【感想・ネタバレ】冬の鷹のレビュー

あらすじ

わずかな手掛りをもとに、苦心惨憺、殆んど独力で訳出した「解体新書」だが、訳者前野良沢の名は記されなかった。出版に尽力した実務肌の相棒杉田玄白が世間の名声を博するのとは対照的に、彼は終始地道な訳業に専心、孤高の晩年を貫いて巷に窮死する。わが国近代医学の礎を築いた画期的偉業、「解体新書」成立の過程を克明に再現し、両者の劇的相剋を浮彫りにする感動の歴史長編。

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ネタバレ

前野良沢、杉田玄白それぞれの特性・性格が反映された人生が描かれており興味深く読んだ。

良沢の執念、玄白の社交性と統率力。両者どちらが欠けても解体新書は世に出版されることはなかっただろうと思った。
良沢は玄白の祝いの席にも出席したのに、いくら性格が合わず、後ろめたさがあったとはいえ玄白が良沢の葬儀に行かなかったのは不義理だと感じた。

個人的に好きな場面は老いて隠棲していた良沢を娘の峰子が迎えに来た場面。冬の鷹とはまさしく前野良沢のことだと思った。

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2024年11月25日

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解体新書の訳者は杉田玄白ではなかった、とこの本の概略について事前情報を得ていたので、杉田玄白はとんでもないやつだった!という内容なのかと思って読んでいたが全く異なっていた。
私は良沢に共感する心と玄白に共感する心の二面性があり、どちらが自分にとっての幸せが掴める生き方なのだろうかと考えながら読んでいた。

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2024年10月22日

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教科書に載っている皆がしっている歴史の事実を、タイムスリップして覗き見ができた感じ。教科書ではわからない、そこに生きた人の性格や生き方に触れることができて面白かった。

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2024年09月25日

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解体新書を上梓した二人の医学者を通して、当時の思想や政治体制を背景に物語が進んでいく。比喩が正しいかわからないが、理系肌で頑固一徹な前野良沢、文系肌でコミュニケーション脳力が高い杉田玄白の生き方のどちらが正しいのか?
学問を極める事とそれを世に広める事は、同じ人間には出来ないのか?を考えさせられる。
吉村昭の洞察力の深さを思い知る作品である。
前野良沢は、吉村昭の生き方に通ずるのだという事が理解できる。
同じ時代を生きた高山彦九郎を主人公にした『彦九郎山河』を同時に読まれる事をお薦めする。

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2022年10月12日

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江戸時代後期、蘭学隆盛の端緒となった解体新書の翻訳・刊行の中心人物であった前野良沢、杉田玄白の話。技術英語の翻訳に関わることもある仕事柄、読む前から強く興味を惹かれるテーマだったが、未知の蘭語の翻訳の困難に関わる話は、解体新書の刊行に至る物語の中盤よりも前で触れられている。ここをより深く掘り下げて欲しかった気持ちがあることは否めない。しかし、辞書という概念すらほとんど知られていない時代にわずかな手掛かりから原書の記述の意味を探り出そうとする苦労は十分に伝わってきた。

物語後半は、他者に抜きんでた専門性を持ちつつも学究肌で柔軟性に欠ける良沢と、専門知識には劣るが社会性に秀でて解体新書の刊行をきっかけに活躍する玄白の境遇の対比に重点が置かれている。前者は頑迷ともいえる研究者であり、後者はビジネスセンスのある企業家というところか。学問の探求とビジネスの間のバランスの取り方の難しさは現代にも通じるところが大いにあって面白い。著者はどちらかというと良沢に肩入れした描き方をしているが、むしろ現代の研究者がビジネス面のバランス感覚を持つことの意義を知るためにも、本書に書かれた良沢、玄白の生き方の対照性は参考になるのではないかと思う。

