吉田修一のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
映画「楽園」を見て原作が気になったので購入。
実際の事件を下敷きに作られた5編の短編集。
・青田Y字路
行き所のない怒りの矛先はやがて最も弱い者へ
・曼珠姫午睡
何故地味だった女は男に巣食う毒婦となったか
・百家楽餓鬼
実直な御曹司は如何にしてバカラ沼に嵌ったか
・万屋善次郎
些細なすれ違いが起こした限界集落での大惨劇
・白球白蛇伝
輝ける栄光の中に最後まで生き続けた男の末路
全編を通じて人間の弱さや危うさが漂う。
人は常識という枠の中を何かを支えに生きている。だが些細なことの積み重ねや偶然の出来事によってその支えを失った時、徐々に或いは一気にその枠を踏み越えて行く事がある。
-
Posted by ブクログ
吉田修一は大好きだけど、この系統の彼の小説には実はあまり魅力を感じない。
太陽は動かない、はあまりにも思っていたものと違い過ぎて、珍しく途中でやめた程。国際的なスパイ組織とか、謎の美女 Ayakoとか、そういうのは吉田小説には求めていないんだよね・・と思いながら。
それでも、本作はの書評を読んで同じシリーズと知りつつチャレンジする事に。こちらの方は、読めた(こういうものだという、事前知識があったからか?)。それなりに面白かった。スリリングだし、組織に所属している人達の悲しい生い立ちや特殊性が際立っているし、最後のシーンはスカッとするし。
まあでもやっぱり、心には残らないかな。 -
Posted by ブクログ
静謐で美しい話。
冒頭でテレビ局に務める俊平と耳の聞こえない響子が出会うシーンがドラマティックで一気に引き込まれた。
筆談でのやりとりで、響子の短くも優しい言葉や、時々芯をつく会話にはっとさせられる。
音のない静かな爆弾は、爆発するまでその存在にすら気づかないように、響子がなぜ突然俊平の元を去ったのか、響子が本当は何を思っていたのかは分からず、俊平は彼女の家をぐるぐると探す。
読んでいる途中は吉田修一らしくない作品かな?と思ったが、「悪人」や「怒り」と同様に、愛する人が本当はどんな人間なのか、本当は何を思って生きているのかを主人公が考えており、殺人犯が出てこないだけで、これまでの作品とテーマ性