吉村昭のレビュー一覧

  • 羆嵐

    購入済み

    とにかく怖い

    いや、なにがコワいって表紙のクマがこれでもかってくらいコワいんですけど、読んだら中身はもっと怖かった。

    大正時代の北海道開拓民の山村を巨大な羆が襲い6人惨殺...という実話を基にした小説だが、前半はエイリアン並みの、姿の見えない巨大羆と、その陰惨な襲撃シーンに恐怖する。
    一転して後半は、羆を恐れる村人たちの緻密な心理と、羆を追い詰める老マタギのハードボイルドな描写に一喜一憂しながら読み進めることになる。

    Wikipediaで「三毛別羆事件」を参照すれば分かるが、ストーリーはほぼ実話。そこに、迫真の心理描写を加えたのがこの小説のすばらしいところだろう。まちがいなく傑作だ。

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    2014年06月11日
  • 陸奥爆沈

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    戦局が悪化をたどっていた昭和18年6月8日正午頃、広島県柱島泊地に停泊中の戦艦「陸奥」は突如大爆発を起こしその場に瞬く間に沈んだ。
    それから26年の歳月を経て、本書は陸奥爆沈の真相に興味を持った著者による執拗な探求の道筋を辿った渾身のドキュメンタリー小説であり、歴史の暗部に光をいれた記録文学の秀作である。
    最初著者の関心は低調である。しかし、陸奥爆沈の資料を捜索し続けている内に、著者は何かにとりつかれたようにすみずみにまで目配りを行い、活動的かつ執念を燃やして真相に迫る凄みが次第に露わになってきて、たんたんと描いているはずなのだが、読んでいるこちらもその迫力に圧倒されぐいぐいと引き込まれていっ

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    2014年04月15日
  • 零式戦闘機

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    零式戦闘機の開発、その後迎えた絶頂期から特攻まで、零戦を中心とした日本の戦局が描かれています。記録的な書き方をされているので、読んでいても必要以上に感情的にならなくて済みます。大人になってから戦争関連の本を読むと、小学校で「ガラスのうさぎ」とかを読んでいた頃とは全く違った印象を持ちます。国民(特に子供)目線の話は、ただただ「悲劇」として、「こんな怖いことは二度と繰り返しちゃ駄目だよね」的なメッセージしか受け取れないけど、戦局や軍部の動きが分かる本を読むと、人間の愚かさや弱さや恐ろしさが非常によく分かります。こういうのこそ高校や大学で必修にしなきゃいけないんじゃないのか?恐らく個々の軍人には人間

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    2014年03月14日
  • 冬の鷹

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    予期せぬ感動。
    オランダ語の習得と翻訳業に専念し、富や名声を求めなかった前野良沢と、翻訳チームをまとめて、『解体新書』出版に尽力し、社会的成功をおさめた杉田玄白。どちらのタイプも、大事業を進めるには必要なのだろう。
    だが著者は前野良沢の生き方に、つよく心を惹かれている。とにかく頑固で、清廉潔白に生きた人。それゆえ晩年は貧窮したが、おそらく良沢は、自分の人生にさほど後悔はしてないはず。

    学問の厳しさ、「分かった」ときの純粋な喜び、新しい知識の広まりと反発など。史料に基づく抑制された文章の合間から、歴史上の人物の息遣いまでも伝わってくる。
    『天地明察』にも通じるものを感じた。

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    2014年03月07日
  • 海の祭礼

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    幕末時に幕府側の通訳として活躍した森山栄之助を主人公とした歴史小説。
    森山は、日本に憧れ利尻島に上陸し長崎で抑留されていた米国人より英語を学び、当時は珍しかった英語を使える通詞としてペリーやハリスの来航時にも活躍する。
    森山は条約の整備等、外交官的な働きもし、当時の欧米列国の外交官にも名が知れ渡った第一人者であったが、討幕後は引退し、燃え尽きるように死去する。

    当時、米国が日本に開港を求めた大きな理由は捕鯨船の寄港を目的としていたのだが、そのビジネスの重要性、ペリー来航に至るまでの諸事情・背景、米国の国家戦略等も触れられており興味深い。

    吉村昭の作品である「高野長英」もそうだが、当時の外国

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    2014年02月12日
  • 総員起シ

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    昭和40年代に雑誌で発表されたのが初出であるという5篇の作品が収められている。5篇共に読み応えが在る。

    色々な意味で、各作品に「惹かれる理由」が私個人の中に在るのだが、それらを割り引いても、各作品は「流石に高名な吉村昭の作品!!」という魅力に溢れている。題材となっている挿話も、「考えさせられる」とか「迫るモノが在る」ものである。安価で読み易い文庫でもあるので、多くの人に奨めたい一冊だ!!

