出先で偶然、殺人事件に遭遇していた前作までと打って変わり、身近な場所で歌詞に擬えた猟奇的連続殺人事件が(またもや密室で)起こるというお話でした。
建築関係の専門用語がちょくちょく登場して、言葉が難しいなぁと思う部分が見受けられます。
とは言っても、相変わらず読みやすい文章なのは変わりありません。
犀川先生の雑談で『コサインカーブを積分するとサインカーブになるね。これが云々かんぬん…※以下省略』みたいな箇所さえ見なかったことにすれば(白目)サクサクと読み進めていけると思います。
一連の犯行をどのように、何故そうしたのか、という犯人当てや謎解き部分は全く分かりませんでした。
海外に出張中だった犀川先生が、西之園君から聞いた話をもとに事件の謎を解いてしまったのは圧巻の一言です。緻密な計画で行われた犯行だけじゃなく、計算外のトラブルによるイレギュラーの事態だったことも言い当てるから、ちょっと怖いくらいでした。今回は完全に安楽椅子探偵だったから余計に凄さが増したように思います。
『英語で言える?』
特に、この犀川先生の台詞が後からめちゃめちゃ効いてました。
どんな意図の質問だったのか、明らかにされたときは鳥肌ものです。あの時点でほとんど分かってたんかぁ~。質問された篠崎先輩の行動原理にはすごく人間味や切なさを感じて、終盤はかなり好感度上がりました。
犀川先生が居ても居なくても、西之園君は相変わらずどんどん事件に首を突っ込んでいきますね。彼女にとって事件に首を突っ込むことは、そこに山があるから登る…みたいなものなんでしょうか?
今回は完全に部外者ですし、事件への関わり方も当然今までと違います。
が、そこは鉄砲玉の西之園君、堂々と死体発見現場に乗り込んでいき(叔父さんのコネを使って)警察から直接、捜査内容を聞き出そうとしたりするわけです。
西之園君のキャラクター性が苦手という方は、もしやこの辺りが原因かなぁと思っています。私自身、彼女が強引に事件へ首を突っ込む場面があまりにも不遜に思えて、読んでいて不快に感じる時があるし、西之園君の介入に三浦刑事が渋い顔をするのも何だか頷けちゃいました。
加えて今回、西之園君が素人探偵にかまけている間、彼女の同級生たちが真剣に製図の課題に取り組んでいる様子が描かれていたので、余計に学業を疎かにして浮ついているような悪印象を受けます。
お嬢様育ちでクラスから浮いているという彼女を分かりやすく、意図的に演出したのかもしれませんが、さすがに心象が悪かったなぁ…。
犀川先生が彼女は大人になった、という発言をしていますが、進路を見据え着実に行動しているクラスメイト達の地に足の付いた様子を見ると、対比が際立っていたせいで、私はそう思えませんでした。
課題提出のために黙々と作業するクラスメイトを傍目に、事件に首を突っ込んで自分の欲を優先していた西之園君は、やっぱり幼稚に映ります。
少女時代から知っている子が、成人して喫煙できる年齢になったのか…っていう、「もうこんなに大きくなったんだねぇ」っていう感慨ならば分かるんですが。
見知った人が事件に巻き込まれたから真相を知りたい、早く犯人を捕まえてほしい、って気持ちは心情的にわからなくはないですけどね。
でもなぁ、暴走気味に意気揚々と警察の前で自分の推理をひけらかして、建築学科を専攻する学生が建築分野の専門知識に関する決定的な矛盾を指摘されて赤っ恥をかく…というシーンは、ほら言わんこっちゃない…と思わずにいられません。
勉強そっちのけで事件に首を突っ込み、挙句に自分の専攻する分野の知識でやらかしてる訳ですから。これに懲りて良いお灸になればいいけど、彼女の辞書に謙虚って言葉は無さそうだな…(笑)。
