吉村昭のレビュー一覧
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1934年、山本五十六氏を乗せた日本軍機が待ち伏せされて南海に散った翌年、氏の後任を含む一向が空襲を逃れパラオからミンダナオに飛ぶ途中に遭難。
その折、ゲリラに没収された海軍Z作戦計画書が米軍の手に渡っていたにも関わらず、同計画書没収の事実を大営本部がエリート意識の高さゆえ握りつぶしたため作 戦は実行され、当然大敗を喫してしまったという海軍乙事件(甲事件は五十六氏の待ち伏せに繋がった復号技術の漏えい)のルポ。
重要なのは事実(あるいは事実とされるもの)ではなく、科学的態度を如何にして失わないでいるかであるという意味では、今も昔も変わらないと感じました。 -
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江戸時代。『ターヘル・アナトミア』の翻訳版、あの名高い『解体新書』を世に送り出した杉田玄白ではなく、その翻訳の中心人物であった前野良沢を主人公とした物語。前野良沢という人物は名前だけは知っているが、どういう人物なのかは全く知らなかった。この本によれば、まさに学者という人物で名利を求めるような人物ではなかった。だから今でも杉田玄白と比べると知名度が低い。
『ターヘル・アナトミア』の翻訳というのは実に難作業だったのだと伝わってきた。辞書もろくに無い中で、単語の意味を別の本や実際の解剖の結果から推測し導き出すという作業は根気が必要で、とても常人には成し遂げられないものだ。そのような翻訳が完璧であるわ -
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とにかく怖い
いや、なにがコワいって表紙のクマがこれでもかってくらいコワいんですけど、読んだら中身はもっと怖かった。
大正時代の北海道開拓民の山村を巨大な羆が襲い6人惨殺...という実話を基にした小説だが、前半はエイリアン並みの、姿の見えない巨大羆と、その陰惨な襲撃シーンに恐怖する。
一転して後半は、羆を恐れる村人たちの緻密な心理と、羆を追い詰める老マタギのハードボイルドな描写に一喜一憂しながら読み進めることになる。
Wikipediaで「三毛別羆事件」を参照すれば分かるが、ストーリーはほぼ実話。そこに、迫真の心理描写を加えたのがこの小説のすばらしいところだろう。まちがいなく傑作だ。 -
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戦局が悪化をたどっていた昭和18年6月8日正午頃、広島県柱島泊地に停泊中の戦艦「陸奥」は突如大爆発を起こしその場に瞬く間に沈んだ。
それから26年の歳月を経て、本書は陸奥爆沈の真相に興味を持った著者による執拗な探求の道筋を辿った渾身のドキュメンタリー小説であり、歴史の暗部に光をいれた記録文学の秀作である。
最初著者の関心は低調である。しかし、陸奥爆沈の資料を捜索し続けている内に、著者は何かにとりつかれたようにすみずみにまで目配りを行い、活動的かつ執念を燃やして真相に迫る凄みが次第に露わになってきて、たんたんと描いているはずなのだが、読んでいるこちらもその迫力に圧倒されぐいぐいと引き込まれていっ -
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零式戦闘機の開発、その後迎えた絶頂期から特攻まで、零戦を中心とした日本の戦局が描かれています。記録的な書き方をされているので、読んでいても必要以上に感情的にならなくて済みます。大人になってから戦争関連の本を読むと、小学校で「ガラスのうさぎ」とかを読んでいた頃とは全く違った印象を持ちます。国民(特に子供)目線の話は、ただただ「悲劇」として、「こんな怖いことは二度と繰り返しちゃ駄目だよね」的なメッセージしか受け取れないけど、戦局や軍部の動きが分かる本を読むと、人間の愚かさや弱さや恐ろしさが非常によく分かります。こういうのこそ高校や大学で必修にしなきゃいけないんじゃないのか?恐らく個々の軍人には人間
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予期せぬ感動。
オランダ語の習得と翻訳業に専念し、富や名声を求めなかった前野良沢と、翻訳チームをまとめて、『解体新書』出版に尽力し、社会的成功をおさめた杉田玄白。どちらのタイプも、大事業を進めるには必要なのだろう。