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    2014年01月25日
  • 魚影の群れ

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    マグロ、鼠、鵜、蝸牛をテーマにした「動物小説」の短編集(4編)。
    動物を通じて自然の厳しさを描き、また自然(動物)と対峙するプロの生き様をヒューマンタッチに描く。
    吉村昭の作風でもある詳細な事実調査の積み重ねからなる迫りくるリアリティに自ずと惹きこまれてしまう。
    歴史小説にはない新鮮さを堪能できた。

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    2013年12月18日
  • 破獄

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    ノンフィクション作家の吉村昭氏の凝縮された文章は素晴らしい。刑務所を4回脱獄した男の昭和の実録。昭和11年青森、17年秋田、19年網走、22年札幌。戦前戦後の世相や社会不安を背景にその囚人佐久間清太郎の生き様を描く。

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    2023年01月16日
  • 味を追う旅

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    珍しく、美味しいところ、よりも著者がどう感じているか、が
    気になる食の本でした。
    もちろん、美味しい地方、お店の紹介も魅力的で
    行きたくなってしまいます。とくに、長崎。
    ただそこでも、
    これは美味しいぜ、すごいだろ、的な要素が全くない、
    素晴らしい内容です。

    解説に書かれていたが、著者の貧困時代があるから
    決して高くて美味しいものを、わざわざ食べたいと思わないという
    姿勢が素敵。

    「あなた、夕ご飯、食べる?」といういい方に腹を立てる同僚に
    同じ気持ちを語る場面。吉村さんの根底にある食べ物に対しての
    気持ちがあらわれていると思います。

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    2013年11月18日
  • 敵討

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    表題の「敵討」及び「最後の敵討」を収録している。
    どちらも大変印象深い作品であり、さすがドラマ化された作品だけある。
    吉村作品のよいところは、全てが全てハッピーエンドではないということ。本2作品の中で敵討を果たした人物は、敵討を果たしたあと何事もなく人生を終えているわけでない。
    例えば「最後の敵討」では、主人公が監獄から出たあと出獄祝いの宴に参加するが、その時そこにいた大物が演舞を行った人物の師匠によって殺されてしまうという事件が起こる。一方「敵討」では、敵討の助太刀役をした人物は、他藩に召し抱えられることなく、吉原の商店の店主としてその生涯を終えている。
    その時は一躍脚光を浴びるが、人々の興

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    2013年10月19日
  • 零式戦闘機

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    ネタバレ

    『永遠の0』を読んで感動したのと、作者が吉村昭だったのとで読んでみたのだけど、零戦が名古屋で作られていたとは知らなかった!知っている地名やなじみのある地名がたくさん出てきて、予想外におもしろかった。
    まず冒頭の、試作機が牛車にひかれていく鶴舞から布池、大曽根という旧市電の道は、高校時代の通学路。たどり着いた先の各務原の飛行場ではその昔、父方の祖父が徴用されて飛行機を作っていたそうだ。ひょっとして零戦だったんだろうか…?そして名古屋が大地震に見舞われたあと工場疎開した先のひとつが松本の片倉紡績工場。学生時代、毎日のようにお世話になっていた、カタクラモールよね??牛車に変わって飛行機を運ぶことにな

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    2014年05月06日
  • 零式戦闘機

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    きっかけは”風立ちぬ”でもなければ”永遠の0 ”でもなく
    ”艦これ”だ!(笑)

    吉村昭作品はそれなりに読んでいたつもりだが、まだ未読作品が多いなと反省^^;

    この種の本を読んだときにいつも思うことですが
    あらためて、あの戦争は無理して・背伸びしてやった戦争だったんだ・・・
    と思い知らされる。
    そして「本気で戦争をやる気があったのか!」とツッコミを入れたくなる・・・(理不尽なツッコミですが^^;)

    道路や輸送手段が未整備で飛行機を工場から基地まで牛車や馬車で運んでいたとは知らなかった・・・。
    そうだよね、作ったモノは運ばないと・・・。

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    2013年10月16日
  • 零式戦闘機

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    零式戦闘機が生まれるまでのストーリー。海軍の高い要望と三菱重工の設計者である堀越二郎の奮闘を描いている。話題の映画「風立ちぬ」だけでは表しきれないほど泥臭く、死者も出るほどの技術者の戦いが興味深い。戦闘機の試作と試験を重ねに重ね、高い要望を克服する日本人ならではの職人気質が、当時技術面で世界から遅れていると思われていた一般論を覆した。付録ページに零戦の設計図と部品名が書かれているので、それを参照しながら読むと更に面白いかもしれない。

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    2013年09月10日
  • 空白の戦記

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    素晴らしかった!
    泣きながら読みました。
    特に、『艦首切断』と『顛覆』(本書どおりの漢字がでなかったけれどてんぷくです)は感極まって一気に読むことができませんでした。