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2022年09月19日

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ターヘルアナトミアと、当時の辞書を手に取って、解体新書を作る過程を試してみた吉村昭さんが書いた、解体新書創造がメインストーリーとなる前野良沢物語。
世の中は、さほど動いていないように思えて、激動の時代だった江戸中期のストーリーから、現代に繋がるメッセージはとても大きいものでした。
是非、人生の挫折ではないかと、壁に突き当たっている人に読んでもらいたい一冊です。
前野良沢さん、生まれて亡くなるまで壁しかない人生。でも、その生き方にはなぜか憧れる。

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2022年01月19日

購入済み

知の探求

検索一つで知識を得ることができるように思われている昨今であるが、本当の知を得るということはここまでの努力を必要とするのかもしれない。

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2020年10月22日

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オランダ語で書かれた『ターヘル・アナトミア』を翻訳した前野良沢・杉田玄白、彼らの作業過程とその後の人生を詳細に描き出した作品。
教科書などでは、この二人がほぼ同列の訳者として記載されているけれど、事実は前野良沢が苦心して翻訳したものを、杉田玄白が整理し文献の形に整えたという風に役割分担がなされていた
学究肌の良沢は訳を終え、『解体新書』として発行する話を、それはまだ不完全であるからとして喜ばなかった。そのため、『解体新書』の訳者として自分の名を載せるのを禁じた。
そのこともあって、世間の評判は玄白にのみ集中し、彼は八十を超えて大往生を迎えるまで栄華の中にあった。一方の良沢は、傑出したオランダ語の知識がありながら、自らが訳出した他の本についても出版して金儲けすることを浅ましいと考え、老齢に至るまで貧しいままであった。
オランダ語を訳せないながら、蘭医として名声を博した玄白と、オランダ語の権威でありながら貧窮の中にあり続けた良沢。二人の生き方は正反対だけれど、自分は良沢の不器用な生き方の方が好ましく感じられた。

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2019年09月17日

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『解体新書』といえば、杉田玄白。
しかし、前野良沢という名前を聞いたことがある人は、少ないのではないか。
自分もその1人だった。
陽の杉田玄白と陰の前野良沢。
このふたりがいたからこそ、『解体新書』が生まれた。
それならば、何故、前野良沢は『解体新書』に名を残さなかったのか。
頑固で潔癖なる性格ゆえか。
頑固で潔癖。
これが、良沢の人生を表している。
オランダ語に人生を捧げた前野良沢と名声を得るために人生を捧げた杉田玄白の対比が如実に現れている。

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2018年07月21日

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司馬遼太郎のファンで、似た毛色の作家を探し求めている人には吉村昭をお勧めします。そして、いま困難なプロジェクトに四苦八苦している人にこそ、この本をお勧めします。
 大河ドラマにするなら絶対この作品の方がよい!高山彦九郎・平賀源内というサブキャラも魅力的に関与していますし、なにしろ杉田玄白と前野良沢の人生と処世観の差が鮮やかに引き出されています。また、長崎・江戸・中津(大分)と取材箇所が各地に分散する点も魅力を感じます。
 ちなみに、蘭学事始で著名な「鼻はフルヘッヘンドである」云々のエピソードはこの本の中に出てきていません。その理由もあとがきで吉村昭自身が言及しており、資料に丹念に向き合って小説を書く作家であることをうかがわせ、極めて好印象です。
 私は初めてこの作家の著作を読みましたが、別の本も手にしたくなりました。吉村昭は戦時下の昭和日本も司馬遼太郎と違っていくつも取り上げてますしね