犀川先生が海外出張中でなければ、彼女の中途半端な推理は恥をかく前に犀川先生によって軽く一蹴されていたでしょうけどね。教授たちは穏やかに諭してくれましたが、犀川先生だったら皮肉の一つくらい言ってたのかなぁ。
この推理の矛盾を指摘されて赤っ恥をかくシーンですが、どんなに西之園君が行動的で賢くても、彼女はこの物語の頭脳ではないと表明されたようなシーンだとも思いました。
自分から事件に関わらない、えらく消極的な犀川先生の代わりに、見聞きして捜査する【機動力】が西之園君なんだろうなぁと、このシリーズの基幹部が今作ではっきり浮かび上がった気がします。
探偵役としての【頭脳】は、圧倒的に犀川先生ですもんね。
良く言えば好奇心旺盛でフッ軽、悪く言うと自己中で出しゃばり…な西之園君。このS&Mシリーズは彼女が事件に首を突っ込み、目と耳になるという役割を担わないと、ストーリーが成り立たないんですね。
犀川先生の推理はマジで凄いんですが、如何せん、彼だけでは推理小説として物語が成立しない(ていうか何も起こらない可能性すらある)から、西之園君レベルの猪突猛進なバディがいて、丁度良くバランスが取れているんだなぁと納得できました。今作は犀川先生が途中不在だったから、その仕組みが更に分かりやすかったんだと思います。
そんな感じで、主人公二人の役割をしっかりと踏まえて読むと、西之園君の暴走を「あんま無茶すんなよ」くらいの、冷静で穏やかな気持ちで受け止められるようになりました(笑)。
今現在、5作目の『封印再度』を既に読み進めていますが、彼女の不遜さを「またかぁ~」と思う一方で、ストーリーの便宜上どうしても必要なものなんだなぁって風に捉えることが出来ています。
事件に首を突っ込みまくる彼女が苦手な方はぜひ、この仕組みでしか物語が成立しないって割り切ると良いかもです。彼女の前世はきっと猟犬です…!
ここまで西之園君に関し、あれこれ辛辣に書き連ねておいてなんですが、彼女の無鉄砲さの根っこにある、非常に強靭な部分は称賛に値すると思っています。
何度痛い目をみても全然懲りない彼女の鬼メンタルって、やっぱり警察官に向いているんじゃないでしょうか。
何回も殺されかけてるのに全く怯まないし、なんだかんだ咄嗟の機転を利かせて最悪の状況を打破してますもんね。前回なんて猟銃で撃たれそうになってるのに、人を庇って犯人引き付けて逃げてますし。
このシリーズ、お嬢様が誰よりも肝っ玉が据わってて根性あるんですよねぇ…。ずば抜けた行動力と頭の回転の速さ、心臓の強さは本当にすごいです(ヒロインだけど属性はヒーローですやん)。
これほどメンタルがタフで、しぶとくて、鋼鉄の心臓と猟犬の魂を持ったお嬢様って他にいないと思います(※褒めてる)。そのド根性さえあれば、きっと犀川先生も粘り勝ちで射止められるはず!頑張れー!
そう言えば今回、犀川先生が学会のホープだと判明しました…!
取れる賞は全部取ってるって凄くないですか。教授になるの嫌がってるの何故よ…(笑)。犀川先生って自己評価低すぎやしません…?
あと国枝助手がめっちゃカッコよかったです。
口数少なくて不愛想だけど、考え方が潔くてすごく男前なんですねぇ。もしかすると彼女がこのシリーズ一番のイケメンかもと思いました。
そして今作でも、作中に哲学的な要素が見受けられましたね。
『どうして人が死ぬと悲しいのか』
『もう二度と会えないという理由、ではない』
『記憶さえ電子的に保存できる。再生できないのは人間の思考だ』
『思考が失われるということが、何故悲しいのだろう』
西之園君が何故だろうと自問する場面が大変印象に残り、すごく考えさせられました。ミステリー小説を読んでいて哲学的な疑問に悩む機会って他ではあまりなくて新鮮です…!