吉村昭のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
知らなければならない。知って正しく恐れなければならないことがある。
南三陸海岸大津波。
この言葉ですぐに思い出すのは衝撃的な3.11の圧倒的な自然の猛威とそれによってもたらされた甚大な被害。
あれだけでなく、過去に幾度となく襲ってきた津波。そしてその度に壊され失われる家や船やひと。人間関係や仕事。
自然の激しさと人間の無力さを痛感しながら、それでも生きる、その土地を選び生き抜く人々の覚悟に言葉を無くす。
記録文学の持つ力をまざまざと感じた。
昭和の桃の節句に襲った津波を生き抜いた子どもたちの作文が胸を打つ。
日本人として必読の書のリストがあるとしたら、必ず入れなくてはならない一冊だと思う。
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Posted by ブクログ
読むのを止められなくなって、一気に読んでしまいました。最後にこれが、作者の体験した実話だと知りました。
弟の凄絶な癌との闘いの様子に、正直ほぼ恐ろしさだけを感じて読み終わったくらいです。
たくさん兄弟がいる中の、末の2人である作者と弟。上の兄弟とは歳が離れていることもあり、2人の結び付きは幼い頃から強く、作者は弟のためにずっと傍に寄り添います。弟に「癌」という病名を隠して…。
癌であることを本人に知らせないこと、モルヒネの取り扱い方など、医療に関してど素人の私でも、
かなり違和感を感じたのですが、1980年代前半の話であったことに深く納得しました。
そして、この40年間でものすごく進 -
Posted by ブクログ
日露戦争後、ロシアとの講和条約交渉に臨んだ外相・小村寿太郎の物語。旅順を攻略し、日本海海戦に勝ったとはいえ、既に日本は兵も物資も底をついており、戦争継続が不可能な状態で交渉に臨む。しかし、実態は国民には知らされず、我慢を強いられた人々は賠償金などの獲得を当然のものとして期待している。一方のロシアはまだ余力があり、極めて強気な姿勢で交渉に臨んでくる。
この困難な状況での緊迫した交渉の場面がスゴイ。冷静に強く交渉し、ポーツマス条約の締結を実現する。しかし、賠償金は取れない。小村が出国時に考えていたように、日本では条約に反対する人々の暴動が発生する。
小村寿太郎という人の強さと弱さを見事に描きつつ、 -
Posted by ブクログ
黒部峡谷に発電所を作るためにトンネルを掘り続けた技師と人夫の文学。雪崩が起きるような場所なのに、100度越えのトンネル内で作業をしなければならないという、人がいられる環境ではない工事の極限さが書かれています。
この本はあくまでも小説なので、本当の話ではないですが、作中に出る工事や事件は文献を調査し表現されているため、現実にこういうやり取りがあったかのように錯覚させられます。
全般的に表現されているマッチョイズムは現在でもある意味受け継がれており、会社における上司と部下の関係に垣間見えますね。
いやはや、恐ろしいものを読ませていただきました・・・。 -
Posted by ブクログ
面白かったー。読後、まずはどれだけが事実かが非常に気にになったが、どうもかなりが史実に基づいていると知り尚更に読んで良かったと思った。
あの時代に、言葉が一言も通じない外国に流れ着き、長い年月を過ごさなくてはいけないというのはどれだけの事だったか想像を絶する。仲間が一人ずつ亡くなっていったり、絶望していったりするのも胸が締め付けられた。
そして、過酷な状況においては賢くないと生き残れない、という事も改めて気づく。
光太夫に諦めてほしくない、と強く思いながら読み進め、一緒に悲しみ、苦しみ、焦れて、歓喜する。とても良い読書ができた。いつの時代も、異国の人であっても心を通じ合える人はいる、とい -
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吉村昭『花火 吉村昭後期短篇集』中公文庫。
吉村昭が昭和後期から平成18年に没するまでの後期に発表した作品群より遺作『死顔』を含む16篇を収録した短編集。いずれも身近にある『死』を感じさせる短編ばかり。自らの死期を悟り、描いたのだろうか。
『船長泣く』。三崎から出港した太平洋を漂流するマグロ漁船の中で、飢餓と渇きの狭間に繰り広げられる船長と船員の葛藤を描いた秀作。史実に基づいた記録文学なのだろう。
『雲母の柵』。監察医務院に勤める新米検査員を主人公にしたサスペンスフルな香りのする短編。日々変死体と向き合う中、同期の3人の中の女性検査員が突如辞職する。彼女に僅かばかりの好意を抱いていた主人