吉村昭のレビュー一覧
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購入済み
切り取り
歴史って、人生って、こんな角度からも切り取れるんだ。筆者の作品は読むたびに気付かせてくれる。戦時下の状況を刑務所から眺めるという発想はこの本を読まなければ一生持たなかったと思う。
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淡々と、出来事と人々を観察するように描かれていました。
表題作と「死体」「喪服の夏」が好きです。
逃れられない貧しさや家の柵。逃げ出してる女性もいたけれど、我慢して虐げられているのが、時代といえば時代だったのかな。読んでいて辛かったです。
「喪服の夏」のおばあちゃんの最期の決意、胸にくるものがありました。それまでやってきたことから、この人物は好きではないけれど。
「少女架刑」で、献体の料金(?)が安かったからと母親が遺骨を引き取らないのも酷い話だけど、その後の納骨堂の描写で、ああこういう家庭多かったのかな…って感じるのも悲惨です。亡くなって死体になってる女の子の目線で物語が語られるの、乙一さん -
Posted by ブクログ
吉村昭『冬の道 吉村昭自選中期短篇集』中公文庫。
吉村昭が中期に描いた短編の中から選りすぐりの10編の短編を収録。
吉村昭と言えば、過去に埋もれ行く歴史の断片を描いた記録文学作品の他に、日本人の心を描いた一連の短編にも定評がある。『三陸海大岸津波』『関東大震災』『破獄』『羆嵐』『漂流』は前者で、後者の代表作は岩手県田野畑村を舞台にした『梅の蕾』だろう。『梅の蕾』は何度読んでも泣けてしまう。
本作では刑務所の看守を題材にした短編と戦争に翻弄される家族の姿を描いた短編が収録されている。『梅の蕾』同様、極めて淡々とした洗練された文章が読み手の心を揺さぶる。
『鳳仙花』。四季のうつろいと共に平 -
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重めなのを読みたかったので吉村さんを選んだけど中でもとびきりなのを引いてしまった気がする。重めというかもう重すぎて、これほんとに現実にあったことなのファンタジーを読んでたんだっけと訳がわからなくなるレベルだった。
命が一番軽く扱われていたのは戦国時代あたりなのかなとふんわり思っていたけど明治の時代までこんな観念だったんだと物凄い衝撃を受けた。移植開拓時代の北海道の出来事もまったく、本当に全然知らずにいた。日本史の授業でも触れられた覚えがまったくないけれどもあえて伏せられていたのかな。
こんなふうに開拓された土地だとは全然知らなかったです。勉強になった。
次々名前が上がってたくさんの人が出て -
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今から280年程前の江戸中期に刊行された「解体新書」に関わる人々の生涯と当時の社会情勢が記録映画ように綴られたお話し。
原本であるオランダ語で書かれた「ターヘル・アナトミア」を翻訳した前野良沢とそれを刊行した杉田玄白のその後の両極的な人生の明暗が読み進めていく内にコントラストを強め、読み手の心を捕らえていく。
個人が抱く矜持は人それぞれだが、前野良沢はそれに美しさを求め、杉田玄白は正しさを求めた。結果は歴史が証明したが、悔いのない人生であったのならば、それで良い。
「解体新書」は、西洋科学(医学)書の日本最初の翻訳書と言われている。
それまでは中国から伝わる文物が主流だったが、西洋科学の -
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ままならない男女の仲、ふとした瞬間に生じる感情の揺れ、静かに広がる心中の波紋を、繊細に秘めやかに切り取ったような短編集です。
吉村昭さんって骨太の歴史小説・記録文学のイメージが強かったのだけど、人間の感情の機微を、日常から瞬時に精巧に切り取る繊細な短編に、最近徐々に魅せられていっています。
収録作品は全9編。表題作の「帽子」は珠玉の作品だと思います。
癌に冒された妻を看病する夫。しかし、妻の死期は刻一刻と迫り、夫は妻のために帽子を買うが……
死にゆく妻が夫と交わした二つの約束。そのいじらしさがたまらなく切なく、そしてクライマックスの運転のシーンの美しくも哀しい描写がまた素晴らしい。
感情描