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2017年04月18日

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江戸時代。『ターヘル・アナトミア』の翻訳版、あの名高い『解体新書』を世に送り出した杉田玄白ではなく、その翻訳の中心人物であった前野良沢を主人公とした物語。前野良沢という人物は名前だけは知っているが、どういう人物なのかは全く知らなかった。この本によれば、まさに学者という人物で名利を求めるような人物ではなかった。だから今でも杉田玄白と比べると知名度が低い。
『ターヘル・アナトミア』の翻訳というのは実に難作業だったのだと伝わってきた。辞書もろくに無い中で、単語の意味を別の本や実際の解剖の結果から推測し導き出すという作業は根気が必要で、とても常人には成し遂げられないものだ。そのような翻訳が完璧であるわけはなく、だから前野良沢は広く世に出版する事をいやがった。しかし杉田玄白は、完璧ではなくても世に送り出し広く知らしめる事に重きを置いた。僕はこの点に関しては杉田玄白が正しいと思う。
平賀源内や高山彦九郎といった時代を彩る人物が登場し、江戸時代の雰囲気を感じる事ができた。良書である。

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2014年06月16日

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予期せぬ感動。
オランダ語の習得と翻訳業に専念し、富や名声を求めなかった前野良沢と、翻訳チームをまとめて、『解体新書』出版に尽力し、社会的成功をおさめた杉田玄白。どちらのタイプも、大事業を進めるには必要なのだろう。
だが著者は前野良沢の生き方に、つよく心を惹かれている。とにかく頑固で、清廉潔白に生きた人。それゆえ晩年は貧窮したが、おそらく良沢は、自分の人生にさほど後悔はしてないはず。

学問の厳しさ、「分かった」ときの純粋な喜び、新しい知識の広まりと反発など。史料に基づく抑制された文章の合間から、歴史上の人物の息遣いまでも伝わってくる。
『天地明察』にも通じるものを感じた。

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2014年03月07日

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人体の部位の絵の脇で、横に這っている得体の知れない文字。限られた情報源から推測し、格闘すること3年半。遂に出版にこぎつける。翻訳を行ったのは主に良沢。しかし、訳業関係者として彼の名は連なっていない。中途半端な出来には満足せず、言語を極めることに没頭する。いつの間にか人を遠ざける。誉れ高き名声と巨万の富を得た玄白とは対照的。寂しく見える晩年も、美学追求の1つの姿。…歴史の授業。江戸時代中期の必須で覚える出来事。「解体新書」。そこにも学ぶべき人生訓があった。各々がならではの道を生きて、今の医学と語学がある。

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2025年09月26日

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ターヘルアナトミアを翻訳し、解体新書を出版した前野良沢の話。良沢と杉田玄白の対比が面白かった。お互い医家ではあるがオランダ語を翻訳することに人生を捧げた良沢とオランダ医術を布教することに専念した玄白。長女、妻、長男を亡くし茫然自失となった良沢、養子玄沢や大槻ら優秀な門徒に囲まれた玄白。最後まで研究者として意固地な良沢のまっすぐさが描かれていた。
未知の文字を翻訳することの大変さ、それを成し遂げたのに名を売らなかった良沢の生真面目さがわかりやすかった。
平賀源内の印象がすごい変わった。

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2024年01月26日

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あなたは、「『解体新書』を翻訳したのは誰か」と聞かれたら何と答えますか?

小学六年生社会科のテストなら
『杉田玄白』
と答えていれば丸になるかな。
でも、実際の翻訳作業はほぼ全て
『前野良沢』
が手掛けたことまでは学習しません。

本書はその前野良沢と杉田玄白を中心とした歴史小説です。オランダ語の習得に全身全霊を捧げようと志す前野良沢は、ほとんど暗号解読のような状態で翻訳を成し遂げます。しかし自分の名を著作に刻むことはよしとしませんでした。一方で用意周到に出版の準備を進めた杉田玄白は、後に医家として大成し医学界の頂点を極めます。
吉村昭さんの小説は、対照的な二人を軸とするも、平賀源内や高山彦九郎といった関わりのあった同時代の人物にも多くの筆をさいていて、江戸時代末期の社会情勢を俯瞰して見つめています。それでも著書の視点は温かく、埋もれがちな前野良沢へとより多く向けられています。"どちらが正しい"と二者択一するのではなく、二人の対照的な生き方が、現代に生きる我々にも多くの示唆を与えてくれていると思います。

