吉村昭のレビュー一覧

  • 遠い日の戦争

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    ネタバレ

    戦前ばかりを特別視する人がいる。

    でも、「正義」の顔が代わっただけで、結局同じなんじゃないか、と思う。
    そうそう人間の性質など変わらないのだ。

    もし私が戦直後を経験したら、何も信じないと思う。
    世の中すべてを斜めに見て、綺麗なことも汚いことも、「ばかじゃないの」と笑っているような気がする。

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    2013年07月16日
  • 海の史劇

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    本書は、同時代を書いた、司馬遼太郎「坂の上の雲」と対比されるが、同書が、坂の上の雲を仰ぎ見ながらひたすら上り続けた、明治人の意気軒高さと心意気を、書いているのにくらべて、書き出しがバルチック艦隊の出航の模様から始まり、敗軍の将となった、ロゼストヴェンスキー総督の末路にまでおよぶ壮大な史劇となっている。

    私がここで留意したいのは、当時の国民の熱狂とは裏腹に、当時の政府や軍のトップの人たちが、国力の限界を正確に把握していて、積極的に
    米国大統領に仲介を依頼したことである。
    それから40年後の、政府や軍のトップたちが、戦況の劣勢をひたすら隠し本土決戦や一億玉砕を呼号して、いたずらに国土を疲弊させ犠

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    2013年07月05日
  • 陸奥爆沈

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    あの潮の流れが入り組んだ瀬戸内海で1000人超の死者が出る大惨事。戦時中の海軍の膝下で起こったこの出来事を海軍がいかにして機密事項にしてゆくのか。
    浜で遺体を焼くシーンが印象的でした。後半筆者の独特の切り口から、ある仮説に至る。

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    2013年06月03日
  • 陸奥爆沈

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    吉村昭にしては珍しく、ドキュメンタリー形式の小説。
    昭和18年に起きた戦艦「陸奥」の爆沈事件を、それを調べる著者という立場から解き明かしていく。
    「陸奥」の話だけでなく、他の戦艦の爆沈事件の歴史を追っている点が興味深い。また、歴史上あった戦艦爆沈事件の原因が、どれも人間が意図してなしたことだという事実に驚く。
    戦艦の爆沈事件をとおして、戦艦という器に入っている1人ひとりの無名の人間にスポットライトをあてている見事な小説である。

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    2013年05月06日
  • 天狗争乱

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    幕末時、水戸藩の尊王攘夷派である天狗党の悲劇を描いたもの。
    水戸藩は、御三家でありながら尊王の旗を立て、当初は政治思想的に幕末をお膳立てした藩であったにもかかわらず、内ゲバを繰り返すことにより、維新時には全く政治力を失った。その中心にあったのが天狗党の争乱であり、この過程で多くの有為な藩士を亡くしている。

    士道にも反するような数百名の天狗党の処分は、幕府及び徳川慶喜の権威を大きく損ね、結果的に幕末を早めるひとつの要因になった。
    その意味でも、この史実の考察を確りと行うべき。
    (薩摩藩の暗躍、一橋慶喜と幕府の関係、水戸藩と彦根藩の怨念等、興味深い歴史背景も理解できる)
    明治維新後に、今度は門閥

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    2013年03月02日
  • 大黒屋光太夫(下)

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    下巻では帰国がなかなか叶わぬロシアでの苦難な生活から女帝エカテリナへの謁見、また、その後の帰国・日本での余生まで、まさに波乱万丈の一生に心を動かされた。
    ロシアで光太夫等の帰国に労を惜しまないキリロの子息がラクスマンであることは歴史の繋がりも実感できるところ。

    厳冬の中、死に至るメンバー、改宗せざるを得ずロシアに残るメンバー等々、心の描写を巧く捉えており、読みながら胸を締め付けられる思いを何度も抱く。
    光太夫が日本に戻ってから行ったロシアに関する情報提供、語学指導等は、当時の日露の外交政策に大きく影響を与えているはずであり、単なる漂流者ではなく、知識人・政府役人等へ啓蒙にも多大な影響を与えて

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    2012年11月13日
  • 東京の戦争

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    回想文学の傑作。淡々とした筆致が当時の情景を写実的に描いているようで、何かぼんやりとしているところに惹かれる

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    2012年10月16日
  • 生麦事件(下)

