かせて砂利道を空港まで引かせたりと、全体最適が苦手な日本は今でも相変わらず健在だ。

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    2020年12月15日
  • 三陸海岸大津波

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    吉村昭氏の作品にはまっている。たまたま手にとったものだが衝撃的だった。貴重な資料であった。こんなものがあったことをしらなかった自分が恥ずかしいほどだ。東日本大震災の津波の記憶がまだ生々しく残っているが、三陸地方は明治29年、昭和8年、35年と津波に遭っている。大漁、干潮、井戸水が干上がる、沖での閃光と爆弾のような音がその前兆だと。泥に埋まっている行方不明者を探す時に死体から脂がでるので水を撒くと脂が浮き出たところで見つける、とか。衝撃的な文が続く。東海沖での地震の不安が増す今、絶対読んでおくべき本だ。これだけの資料をまとめられた吉村氏に感謝しかない。

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    2020年11月28日
  • ポーツマスの旗

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    日露戦争後のポーツマス講和条約に臨んだ小村寿太郎を描いた経済小説。ネズミと評されても信念を曲げず条約交渉を成し遂げた一人の外交官に感涙した。しかし私生活は余りに自堕落。そのコントラストが、人間臭くて実に良い。

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    2020年10月20日
  • 冬の鷹

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    知の探求

    検索一つで知識を得ることができるように思われている昨今であるが、本当の知を得るということはここまでの努力を必要とするのかもしれない。

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    2020年10月22日
  • 三陸海岸大津波

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    祈り届かず

    筆者は祈りにも似た気持ちで、連綿と続いてきた防災意識が人々を守ってくれると信じていたのだろう。しかし現実には、その象徴である田老町の防潮堤をあざ笑うかのように、津波は遙か上を越えていった。期せずして、筆者の詳細な記録が平成の大震災の恐ろしさを際立たせる結果となっていることが、唯々つらい。

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    2020年10月20日
  • 羆嵐

    購入済み

    見えない圧倒的恐怖

    普段は姿を見せない圧倒的な力ほど、恐ろしいものはない。筆者が描く津波や吹雪然り、この作品の羆も恐ろしいことこの上ない。ゴジラで描かれているような、人の行為に対する自然界からの戒めといったテーマも読み取れる。

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    2020年10月20日