    シンプルながらも的を射た表現が想像力をかき立てます。
    大変よい本でした。

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    2013年08月31日
  • 陸奥爆沈

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    組織論として読むとき戦慄を感じる。
    極端な話、組織内の一人の不満分子が何千人もの命を奪い組織を破壊させることができる。
    たとえ他のどんな組織より規律が厳しくと統率が執れていたとしても。また、組織が危急存亡の時で困難に取り組むべき状況にあったとしても。
    陸奥爆沈という結果に対して、その原因はあまりにも些細なことに感じる。
    本書の結論は憶測にすぎないが、想像上確かにありうべきことだった。

    そしてどのような組織でも同じリスク、可能性を秘めている。
    組織が直面し続ける宿命ととらえるか、
    いつか克服すべき悠久の課題ととらえるか、読み手の置かれている組織内のポジションによって読後の感想が様々分かれるのだ

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    2017年06月17日
  • 長英逃亡(下)

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    ネタバレ

    再び江戸に戻った長英は妻子と共に生活を始めるが・・・。宇和島藩主の庇護を受け、伊予に入り、蘭書の翻訳、蘭学の教えに貢献する。漸く平和が来たかと思ったが、やはりそこも幕府の手が忍び寄る。極めて優秀な人材がこのような追われる身になることの惜しさ。そして本人の悔しさ。そして再び江戸で迎える最期の時。斉彬があと数か月早く薩摩藩主になっておれば、保護を受けられたのに・・・。運命の悪戯。長英亡き後の家族も悲惨である。吉村昭の詳細な調査により150年前の史実が忠実に再現されます。素晴らしいお奨め本です。

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    2013年08月25日
  • 長英逃亡(上)

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    ネタバレ

    破牢の末、高野長英は武蔵(板橋、戸田、浦和、大宮)上州、越後から母に会いに故郷水沢へ。その逃避行は圧倒的なスリルに富み、また長英の心の動き、多くの支援する人々との暖かい交流。幕府の威信にかけた追跡はとても100年前とは思えないような鋭さで、思わず読んでいる私自身が追われているような緊迫感があります。私にとっては浦和(大間木)大宮(片柳)など住んだことのある近隣の場所の昔の佇まいを感じさせてくれる楽しさもありました。

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    2013年08月25日
  • 零式戦闘機

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     欧米に比べて格段に劣る工業力しかなく、航空技術でも一歩どころか、二歩も三歩も遅れていた日本が、突如として、世界でも群を抜く最新鋭の戦闘機を作りだした。 最高速度も旋回能力も航続距離も、そして攻撃力もそれまでの常識をはるかに凌ぐ戦闘機の誕生は皇紀2600年に海軍に正式採用され「零式戦闘機」、通称「零戦」と呼ばれた。


     中国大陸での快進撃の報に接しても、欧米は誤報と信じて疑わなかった。極東の二流国がそんな戦闘機を作れるとは想像だにしなかった。航空先進国の驕りと、黄色人種蔑視ゆえに、零戦に対する欧米の情報収集は遅れ、対策は皆無だった。欧米各国が零戦の驚くべき能力に刮目したのは太平洋戦争が開戦し

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    2017年08月15日
  • ポーツマスの旗

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    [翻った忍耐の証]陸海の両面で大戦となり、多くの人命と資材が費やされた日露戦争。両国共に戦争継続のための能力に陰りが見られる中、アメリカ大統領ルーズベルトの仲介の下、ポーツマスにて講和会議が開かれることに。のっぴきならない調整の結果、決裂間近で結実に至った会議の模様、そして日本側全権の小村寿太郎らを始めとする人々に焦点を当てた歴史小説です。著者は、『破獄』や『ふぉん・しいほるとの娘』など、多くの歴史の一場面に光を当ててきた吉村昭。


    外交交渉をつぶさに、そして臨場感をもって読者に追体験させるという小説は珍しいのではないでしょうか。息詰まる交渉はもちろんのこと、それを取り巻く会議への参加者やポ

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    2013年08月10日
  • 海軍乙事件

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    古本で購入。
    吉村昭はやっぱり凄いな、と改めて思う1冊。

    飛行艇の遭難により古賀連合艦隊司令長官が殉職、更には参謀長らの携行した極秘作戦書を米軍が指導するゲリラに奪われた事件を描く「海軍乙事件」。

    巻末に付された「調査メモ」によると、吉村昭がこの事件を調べ始めたのは、昭和47年のことだという。
    僕はここに驚いた。僕の生まれる10年程度前のことでしかないのだ。
    当たり前だが、今でも大勢の戦争体験者の方々がご存命である。
    兵役に就いたご老人と会ったこともある。
    しかし「海軍乙事件」という、日本の敗勢を加速させた歴史的事件の関係者がその頃に生きていたということに、驚いてしまった。

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    2013年07月18日