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     朝廷は無知蒙昧な攘夷派の公卿と長州藩に牛耳られ、孝明天皇を悩ませていた。朝廷内ではついには天皇親征による攘夷論まで飛び出した。危機感を募らせた会津、薩摩を中心とした佐幕派は攘夷派の公卿と長州藩の朝廷からの駆逐をはかり成功する。しかし翌年、失地挽回をはかる長州藩過激派が京で挙兵し、朝廷警護の薩摩・会津との戦闘に及ぶ。「禁門の変」だ。その際、長州軍は御所に発砲するという暴挙にでる。これにより長州藩は賊軍となった。

     下巻では維新の中心となる長州藩のことが主に書かれている。
     長州藩も攘夷実行のため軍備の増強に努めていたが、それは薩摩のものより数段劣った。血気盛んなだけで、西洋の軍備に詳しい分別

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    2017年08月15日
  • 生麦事件(上)

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     今年は生麦事件から150年の節目にあたる。生麦村は東海道の川崎宿から神奈川宿の間にあり、人馬の交通量の多い場所だった。江戸と横浜の往来には必ず通る。当然西国からの大名行列は普く生麦を通過する。
     事件は薩摩藩の島津久光が江戸から薩摩へ戻る道中で起こった。横浜の居留地から川崎大師へ馬で遠乗りに出かけたイギリス人4人が大名行列に出くわしたが、街道が狭かったため行列を避けることができず、列の前面に押し出されてしまった。それに対して護衛の武士数人がが斬りかかり、一人がその傷がもとで絶命してしまった。
     これを知ったイギリス公使は激怒し、横浜に駐留する諸外国の軍事力を背景に、幕府と薩摩藩に下手人の斬首

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    2017年08月15日
  • ふぉん・しいほるとの娘(下)

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    下巻は、十四歳のイネが長崎の親元から離れ、独り宇和島の二宮敬作を訪ね、医学を学びところから始まる。
    イネは、その後、波乱の人生を送り、彼女が76歳で亡くなるまでの、まさに大河ドラマを描く。

    イネは二宮敬作の勧めにより、日本で初の女性産科医としてのキャリアを歩む。舞台は幕末から維新にかけての激動の時期と重なり、西欧との接点でもあった医学が政治的に結びつく時代、村田蔵六など登場人物との繋がりも興味深い。(司馬遼太郎の「花神」ほどは登場しないが)

    明治に入ると福沢諭吉とも懇親を深め、女性の社会的地位向上に一役を買う。(福沢諭吉の口添えにより宮内省御用掛となる)

    一方で未婚のままの出産などイネを

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    2012年08月11日
  • ふぉん・しいほるとの娘(上)

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    シーボルトと長崎丸山の遊女お滝との間に生まれたイネの生涯を描いた幕末期の歴史小説。
    上巻はシーボルトとお滝の馴初めから、イネが単身、学問を捨てきれず、シーボルトの弟子であった宇和島藩の医師二宮敬作を訪ねるところまで。
    江戸時代の長崎、出島の様子、また、そこに過ごすオランダ人の生活、遊女との関係等が詳細に描かれ、史実を理解する上でも一読の価値あり。
    シーボルトはヨーロッパに日本を広めた貢献者でもあるが、その原動力が飽くなき好奇心であることが読み解ける。
    また、それはイネにも引き継がれ、親から女性は学問が却って邪魔になる旨を言われながらも、学問を続けることの意志の強さを持ち続ける。

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    2012年07月29日
  • 死顔

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    「戦艦武蔵」を読んで好きになりました。こちらは「死」をテーマにした遺作短篇集。
    「二人」と多分遺作の「死顔」は、どういう関係なんでしょう。
    「二人」はまだ推敲段階だったか、大筋は同じなんですね・
    私は、先に読んだからかどうかわかりませんが、「二人」の方が好み。
    このされた兄弟のやり取りは、こっちの方が好き。
    一気に読めました。

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    2012年07月23日
  • 大本営が震えた日

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    大本営。よく聞くようで、よく知らない言葉。調べると、天皇直属の最高機関のことで、陸軍や海軍もその下部組織になるとのこと。

    昭和16年12月8日、日本はアメリカと開戦を決意する。その始まりの真珠湾奇襲のために、日本大本営は多くの極秘工作をすすめていた。

    まだ戦争をしないことをアピールするために、開戦直前に豪華客船「竜田丸」をアメリカに向けて出発させたり、日本艦隊が未だ日本にあるようなニセ無線を流す。軍隊がタイ国を通過する許可を開戦日前日の23時に交渉する。真珠湾へ向かう艦隊が発見されないような航路の開拓。等々。それらの作戦は綿密で、12月8日に向けて必須な積み上げだ。でも、細部については運任