…それにしても、"杉田玄白はほとんどオランダ語はできなかった"っていう事実は、知っておくべきかもしれないなぁ…。

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2023年10月23日

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オランダの医学書を翻訳して解体新書を書いた前野良沢の翻訳人生を描いた作品。
同じく解体新書を書いた杉田玄白とは、その後の人生、信条、キャラクターなどがまるで対照的で、この二人の対比で話が進んでいく。
杉田は外交的、前野は内向的。前野は語学の学問を追及、杉田は医学の実利を追及。前野は自分が育ちたい人、杉田は人を育てたい人。
二人に共通しているのは、好奇心のかたまりであること、あきらめが悪いこと、確固たるポリシーを感じること。
二人の歩んだ人生はまったく違うが、チャレンジ精神を称えたい一冊。

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2022年04月11日

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オランダの解剖書ターヘルアナトミアを翻訳した前野良沢と杉田玄白の話。

学者肌で頑固、融通が利かない良沢、学問を極めることよりも世渡りや調整力に長けた玄白の対比が面白く、現代人にもそれぞれ似たようなタイプが居ると思う。
良沢は貧しく寂しい老後を送る一方、玄白は弟子に囲まれて裕福な老後を送る。

物語にあるように、世の中で成功するのは大抵人格能力の優れた玄白タイプが多いのではないかと思う。

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2022年03月18日

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「解体新書」を著した前野良沢と杉田玄白に関する歴史小説。
オランダ語を習得する執念とその努力は、語学を学ぶ全ての人にとって、大いに刺激になると思う。
(当時の苦学を知れば、現代人が英語学習で苦労するなんて言ってられないだろう)
同じ吉村昭著の高野長英の歴史小説も思い出した。(これも名著)

蘭学を通じて、西洋近代の知識を吸収し、延いては、それが幕末の政治的な動きにまで繋がってくる。
そう考えると、解体新書を世に出した二人の存在の意義の大きさを、改めて認識させられる。
(当時、鎖国の方針を緩めた徳川吉宗の見識の高さでもある)

この小説の面白いところは、今でも、前野良沢的生き方と杉田玄白的生き方があるからだろう。
自分の場合は、世の中をうまく生きていくよりも、前野良沢のような、頑固で、不器用で、妥協を許さないプロ意識に高い人物の方が好感が持てる。

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2021年11月10日

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今から280年程前の江戸中期に刊行された「解体新書」に関わる人々の生涯と当時の社会情勢が記録映画ように綴られたお話し。

原本であるオランダ語で書かれた「ターヘル・アナトミア」を翻訳した前野良沢とそれを刊行した杉田玄白のその後の両極的な人生の明暗が読み進めていく内にコントラストを強め、読み手の心を捕らえていく。

個人が抱く矜持は人それぞれだが、前野良沢はそれに美しさを求め、杉田玄白は正しさを求めた。結果は歴史が証明したが、悔いのない人生であったのならば、それで良い。

「解体新書」は、西洋科学(医学)書の日本最初の翻訳書と言われている。
それまでは中国から伝わる文物が主流だったが、西洋科学の正確さに気が付いた彼らは、少ない情報を基に途方も無い苦労の末、翻訳を成し遂げる。
これは、もしかしたら西洋以外では初の試みなのかも知れない。
日本はここから西洋文明を怒涛の如く吸収し、脱亜入欧を掲げてアジアでは突出した文明国に成長していく。
これは「解体新書」が一つの切っ掛けにもなっているのではないか。
暗闇の中、手探りで翻訳を成し遂げた前野良沢を日本人は忘れてはいけないと思う。

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2020年10月30日

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著者はこういう前例のないものに挑む人間ドラマが本当に好きなんだろうな。他作品もそうだが、地道に愚直に自身の求めるものを深く掘り下げていく様は危うさが感じられるものの、まっすぐで清々しさがある。玄白や源内との対比でよりキャラが立ち、良沢が孤高の存在として際立つ。署名を固辞した後の2人の生活、人生遍歴も興味深い。

