吉村昭のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
吉村昭の短編小説。
短編も短編、原稿用紙10枚分ぐらいの短編。
でも、そのたった10枚の中に人間の姿、心の動きが描かれていて、不思議な気分。
日常の一部分を切り取って貼ったような。注意して見ていなければ、あっという間に見過ごされてしまうような感じ。
読んでいた間は、楽しかったはずなのに、あまりに高速に過ぎてしまったから、あとからどれが面白かったかな・・・と思い返すと、ページをもう一度開かなければ解らない感じです。
強いて、印象に残ったものを挙げるならば、吉村氏が始めて挑戦したという激短編である、「観覧車」、また、なんとなく薄気味悪くて、想像できてしまう「同居」。
観覧車は、男のしょうもな -
Posted by ブクログ
ネタバレ私にとっては非常に長くて、一ヶ月ぐらい読んでましたw
日露戦争時の、日本海海戦を、どちらかというとロシア側からまとめた史劇。
最初はロシア人ばかり出てきて、早く日本軍出して欲しいなあとじれったく思って読んでいたのですが・・・
だんだんとロシア側に感情移入していったのがまさに吉村マジックです。
しかし、当たり前だけど本当に知らなかったことばかり。
バルチック艦隊が日本に来るまでもなかなか壮絶で、死者が何名も出ていて、なかなか大変なものだったんですねー。
メインの海戦そのものは、息を呑むような展開で、ぐいぐい引き込まれました!東郷平八郎の丁字戦法からの、巧みな砲撃戦。あっという間にロシア艦 -
Posted by ブクログ
[ 内容 ]
日本には海洋文学が存在しないと言われるが、それは違っている。
例えば―寛政五(一七九三)年、遭難しロシア領に漂着した若宮丸の場合。
辛苦の十年の後、津太夫ら四人の水主はロシア船に乗って、日本人初の世界一周の果て故国に帰還。
その四人から聴取した記録が『環海異聞』である。
こうした漂流記こそが日本独自の海洋文学であり魅力的なドラマの宝庫なのだ。
[ 目次 ]
第1章 海洋文学
第2章 「若宮丸」の漂流
第3章 ペテルブルグ
第4章 世界一周
第5章 長崎
第6章 帰郷
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ス -
Posted by ブクログ
個人的と思われる敵討ちも社会の動きに左右されていくという2編。
「敵討」は伯父を闇討ちにされ、父も返り討ちにあった熊倉伝十郎が七年後、牢獄から放たれた敵を討つ物語だ。闇討ちの背後に老中水野忠邦の膝下で鳥居の陰謀があった。
当時敵討ちは1%も成功しないことで、成功しないとお家断絶で大変な作業だったらしい。病死などしていてもダメである。あてどない放浪の旅になる。その様子を吉村さんらしい資料に裏づけされた描写が興味深い。
相手が、遠島の罪に処せられていることがわかる。しかし、それでは敵討ちはできず、失敗になるのだけど、火事で帰牢したことで罪一等減で、所払いくらいになる。それでようやくはたせる。 -
Posted by ブクログ
桜田門外ノ変自体は数時間のものだろうからそれだけでこれだけの小説のテーマになるのかと思っていたら圧倒されました。
あとがきを読むと資料を丹念に読み砕き、現地に行き、そこでまた人と会い資料を得て、それを骨格として作り上げてその間を想像で補い紡いでいくという作業をしていることがよく分る。
著者は当日の雪がいつ止んだのか色々な文献をあたるが不明で、不明ではあるが気持ちが入っいくと想像できるというようなことを言っていた。本の中では午後2時に止んだとしている。
尊皇攘夷派は今になると分の悪い立場だが、安政の大獄の件を読むと事件を起こすのもやむなしかと思う。井伊直弼の弾圧は過酷を極めている。
襲撃の描 -
Posted by ブクログ
浮気をした妻を殺害した、元教師。
まじめに服役し、晴れて仮釈放。
前半の、服役中の閉塞感、恐怖感に息が詰まる。
罪を犯したとはいえ、塀の中の暮らしは辛すぎる。
しかし、それでこそ、自分の罪と向かい合うことができるのかもしれない。
そうやって、向かい合ったにもかかわらず、やっぱり自分が悪かったと思えなかったら。
ただひっそりと、まじめに生きていこうと思っていたのに、
目の前が赤い・・・あの時と同じ・・・
それほどの怒りにかられた時、実行してしまうか、踏みとどまるか、
何が違うんだろう?
もしかすると、踏みとどまれる方が、実は異常な心情なのかもしれないな・・・・