吉村昭のレビュー一覧
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もっとも読みたかった本
この夏亡くなった作者。最期は妻が看取る前、自身で自身の命を絶ったと報道されれている。
それを聞いて読みたかったのがこの本だ。弟が自覚症状のない末期肺ガンになり、それをひたすら隠し通しながら弟の死を看取る兄の心模様を描く。私小説であり、主人公である兄は自分自身だそうだ。
凄絶という言葉がふさわしい弟の闘病の様子、それを見守る兄弟たちの葛藤、そして隠し通した主人公の心模様が赤裸々に小説として記録されている。
いつ電話が鳴るかわからない状態の中で小説は進行する。主人公が弟の急変を聞きつけて病院に駆け込むが、病室に入らず自身の心の準備をするという下りがある。
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『再婚』・・タイトルにひかれて読みました。
ある程度年齢のいった人ならば現在配偶者がいる、いないにかかわらず、
1度や2度は頭をよぎったことがあるのではないかと思います。
「老眼鏡」「男の家出」「再婚」「貸金庫」「湖のみえる風景」「青い絵」「月夜の炎」「夜の饗宴」の8編からなる短編集です。
時代背景は今より少し遡りますが
どの話も男の人生の岐路においてありえそうなことを、
全くの男性目線で描いています。気に入ったいくつかを紹介します。
「老眼鏡」
真面目すぎて見合いも断られ、やっと結婚相手がみつかって本当は嬉しいはずの結婚式を目前にして・・
またもや悩みが。
今まで女と寝たことがなく結婚 -
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歯医者さんの待ち時間・銀行・バス・寝る前・・・少しずつ読み続けていた吉村昭氏の桜田門外ノ変、やっと昨日読み終えました。2か月もかかってしまった。
そうだなあ・・・僕にとってはきつい一冊でした。どちらかと云えば忠実な、それは多分気が遠くなるような調査の上に書きあげたものだと思いますが、所謂、事実を述べたものです。作者の思いは殆ど入れなかったのではないでしょうか、あとは読者が自分で感じなさいと云うものです。
吉川英治の三国志がありますが、あの本は漢文から来ると思われる朗々とした流れが文から感じられます。そのことで状況描写や心理までをイメージする事が出来たような気が致します。
この桜田門外ノ変 -
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明治二十九年、昭和八年、そして昭和三十五年のチリ地震津波と三つの津波による三陸海岸の被害を生き残った人々へのインタビューをもとにつづったルポ。
2011年3月の東日本大震災以前にも三陸海岸はたびたび大津波の被害を受けていた。その度に人々は対策を施し、毎回被害は少なくなっていたのだが、今回の甚大な被害から予想を上回る津波だったことがわかる。
津波被害は何十年に一度なので、住民の意識が薄れてしまう。だからといって住民の意識を高め、地震のたびに高台に避難するといったことは社会生活に影響を及ぼす。地震をともなわない大津波もあるのだ。
潮位の監視など、システムを構築することが重要と感じた。
巻末に明治 -
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鎖国時代に出入りが許されたオランダの船に乗り、オランダ人医師と偽って来日し、日本の研究調査をしたシーボルト。
外国にとって未知の国、日本の情報を貪欲に収集する一方で自分の持つ医学の知識を惜しみなく日本人蘭学者たちに与えた。
そんなシーボルトが長崎で出会った丸山の遊女其扇と結ばれ、生まれたお稲が物心つく前にシーボルトは日本を追放されてしまう。
お遍路で訪れる卯之町は、そのお稲が日本初の女医として学び暮らした土地。風情のあるいい土地だった。
花神に描かれているお稲とは、少し印象が違っているが、史実は小説よりも奇なり。波乱万丈の彼女の生涯は、どこまでも日本人であり家族を愛した一生だったのではない -
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ネタバレ胃カメラ開発の実話に基づいた小説。
取材の前に「胃の病気とピロリ菌」を読んでいて、
その中でこの本が紹介されていたので、早速読みました。
全体的に、かなり淡々とした印象。
物資も情報も少ない戦後に、世界で初めて、人間の体内を撮影する・・・
そんなカメラが、あっさりできてしまったのか、とも感じられるのですが。
ただ、実際に医師を取材してみると、
お医者さんって、知識も体験も豊富なのに、
本当に、起伏もなく、わかりやすくお話されるのだ、と
最近になって、ようやくわかりました。
医師は、たくさんの症例を経験した上で話をしているのだから
もう、当たり前のことになっているし、
研究結果が評価される -
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親父から貰った本。
「太平洋戦争のことって、よく知らないんだよな~。」という思いが、
手に取った動機です。
本書にて描かれている時期は、
奇襲作戦等の機密情報を載せた日本民間機、「上海号」の失踪から、
マレー半島上陸/真珠湾攻撃に至るまで。
内容は、情報収集/作戦隠蔽に関わる人々の行動と事実、といったところでしょうか。
作戦隠蔽に苦心した、大本営の苦慮がヒシヒシと伝わる作品です。
「上海号」にて見つかった大量の中国政府の偽札。
「タイ軍人に変装して奇襲する」といった作戦。
それぞれのエピソードからは、なりふり構わず戦争に勝とうとする、
日本軍の必死さが伝わってきます -
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桜田門外の変について、劇的ではなく淡々と実行責任者関鉄之助の足跡をたどった内容。小説というよりもノンフィクションな感覚。
ハイライトであるであろう桜田門外の襲撃のシーンすら数ページでそっけない。歴史というのはきっと何かの瞬間のイベントではなく淡々とした事柄の連続であとから振り返ると劇的な瞬間があったということか。
あとがきにあった「桜田門外の変から明治政府樹立までわずか9年」、「226事件から太平洋戦争終結までも9年」。歴史的大転換はごく短期間に凝縮しておこる、というのに納得。いまはそういう時期なんだろうか?この2つに比べると、まだ凝縮して大事件が起きてる感じではないなあ。