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2020年06月02日

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『解体新書』の舞台裏を、吉村昭がいつものごとく、緻密な取材のもと描いた作品。

『解体新書』=杉田玄白と前野良沢ら、と学生時代に習った記憶。
杉田玄白メインなイメージ。
それを根底から覆してくれた作品。

杉田玄白の明るさや要領の良さと、前野良沢の生真面目さや頑固っぷりが、一貫して描かれていたから、年を重ねるごとのその対比が読みやすかった。
平賀源内などの当時の彼らを取り巻く人々についても、仔細に描かれているのはさすが。

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2020年03月09日

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ネタバレ

菊池寛「蘭学事始」の前後左右に肉付けした感じ。ところがこの肉が厚くて豊かで魅力的。玄白がちょっとフォローされてるかな。まあでも、報帖で様子見とか家治への献上とかって玄白のアイデアだし、病弱で独り者だった玄白がこの成功で妻帯できたのは良かった良かった。

良沢が中津から江戸へ戻る途中で、「大井川に渡しがない」って話が出てきた。先日、角倉了以が江戸初期に舟を通した話(岩井三四二「絢爛たる奔流」。この本の解説、偶然にもこの人)を読んだばかりだったので、あれ?っと思ったけど、よく考えたら了以のは京都の「大堰川」だったw

あと、そもそもこの話、前野良沢と杉田玄白がダブル主役なんだけど、それぞれの交友範囲に平賀源内と高山彦九郎がいる。史実上、無視できないのはわかるけど、この2人、脇役には相当向かない濃いキャラw。なんで、全体のバランスが崩されちゃって、最終的に座りが悪い仕上がりに感じた。寧ろ例えば、玄白が60歳で良沢70歳の時の20年振りの再会なんかは、もうちょっと紙幅を割いて欲しかったなあ。

岩崎克巳の「前野蘭化」、挑戦したいけど、東洋文庫3分冊かあ。ハードル高いなあ〜!

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2017年10月18日

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解体新書の訳に携わった人たちの物語。こういう風に翻訳していったのかと初めて知った。てっきり杉田玄白だけで翻訳したのかと。職人の脳みそだけだと生きづらいのが人生だけど、そちらのほうが尊いのかもしれないな。

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2016年10月30日

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偏狭までに学究肌の前野良沢の姿を杉田玄白と対比させて描く。生涯学ぶ姿勢にも打たれた。平賀源内の滑稽なまでの軽さも一つの生き様であろう。作者の調査の綿密さも窺える良書。2015.5.5

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2015年05月05日

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ネタバレ

富と名声を無視してでもオランダ語の和訳に対して昏い情熱を燃やし続けた前野良沢と、日本の医学を発展させるために賢しく世を渡って富と名声を手にした杉田玄白。対照的な生き方の二人をターヘル・アナトミアの翻訳という史実を介して、オーバーラップさせて構築した歴史小説。外面描写に徹した文体や冷徹な目線での語りを見るだけでは公平な眼差しで物語を構築しているようにも見えるが、タイトルを見れば、吉村昭氏は前野良沢に対してシンパシーを抱いていたであろうことが想像できる。そんでもって、どうせ人は死んでしまうという虚無感が、この作品の根底にも冷え冷えを横たわっている。これが心地いい。

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2013年09月20日

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解体新書を訳して出版した杉田玄白と前野良沢のお話。
合わせて、平賀源内も同時代で親交があり登場。
何もないところから専門書を訳すのは、できないことはないけど本当にものすごい根気が必要な作業で、それは熱意の成せる業。

同じ蘭学を学ぶ同士ながら、その志と辿った人生の違いが描写されています。
三者三様に良いところがあるのに、時の趨勢が彼らを取捨選択する…
それでも見てる人はいるんだから、頑固に生きていいのかも。

