吉村昭のレビュー一覧

  • 冬の鷹

    Posted by ブクログ

    解体新書を上梓した二人の医学者を通して、当時の思想や政治体制を背景に物語が進んでいく。比喩が正しいかわからないが、理系肌で頑固一徹な前野良沢、文系肌でコミュニケーション脳力が高い杉田玄白の生き方のどちらが正しいのか?
    学問を極める事とそれを世に広める事は、同じ人間には出来ないのか?を考えさせられる。
    吉村昭の洞察力の深さを思い知る作品である。
    前野良沢は、吉村昭の生き方に通ずるのだという事が理解できる。
    同じ時代を生きた高山彦九郎を主人公にした『彦九郎山河』を同時に読まれる事をお薦めする。

    0
    2022年10月12日
  • 冬の鷹

    Posted by ブクログ

    江戸時代後期、蘭学隆盛の端緒となった解体新書の翻訳・刊行の中心人物であった前野良沢、杉田玄白の話。技術英語の翻訳に関わることもある仕事柄、読む前から強く興味を惹かれるテーマだったが、未知の蘭語の翻訳の困難に関わる話は、解体新書の刊行に至る物語の中盤よりも前で触れられている。ここをより深く掘り下げて欲しかった気持ちがあることは否めない。しかし、辞書という概念すらほとんど知られていない時代にわずかな手掛かりから原書の記述の意味を探り出そうとする苦労は十分に伝わってきた。

    物語後半は、他者に抜きんでた専門性を持ちつつも学究肌で柔軟性に欠ける良沢と、専門知識には劣るが社会性に秀でて解体新書の刊行をき

    0
    2022年09月19日
  • ポーツマスの旗

    Posted by ブクログ

    作品は、基本的に叙事詩的な文章で書き進められており、淡々と当時の時間の流れと出来事を連ねているが、それがポーツマス条約の緊縛した場面をより強く浮き彫りにしていると思う。困難なポーツマス条約を成立させた優れた外交官、政治家として記憶していた小村であるが、"私"の方はとても陰の部分が濃い人生だったことは、この作品で知った。
    日本が近代国家として名乗りを挙げた日露戦争の勝利の一方、このポーツマス条約が後のさらなる悲惨な戦争の歴史に繋がっていくことを考えると歴史の皮肉さを思う。
    この度のウクライナ戦争もあり、読んでみた一作であった。

    0
    2022年09月04日
  • 三陸海岸大津波

    Posted by ブクログ

    事実が淡々と書かれているところがいい。三陸海岸の自然やそこに住む人々の暮らしが好きって著者が話しているところも好感が持てる。
    チリ地震津波について被害があったことは知っていたけど実際の様子は初めて知った。私自身は自分の地域にも他の地域にも知り合いの古老となる人はいないので、たとえ悲惨なものだったとしても過去にあった体験を教えてもらえる話は有り難い。明治、昭和の三陸地震の住民の声を基に短かめにまとめられていて被害の様相を比べながら読んでいくのにも分かりやすくてよかった。

    嫌な予感がして起きるんだけど「冬の日や晴れてる日は津波はこない」という迷信を信じて、それで安心してもう一度眠りにつく部分もと

    0
    2022年08月11日
  • 三陸海岸大津波

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    本書で特に私の心を掴んだのは昭和8年の津波で家族の全てを失った牧野アイさん(当時尋常6年)の作文である。
    無駄な表現を取り払い、目の前で起きた現象を淡々と描写するその文章は一見すると子供っぽくて単純にうつるかもしれない。だが私はこれこそが本当に美しい文章だと思う。大袈裟なことを言わずとも、牧野さんのような真っ直ぐな言葉で、彼女の悲しさや絶望は十分すぎるほど伝わった。
     私たちは大人になるまでに多くの言葉に触れ、覚え、使う。そしてその過程で何故か必然性のない比喩や誇張をよく用いるようになる。しかし目の前で何が起きているか正確に掴み取り、ありのままに表現することも大切だ。