だが著者は前野良沢の生き方に、つよく心を惹かれている。とにかく頑固で、清廉潔白に生きた人。それゆえ晩年は貧窮したが、おそらく良沢は、自分の人生にさほど後悔はしてないはず。
学問の厳しさ、「分かった」ときの純粋な喜び、新しい知識の広まりと反発など。史料に基づく抑制された文章の合間から、歴史上の人物の息遣いまでも伝わってくる。
『天地明察』にも通じるものを感じた。 -
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幕末時に幕府側の通訳として活躍した森山栄之助を主人公とした歴史小説。
森山は、日本に憧れ利尻島に上陸し長崎で抑留されていた米国人より英語を学び、当時は珍しかった英語を使える通詞としてペリーやハリスの来航時にも活躍する。
森山は条約の整備等、外交官的な働きもし、当時の欧米列国の外交官にも名が知れ渡った第一人者であったが、討幕後は引退し、燃え尽きるように死去する。
当時、米国が日本に開港を求めた大きな理由は捕鯨船の寄港を目的としていたのだが、そのビジネスの重要性、ペリー来航に至るまでの諸事情・背景、米国の国家戦略等も触れられており興味深い。
吉村昭の作品である「高野長英」もそうだが、当時の外国 -
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珍しく、美味しいところ、よりも著者がどう感じているか、が
気になる食の本でした。
もちろん、美味しい地方、お店の紹介も魅力的で
行きたくなってしまいます。とくに、長崎。
ただそこでも、
これは美味しいぜ、すごいだろ、的な要素が全くない、
素晴らしい内容です。
解説に書かれていたが、著者の貧困時代があるから
決して高くて美味しいものを、わざわざ食べたいと思わないという
姿勢が素敵。
、
「あなた、夕ご飯、食べる?」といういい方に腹を立てる同僚に
同じ気持ちを語る場面。吉村さんの根底にある食べ物に対しての
気持ちがあらわれていると思います。 -
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表題の「敵討」及び「最後の敵討」を収録している。
どちらも大変印象深い作品であり、さすがドラマ化された作品だけある。
吉村作品のよいところは、全てが全てハッピーエンドではないということ。本2作品の中で敵討を果たした人物は、敵討を果たしたあと何事もなく人生を終えているわけでない。
例えば「最後の敵討」では、主人公が監獄から出たあと出獄祝いの宴に参加するが、その時そこにいた大物が演舞を行った人物の師匠によって殺されてしまうという事件が起こる。一方「敵討」では、敵討の助太刀役をした人物は、他藩に召し抱えられることなく、吉原の商店の店主としてその生涯を終えている。
その時は一躍脚光を浴びるが、人々の興 -
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ネタバレ『永遠の0』を読んで感動したのと、作者が吉村昭だったのとで読んでみたのだけど、零戦が名古屋で作られていたとは知らなかった!知っている地名やなじみのある地名がたくさん出てきて、予想外におもしろかった。
まず冒頭の、試作機が牛車にひかれていく鶴舞から布池、大曽根という旧市電の道は、高校時代の通学路。たどり着いた先の各務原の飛行場ではその昔、父方の祖父が徴用されて飛行機を作っていたそうだ。ひょっとして零戦だったんだろうか…?そして名古屋が大地震に見舞われたあと工場疎開した先のひとつが松本の片倉紡績工場。学生時代、毎日のようにお世話になっていた、カタクラモールよね??牛車に変わって飛行機を運ぶことにな -
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組織論として読むとき戦慄を感じる。
極端な話、組織内の一人の不満分子が何千人もの命を奪い組織を破壊させることができる。
たとえ他のどんな組織より規律が厳しくと統率が執れていたとしても。また、組織が危急存亡の時で困難に取り組むべき状況にあったとしても。
陸奥爆沈という結果に対して、その原因はあまりにも些細なことに感じる。
本書の結論は憶測にすぎないが、想像上確かにありうべきことだった。
そしてどのような組織でも同じリスク、可能性を秘めている。
組織が直面し続ける宿命ととらえるか、
いつか克服すべき悠久の課題ととらえるか、読み手の置かれている組織内のポジションによって読後の感想が様々分かれるのだ