華やかなエピソードしか聞いたことがなかった平賀源内の死に方と、あとがきのフルフェッフェンドの逸話が衝撃的でした。

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2013年01月03日

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ひたすらに蘭語を追求した前野良沢と世間をうまく渡り歩き蘭学の権威を手にした杉田玄白。
解体新書を世に送り出した二人の対照的な生き方が鮮明に感じ取れます。

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2012年09月05日

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1774年(安永3年)8月、 オランダの医学書の訳本「解体新書」が出来上がった。 しかし、この本には後に我々が常識のように知っている前野良沢の名前は無い。前野良沢が訳者に自らの名を出すのを拒否したからである。杉田玄白、中川淳庵、桂川甫周との共同作業の中で1番オランダ語に通じていたのは前野良沢だった。しかし彼は「未完訳稿ともいうべきものを出版すること自体が、私の意に反する」と云う。いや、不完全でも医学の進歩のために早く出版するべきだ、と云うのが杉田玄白の考えだった。つまり、2人はたまたま志を同じくして大事業を成したが、性格は正反対だったのである。

吉村昭はあとがきで、「良沢も玄白も同時代人として生き、同じように長寿を全うしたが、その生き方は対照的であり、死の形も対照的である。そして、その両典型は、時代が移っても、私をふくめた人間たちの中に確実に生きている。」と書く。

前野良沢は学究肌で一生名誉栄達とは関係無く貧しさの中で亡くなった(しかし不幸せだとは私には思えなかった) 。杉田玄白はプロデューサー的資質に富んでいて、人当たりも良く、医者として栄達を極め、金も儲け、人々に囲まれ亡くなった(しかし決して悪辣なことはしていない)。その2人の対比が面白かった。

今回この本を読んだのは、50歳近くになって、オランダ語の学問に目覚め、つきすすんで 行ったという前野良沢になにかしら共感を覚えたからである。この本を読むと、めらめらとハングル学習欲が湧いて来た(^_^;)。

また、人嫌いの前野良沢が何故か急進的な尊皇思想家・高山彦九郎と交流があり、それとは関係無く良沢は択捉(エトロフ)の地理書を翻訳している。完全にノンポリであるにも関わらず、その90年後の激動の思想的準備をしていたことに、何かの「歴史の必然」を、私は思うのである。

その後、つくづく思うに自分は杉田玄白タイプだった。未完成でも、世に注意を喚起することの方を選ぶ。名誉や金銭欲はあまりないが、名を後世に残したい、世の中の為に成りたいという欲はある。

前野良沢は、名誉や金銭欲とは全く無縁なので、ついつい自分と重ねあわせがちではあるが、完璧主義の姿勢はやはり私とは無縁だと思う。

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2012年06月21日

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吉村昭さんのお蔭で、知らなかった、知っておくべき過去の有名無名の偉人の業績、人生を知ることができて本当に嬉しい。有難い。
タイムスリップして、透明人間になって、その場にいたような気になれる文章が好き。
ターヘルアナトミアを前に、絶望する前野良沢や杉田玄白の姿が見える。孤独、名声、期待、失望、怒り、悲しみ、喜び、安堵。
彼らの生きた時代の空気を感じられた気がする。
読めてよかった。

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2023年09月23日

Posted by ブクログ

★★★
今月1冊目
解体新書を出した、杉田玄白と前野良沢の本。
世の中では杉田玄白がという感じだが実際は前野良沢が翻訳。杉田玄白は弟子。
が、人生の明暗を分けたのは考え方。
おもろかった

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2022年03月01日

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解体新書を訳した前野良沢を中心に、長崎でオランダ語を学ぶ苦労、杉田玄白らとの交流が描かれている。学者肌で誤りが残る翻訳を出版したくない思いや、人との交流を絶ったことで貧しく孤独な暮らしになる。その中でも凛として生きていく姿が目に浮かぶ。人の崇高なる生き様を感じられる本である。

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2015年01月14日

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