    0
    2022年08月10日
  • 星への旅

    Posted by ブクログ

    【目次】
    鉄橋/少女架刑/透明標本/石の微笑/星への旅/白い道

    【感想】
    『名短篇、ここにあり 』で少女架刑が印象に残った為、購入。
    繊細な言葉選びと著者の死生観が分かる作品が連なった一冊。

    0
    2022年08月07日
  • 雪の花

    Posted by ブクログ

    江戸末期に天然痘の予防に力を尽くした笠原良策医師らを描いた歴史小説。なすすべなく死んでいく人々、なんの根拠もない治療法、祈るしかない厳しい現実。種痘への無理解は、現代のコロナワクチン接種忌避と重なる...(否定も肯定もしませんが)。後世に残したい一冊。

    0
    2022年07月21日
  • 島抜け

    Posted by ブクログ

    吉村昭の短編集。
    短編とは言え読み応えは十分すぎる。

    講釈師の島流から始まる島抜けは、講釈師という職業の凄さを想像させられる。
    思いがけず漂流し異国に流れつき、企てでないにしても嘘に嘘を重ねていくしかなくなる。
    あぁそのまま逃してやって…そう思わずにはいられない作品だった。

    欠けた腕は飢饉に喘ぐ農民夫婦の話。
    四つ足と、そんな言い方していたんだ…
    そんなに不貞腐れるならと意地悪な考えをしたが死んでいるなんて。
    食べるものがない、飢えるとは狂気だと考えさせられた。

    梅の刺青も感慨深い作品。
    献体に供したいと思う事があったが、今では足りており需要と供給が合わないと聞き諦めていた。
    もう一度献

    0
    2022年06月16日
  • 三陸海岸大津波

    Posted by ブクログ

    この地の古今の資料、関連する海外の災害記録、生き残った方々の生の声。
    丁寧に集められ誠実に書いた本書からは、長い間隔をとりながらも繰り返し襲う津波と人知との攻防の様子が迫ってくる。
    本書が世に出たのは、東日本大震災発生の40年も前。これほどの経験をしてきた三陸海岸に、なぜ住み続けるのか?という傍観者の疑問にも、一定の答えを提示してくれている。
    官民一体となって懸命に施してきた対策を易々と凌駕し、数々の漁村を壊滅させた、あの大津波。その後引き起こされた、ある意味人災とも言われている大きな事故。今後も三陸海岸に生きていく人々はどうすれば良いのか?同じ国土に生きる我々は何をしたらよいのか?
    いつ来る

    0
    2022年06月15日
  • 新装版 白い航跡(上)

    Posted by ブクログ

    2022.06.04土屋守氏推薦。薩摩藩が舞台ということもあって興味深い。なぜ、日本の医学界がドイツの流れを汲むのかがやっと理解できた。

    0
    2022年06月10日
  • 破獄

    Posted by ブクログ

    網走監獄で購入し、積読にしていたもの。ゴールデンカムイにハマった流れで読んでみると、みるみるうちに引き込まれた。
    Wikipediaで佐久間(白鳥)を調べても4回脱獄したことしか書かれていないが、本書のおかげで時代背景を事細かに知ることが出来た。まさか戦争真っ只中の出来事だったとは。

    0
    2023年05月20日
  • 関東大震災

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    あまり知らなかった関東大震災のことをしれてよかった。本所被服本廠跡のことは全然知らなかった。朝鮮人のことは、中学の教科書とかにでてたかな?という感じで、学びが多かった。関東大震災から来年で100年。生きてるうちに経験するかもね

    0
    2022年05月09日
  • 零式戦闘機

    Posted by ブクログ

    面白かった。飛行機の技術後進国だった日本が堀越二郎等の必至の努力と独創性で欧米を凌駕する驚愕の飛行機零戦を開発した。開発後の活躍とその黄昏を描いた作品。
    普通新兵器は2年もすれば他国に追いつけれるものだが戦争末期までこの零戦はナンバーワンの性能を保っていた。逆に考えるとと物凄い先進的な技術なので他国が追いつく迄に時間を要したということ。
    最後の方で地震の後空襲を受け工場が凄惨な状況になる。
    描写が精緻なだけに暗澹たる気持ちになった。