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    2012年07月14日
  • 逃亡

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    舞台は太平洋戦争中の日本。ある青年兵は些細な過ちをきっかけに、日本軍から脱走する。彼は長い逃亡生活を経て、庶民として現在にも生き続けた。そんな元青年兵のことを偶然に知った著者は、彼への取材を通してその過酷な生き様を小説スタイルで浮かび上がらせる。

    青年兵の逃亡中、日本は敗戦を迎え、彼は家族と再会します。フィクションならば、まさに感動の名場面。が、著者はこのシーンに多くの枚数を費やさない。逃亡兵という非国民の家族。戦争中、そんな嘲りを受け続けた者たちにとって、いくら家族でも、その青年兵に許せない感情を持っても不思議じゃない。青年兵は再び、戦後のすさんだ世界へ一人で戻っていく。そこで、小説は完結

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    2012年07月14日
  • 新装版 間宮林蔵

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    スリリングで緊張感のある展開、面白かった。日本の領土問題の原点。江戸後期、北方沿岸に頻繁に出没するロシア船の脅威が日に日に高まる中、ついに択捉島の集落が襲撃される。世界地図で唯一不明となっていた、樺太が中国東北地域の東契丹と陸続きかどうかを確かめる必要は国防上の最重要課題となった。百姓から立身した林蔵は、樺太の探検を命じられる。

    間宮海峡を発見したとして、歴史の教科書で必ず名前が出る人物だが、当時の江戸日本が置かれていた外交上の背景は教えない。ただ、行って見てきただけのような教え方も手伝ってか、彼の業績は過小評価され過ぎの感を禁じ得ない。

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    2012年05月05日
  • 天狗争乱

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    この天狗争乱が、はじめて読んだ吉村昭の本。

    独特の淡々とした文は、はじめ何も感情を感じ取ることができなく、
    これは小説なのかと戸惑った。

    しかし、読み進めていくうちに、この独特の文章から圧倒的なリアリティを感じることができるようになり、読後には、吉村昭の中毒にかかったように吉村昭の小説ばかりを読むようになってしまった。
    今でも、司馬遼太郎の次に好きな作家。

    もちろんストーリーも素晴らしかった。

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    2012年04月09日
  • 新装版 白い航跡(下)

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    既存の学説に依って立つ

    これは新たな発見に至る常套的な手段だ。

    ただし、どの学説を足がかりにするかの選択は、平明な視点でなされなくてはならない。

    この本で取り上げる脚気予防に関する陸海軍の軋轢は、権威に盲従的に、あるいは組織の対面(という名の権威)を優先することがいかに愚かで、ときには多くの悲劇を生み出すかという教訓に満ちている。

    学問は何のためか、研究は誰のためか、研究者はそれを忘れてはならない。

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    2012年03月29日
  • アメリカ彦蔵

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    13歳の時に乗っていた船が嵐のため漂流し、アメリカ人に助けられ、その後アメリカ人となって帰国を果たし、日本とアメリカの掛け橋となった彦太郎の一生。
    ジョン万次郎よりも若くて、多数のアメリカ高官に会っていた人が居たとは驚きました。帰国を果たした後にも、帰るところがないという寂しい感情が印象に残りました。

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    2012年03月25日
  • 桜田門外ノ変(上)

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    尊王攘夷思想が倒幕へ。幕末の激動を感じ先日、桜田門周辺を散策した。今度は一方の当事者である井伊直弼の彦根城あたりに行ってみたくなった。

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    2012年03月20日
  • 海軍乙事件

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    表題作の「海軍乙事件」をはじめ、「海軍甲事件」「八人の戦犯」「シンデモラッパヲ」の戦争記録小説4編を収録。
    「海軍乙事件」は山本五十六の後、GF長官となった古賀峯一大将とその司令部が、アメリカ軍攻撃からの避難のため二式大艇2機に分乗して飛行中に嵐に遭い古賀らが殉職、参謀長福留中将らはゲリラの捕虜となった事件を指す。出だしは陸軍の独立大隊がセブ島へ派遣されるという意外な場面からはじまるが、乙事件の顛末とともに見事に収斂されていく。結果論的にいえば、当時の戦略で策定された「Z作戦」の書類をアメリカ軍に奪われたにもかかわらず、それはないと強弁する福留中将や日本海軍の無責任・間抜けぶりと、アメリカ軍の

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    2012年03月14日