    0
    2022年03月20日
  • 新装版 間宮林蔵

    Posted by ブクログ

    吉村先生、記録文学はハードボイルドです。主人公の心情を抑えながらも乾いたと言うより客観的文体で、人物を追います。北方先生が題材【林蔵の貌】にしたのもわかります。凄い日本人がいました。もっと知られて良いですね。NHKでドラマにして欲しいです。

    0
    2022年02月23日
  • 三陸海岸大津波

    Posted by ブクログ

    知らなければならない。知って正しく恐れなければならないことがある。
    南三陸海岸大津波。
    この言葉ですぐに思い出すのは衝撃的な3.11の圧倒的な自然の猛威とそれによってもたらされた甚大な被害。
    あれだけでなく、過去に幾度となく襲ってきた津波。そしてその度に壊され失われる家や船やひと。人間関係や仕事。
    自然の激しさと人間の無力さを痛感しながら、それでも生きる、その土地を選び生き抜く人々の覚悟に言葉を無くす。
    記録文学の持つ力をまざまざと感じた。
    昭和の桃の節句に襲った津波を生き抜いた子どもたちの作文が胸を打つ。
    日本人として必読の書のリストがあるとしたら、必ず入れなくてはならない一冊だと思う。

    0
    2022年01月30日
  • 冬の鷹

    Posted by ブクログ

    ターヘルアナトミアと、当時の辞書を手に取って、解体新書を作る過程を試してみた吉村昭さんが書いた、解体新書創造がメインストーリーとなる前野良沢物語。
    世の中は、さほど動いていないように思えて、激動の時代だった江戸中期のストーリーから、現代に繋がるメッセージはとても大きいものでした。
    是非、人生の挫折ではないかと、壁に突き当たっている人に読んでもらいたい一冊です。
    前野良沢さん、生まれて亡くなるまで壁しかない人生。でも、その生き方にはなぜか憧れる。

    0
    2022年01月19日
  • 戦艦武蔵

    Posted by ブクログ

    非常にリアリティのある『戦争』という一場面を武蔵という存在を通して知ることができました。
    人は、集中してしまうと、その意味を忘れてしまう。
    そのことを改めて警戒しておかなくてはと思わされました。

    0
    2022年01月06日
  • 魚影の群れ

    Posted by ブクログ

    1950年頃愛媛県戸島で起きたネズミ大量発生騒動をモデルにした「海の鼠」など4編。自然災害を書かせたら神。時代も環境も違うのに臨場感があって、村人の一人になって一緒に毒ダンゴを作ってる気持ちになった。名作揃いの吉村昭氏の著作の中でも決して引けを取らない。高熱隧道や羆嵐と同じレベルの衝撃。短いページの間に何度も期待と歓喜と失望が繰り返される。1960年代から70年代にかけて吉村昭と新田次郎の新作が読めてたなんて、その時代の読者は幸せだなぁ。

    0
    2021年12月03日
  • 背中の勲章

    Posted by ブクログ

    太平洋戦争を日本人捕虜の視点で綴った記録文学。敢えて捕虜第2号を扱うあたりが著者らしい。死を覚悟した監視行動、捕まってからの心理、他の捕虜たちとの結束や諍い、帰国してからの葛藤...。ありきたりだが、歴史は繰り返してはならないことを実感させてくれる一冊。

    0
    2021年11月18日
  • 海の史劇

    Posted by ブクログ

    日本海海戦を中心にその前後に起きた様々な出来事も詳らかに...。意思決定、群集心理、傲慢、侮り、悲哀、憐憫...。
    太平洋戦争に突入してしまう下地を作ってしまった圧倒的な勝利が歴史的な転換点であったことを改めて実感...。示唆に富んだ秀逸な作品である。脱帽。

    0
    2021年10月20日